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審判

久しぶりに改稿しました。

これまで書いてあった最後まで改稿できましたら、また新しく追加いたします。

またおつきあいいただければ嬉しく思います。

私たちが造船所でエルシード号を押さえてから一週間後。王都のロイヤルコート第2法廷で、エルシード号の保険に関する審判が行われた。これは、私がステファネッリを訴えたもので、私の主張は、ステファネッリは天候の急変という虚偽の理由で保険金を請求してきたため、ペナルティとして補償金額の10倍を支払え、というものである。ステファネッリは最初、フクロウが齎した知らせに基づき船が遭難したとして、補償の全額を請求してきたが、エルシード号がコート・ロッソの造船所で押さえられたことを知って、天候の急変により船に損傷が生じたため、それに相当する金額を請求すると、主張を変えてきた。補償する金額は大幅ダウンではあるが、私を騙そうとしていることに変わりはないので、徹底抗戦である。

審判の判定は主席審判官と補佐2名の合議によって下され、後日、別の審査官2名がその審判の妥当性を確認して審判の結果が確定する。主席審判官と補佐2名は、その資格を持つ者の中から選ばれるのだが、事前に審判官に何らかの働きかけができないよう、審判の当日までは誰が選ばれたかは秘匿されている。審判官の資格を得るには、国の定めた試験と国王及び宰相の面接をパスする必要があり、かなり厳しく篩にかけられていると言えるだろう。審判官の資格を持つ者の人数は約30名であり、当たりをつけるのにも無理がある。

今回の審判の主席審判官は、シェーレン・ポンティアック卿という方であった。ポンティアック卿は銀灰色の髪、黒い瞳の40代といった外見で、背が高く厳格な感じ。伯爵の爵位を持っているらしい。審判の進め方は、決まったものは無く、各主席審判官に任されている。

証人としては、エルシード号の船長・副長と乗組員が3名、造船所の親方と従業員2名、現地ポリツィアッレの現場責任者、王都大地聖教会のフクロウの担当者が出廷していた。また、参考人としては商工会のミスティナーゼ会頭とルフィオさんも出廷していた。これは、今回の審判が商取引に関するものであるため、商工会にも意見を求める場合も出て来ることへの配慮からである。傍聴人は20名ほどで、その中には造船所の持ち主であるマリッツィアーノ男爵に、サラとソフィア大司教様も居た。

法廷に、ガンガンという重い槌音が響く。ポンティアック卿が、ガベルを打ち鳴らしてその場にいる全員に静粛を求め、審理の開始を告げた。

「関係者も揃ったようなので、ルナ・ミラーダ・イスルギがローザ・ステファネッリを訴えた審判の審理を開始する。イスルギの主張は、ステファネッリが虚偽の理由でエルシード号の保険金を請求してきたため、ペナルティとして補償金額の10倍を支払えというものと理解した。一方ステファネッリは、保険金の請求はあくまで天候の急変に基づくものであるとの主張だ。両者それで間違いはないか?」

私とステファネッリは審判官に、この理解で間違いがない旨を伝えた。

「では先ず、確認できている事実関係について整理しておきたい。エルシード号は、10月24日の朝9時にエルミスの港を出港した。そして10月28日の朝6時に自力でコート・ロッソの港に入港し、そのまま、マリッツィアーノ・フィロポンテ男爵が保有するパンロッテ造船所に入渠した。入渠は、現地のポリツィアッレと商工会のメンバーが確認している。入渠の約1時間後には、イスルギの証拠保全の申し立てに基づき、同造船所は現地のポリツィアッレと商工会によって封鎖された。エルシード号の現状であるが、昨日、当方の係官が造船所に立ち入り確認したところでは、造船所に入った直後に取り外したと見られる女神像以外には、特に破損箇所は見つからず、健全な航海ができる状況であることが明らかになった。さて一方、船が遭難した場合の連絡用として大地聖教会が貸与した連絡梟は、10月27日の朝6時に2羽とも王都の教会に帰還している。うち1羽の足には連絡文が取り付けられており、そこには、『出航してから二日目に嵐に遭遇。既に沈没しそうだ』との記載があった。なお、誰がこの連絡文を記載したかは明らかになっていない。ここまで、今述べた事実について異論はないかな?」

私もステファネッリも異論は無い旨を答えた。もっともステファネッリは、いかにも嫌々了承したという態度が見てとれた。それはそうだろう。梟が知らせてきたエルシード号の状況と造船所にある船の状況とはあまりにもかけ離れているので、なぜそのような事態に陥ったのかを合理的に説明するのは難しいからだ。だが一方で、梟の連絡文を誰が書いたのか明らかになっていない現状では、この連絡文が詐欺の意図を持って書かれたものであると証明するのは難しいと思われる。

「よろしい。では、次にこれまでに得られた証言の確認を行う。最初に配布した書面は、イスルギが主導した聞き取り調査の記録だ。この記録は、商工会の会頭補佐が立会う中で現地ポリツィアッレが作成したものであるから、各証人の意図を曲げて記録されていることはないと考えられる。また、後から配布した書面は、我々審判官の主導で、天候の急変に逢った際の状況について、今回出廷してもらった船長を含む5名の乗組員に聞き取りを行った記録だ。異議のあるものは申し出るように。」

ポンティアック卿は、暫く参列者の表情を窺っていたが、異議を申し立てる者のいないことから次の段階に審理を進めることとした。

「ではこれより、審議に移ろうと思う。イスルギは、ステファネッリの保険金請求の理由が虚偽であると考えられる理由を説明するように。」

さあ、ここからが勝負の分かれ目だ。私の作戦としては、最初に色々と不自然な点を指摘し、次に、本件が詐欺であるとすれば、そういった不自然さを説明できることを主張する。そして最後に、エルシード号が入渠するよりもっと早く、エルシード号が来ることを知っていたと、造船所の親方に証言して貰ってダメを押す。この流れなら、きっと審判官を納得させられるはずだ。

「私がまず指摘したいのは、天候の急変に関する証言内容の信ぴょう性です。5名の証言内容はほとんど同じで、決まった文章をそのまましゃべっているだけではないのか?と強く疑われます。具体的に言うと、証言はだいたい『午後10時35分に東からの突風で船が木の葉のように激しく揺れ、船体が持ち上がった際に、船尾に何かがぶつかるようなガンという音が響いた』というものなのですが、語順や、『10時35分』や『木の葉のような』、といった細かい表現まで全て同じ。これは極めて不自然であり、この5名の証言が、予め考えられた文章をそのまま使って証言しているものであると、強く推測されます。」

私の指摘に対してステファネッリは、さもバカにしたような感じで言い放った。

「ふん、事実のとおりに証言しているから同じ内容になるんじゃないんですか?それに、天候急変当日のことは乗組員同士で話し合ったりしたでしょうから、細かい表現や語順が同じになったとしても、違和感はありませんよ。」

「そうでしょうか?同じ事象に対して、誰もが同じ言い回しでそれを表すなど、台本を読む以外には考えらないと思います。もう一つ不自然と思うのは、フクロウの運んできたメッセージが伝える状況と、この5人の証言とでは乖離がある、ということです。フクロウのメッセージは『出航してから二日目に嵐に遭遇、既に沈没しそうだ』というもの。五人の証言にある突風とは、その状態が継続している時間に大きな違いがありますよね?」

「何かトラブルが発生した時に、情報が間違って伝わることはよくあることですよ。突風と嵐、いいじゃありませんか。どちらも船の危険を伝えているのです。」

「既に沈没しそうというからには、何か目に見えた沈没しそうな状況があったはず。なのに、その沈没しそうな状況については誰からも証言がない。更におかしいのは、フクロウを飛ばした人物が誰かもわかっていないのです。名乗り出ても良いはずなのに。もう一つ。この突風の後、船の舵は船長がずっと取っていたとの証言がありましたが、これも不自然です。船長はありとあらゆることに気を配っていなければならない。なのに、長い時間舵を取ることに専念するなど、普通では考えられないように思います。」

「あら。それこそ船長が言うように、壊れた可能性のある船の舵を最後まで握るのは、責任ある行動と思いますけど?いずれにせよ、イスルギ様の疑問点は全て合理的に説明がつくものですわ。言いがかりも甚だしいのではありませんか?」

ここで私は、主席審判官のポンティアック卿に強い視線を注いだ。

「審判官様。こうした不自然な点は、そもそも天候の急変などは無かったのを、無理に有ったことにしようとしているためとしか考えられません。それに、梟が伝えてきた内容と、各証人の天候急変に関する表現が異なるのは、エルシード号が造船所に入渠した際に押さえられたことにより、エルシード号は嵐にあって沈没したという筋書きを変えざるを得なくなったためと推測されます。以上から本件は、ありもしない天候の急変を盾に保険金をせしめようとしたステファネッリによる詐欺であると断じます。」

「なるほどな。イスルギ殿の言うのももっともに思える。確かに、本件は色々と不自然な点は多いと思う。だが、あくまで不自然だというだけであり、本件が詐欺であるという積極的な証拠もないように思える。不自然だからということだけで審判を下すことには抵抗を感じる、というのが今のところの私の感想だ。」

これを聞いたステファネッリがニヤリとほくそ笑んだように見えたが、私にはまだ続きがあった。

「もし仮に、フクロウのメッセージが発せられる前に、エルシード号改修に対する何らかの準備がなされていたとしたら、それは最初から船が天候によって遭難する筋書きであったと考えられるのではありませんか?」

「確かにそうだな。それを証するものは何かあるのか?」

「証言記録にもありますが…」

と言いながら、私は、造船所の親方であるマリーノ・パンロッテを証人として召喚した。親方は、私が事情聴取した際とはうって変わった覇気のない様子で、顔色もかなり悪かった。私は、親方が入廷してきたとき、この場には居ない者から、手紙のようなものを見せられていたことを思い出して、何か良くないことがあったのではないかと心配になりながらも、親方への質問を開始した。

「親方。証言記録にあるとおり、貴方は、エルシード号が来る前日に、船が来たらまず大地聖教会が設置した女神像を外して燃やすように、ステファネッリから手紙で指示を受けましたね?」

親方はギュッと目を瞑っている一方、ステファネッリが割り込んできた。

「異議があります。その手紙は私が書いたものではありません。その手紙に関することは証拠にはなりませんよ。」

「手紙が実際に貴女が書かれたかどうかは、この際関係ありませんよ。親方が、それを貴女が書いたと考えて、その指示に従ったことが重要なのです。それに、女神像は船の航行には何の影響も与えませんから、入渠してすぐにそれを外したことは、誰かの指示があったとしか考えられません。」

私の反論にステファネッリは返すことばを見つけられなかった。このやり取りの間中、親方はずっと目を瞑ったまま祈るように何事かを呟いていたが、その呟きは娘がどうか無事であってくれという祈りであることに気づき、私はハッと顔を上げて親方を見たのだった。親方は青い顔をしてブルブルと震えながら、言葉を絞り出すように証言を始めようとした。

「し、審判官様…私の証言記録ですが…今考えると、な、何か思い違いをしていたような…気がします。つ、つまり…」

私は、親方が最後まで言い切る前に、親方の証言を遮って、審判官に休廷を申し出た。

「審判官様。証人のパンロッテ親方の様子を見るに、何か問題が発生したように見受けられます。ここは一旦休廷して、親方の体調が回復次第、審理を続けるのが良いかと思います。」

この申し出には、審判官のポンティアック卿は少し驚いた様子だったが、証人である親方の様子は誰が見ても尋常でないことから、しばし休廷するよう宣言したのだった。私はこの休廷の宣言が出された後すぐ、ポンティアック卿のところに駆け寄り、この親方の様子に関連して少し別室で相談したい旨を告げた。ポンティアック卿もこの提案を受け入れ、二人の審判官と共に私の話を別室で聞くこととなった。

「休廷のご判断、ありがとうございました。ですが、改めて七日間の休廷をお願いしたいと考えています。」

「ほう。それはなぜだ?」

「お気づきかもしれませんが、証言台に立った親方はずっと娘さんの無事を祈っているようでした。入廷した時に何か手紙のようなものを見せられたこと、親方のただならない様子、証言を変えようとしていたことを総合して考えると、娘さんが誘拐され、証言を変えるように脅されているのではないかと考えます。」

「それが誠なら由々しき事態と言わざるを得ないな。確かに、そう言われてみると、親方が呟いていたのは娘の無事に対する願いだったように思う。」

どうやらポンティアック卿も、親方が何事かを呟いていたことには気づいていたようだ。すると別の審判官が疑問を呈してきた。

「しかし、貴殿の休廷の提案は、不利な証言をしようとしていた親方の行動を止め、時間を稼ぐ間に何かの工作をしようとしている、とも受け取れるが?」

「今の段階で娘さんが誘拐されているという証拠を提示することはできません。親方に問い質しても人質の安全のためを思って、まともな答えは得られないものと思います。私はこれより、コート・ロッソに出向いてことの真偽を確かめ、もし娘さんが誘拐されているのなら救出し、その犯人を特定するつもりです。このことを親方に告げてください。その時の反応から、私が言っていることが世迷い言かどうか判断されたら良いと思います。」

「うむ、わかった。そうしよう。」

私は一旦退室し、すぐに親方が呼ばれた。そして暫くした後、私は再び審判官に呼ばれて部屋に入っていった。

「親方に、貴殿の推測と今後の行動について話をした。すると親方は、貴殿の推測を否定することなく、手出しをしてくれるなと、涙を流しながら哀願してきた。どうやら貴殿の推測は正鵠を射たような。しかし、貴殿がこれから取ろうとしている行動が正しいかどうかは少し疑問に思う。何しろ人質の命がかかっているから。親方が言う余計なことはしてくれるな、という気持ちもわからないではない。」

「取った人質を生かしておくことは、犯人にとっては今後のリスクにしかなりません。おそらくは、今回の審判の結果が出たところで、親方と娘さんは命を狙われるものと思います。対処するなら、今しかありません。」

「なるほど。貴殿の言うとおりかもしれん。だが、七日間の休廷というのは認められん。我々も別の予定があり、事情があって予定を変更するわけにはいかんのだ。審理の再開は四日後の朝。それまでに、何とかして参れ。」

「わかりました。その場合、私が娘さんをここに戻って来るのは難しいと思いますので、私の代理人を出廷させたいと思います。娘さんの無事は、娘さん自身が書いた手紙と身に着けていた何かをフクロウに託してお送りします。」

「うむ。それでよかろう。代理人の当てはあるのか?」

「私と一緒に住んでいる、大地聖教会の特別枢機卿であるサラ・セントマリアにお願いするつもりです。」

「大地聖教会の役職に就いている者であれば、他の者も納得しよう。了解した。」

「それから、証人のパンロッテ親方ですが、命を狙われる可能性もありますので、私の家で保護したいと思います。私の家は、簡単には入り込めませんし、サラも一緒に居ますから、安心できると思います。」

「うーむ。女性一人の家で証人を保護するのもどうかと思うが…」

「あら、ご存知ありません?私の家は、不埒者が入ろうとしても落雷によって無残な死を遂げるのですわ。悪魔の家とか言われたりしていましたよ。」

「貴殿の住まいの噂は聞いているが…。信頼できる護衛を何名か配置できんのか?」

「そうですね。大地聖教会か商工会に頼んでみます。」

「うむ。そうしてくれ。」

「では、早速準備して、コート・ロッソに向かいます。」


審判官たちとの話が終わると私は、傍聴席のサラと大司教様のところに行き、事情を話して二人の協力を仰いだ。

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