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船乗りのロマン

お読みいただきありがとうございます。

できるだけ毎週、火曜日の20時ごろを目処に投稿します。どうぞよろしくお願いします。

日が暮れて、当てがわれた部屋で過ごしていると、荷主のルチアーノさんがやって来て、夕食の準備ができたから一緒に船長室へ行こうと誘われた。私は黒いシックなワンピースに着替え、大きなアクアマリンのペンダントを首にかけて、ルチアーノさんに続いた。

船長室は私の部屋のすぐ隣で、私たちがノックして入って行くと、そこには船長のアルバーノさんの他に、副長のパオロさんが来ていた。

「お招きに預かり、光栄です。」

私はちょっと気取って片足を引いてお辞儀をする。

「おぉ!お嬢さんも出で立ちが違うと見違えるように綺麗だな。」

「え、何を言ってるんですか。私はもともと綺麗なの。」

そんな応酬に、ルチアーノさんは、ニヤニヤ笑っているばかり。

軽口の応酬をしてから食卓に着くと、グラスにワインが注がれた。芳醇な香りが立ち上って、味の良さを想起させる。

「最初は乾杯しよう。航海の安全を祈って。」

お互いにグラスを持ち上げて乾杯の仕草をしてから、味を見る。

「わー、美味しいわ。このワイン。どこのものなんです?」

「いいだろう?これは、隣国フランセア王国のものなんだ。あそこは昔から良いワインができるんだよ。ブドウの生育に適しているのかもしれんね。」

「帰ったら、沙羅に言って取り寄せてもらおうかしら。幸いうちには昔ワインの貯蔵に使っていたらしい小屋があるの。そこに、世界の色々なお酒を集めたら楽しいかもしれないわ。」

「ほぉ、それは素敵ですね。じゃぁ、こんどウチが扱っているお酒も紹介しますよ。ワイン以外でも、ジン、ウォッカ、ブランデーなど、色々ありますからね。」

「ぜひお願いします。だったら私、おつまみも研究しなくちゃ。すごく楽しみになってきた。」

私たちは、軽い自己紹介と雑談をしながら、提供してくれたワインを楽しく味わった。

料理が運ばれてくると私は、そのバリエーションの多さに驚いた。

「わぁ!色々あるのね。どれも美味しそう。これまで船旅はたくさんしてきたけど、こんな豪華な食事が出たのって最近では記憶にないわ。」

「何たって、荷主様とそのお客様だからね。初日ぐらいは豪華にいきたいさ。明日からは、日持ちのする材料しか使えないから、初日限定の贅沢だぜ。」

「他の船員さんもそれなりのお食事なの?」

「ああ。やる気にも関わるからな。可能な限り贅沢な材料でメシを作ってるんだ。それに荷主さんからもたっぷり貰ってるから、ケチる理由はない。」

「船員さんが気持ちよく仕事してくれることが、荷主の私にとってもプラスになると思ってますからね。今後も、私の荷を大切にあつかってくれるでしょうから。」

「そういうのって、とっても大事な考え方だと思います。ちゃんと船員さんにも気を使ってることがわかるから、彼らも細かいところまで気をつかって仕事してくれるようになると思うわ。」

こうやって私たちは、航海での料理についてあれこれ話しながら、初日の豪華な料理を堪能した。

「あぁ、美味しかった。料理長さんにもお料理がとても素敵だったことと、私が感謝してたことを、ぜひ伝えておいてください。」

「あぁ、わかったよ。まだまだワインはあるからもう少し飲むかい?」

「いいんですか?嬉しいわ。私はお酒好きなので。ルチアーノさんと副長さんもいかが?」

「いいね。つきあいますよ。」

「おいらも、付き合いますよ。深夜の6時間は安全のために停泊しますからね。ただ、明日の夜明けにちゃんと起きれるぐらいにしておかないとまずいですけど。」

「おぉ、そうだな。パオロは明日の第1直から仕事か。よろしく頼むぜ。」


こうして私たちは再びワインやらラムやらでグラスを重ねることとなった。話題は私から振った船乗りのロマン。

「そりゃぁ、なんといっても失われた財宝、みたいなものだな。海に沈んだ島、海賊が隠した宝。誰だって探し出してみたいって思ってるさ。」

「ふーん。船長さん、具体的には何かあるんですか?」

「あるとも。俺が見つけたいのは、海賊島、だな。」

「海賊島?それはいったいどんな島なの?」

「2000年前、この地中海で荒稼ぎしてた海賊がいたんだが、そいつの根城が海賊島と言われてるのさ。海賊島の位置は今に伝わっておらず、そこには貯め込んだ金品財宝まだ眠っていると言われている。1000億ルードは下らないっていう話だぜ。」

「うーん。こう言っては何だけど、かなり眉唾な話よね。第一、島の位置がわからなくなるなんて、あり得るのかしら。何らかの伝承が残るんじゃないの?」

「いや、わからなくなったんじゃなくて、当時もわかっていなかったらしい。」

「でも手下とかいっぱいいたんでしょうに。少なくとも当時は、ある程度は情報が拡散したはずだわ。」

「そう。一部の情報は拡散している。ほんの断片的なものだがな。」

「船長さん、その断片的な情報というのを持ってるんですか?」

私がそう言うと、船長さんはちょっと相好を崩して答えてくれた。

「おう。海賊島とその近海の様子を記したと言われている地図を手に入れてね。近隣の島の配置が記載されたものなんだ。ただ問題は、これがどの海域のものかもわからない。もしわかれば実際に行ってみるんだが…。まぁ、その海賊の活動地域は地中海だったらしいから、地中海のどこかではあるんだろうさ。」

「ねぇ。もしよかったら、その地図ちょっと見せてもらっていいかしら。私、こう見えても地理には精通してるから、何か助言できるかもしれないわ。」

するとルチアーノさんも口を挟んできた。

「あぁ、それはいいかもしれないな。このお嬢さんが持っている地図はご存知のとおりとても精密なんだ。船長の地図と突き合わせるのは意味があるかもしれん。」

「ルチアーノさんがそう仰るなら、まぁ、見てもらってもいいかな?」

船長さんは席を立つと3枚の地図を抱えて戻ってきた。

「ルチアーノさんはああおっしゃったが、俺のもっている地図を無闇に見せたくはないんだよ。だから、お嬢さんがある程度の知識をもっているのか、最初にテストさせてくれ。それで納得できれば、俺の地図を見せてやろう。」

「面白いじゃない。いいわ。受けて立ちましょう。」

「今から2枚の地図を見せるから、それがどこなのか説明してくれ。最初はこれだ。」

「あら、簡単じゃない。ここはエーゲ海の奥、黒海との間にある、マルマラ海だわ。」

 私が即座に答えると、そこに居た三人は一斉に少し目を見開いて驚いたようだった。だが誰も何も言わない。

「よし、次はこれだ。」

「コリントス湾」

「ブラボー。ルナさん、すごいじゃないか。知ってはいても、普通こんなに早く答えられないんじゃないのか?」

ルチアーノさんが私と船長の顔を交互に見ながら拍手してくれた。

「最初のは有名な地域だったもの。二番目は…まぁ、言ってみればまぐれ、かな?うふふ。」

そう。二番目の問題は、実はヘルメスから情報をもらった。肩のところの飾りボタンに偽装したカメラで画像データを送って問い合わせたわけだ。私自身が持ってる記憶なんてたかが知れてるんだもの。でも、これも実力の内よね。

「いや、驚いたよ。まぁ、テストにパスしたからって俺が持ってる地図の海域がどこかなんてわからないとは思うが、少なくともお嬢さんは相談に値する知識を持つ可能性があると納得したよ。これが、その地図なんだ。さぁ見てくれ。」

私はその地図を見て、ヘルメスにも問い合わせをしたが、やっぱりわからなかった。みんなは期待に満ちた眼差しで私を見ているけど、さすがに期待しすぎだ。それはそうだろう。この地図がそれほど正確でない可能性は高いだろうし、地図の上側が北でない可能性さえあるのだ。

「うーん。やっぱりわからないわね。もう少し情報はないの?討伐された海賊の名前とか、そいつが使っていた船の名前とか。あるいは、その海賊の最後とか。」

するとルチアーノさんが、その海賊について話してくれた。

「私は交易という仕事がら海賊のことは色々と情報を集めている。アルバーノが説明した海賊については、本名は伝わっていないが通称はわかっていて赤ひげと呼ばれていたらしい。好色で残虐な男だったそうだ。気に入った女性を見つけると海賊島に連れて行っては嬲りものにしていたとのことだ。だが、あるとき攫った女が黒き魔女ゆかりの人間だったため、手下と一緒に海賊島にいたところを、怒り狂った魔女に殲滅されたのだとか。その際の殲滅は、赤ひげの方は手下を合わせて約100人であったのに対し、黒き魔女は魔女の他は5人の仲間だけだったと言う。魔女とその仲間はこの出来事について語らず、その後すぐ行方がわからなくなったため、赤ひげの最後については情報がほとんど残っていない。僅かに、海賊島までの船の運行に携わった船乗りたちから聞けたこととして、本当とも嘘ともわからない話が伝わっているのみなんだ。」

「ルチアーノさんの言ったとおりだ。俺が見せた地図は、船の運行に携わった船長が残したものという触れ込みだったぜ。」

ここまで話を聞いて、ようやく思い出しました。黒い魔女って私のことじゃないの!2000年も前だから、もちろん細かいことは忘れたけど…当時私はとある貴族の家庭教師をしていて、教え子である娘さんが件の海賊に誘拐されたのだ。身代金目当てだったと思う。私はその娘さんに想いを寄せていたから、なんとしても無事に取り戻そうとした。作戦は、海賊の砦を衛星からのレーザーであらかた破壊しておいて、向こうが混乱している隙に上陸し、彼女を取り戻すっていうものだった。上陸した後は、さすがに私一人だけでは彼女に危害が及ぶかもしれないと思ったので、親御さんに相談して協力者を募ったのだ。そうしたら、彼女の幼馴染の騎士さんとその仲間が名乗りをあげてくれたので、作成を決行した。それがルチアーノさんが説明してくれたお話というわけだ。

もちろん、彼女は無事救出できた。こちらの姿を見せずに行うレーザー攻撃なんて、知らなければ、誰かに攻撃されてるとは思わないだろう。たぶん天変地異の一種とでも思ったはず。建物が崩落してゆく中で、海賊たちは彼女と蓄えてきた略奪品を屋外に運び出した。全員が庭に集まってくれたから、これ幸いとばかりまとめて倒したわ。結局私たちが直接相手をしたのは、例の赤ひげと数人になってたと思う。呆然としている彼らに気づかれないように島に上陸して、都合よく彼女が一人になったところを見計らって保護し、海賊どもは殲滅した。

海賊が集めた略奪品は持ち帰って売却し、それで得たお金は参加者全員で分けあった。だから、アルバーノさんが期待している海賊島の宝はもう無いはずだ。

この事実をアルバーノさんに告げるかどうか迷うところではあるのだけど、今の状態だと具体的行動に出ることもないでしょうから、何も言わないでロマンとして残した方が良いかもしれない。

なお、私が想いを寄せていた子は、幼馴染の騎士さんがハートを射止めて結婚した。

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