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事情聴取

久しぶりに改稿しました。

これまで書いてあった最後まで改稿できましたら、また新しく追加いたします。

またおつきあいいただければ嬉しく思います。

エルシード号が出航した翌日、私はコート・ロッソに向けて馬を走らせた。女神像が撤去されたらAIヘルメスから連絡が入るので、すぐに現場を押さえるには、私自身が近くに待機している必要があったからだ。コート・ロッソでは、依頼したとおりルフィオさんが造船所を見張ってくれていた。

「ルフィオさん、お久しぶりです。見張り役、ありがとうございます。」

「おぉ、久しぶり。気にしなくていいよ。料金をもらった以上は商売だからな。だが、空振りだからって料金は返さないぜ。ははは」

「大丈夫、明日以降、必ずここにエルシード号が来ますから。それで、船が予定どおりに来たときに、状態を保全するのと、関係者から証言を得るために、地元のポリツィアッレを動かしたいんです。一緒に来ていただけます?」

ポリツィアッレと言うのは、まあ商業的な地方警察だ。犯罪性のありそうな事案が発生した場合、依頼をすれば、現場の保全、証言・証拠収集と分析、犯人確保などをしてくれる。私がコールドスリープから目覚めてから今まで、どの国においても警察・司法制度はそれほど大きく進歩していないというのが実情だ。この国では、重大と見なされている犯罪、例えば殺人、強盗、放火、誘拐、騒乱、反逆といったものの場合は、ポリツィアッレが自ら捜査して犯人および共犯者を逮捕するが、詐欺のように重大と見なされていない犯罪の場合は、ポリツィアッレは捜査を望む者から経費を貰って動くことになっている。どんな捜査をするかについても、放っておくと不必要なことにリソースを消費されてしまう恐れがあるので、依頼者がちゃんと指示する必要があるのだ。捜査のあと、真相はどうだったのか?を判断する審判も同様で、重大な犯罪の場合は国が論告・求刑、証拠の提示などを行うが、重大な犯罪でない場合は、審判を願い出た者が自らこれらを行う必要がある。自分が訴えられた側になった場合も、弁護と証拠提示は自分でやる必要があるのだ。

ルフィオさんは、私の依頼を快く引き受けて、ポリツィアッレに同行してくれた。彼はこういったことには慣れているそうで、詐欺を懸念される案件が現在進行中であることを説明し、私たちの予想どおりエルシード号が造船所にやって来た場合には、造船所とエルシード号に誰も近づけないようにすることと、関係者から事情を聴取することについて、ポリツィアッレの協力を取り付けてくれた。こうしたポリツィアッレの協力は私にとっては大きな助けとなる。特に関係者から事情を聴取し記録しておくことは非常に重要だ。なぜなら、初期の段階では関係者同士の情報交換ができず、口裏が合わせられないからだ。特に造船所関係者はステファネッリとの関係は希薄であろうから、指示がない状態では、きっとボロがでるはずだと思えた。


意外なことに、エルシード号が造船所にやってきたのは出航から4日目であった。予想より2日遅れである。考えて見れば、難破してすぐに普通の速度でコート・ロッソに行けるはずはないから、その分の時間を偽装したものだろう。船がやってくるまでの間に、フクロウたちが二羽とも王都の大地聖教会に戻ってきたと、早馬で知らせがあった。フクロウ達を放した日時もよく考えて選んだものと思われる。期待以上だったのは、フクロウ達の足首に手紙を入れた容器が取り付けてあったことだ。その文面には、出航してから二日目に嵐に遭遇、既に沈没しそうだとの記載があった。最初から船の沈没の話に仕立てるつもりだったろうから、そのような手紙をフクロウに託したのだろうが、造船所でエルシード号が見つかってしまえば、この手紙が詐欺の証拠の一つになると思う。

造船所で女神像が船から降ろされたとき、間髪入れずAIエルメスから連絡が入った。

『女神像のセンサーと船に設置した他のセンサーとの距離拡大を検知。女神像のセンサーの動きからも、女神像が船から降ろされたと推測できます。』

私は単に女神像のセンサーの動きで判断すれば良いと思っていたけど、他のセンサーとの距離がわかれば確実である。サラにこの話をして、効果的な手段を選んだのよと自慢をしてやろうかしらと思ったのだけど、これがヘルメスに伝わったらしい。

『これまでのミッションの記録では、ルナさんの場合、恐ろしいほど運が良かったことが多いと言わざるを得ませんが、これらは全て完全に偶然のラッキーであり、こじつけの余地はゼロと分析されています。』

かつて大賢者に任じられた私にこんなことを言うとは、まったく失礼なAIである。


滞在期間を延長してくれたルフィオさんと私は、ポリツィアッレのメンバーを指揮して造船所とエルシード号を立ち入り禁止とし、押収した女神像は商工会として王都に持ち帰り厳重に保管することとした。この措置に対し、造船所の親方は、仕事ができなくなると苦情を申し立てたが、当分仕事は入ってなかったはずですよね?入ってるなら言ってみてくださいと言うと、かわいそうに、それ以上は反論できない様子だった。

関係者からの事情聴取は私が自ら行い、記録はポリツィアッレが行なって、ルフィオさんが商工会として確認する形とした。先ずエルシード号の船長からである。彼の言い分はこうだ。

「出航して2日目の夜、嵐に逢った。すぐに帆を下ろしたんだが、その時に舵が効かなくなった感じがしたんだ。翌日は何とか航行できたが、舵が効かない感じは前夜と同様だった。こんな状態で航海を続けるわけにもいかないし、舵が壊れた可能性もあると考えたので、点検と修理のために俺の知っている造船所に船を持ってくることにしたってわけさ。」

「嵐の日から舵を取っていたのは、どなたなの?」

「船長の俺自身だよ。」

「他のクルーと交代したことはなかったの?」

「何しろ舵が破損している可能性があったからな。そんな状態で他の者に任せるのは無責任だと思わないか?自分が責任をとるつもりで、最後まで騙し騙し舵を取っていたさ。」

船長のこうした説明は、エルシード号が沈没していないことが明らかになった場合でも、保険によっていくばくかの利益を得ることを意図したものと考えられた。実際には、こんな早いタイミングで船を押さえられてしまった訳だから、修理費をふっかけるのはほとんど不可能だろうが。なお、この船長の説明とフクロウに託された手紙の内容とは、伝えられるニュアンスが全然違うので、それを指摘することも考えたが、嵐の真っ只中で的確な表現ができなかったのだと言い逃れられてしまうだろうから、何も言わないことにした。船長の説明の本当に重要な点は、エルシード号がこの造船所にやって来たのは嵐が原因であって、天候とは関係のない別の理由ではないと意思表示した点である。即ち、船長の説明にステファネッリが同意するのだとしたら、ステファネッリは、私から保険金を受け取るか、もしくは私たちを騙そうとしたペナルティを支払うかのどちらかしかなくなったわけである。

「それで、あなたは造船所の親方には何を依頼したわけ?」

「それはもちろん、船全体を点検して、破損した部分は修繕するように伝えたよ。」

「他には?」

「他にはなかったな。」

「わかりました。聞き取りは以上です。」

次に私が要求したのは、他の船員からの事情聴取だ。しかし、どの乗組員に訊いても、嵐に逢ったということ以外は、あまり説明しようとしなかった。突っ込んだ質問をしようと食い下がってみたが、ことばがあまり通じないため、今以上の情報を得ることは難しそうであった。まぁ、他の船員からの情報収集はダメで元々というつもりだったから、私としては特に問題はない。おそらく船員たちは、ステファネッリから条件のより良い職場を既に紹介してもらっているのだろう。こうした利益提供によって真実とは異なる証言が生まれてくるわけであるが、考えてみればそれは当たり前である。なぜなら、重大な犯罪でない場合は、証言の内容が真実とはかけ離れていてもペナルティが課せられるということはないからだ。この国で暮らしてゆくつもりの私にとって、これは良い教訓になった。即ち、良心に訴えて証言を得ようとすることは、ほとんど無駄である。

最後に私は、造船所の親方から事情聴取を行った。ここで私はちょっと引っ掛けのような手で、ステファネッリに不利な証言を引き出すことにした。

「ねぇ親方。貴方が下ろした女神像ですけど、脚が破損していますよね。貴方の造船所でで破損させたんでしょう?あの像は大地聖教会から私が借りて船に設置したものですけど、どうしてくれます?王都の大司教様の祝福を受けながら制作したもので、代わりを作ろうとすれば、とんでもない金額になると思いますけど。貴方、弁償できます?」

「いや…しかしそんなことを言われても、俺も頼まれてやっただけなんだ。」

「頼まれた?いくら頼まれたからって、あの像は無理に取りはずと脚が破損しそうだって、見たらわかるでしょう?それとも、貴方にはわからなかったんですか?」

「も、もちろん壊れそうだなとは思ったさ。だが、像は取り外してすぐに焼却処分するよう指示があったから、多少壊れても良いと思ったんだ。なぁ、もう一度言うけど俺は、あの女神像を取り外して即刻処分しろという指示に従っただけなんだよ。損害を請求するなら、指示したやつに言ってくれ。」

「その指示とやらはいつ誰から貰ったって言うのよ?少なくとも船長からは言われてないわよね?船長は女神像を取り外すことについては、一言も言ってないもの。」

「ああ。船長からではない。エルシード号が来る前日に、船の持ち主のステファネッリさんから手紙が来たんだ。出航直前に大地聖教会の大司教がこの像を設置したんだが、大したご利益もないくせに恩着せがましくされて、忌々しいったらありゃしない。船が来たらさっさと外して燃やしなさいって。手紙にはそういったことが書いてあったんだよ。なぁ、信じてくれ。」

「じゃぁ、ステファネッリは、エルシード号がここに来ることを出航の時から知っていたってことになるわね?」

「え…」

造船所の親方は、虚を突かれたように動きを止め、目を見開いてグビリと唾を飲み込んだ。

「ステファネッリは、エルシード号がここに来ることを出航の時から知っていた。それで間違いないわね?」

「それは…」

結局、親方は私の問いに肯定も否定もしないまま、証言記録にサインをすることとなった。だが、私はこれで満足だった。なぜなら、真に重要なのは、エルシード号が来る前に届いた改修に関する指示の手紙を、ステファネッリのものであると親方が信じたことだからだ。このことは、ステファネッリの船が来るということを、親方が事前に知っていたことに他ならない。審判では、この点を突けば必ず私が勝てるはずだ。

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