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ローザ・ステファネッリとの契約

久しぶりに改稿しました。

これまで書いてあった最後まで改稿できましたら、また新しく追加いたします。

またおつきあいいただければ嬉しく思います。

商工会に行った5日後。

私はベッドの上でサラと一緒に朝を迎えた。私たち二人にはそれぞれ自分の部屋があるのだが、週に二日ぐらいはこうして時々一緒に夜を過ごす。サラが言うには、女神としてはできないことを経験するのが役割なのだそうだ。だからこれまでにも色々な相手と付き合ってきたらしいし、今だって週に三日は外泊している。サラは本当に魅力的だ。肌が滑らかで匂いも良く、肌を合わせたときの温もりとも相まってとてもリラックスできる。私としてはもう少し頻繁に一緒に過ごしたいと思うのだが、サラからは、視野を広く保つためにも、節度のある関係でいましょうねと言われている。お互いを求めるときはとても激しいのに。これで節度があるのかと疑問に思う。

サラが私の胸に顔を押し付けながら言う。

「今日ですね。ローザ・ステファネッリさんにお会いするのは。思惑どおりに運ぶと良いのですけど。」

私はサラの艶やかな髪を指で梳きながら答える。

「どちらでもいいのよ。私たちの思惑どおりに事が運べば、保険金詐欺を見破った名声とペナルティのお金を手にすることができる。思惑どおりに事が運ばなくても、仕事としては順調な滑り出しとなる。前者の方が、得るものは大きいってだけ。」

「でも、かなりの確率で、補償のお金を騙し取る何かを仕掛けてくると思ってるんでしょう?」

「そうだけど、まだ具体的な計画はできてないんじゃないかと思うのよ。だから今の段階で探りを入れても、おそらく何もキャッチできないと思う。私たちの提供するサービスに関する説明書は、商工会を通じて渡してあるから、何かおぼろげな絵姿ぐらいはできてるかもしれないけど。」

「だとすると、今回の会見はお互いを理解するというものになりますね。」

「向こうにしたって、あまりも性急に契約を結ぼうとするのは不自然だから避けるんじゃないかしら。まぁ、私たちの思惑に気づかれないように、発言や態度には気をつけましょう。ちょっと緊張するわ。」

「緊張?」

「私、サービスの説明ってやったことないのよね。これまでのミッションの役所としても経験ないし。物を売る商人っていう役所は何回かあるのだけど。自分のキャラにも合ってないように感じるから緊張するわ。」

「あら、ルナさんでも緊張することがあるんですね。可愛い。」

うふふと笑って私に覆いかぶさってきたサラを受け止めて、そのままお互いの身体を確かめ合った。


10時ごろ、私とサラは、ローザ・ステファネッリと保険の相談をするため、アスミルの港にある商工会の事務所を訪れた。相手のローザについては、当然ながら事前に情報を収集していた。この女は40過ぎの未亡人で、旦那の遺産を元に貿易商を始めたらしい。彼女が30歳の頃にかなり年上の資産家と結婚したのだが、結婚して3ヶ月でその旦那が病気で亡くなり、莫大な遺産を手にいれたのだった。旦那の死に対しては、毒殺ではないかという疑惑の目が向けられたが、他殺との証拠は見つからず、悲嘆に暮れた彼女に肩入れする弁護士もいたりして、結局、旦那の遺産は全て彼女のものとなった。貿易商としての彼女は、かなりの手腕を示した。売買する商品の着眼点が独特で、うまく売れそうなものを数多く見出してきたのだ。しかし、売買契約に当たっては、相手の好意や弱みにつけ込んだり、錯覚を利用した詐欺まがいの手口を使ったりして、彼女に有利な条件を飲ませてきたため、最近では嫌われるようになってきていた。ジリ貧の状態にあった彼女は、このあたりで一発大きなビジネスを成功させる必要に迫られていた。

私たちが事務所に着いたとき、彼女は商工会のルフィオさんと一緒に待っていて、私たちが部屋に入ってゆくとソファから立ち上がってにこやかに挨拶してきた。

「ローザ・ステファネッリでございます。噂のお二人がこんな可憐な女性だとは思っておりませんでした。どうぞよろしくお願いいたします。」

彼女の外見はほっそりとして清楚で、物腰も柔らかい。この女性がやり手の貿易商であることを初対面で想像するのは、なかなか難しいことだろう。特に男性にとっては保護欲をそそる対象になるかもしれないから、相手の好意を利用して自分に有利な契約を結ぶことは、若い時には有効な手段であったに違いない。彼女の挨拶に対して私たちも挨拶代わりに軽く自己紹介を済ませ、視線をルフィオさんに移した。

「商工会の港事務所にようこそ。また会えて嬉しいよ。ルナさん達の商売を仲介するのは俺たちにとっても初めてだから、最後まで立ち会っておこうかと思って一緒に来たんだ。ローザさんからは許可をいただいているけど、ルナさんたちはどうかな?もし差し障りがあるようなら退席するが。」

「ルフィオさん。差し障りなんてとんでもない。商工会の方が立ち会ってくださるのは、私たちにとってもメリットが大きいです。どうぞ最後までお付き合いくださいね。」

「ありがとう。それじゃぁ、最初にルナさん達の商売の概要を説明してもらったあと、ローザさんの要望を聴かせていだだこうじゃないか。」

私たちはルフィオさんに促されてソファにかけると、自分たちが提供するサービスの説明を始めた。

「事前に説明書をご覧になったと思いますが、私たちが提供する保険は、天候によって被害が発生した場合に、契約した補償金額をお支払いするものです。私たちが指定した航路をスケジュールどおりに運行することが条件なので、これを外した場合は、契約は解除となります。補償金額は保険対象の価値の100%を上限とした金額で、保険料は補償金額の10〜40%の範囲でお客様と合意できた額になります。この料率は、天候の予測の精度によるのですが、特殊な場合を除きだいたい10%になります。特殊な場合というのは、天候の不確定性が大きく、航海スケジュールも大きくずらせない場合などですね。天候による被害が発生した場合、それが天候によるものかどうかをお客様が証明する必要はありません。ですが調査の結果、被害の発生原因が天候ではないと合理的に説明された場合は補償対象から外れます。なお、お客様が意図的に虚偽の申告をされたと判明した場合は、ペナルティとして補償額の10倍の賠償金を支払っていただくこととなります。」

ここまで一気に説明できたことで、私は少し安堵して、ほーっと息をついた。そのとき、横に座っているサラがニヤニヤと笑っているのに気づいたので、肘でつついてやった。

「ここまで、何かご質問はございませんか?」

「ご説明ありがとうございます。とてもわかりやすくて良いのですけど、被害の発生原因が天候ではないと合理的に説明できる場合というのは、どんな場合でしょう?」

「例えば、乗組員などから、天候は安定していたとの証言が複数得られる場合ですね。」

「あら。でも船が沈没して生存者がいなければ、証言する人もいないでしょう?」

「ええ。証言その他によって被害の発生原因が天候ではないと合理的に説明できない場合は、補償金額はきちんとお支払いしますよ。」

「保険対象の価値の上限はございますの?」

「無制限…と言いたいところですけど、資金にも限りがありますので、あまりに大きな金額は対応できません。それに、お客様が許容できる航海スケジュールの期間で、予測される天候の精度が非常に低い場合には、上限を設けざるを得ませんね。まぁ、全ては協議で決めるとご理解ください。」

「積荷だけ流出した場合の補償はどうなりますの?」

「積荷だけというのは補償の対象からは外れます。船が無事なのに、積荷だけ流出することは考えにくいですからね。」

「なるほど、だいたい理解できました。」

「リスク回避のために、契約前に船や積荷を確認させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「船についてはご覧になれます。ここが会見の場所に選ばれたのも、そういった意味を含んでいるのだと察しておりましたから。ただ、積荷の方はまだ揃っていなくて…、今日全てご覧になっていただくことはできないんです。」

「積荷の方は出航直前にでも確認させていただきますよ。商工会から、保険対象のリストを出すように聞かれたと思いますが、もし今お持ちならいただけます?」

「ええ。これがそのリストです。」

彼女が渡してきたリストを確認したところ、100品目ほどが挙がっていたが特別に高価なものはなかった。しかし船そのものの評価額はかなりの高額になっており、AIヘルメスによれば、通常の2倍を超える評価額のようだ。私はこれを見て、ステファネッリが私たちに詐欺をしかけようとしていることを確信した。

「それで、今回はどのような航海を予定されていますか?」

「再来月の末までに、メリア大陸のショープルトン港まで積荷が届くようにしたいと考えておりますの。船の速力は平均5ノットぐらいだから、20日ぐらいかかると思います。」

「わかりました。この後、実際に船を見せていただいた上で、今教えていただいた情報を元に、航路とスケジュールを組みますね。」


お互いに話が終わったので、停泊しているステファネッリの船を見せてもらった。全長が80メートルぐらいの3本マストの帆船で、エルシード号というのだそうだ。船形からみて平均速力が5ノットぐらいというのは妥当と思われる。最大船速はたぶん17ノットぐらいは出るだろう。私は船に乗り込んで、船倉からマストの檣楼まで、構造をくまなく確認したが特に脆弱な部分は見つからず、メリア大陸、即ちかつての北アメリカ大陸までの航行に問題があるようには思えなかった。檣楼に登った時には発信機をこっそり仕掛けておいた。これで、船がどこにいるかモニタできるから、船が予定の航路を外れたとしても早く手を打てるし、船が行方不明になったと言われても、探し出すことができる。発信機1つだけでは不安なので、積荷を検査する際に更に2つを設置するつもりだ。

「なかなか良い船ですね。船形が美しくて速力も出そうです。この船が遭難しないよう、天候を綿密に予測して、安心できる航路と航海スケジュールをご提案します。」

そう言って、その日はステファネッリと別れたのだったが、私は一つ問題があることに気づいていた。それは、ステファネッリが詐欺を働く意図があった場合に、それを証明するための手段がまだないという問題だ。仮に、船が行方不明になったと申し立てられて、私が船を見つけ出したとしても、沈没したと思っていたけど無事で良かった、で済んでしまって、詐欺の意図があったことを証明したことにはならないのだ。私たちが損害を被る可能性は低いが、詐欺師にはそれなりのペナルティを課したい。さてどうしたものだろう。

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