依頼
お読みいただき、ありがとうございます。
ファンタジー要素は限定してますので、ファンタジーがお好きな方にとっては、物足りないかもしれません。
できるだけ毎週、火曜日の20時ごろを目処に投稿するつもりです。よろしくお願いいたします。
一晩が過ぎて、翌朝にはもうアレクサンドリアの港が見えてきた。確かにこの船の船足は速いようだ。クレオパトラはゆっくり休めたようで、顔色も良く、体力を割と回復できたらしい。当初の予定では入港して上陸したら、港にある食堂で食事をするつもりだったのだが、すぐにオマル・シュリーファさんのところにクレオパトラを連れてゆくことにした。入港したときに使いの者を出したので、入港手続きと荷下ろしなどをやっているうちに、オマルさんの家の馬車が迎えに来た。ルチアーノさんと私はクレオパトラと一緒にその馬車に乗って、オマルさんのところへ向かった。
オマルさんはこのアレクサンドリアの豪商の一人で、ルチアーノさんとは約10年前から取引をしているらしい。お屋敷はアレクサンドリアの港を一望できる丘の上にあり、港から馬車で15分ほどだという。道理で連絡したらすぐに迎えがきたのね、と私は一人で納得していた。
暫く馬車に揺られて行ったところで、お屋敷が見えてきた。
「わぁ、すごく大きなお屋敷ね。」
「そうだろう?オマルさんは、このアレクサンドリアでも有数の実力のある商人なんだ。私もずいぶん儲けさせてもらっているよ。」
お屋敷の門に近づくと、二人の人物が駆けてくるのが見えた。年齢からいってオマルさんご夫妻、つまりクレオパトトラのご両親のようだ。
御者は二人に気づくと慌てて馬車を止めた。二人はすぐに馬車に寄ってきて、待ちきれないように自分たちでドアを開けた。
「クレオパトラ!」
「お父様、お母様!」
クレオパトラは飛び出るように馬車を降りると、二人に抱きついた。
私とルチアーノさんも馬車を降りて、三人が抱き合い涙を流しながら無事を喜び合っているのを、微笑ましく見守った。
「ルチアーノさん、今回は感謝の言葉もありません。よくぞ娘を助けてくださった。さぁ、どうぞ中にお入りください。」
私たちは、誘われるままにお屋敷へと入っていった。私たちが通されたのは談話室のようなところで、そこで私たちは、オマルさんご夫妻とクレオパトトラ本人から改めて感謝の言葉を受け取った。
「実は今朝、船を襲い娘をあずかった、という匿名の手紙が来たんです。もう心配で心配で…港に人をやって情報を収集させたりしたのですが状況がさぱり掴めなくて、ひたすら何か連絡があるのを待っていたのです。さきほど娘が保護されて戻って来たと知らせを受けた時は半信半疑でした。でも、こうして娘の無事な姿を見ることができて本当に安堵しました。ありがとうございました。」
「オマルさん。娘さんを救うことができたのは、ひとえにこのルナさんのおかげなんですよ。航路から10km離れている小島の浜辺に人が打ち上げられているから、進路を変えるようにと言われて行ってみたら、娘さんを見つけたというわけです。」
「そんな距離が離れていて娘のことがわかったとは…これも神のお導きなんでしょうか。」
「やだ、違いますよ。航海する時は、海賊にも警戒する必要がありますからね。周囲の状況は常に見るようにしてるんです。それで娘さんにも気づけたのよ。」
「それにしても、そういうことができる貴女が船に乗っていたことが、やはり神のお導きなのでしょう。」
「おいルナさん。それじゃぁ貴女が乗っていれば海賊の襲撃も回避できるっていうのか?」
「特に宣伝はしてないけど、まぁ、ほとんど回避できるわね。」
「おい、それってすごく役に立つと思うんだが、何でそれを売りにしないんだ?」
「だって…、もしそれを商売のネタにしたら、私、ずっと船に乗ることになりそうじゃない?依頼を受けたり受けなかったりというのも、お仕事としては良くないでしょう。だから今回だけの特別なサービスって理解して。」
「理解はしたが…これから重要な荷物を運ぶときは、ルナさんを拝み倒すことにするよ。」
「まぁ、私がそのときの行き先に興味があったら受ける、ぐらいに考えておいてね。それと、それなりの料金をいただきます。」
「何にしても、今回は本当にありがとうございました。昼食はまだでしょうから、もし良かったらウチで食べていってください。すぐに準備させますので。もちろん、改めて今回のお礼はさせていただきます。」
私たちはお腹が空いていたので、ありがたく昼食の申し出を受けることにした。
15分して執事の方が呼びにきたので、オマルさんが私たち二人を食堂へと案内してくれた。奥様はクレオパトラの着替と休憩のため、一旦私たちとは別れた。案内された食堂は20名ほどの晩餐会を開ける大きさで、高級ではあるが嫌味のない、気品の高いしつらえの部屋だった。私は、これなら商談にもプラスになるわねと、感心してあたりを見回していた。提供された飲み物と料理は、これもまた一級品であることがわかるもので大変美味しかった。量については、一般的には十分すぎて普通は絶対に余る量が提供されたのだけど、私がどんどん食べるものだから、オマルさんは驚いて慌てて追加を命じたようだった。私は心の中でこっそり謝った。オマルさん、ごめんなさい。私はすごく大食らいなんです。
食事の最後にコーヒーが出ててきたときに、私は気になっていた、クレオパトラの出航の日を知る者について質問してみた。
「お嬢様が乗ったの船の出航日を知る可能性がある人って、範囲を特定できるんですか?」
「直接的に知っているのは、うちの家族、私どもの船の船長、娘の逗留先のご主人、ですね。一応、口外しないようにとは伝えましたが、どこまで守られているかは不明です。船長以外の船員については、娘が乗船することは直前まで知らなかったはずです。」
「ご家族を除くとすれば、前もって知っていたのは、船長さんか逗留先のご主人に絞られるっていうことか…船長さんはどういった方ですの?」
「彼は、私がまだ駆け出しの頃からの仲間でして、ずっと一緒に仕事をしております。盗賊に襲われて二人で命からがら逃げおうせたというようなこともありましたよ。」
「船長さんのご家族が人質に取られていて、出航日を教えることを強要されたというようなことは考えられませんの?」
「ははは。彼はずっと独り身でご両親も他界されましたから、その可能性はないと思います。今は仕事が生きがいなんじゃないかな。」
「なるほど。娘さんの逗留先のご主人はどんな方なんですか?確か、宝石商のヴィットリーニさんでしたっけ。」
「ええそうです。ヴィットリーニさんは3ヶ月ほど前に会合で知り合った方でしてね。最近急激に業績を伸ばしている方で、宝石繋がりで色々と話をしているうちに仲良くなった感じです。」
「なるほど、ヴィットリーニさんとはそれほど長い付き合いというわけでもないんですね。」
「はいそうです。ですが、留学での娘の逗留をお願いした時には、それはもう喜んでいただきまして。まぁ、私とのコネクションが深まるからという面もあったのでしょうが…しかし、彼には悪いが、今の状態では留学はなかなか難しいのではないかと思います。」
「それはそうでしょうね。航海以外でも、留学先ではいくらでも拉致のチャンスが生まれてしまいますものね。でも、もし今回の襲撃の背景が明らかになって、拉致を企む者たちを根こそぎ排除できれば、留学をお認めになられます?」
「そうですね…親とは心配が先に立つものですが、可愛い子には旅をさせろとも言いますし、ルナさんがおっしゃったような状況になって娘が望むのなら、留学は認めようと思います。」
「だったら、今回の襲撃の背景と真の首謀者を明らかにして、拉致を企む者たちを根こそぎ排除することを私に依頼しませんか?拉致を企む者たちは、娘さんが留学しようがしまいが、諦めることはないと思いますから、安心のためにはそのような行動が必要だと思います。私の本業は皆さんの困りごとを解決することですし、お嬢様の志は応援したいと思っていますから。もちろん、成功報酬はいただきますけど。」
「え?ルナさん、本業は保険業だったんじゃないのか?」
「ふふ…それは名前を売るための一つの手段よ。だって、無名の私にもちかけられる相談は、せいぜい迷子の猫を探すぐらいのことだもの。名前さえ売れれば、もっと面白い内容の相談があると思わない?」
「あ!じゃぁ一見詐欺に会いそうな仕事を始めたのも、逆に詐欺師をとっちめて名を売るつもりだったのか?」
「ご明答。莫大なペナルティもいただくことができました。」
「まったく、煮ても焼いても食えない女だな。もしかして、俺もその売名行為の役に立ったってわけか。」
「あら、でも保険業でのクライアントさんには、ちゃんとメリットも齎らしましてよ?」
そんなやりとりがあって、私はオマルさんから、今回の娘さんに対する襲撃の背景の解明と、二度と襲撃が起こらないようにするための処置を引き受けることになった。




