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賭け

これまで気になっていた部分を改作します。

最後のエピソードまで行ったら、新エピソードも書いてゆきます。

どうか、暖かく見守っていてください。

会頭室から出るとサラが疑問を口にした。交渉の手前、黙っていてくれたらしい。

「11日目の嵐ですけど、少し早まったり遅くなったりすることがあるのではないですか?」

「それは確かにそうなのよ。でも今回は大丈夫。半日程度のずれはあると思うけど、そこまで厳密さを問われるとは思えない。でも、もし半日程度のズレが問題視されるようなら、航海のスケジュールを決めるときには、そういう不確定部分も含めて提案するから大丈夫と言えば、きっとわかってくれると思う。」

「なるほど、それなら大丈夫でしょうね。安心しました。」

「何を以って嵐が来たと判断するのか、その定義も曖昧ですからね。ところで、そろそろお昼なんだけど、せっかくだからここで食事してかない?どんなお料理が出てくるのか、来たときから気になってたの。」

「良いですね。もしお料理が美味しかったら、ここに来るたのしみも増えますものね。」

サラの同意も得たので、私たち二人は奥のテーブルに着いて、給仕さんが持って来てくれたメニューを見ながらあれこれ注文を始めた。

最初のうちは特に注目を集めることはなかったのだけど、運ばれてきた料理を私たち(主に私)が次から次へと平らげて行くに連れて、だんだん注目度が上がってきた。

あー、これは誰かから声をかけられそうね、と思っていたら、案の定声をかけてきた人がいた。

「お嬢さんたち、すごい食べっぷりだな。何かヤケになるようなことでもあったのか?」

見ると、ずんぐりした髭面のおじさんで、表情には人懐っこい笑みが浮かんでいる。

「あら。特にヤケになるようなことなんてありませんよ。私、これが普通なんです。まぁ、ここのお料理ってことのほか美味しかったので、いろいろなものを試してみたくなったってことはありますけど。」

「うへぇ…だか、ここまでよく食べるお嬢さんは見たことないぞ。っていうか、男でもこれほどは食べんだろう?」

「うふふ。私は特別なんです。」

これは実際仕方がない。私は普通の人間とはエネルギーの代謝率が極端に違うからだ。だからミッションの時は食事の確保が本当に大変だった。

「ふうん。ところで、ここで食事をしてるということは組合員なんだろうが、これまで見かけたことがなかったね。」

「ええ。ここに来るのは今日が初めて。今日は私たちが立ち上げた商会の登録に来たんです。それに、私たちの商売への支援を商工会にお願いしたんですが…会頭さんからは、商工会の信用に関わるから、テストをクリアできたら支援してやると言われちゃって。」

「珍しいな。普通は適正な対価を支払えば相応の支援が得られるはずなんだが…どんな商売をやるつもりで、どんなテストを言われたんだい?」

私は、私たちがやろうとしている商売と、会頭さんから提示された課題について説明した。

「ふぅむ。確かにテストしたくなる気持ちはわかるな。だが、11日間の天候を当てるなんて普通は無理だよな。まさか当てずっぽうってわけじゃないんだろう?一体どうやってわかるんだ?」

「私にしか得ることのできない情報がありますから、それを分析して予測するんです。」

「お嬢さんにしか得られない情報だって?そう言われても、簡単には信じられないな。だが、普通信じられないことだから、賭けの対象としては面白い。お嬢さんたちさえ良ければ、私と賭けをしようじゃないか。お嬢さんたちは当然当たる方に賭けるだろうから、私は外れる方に賭けるよ。」

「あら、そんなの悪いわ。私たちが勝つに決まってるもの。」

「自信があるんだなぁ。だったら、他の者にも声をかけて少し大きくやろうじゃないか。どうだい?」

「よっぽど賭けがお好きなんですね。いいですよ。明後日の9時までにベットすることにしましょう。管理は商工会に任せますか?」

「そうしよう。だが、賭け金が巨額になった場合、お嬢さんたちには支払う当てはあるのか?」

「支払う当てはまだありません。でも、私が負けることなんて考えられないんだけど?」

「賭けっていうものは、そういうものじゃないだろう?お互いに賭け金を積んで、負けたらその場でそれを渡す。もし払えなければ勝った者が納得するような何かが必要だよ。」

「そうは言われましてもね。私たち、まだ駆け出しだから現金の持ち合わせが少ないの。いくら賭け金を積めって言われても無理だから、この賭けは不成立ね。」

「しょうがないな。人を集めるのは無理か。お嬢さん方の身柄を押さえるというのは流石にダメだしな。」

「あら、私の身柄が賭け金の代わりになるというのなら、私は良いのですけど?どうせ私が勝ちますから。」

そう言いながらサラを横目で見る。

「私もかまいませんよ。ただ…私に何かしようとした場合、アスタルテ様が黙っていないかもしれません。」

「アスタルテ様って、大地聖教会の女神様だろう?本当にいるのかよ。」

まぁ、普通居るとは思わないだろう。実際に女神に会った人なんてほとんど居ないに違いない。そう思っていたら、サラは驚くようなことを口にした。

「あら。大地聖教会の大司教になる条件の一つは、アスタルテ様と直接言葉を交わした経験を持つことなんですのよ?ご存知ありません?」

「え、ほんとかよ。それこそ信じられないんだが…まぁ、お嬢様方の身柄を抑えたとしても、後が困るしな。おおっぴらに売り飛ばすわけにもいかない。やはり俺たちだけの勝負にして、お嬢さんたちが勝ったら俺が夕食を1回奢る。もしお嬢さんたちが負けたら、俺に一日付き合うってことでどうだい?」

「そうですね。これはお遊びの一種だから、そのぐらいが妥当かもしれないわ。賭けの対象にするとなると、判定も難しくなるなって思ってたところですし。もともとは、私たちが信用に足るかどうかを判断するのが目的だから、厳密な基準を決めてたわけじゃないのよ。10日間、天候が大きく崩れることはなく、11日目には嵐が来る。これが全て。でも、賭けが絡んでくるとなると、どういう状態を以って大きく崩れてないと言うのか、どういう状態を以って嵐がきたと言うのか、決める必要があるでしょ?特に天候が大きく崩れることはないというのは、定義が難しいわ。」

「そうだなぁ。確かにお嬢さん方の負けに賭けたやつは、お嬢さん方が予測した状況とは違うと言い出すだろうな。」

すると、意外なことにサラは次のような提案をした。

「11日後の嵐をちゃんと定義して、それに対して人を集めて賭けをすれば良いと思いますわ。私たちが勝てば宣伝になりますもの。賭け金は、私の財産を充てれば大丈夫です。」

「確かに話題に上って、少し名前が知られるようになるかもしれないわね。でもサラの財産を使うっていのは、私としては抵抗感あるわ。私たちの商売の資金っていうわけではないもの。」

「私、特にお金を使ったりしないので、減ってもかまいません。それに、お金なんて私が気にすると思います?」

確かに言われてみると、サラがお金に執着するはずもないと思える。それに、この賭けが大きく盛り上がるとは考えにくいから、賭け金はたかが知れているだろう。たぶん私でも払えるような気がする…

「わかったわ。遊びと思って、11日目に嵐が来るか来ないかで賭けましょう。11日目に嵐が来たことの定義は、夜の0時から24時間の中で、傘をさしてもうまくさせずに全身が濡れてしまう程度の風雨があること、としましょう。よろしいかしら?募集期限は明後日の朝9時まで。当然、私たちは嵐が来る方に賭けます。」

「いいだろう。それにしても判定の条件が妙に細かいな?」

「きちんと決めておかないと、当然昼間だけが対象だろ?とか、雨は降っていても嵐じゃない、とか言い張る人が出てくるからよ。まぁ、私にとっては子供を騙すようなものだから、申し訳ない気持ちでいっぱいですけどね。」

「ほほう、そういう強がりを聞くと、よけいに挑戦したくなるな。」

「どうぞ、せいぜい宣伝してください。その分、私たちのお小遣いが増えるから大歓迎だわ。」

「よし、話は決まった。俺はルフィオ・ファルネーゼだ。」

「私はミラーダ・ルナ・イスルギ。こっちはサラ・セントマリア。お小遣いを稼がせてもらうことにするわ。それじゃ。」

「おい、ちょっと待ってくれ。もう少しお嬢さんたちの商売のことについても教えてくれないか?」

「やっとその質問?まぁいいわ。言ってみて。」

「航海ルートと航海スケジュールを決めるときも、今みたいに、嵐がくるか来ないかみたいな判断で決めるのか?それこそ、嵐かどうかギリギリの天候っていうのもあるだろう?」

「正確に言えば違うわね。航海ルートと航海スケジュールを提示する場合は、風向きとその強さ及び降雨の程度を1〜5時間おきぐらいに分けて予測するの。だから、嵐かどうかの判定をしてるわけじゃない。でも風の強弱も含めて航海スケジュールを出すからより正確になるわ。」

「風の強弱も含めて予測する?」

「風の強弱がわからないと、航海スケジュールを提案できないじゃない。同じ航路だって、風の強弱でかかる日数が変わってくるんですから。まぁ、信じる信じないは勝手ですけど。」

「うーん、言ってることはそのとおりなんだが、そこまで予測できるものなのか…。あとな、航海ルートって無数にあるだろう?見たところお嬢さんは若いから、そんなに多くのルートを知っているはずはないのに、どうやってルートを提案する?」

「あぁ、それは海底地形のわかる海図を持ってるから、安全な航路が提案できるのよ。難破しそうになったときに退避できる入江とかも提案できるわ。」

「海底地形のわかる海図?そんなものを持ってるのか?」

「ちょっと見せてあげるわね。説明のためにサンプルを持ってきてたの。会頭さんのところでは出番がなかったのだけど。」

私はカバンの中から部分的な海図を取り出して見せた。そこには、この国の一部の海岸線と近海の高低が図示されていた。

「こ、これは…こんな地図見たことないぜ。」

「すごいでしょう?これを元に知らない海でも安全な航路を提案できるわけよ。」

「こういうものを、どこかで売ってるのか?」

「これは、私しか手に入れられないと思うわ。」

「どうやって作ったんだ。適当に描いてあるわけじゃないんだろう?」

「まぁ、これも貴方がどう思おうと勝手。じゃぁ、そろそろ行くわ。明後日の朝9時までに参加者を募っておいて。その時に賭け金を集計して、私たちの分をその日中に用意するわ。それを商工会に預かってもらう。いいわね?」

「わかった。」



明後日、私とサラが商工会にやってくると、待ち受けていたルフィオがすぐに近づいてきた。

「やぁ、おはよう。待ってたぞ。」

「おはようございます。ちゃんと時間どおりのはずですけど?」

「そう突っかかるなよ。賭けに乗る者を募集したんだがな、意外なほど多くの者が乗ってきた。」

「いったい何人になったの?そう時間がないから、大して集まらないと思ったんだけど…」

「ざっと100人だ。これがリスト。」

「何ですって?思ってたよりも一桁多いじゃないの。あなたって案外大物だったってわけ?」

「俺も、ここまで反響があるとは思わなかったぞ。それで言いにくいんだが、賭け金の合計が2000万ルードになってしまってな。」

「その金額…私の手持ちじゃ何ともならないわ。」

私は申し訳なさそうに、サラの方を見た。

「ルナさん。私に任せてくださいな。私の財産は教会に保管してありますから、教会の手形をすぐに用意しますよ。ルフィオさん、大地聖教会の手形、大丈夫ですよね?」

「お、おお。大地聖教会の手形なら文句はないさ。だが、お嬢さんたちが準備する賭け金は1800万ルードでいいからな。」

「え?それってどういうこと?誰か私たちの予測が当たる方に賭けた人がいるの?」

「あぁ…実は俺が賭けた。お嬢さんたちの話を聴いているうちに、当たるんじゃないかって思えてきてな。」

「まぁ!呆れたわ。他の皆さんには貴方が当たる方に賭けたって言ったんでしょうね?」

「うむ。後々のことを考えると、俺の立場ははっきりさせておいた方が良いと思ったからな。それに、公平を期すために、お嬢さんたちから聞いた話は紙にまとめて渡しておいたし、商工会にも届けておいた。だから問題はないはずだ。」

「じゃぁ、ある意味、私たちの宣伝にはなったってことか。」

「ルナさん、私これからすぐに教会に行って、手形を発行してもらってきます。買い物でもして待っててくださいね。15時にまたここで落ち合いましょう。」

「今の話、誰かが聞いていたかもしれないから、一緒に教会に付いて行くわ。一人じゃトラブルに巻き込まれるかもしれないもの。」

「うふふ…そう言ってくださると嬉しいです。では一緒に。」

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