名前を売るために
これまで気になっていた部分を改作します。
最後のエピソードまで行ったら、新エピソードも書いてゆきます。
どうか、暖かく見守っていてください。
新居への入居準備をサラに任せたところ、お家の家具や調理器具以外にも、トイレの交換や庭の東屋の設置など色々と提案してくれたので、入居は約2ヶ月先ということにした。このため、入居準備が整うまでは月のウサギ亭に宿泊することを申し出た。宿の方としても、まとまった期間、単価の高い部屋から収入が得られるし、夕食もできる限り宿で済ませるので、大歓迎の様子だ。
一方、食堂にポスターを貼らしてもらった困りごと相談の方は、依頼内容が迷子になったペット探しとか、催し物の手伝いとかばかりで、面白いと思える相談には行き当たらず、報酬もたいしたことのないものばかりだった。ある程度予想していたこととはいえ、現実に直面すると辛いものがある。
家を買うなどして、所持金がだんだん心細くなってきたところでもあり、何かしなければならないところではある。まぁ、収入の確保というだけなら、傭兵という手もあるのだが、これまでの仕事でやってきたこととあまり変わらない気がして、どうも気が進まない。それに、本来私は頭脳派なのだ。
それに、もう一つ課題がある。アスターシャとの約束を果たす上で当時の資料集めが必要不可欠だが、それらはおそらく現在の王室に引き継がれているものと思われる。そのためには、いずれは王室と何らかのコネクションを形成する必要があるので、それに繋がる仕事が望ましい。そのためには、世の中のために役に立つことで名を売ることが良いと思う。どうしたものか。
さて、2ヶ月が経って家の準備が整ったので、月のウサギ亭を引き払った。同時にサラも私の家に移り住んできたが、彼女は週3晩ぐらいは家を空けるそうだ。これから相当長い付き合いになるはずだから、ある程度の距離感は必要だろう。まぁ、恋人っていうわけでもないし、私はそれで満足だ。
引越しの日の夜は、ちょっとしたお祝いのために二人で料理を作ったのだが、サラが作った料理の出来に私は目を見張った。本人が言ったとおり確かに美味しい。サラが家にいるときには、基本的には彼女が作ってくれるとのことで、レパートリーも豊富らしいから、食事の面ではきっと幸せに暮らせると思う。食事の後は、二人でお酒を飲んで、一緒にお風呂に入りそのままベッドに…それで、サラが以前言っていた別の特技が何なのかわかってしまった。夜に家を空ける理由もなんとなく。神様のくせに、まったく…。
満ち足りた夜を過ごして二人で迎えた朝、お仕事に関して、私にはある考えがふと思い浮かんだ。月のウサギ亭の給仕の娘さんが、最近は詐欺が多いと言っていたのを思い出して、詐欺師をひっかけて叩き潰せば、世の中の役にも立つし名前も売れるのではないかと考えたのだ。引っ掛ける餌は私が提供する海運保険サービスだ。天候の予測に基づき、安全な航海の時期と航路を提案し、万一嵐など悪天候に遭遇して船に損害が発生した場合は補償金を支払う。私にとって天候は、衛星システムを使った観測とAIによる推定で10日ほど先までほぼ確率100%で予測可能であるから、実際に補償金を支払う可能性がゼロと言ってよい。一方、詐欺師にとっては、船そのもの及び積荷の価値に相当する保険金をそう高くない掛け金で得るチャンスにが得られるわけだから、魅力的に見えるはずだ。船が遭難した場合に、悪天候による遭難ではないと合理的に説明できない場合は、保険金は支払うとしてやれば、きっと食いついてくるに違いない。
サラにこの思いつきを説明したところ、面白そうだからやってみれば?とエールを受け取った。資金はサラが用意してくれるとのこと。私の考えでは、資金はそんなにかけずともよかったのだけど、資金的な裏付けがあった方が効果的だというサラの意見には納得できるものがあったので、サラの言葉に甘えることにした。
細かい規約を詰めたのち、私たちは王都の商工会に会社としての登録をして、商工会の支援を受けることにした。私たちが扱うのはモノではないので、商工会も認めているサービスであることを知ってもらわないと、きっとクライアントを得ることはできないだろう。それに、掛け金や保険金をプールしておく口座は、信頼のおける第三者が運営する金融機関であることも重要なので、その役割も商工会に引き受けてってもらいたいのだ。そういう事情で、明日、商工会に出向いて登録を済ませたあと、商工会の会頭に私たちのビジネスモデルを説明して、協力の了解を得るつもりだ。アポイントも取った。
さて、いざ出かけようという時になって、ちょっと問題があることに気づいた。二人ともろくな衣装をもってないのだ。私は普段着の他は、ミッションで使う活動的な服装しかないし、サラも外出に使えるのは教会の服装だけみたい。服装のせいで胡散臭く見られて、話をまともに聴いてもらえないんじゃないかと心配だが…今から服を買う時間はないから、当たって砕けるしかない。残念女子二人組だったことに気づいて愕然とした私とは対照的に、サラはこれっぽっちも気にした様子がない。この辺、神様の分身だけあって世俗を超越してるのかもしれない。
それで結局、私は短か目のスカートにシャツと外套という服装で、サラはいつもの教会服。どう見ても商工会の会員っていう服装じゃないけど…まぁしかたがない。
家から二人で歩いて王都に向かう。王都に入る検問所は、サラのおかげですっかり馴染みになったため、ほぼ顔パス状態だ。まったく大地聖教会の威光はすごい。まぁ、サラが美人だってこともあるんだろうけど。
私たちは、検問所から続く、街の中心部を貫く大通りに歩を進めた。人通りが多い。さすがに王都の大通りだ。30分ほど歩いて、私たちは目的の建物を見つけた。
「どうやらここのようね。」
二階建ての石造りで大きな黒いドアがあり、商工会の小さな看板が出ている。聞いていたとおりだ。
重いドアを押し開けて中に入ると、そこはホールのような大きな空間だった。中央部に受付のカウンターがあり、その横には二階に続く階段がある。階段の右側はいくつかの打ち合わせスペース。パーティションが設けらているテーブルもある。奥は厨房になってるようだ。きっと、飲食を交えながら商談をしたりするんだろう。3組ほど話し合いをしている人たちがいるが、お昼にはまだ1時間ほど間があるから、食事をしている人は誰もいない。食事、美味しいのかな?商談に使うんだったらきっと美味しいんだろうなと期待してしまう。
受付の左側は求人票を貼ってあるスペース。職業斡旋所の求人票が短期の仕事や特殊な仕事を対象としているのに対し、ここの求人票は長期あるいは半永久的な雇用を対象としているもののようだ。
私はそれらの求人票を興味深く見て回った後、受付のカウンターに向かった。
「あの…商工会に登録したいんですが。」
受付にいた金髪の綺麗な女の人に声をかける。
「新規商会の登録ですね?では、こちらの用紙にご記入ください。登録に審査はありません。ただし、何か問題を起こした場合は除名されたり金銭的ペナルティを求められる場合があります。」
登録申請の用紙を渡してくる彼女は、にっこり笑ってはいるけど不自然に口の端が吊り上っていて、作り笑いなのが見え見えだ。きっと私たちの身なりを見て、いったい何の商売するのよ?って思っているのだろう。
用紙を見ると、代表者、従業員数、住所、事業内容を記載するようになっている。
「あの…商会の店舗というのはまだ無いんですけど、住所はどうすればいいんでしょう? それと、事業内容はどの程度詳しく?」
「住所は、店舗がない場合は代表者のお住まいがある村レベルで記載いただければ大丈夫です。事業内容の記載レベルはお任せします。この登録申請書は他の会員さんもご覧になるので詳しく書けばPRになりますけど、詳しく知られたくない場合もありますからね。それと、記載内容は変更があった場合には随時更新していただくこととなります。」
「そう…じゃぁ、これで。」
私は少し考えて記載した申請書を受付の女性に渡した。彼女は怪訝な顔をして申請書を眺めている。事業内容に海運アドバイザー及び保険サービスと書いたのだけど、きっと意味がわからないのだろう。衛星システムによる海域地形の探査と気象予測がベースだから、私以外にこんなビジネスを手がける人なんているはずがない。
「ところで11時半から会頭さんにお目にかかることになってるんですけど、取り次ぎお願いできます?」
「あ、はい。しばらくお待ちください。」
いったい何のサービスなのかしらと呟きながら、彼女は私が書いた申請書を持って、二階に上がっていった。間も無く戻ってくると、ついてくるように私たちに言って、再び階段を上がって行く。
彼女が私たちを案内して着いたところは、二階の一番奥の部屋だった。重厚な扉を2回ノックした後、彼女は「面会の方がいらっしゃいました」と告げて扉を開けた。




