77.次の兄妹へ
未登場のきょうだい達の設定を先出しするぜ!
〝拝啓、最愛の娘シルヴィへ
この手紙を読んでいるという事は拗れていた兄弟の仲を修復し終え、素は臆病で心優しいのに何故か偉ぶっているギルちゃんを仲間に迎えた頃でしょうか?
大方この手紙の存在を忘れて行く宛てもなく出発しようとしたところを咎められたのでしょう……いけませんよ? 考えもなしに行動し、またそれに多くの人を巻き込むのは〟
「貸せシルヴィ、その手紙を破り捨ててやる」
「ギルちゃん耐えて」
手紙を読む前に自分の行動が母親に読まれている事はこれで三度目なので、シルヴィは背後の攻防を無視して続きを読み上げる。
〝さて、お説教を軽く済ませたところでアナタのきょうだい達の詳細について教えましょう。
私が把握している者たちに限りますが、ルゥールーとギルベルトを仲間にしているのであればどの順番で会っても大丈夫でしょう。健闘を祈ります〟
「健闘を祈られちゃった……」
優希が静かに突っ込んだ。
〝では前置きはこれくらいにして、アナタの母親が『絶対に仲間にするべき』と推す一人を紹介しましょう。
その人物とはジェラール・イラ・ウィリアムズ、私が把握している限りでは魔王の子の長男で母親はウィリアム王国の王女です。
普段は温厚で冷静沈着であり、真面目で即断即決、人当たりも良い好青年で、常に大局を見据えた大人の対応もできます。
幼い頃から文武両道で、その弓の腕は世界を見渡しても彼以上の存在は居ないだろうと確信させる程のものですので、戦力という面で考えるならば彼も絶対に外せません。
そんなジェラールですが次男のギルベルトとは犬猿の仲であり、会えば必ず喧嘩します。天気予報よりも確実に断言できます。
ですので仲を取り持てるルゥールーを仲間にする前に二人を引き合せるのは非常に危険で、対人経験の少ないアナタでは止める暇すらなく殺し合いに発展するでしょう。
身内には厳しくとも優しいジェラールですが、次男だけは別です。
注意事項としては彼はとても怒りっぽく、常に何かに激怒している印象がありますので接し方には充分に注意して下さい。
また、数年前から行方不明であり、ウィリアム王国も彼を死亡扱いしていますが私はまだ生きていると思っています。
何とかジェラールを探し出し、彼が表舞台から消える事となった理由を取り除いてあげて下さいね。
ちなみに彼のちぃと能力は仮想の物質、質量を生み出すものです。これでどうやっているのかは分かりませんが、ギルベルトの空間防御を突破します
なので彼とギルベルトが喧嘩するとノーガードの殴り合いになります。本当に気を付けてくたさい〟
「けっ! 要らねぇ要らねぇ、こんな奴は無視して進もうぜ!」
「ギルちゃん、仲間はずれは良くないよ!」
もうこの時点でギルベルトがこの兄を嫌っているのを確信したシルヴィは、ついでとばかりに優希に「どうやって突破するの?」と聞いてみた。
「ギルベルトさんの空間防御の事だよね? 多分だけど質量のせいじゃないかな?」
「というと?」
「大きすぎる質量は最終的に空間そのものを捻じ曲げたりするから、だから防御を突破できるんじゃないかなって」
「なるほど」
「でもそこまで大きな質量だと、惑星にも影響が出そうなものだけど……どうやってそれをクリアしているんだろう?」
シルヴィは優希でも分からない事があるんだという事と、お兄ちゃん達はみんな凄く強いという事を脳内メモに書き加えた。
「……まぁ、まだそこまで変な人ではないね?」
「かも?」
ちょっと怒りっぽいらしい事と、ギルベルトと下手したら殺し合うくらい仲が悪い程度だろうか?
〝お次はリーリエ・リーリウム、魔王の子の次女にして母親は独立商業都市の領主です。
彼女は非常にネガティブで内向的な性格をしており、また人付き合いが壊滅的に苦手で常に部屋から引き篭って出て来ません。
これは彼女のちぃと能力が原因の一つでもあるのですが、徹底的に一人を好む彼女とは会話は疎か会うことすら難しいでしょう。
無理に会おうとすれば最後――彼女のちぃと能力で洗脳、催眠されて自我を奪われてしまいます。
彼女もまた、ルゥールーを先に仲間にしていないと攻略が出来ないという訳ですね。
ルゥールーに間を取り持ってもらい、もしも会話をする事が出来たなら……どうか、アナタの心の底からの本音を伝えてあげて下さいね。
注意事項としては次男のギルベルトとはすこぶる相性が悪いので、二人を仲間にした際は気を抜かない様に〟
「さっきとは真逆の意味で癖がつよぉい……」
「ふむ」
シルヴィはよく理解できなかったが、とりあえず本音で話せば良いのなら簡単だなと軽く済ませた。
それと同時に「ギルベルトお兄ちゃんと相性の悪いきょうだいが多すぎやしないか」とも思った。
「んだよ、何見てんだコラ」
「無理そう」
自分には間を取り持つとか難しいだろうなと早々に諦めたシルヴィは続きを読む事に集中した。
〝三人目はハジメ、魔王の子の三女にして母親は元奴隷であった獣人です。
彼女を一言で表すならば“バカの総大将”です。本当に頭が悪いです。何故そういう結論に至るのか、常人では決して理解できない思考回路を持っています。
そして彼女は父親の世界に居たらしいニンジャという者に憧れを抱いており、常にニンジャであろうと努力しています。
ニンジャとはアナタの父親の祖国でいう諜報員や工作員の様なもの……らしいのですが、とにかく派手で目立つ集団らしいのです。何故かはよく分かりません。
そんなニンジャの特性と彼女の落ち着きのなさが掛け合わさればどうなるかと言いますと、何も考えずに率先して敵地に向かっては堂々と名乗りを上げて暴れ回る狂戦士と化します。この後話す三男と組めばもう我々の手には負えません。
ですので彼女の前で潜入や工作といった単語は厳禁です。もしも聞かれてしまった場合は彼女を囮とすると良いでしょう。
そんな彼女ですが、いつも正々堂々と名乗りを上げながら重要拠点で暴れ回るので現在世界中の国で指名手配を受けています。
探し出すのが一番困難だとは思いますが、彼女の多彩な能力は必ず旅の役に立つでしょう。
注意事項ですが、派手に目立ちたがる指名手配犯という事でしょうか……何とか言いくるめて街中では変装させて下さいね〟
「我のオヤツを盗み食いしたから皇国でも指名手配されてるぞ」
「えぇ……」
遂に我慢できなくなった優希が困惑の声を漏らす。
ニンジャだけでもツッコミどころ満載だったのに、オヤツを盗み食いした罪でも指名手配されてるとか意味分からないと。
〝四人目はエドワード・ルサールカ、魔王の子の三男にして母親は陸に上がったアトランティス海洋帝国の人魚姫です。
彼を一言で表すならば“獣”です。敵か味方かでしか周囲の人間を判別できません。
戦闘狂であり、格上もしくは一目置ける人物だと認めて貰わなくては絶対に言うことを聞いてくれません。仲間にするにはとにかく彼に“負け”を認めさせて下さい。
しかしながら格上だと認めたら認めたで常に下克上を狙って襲って来ます。先に既に格上だと認められている長男と次男を仲間にしてターゲットを分散させると良いでしょう。
笑い方も生き様も豪快で、戦闘となれば真っ先に敵陣のド真ん中に突っ込んで行きますので陣形など考えるだけ無駄です。
定期的にエラ呼吸をしないと死にます。気が付いたら服を脱いで全裸になっています。乾燥に弱いです。そのうち上半身くらい裸でも何とも思わなくなります。
母親が歌姫の異名を持っているせいなのか、意外とソプラノボイスでそれはもう素晴らしい賛美歌が歌えます。機会があれば頼んでみると良いでしょう。
注意事項ですが、彼はあまり考えるという事をしませんので指示は的確かつ分かりやすく行わねば大惨事となり得ますので気を付けて下さい〟
「おぉ、人魚」
「我コイツ嫌い」
「ギルちゃん」
「……本当に集団行動が出来るのかな?」
シルヴィは人魚という部分に注目していたが、優希は早くも協調性の欠片も無さそうな兄弟達に胃を痛め始めていた。
〝さて、私が把握しているアナタのきょうだい達はこれで全員ですが……アナタの父親はその場限りの一夜を過ごした相手や、現地妻と呼ばれる存在も多数存在していたのでまだまだ見知らぬきょうだい達が居るでしょう。
以前にも書きましたがもしも旅の途中でその子達と出会う事が出来たのなら、是非とも彼ら彼女らも旅の仲間に加えてあげて下さいね
どうかきょうだい仲良く、みんなで家族旅行に行くんだという軽い気持ちで楽しんで下さいね。
シルヴィ、アナタの幸福を私は何時までも祈っています〟
「終わり」
「全く、どれだけ子作りしてんだあの親父は……夜も大魔王ってか?」
「ギルちゃんお下品!」
「まぁまぁ、とりあえずはこの情報を元に何処から手を付けるのか考えましょう?」
優希自身も現地でこれだけ精力的に活動する日本人の存在にビックリである。
彼女の脳内ではシルヴィ達の父親は真夏のビーチで騒ぎまくるパーリーピーポーを、さらに酷くした感じの人物像になっていた。
聡明な彼女も偏見からは逃れられない。
「お兄ちゃんがスカウトしたのは?」
そんな中でシルヴィが提案したのは、ギルベルトが皇国に引き入れた他のきょうだい達についてだ。
「……アイツらは戦意喪失してるからダメだ」
「わかった」
実の父親と争いたくない者、魔王に勝てる訳がないと思ってる者、生まれた時から顔も知らない父親にそこまで思い入れがない者、今まで散々迫害されて来たのにどうして自分達が人類の為に身体を張らなきゃいけないのかと疑問を呈する者、純粋に争い事が苦手な者など。
その内情は様々だが、多くを語らないギルベルトにそれ以上は求めず、シルヴィは素直に引き下がった。
「私が把握してるのも含めると……隣国の侯爵家かリーリエちゃんがここから同じくらいの距離になるね」
「じゃあ侯爵家で決まりだな」
「……どうして?」
「これ以上女が増えてたまるかよ、侯爵家に一人居るらしいってだけで性別まではまだ分からないんなら侯爵家に賭ける」
「……あっ、そう」
ルゥールーは同性が一人も居ないのも辛いが、ジェラールとエドワードとはあんまり会いたくないというギルベルトの意を汲む事にした。
「シルヴィちゃん達もそれで良い?」
「私は構いませんよ」
「別に大丈夫」
「じゃあ決まりだね」
ギルベルトに「侯爵家の子が女の子でも文句言わないでよ〜」などと言いつつ、ルゥールーは皆を先導して歩き出す。
「隣国は皇国の西部にあるんだけど、その侯爵家の領地は南にあるから南門から出ると早いよ」
「姉貴は誰かにおんぶして貰った方が早いんじゃねぇか?」
「ギルちゃん!」
皇都を出発する道中で賑やかになった自分の周囲を見渡しシルヴィはポツリと優希の名前を呼ぶ。
「ユウキ」
「なぁに?」
「楽しいね」
「……ふふっ、そうだね」
これからどんどん賑やかになっていく良いねと、二人で笑い合う――横でギルベルトとルゥールーがお互いの頬を引っ張り合っていた。
これにて皇国政変編は終わりです!言うほど政変じゃなかったかも!
次章は『手を取って、手を引いて』になります!章題は変わるかも!書き溜めが出来るまでまた更新をお待ちください!
閑話とか幕間とかはちょこちょこ更新するかも知れません!
それではありがとうございました!ここまで読んでくれた方は、宜しければブックマークと評価をお願いいたします!




