会頭への説明
これまで気になっていた部分を改作します。
最後のエピソードまで行ったら、新エピソードも書いてゆきます。
どうか、暖かく見守っていてください。
扉を開けた正面には、大きなデスクがあり、その向こうで書類を見ていた男性が、顔を上げて私とサラに目を向けた。髪が少し薄くなった50代と思える外見。目がギョロリとしていかつい感じだ。
「お嬢さん二人がここを訪ねてくるとは珍しいな。まぁ入って、そこのソファにかけてくれ。」
そう言うとその男性は、自分も席をたって私たちの向かいのソファに着席した。砕けた口調は、私たちが見た目若い女性二人だからだろうか。若いのは見た目だけなんだけど…
「私はこの商工会の会頭で、ジュゼッペ・ミスティナーゼと言う者だ。何か相談があるとのことだったが…先ずは君たちのことから教えてくれないか。」
「はい。お時間取っていただき、ありがとうございます。私はミラーダ・ルナ・イスルギ。遥か東の島国の生まれで、最近この国にやって来ました。自分にしかできないことで生計を立てようと思って、今日、この子と二人で運営する商会を登録させてもらいました。」
「そうか…外国から来たんだったら、色々わからないことも多いだろう。それにしちゃ、言葉が流暢だが…」
「そうですか?まぁ、この国は初めてっていうわけでもないし、言葉を覚えるのは得意なんです。」
前に来たのは300年前だけど、それほど変わってないですからね、などと思いながら適当に答えた。
「ふーん。何回か来ただけで、簡単に覚えられるもんかねぇ…まぁいいか。それで、そちらの修道女さんは?」
「あら!このようななりをしてはいますけど、わたくし、修道女ではありませんの。私はサラ・セントマリア。大地聖教会の特別枢機卿です。上の者から、外国から来たルナさんを助けるよう指示を受けて一緒に行動していますの。」
その指示はアスタルテ様からのものよね。それって、「上の者」のレベルを通り越してるんですけど。この子って女神の分身のくせに、どうしてこうトボけたキャラなのかしら。私はジト目でサラを見る。
「大地聖教会は知ってる。だが、特別枢機卿って何だったかな?枢機卿だったら教皇様に色々と意見を言う立場の方なんだろうが…」
会頭が疑問に思うのももっともだ。特別枢機卿なんて役職、サラのためだけに作ったんだと思う。何しろこの子は、活動するのに都合が良いからっていう理由で教会に所属してるだけだから。サラが大地聖教会の主神であるアスタルテ様の分身だと知ってる教皇様が、色々と便宜を図ってくれているらしい。
「特別枢機卿は、普通の枢機卿にはできない特別なお仕事をするのですよ。ほほほ…」
ほほほって、そのまんまじゃないの!言葉の意味どおりのことを堂々と言うサラに、二人とも思わずため息を漏らした。
「全く説明になってないんだが…まぁいいか。大地聖教会で一定の地位には就いておられるようだし、それに、誰を従業員にするかは商会主のルナさんが決めることだからな。それで、相談というのは?」
「はい。三つお願いがあります。一つ目は、私たちの商会のポスターをこの建物の中に掲示させてください。ポスターを掲示させていただくことで、私たちの紹介が商工会に認知されていることを示したいのです。もちろん相当の料金はお支払いします。二つ目は、商工会が運営する金融機関に私たちの口座を作らせてください。それなりの信用がないと作らせていただけないんじゃないかと懸念していますけど…。三つ目は…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。先ずは、お前さんたちが考えている商売の中味を教えてくれないか?」
「あ、失礼しました。登録申請書に書いた事業内容に書いた海運アドバイザーというのは、海域地形と予測した天候から、安全な航海ルートと航海スケジュールを提案する仕事です。寄港地や目的地の情報が得られた場合はその情報もお伝えします。保険サービスというのは、私たちが提案した航海ルートと航海スケジュールを採用してくれたにもかかわらず、悪天候によって船に被害が発生した場合は、被害額に応じた保険金を支払うというサービスです。」
「それで、海運アドバイザーおよび保険サービスか。まぁ、お前さんたちが商売でどれほど失敗しようが構わんのだが、商工会がお前さんたちを認知するというのなら、簡単にはオーケイできないな。まず最初の航海ルートと航海スケジュールついては信頼性が問題だ。信頼性の低い、いい加減なものだった場合は、認知した商工会の信用にもかかわるからな。」
「確かに、いい加減なものに対して商工会が関わった場合、商工会の信用を損なうことになるというのは理解できます。でも一方で、私たちの天候予測に価値があるのなら、リスクを回避することで商工業の発展に寄与できますから、商工会の設立趣旨にも合致すると思いません?」
「もちろんそうだ。航海ルートは調査すればそれなりに妥当なルートは提案できるだろう。だが天候の予測については、航海ルートと期間に応じた広い地域と長い期間が対象になるだろうから、それほど信頼性の高い天候予測なんてできないだろう?まぁ、当てずっぽうでも遭難する確率はそこそこ低いわけだから、運良く保険金を支払わなくて良い可能性はあるがね。」
「当てずっぽう!そんなことするつもりはありません。それに、航海ルートと航海スケジュールの提案は、料金を高く設定するつもりもありません。私たちが得られる収益のほとんどは保険料になると考えています。」
「なるほど。それで、いったいどのぐらいの範囲で予測するつもりなんだ?向こう2日とかでは話にならんぞ?その程度はどの船でもやっていることだからな。もっとも精度はまちまちだが。」
「天候予測の範囲は…そうですね、私の居る場所を中心に半径3000kmぐらいの範囲で、10日先までといったところでしょうか。無論、予測しにくい日というのもありますから、その場合は…」
「ちょっと待て!半径3000kmで10日先までだって?どうやってそれを知るっていうんだ?まさかお前さんが想像したことが予測だって言うんじゃないんだろうな?それだったら当てずっぽうと変わらん。」
「ちゃんとデータに基づく推測ですよ。まぁ、データは私にしかわからないから、傍から見たら私の想像に思えちゃうかもしれないけど…」
横にいるサラは、確かにそうですねーなどと、のんきに呟いている。
「おいおい、ふざけてるのか?商工会の信用にも関わるんだ。保険金を支払うのがお前さんたちだからと言ったって、商工会としてはそんな商売への協力はできんな。自分たちが若い女だからと思って甘くしてくれるとでも思ってるんじゃないのか?」
若い女って…私たち貴方よりずっとずっと年上なんですけどね、と心の中でツッコミを入れつつ、
「私の言うことが信用ならないって言うんですね?だったら、テストしてください。問題は信頼性でしょ?」
「いいだろう。じゃぁ、向こう10日間の天気を当ててみてくれ。地域はこの王都でいい。他だと当たったかどうか調べるのが大変だからな。それで10日間1日も外さなかったなら、一応テストはクリアできたとして、お前さんたちの望みどおり、最初は協力してやろうじゃないか。」
「ふふ。実はこういう展開も考えて、ちゃんと天気を予測してきましたの。向こう10日間の王都の天候は、晴ればかりでもないですが、全て雨は降りませんよ。ただし…」
すると会頭は私の発言を遮って、怒りの言葉を発した。
「おい!この季節、天候が崩れることは少ないんだ。全て雨が降らないなんて予想、俺だってできるわ!」
「まぁ!怒りっぽいんですね。だから頭が薄…」
「ちょっと、サラ。」
余計なことを口走るサラを慌てて制しながら私は言った。
「最後まで言わせてください。但し、都合の良いことに今から11日後に嵐がくるはずです。10日間、天候が大きく崩れることはない。しかし、11日目には嵐が来る。それでどうです?。」
「よしいいだろう。それで信用してやろうじゃないか。」
「ありがとうございます。3つ目のお願いもまだあったのですけど…保険の契約に関してお客様との間でトラブルが発生した時には、公平な第三者の目で見た判断をいただきたいんです。もちろんかかった経費はお支払いします。もっともそれは、おそらくお客先の財布からということになりますけど。当然私の方に理があるはずですから。」
「えらい自信だな。わかった。公正な第三者としてトラブルには当たらせてもらう。もともと、それが商工会の役割の一つでもあるからな。それから、保険サービスの方だが、保険金が払えるだけの証明が欲しい。いざ保険金を支払う段になって、資金がなくて払えないというのでは、さすがに問題だ。」
するとサラが言った。
「資金については私が面倒見ることになっています。今度来たときに、預金残高の証明をお持ちすれば良いですか?」
「あぁ、それなら文句はない。」
話がまとまって、私たちは会頭室を後にした。




