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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
皇国政変編

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67.凄いよね

シルヴィちゃんは何をしているのか!


「魔王に与する罪人より聖女様をお救いするのだ!」


「ふざけんな! 今まで散々助けて貰っておいてこの野郎!」


 シルヴィ達が貴族街から市場へ、そして住宅街や工業区などに移動するにつれて皇都のそこかしこで暴動が起き始めていた。

 カルステッドの命を受けてシルヴィ達を探す騎士や、再度〝慰撫〟の影響下に置かれてしまった住民、そしてそれらに素で同調する者たちと、元々ギルベルトを支持していた者たちとの間で衝突が起きていたのだ。


「背信者め! 死ぬが良い!」


「ぎゃっ!?」


「聖女様! 聞こえておられますか! 貴女が安心して出て来られるまで、我々は出来る限りの邪悪を排除する事を誓います!」


 何よりも問題なのは、シルヴィを確保する為なら罪なき者達にも剣を向ける事だろう。

 それに彼らは大真面目にシルヴィの為を思っているのかも知れないが、その宣言は住民達を人質に取り、シルヴィが投降するまで虐殺を行うという意味にも受け取れてしまう。

 シルヴィにそれらの悲劇を無視する事など出来る筈もなく、隠れる事を止めて堂々と姿を現す事にしたのだ。

 目の前で斬り倒された住民を癒しの祝祷術で復活させ、そして自らの分身を生み出しては皇都中に分散させてギルベルトの支持者達を身分の分け隔てなく避難誘導ていく。


「シルヴィちゃん、大丈夫?」


「ちょっと痛いだけ」


 【似せて作れ(ファク・シミレ)】――それはごく一握りの高位聖職者にのみ行える、この世の理を逸脱する祝祷術。

 自らの魂を一時的に切り分け、本体と全く同じ能力を持った分身を作り出す御業。

 魂の大きさや術者の力量によって一度に生み出せる分身の数に違いは出るが、共通しているのは自らの魂を切り分ける都合上常に全身に耐え難い苦痛が襲ってくる事だった。

 特殊な出生により、常人より魂の痛みに慣れているシルヴィだからこそ、ちょっと痛いだけで済んでいる。


「聖女様! そこに居られましたか! さぁ、我らの手をお取りくださ――」


【――眠りの霧(ネブラ・ドルミーレ)


 そうして逃げ隠れる事をやめ、派手に動き回ったシルヴィには当然の事ながら大量の追っ手を差し向けられる事になった。

 一応皇都の至るところでシルヴィの分身が活動していたが、その内の一人にだけ優希が一緒に居るのだから本体の判別は容易である。

 何時しかシルヴィは本体の方を囮にして、分身達に避難を全面的に任せる様になった。

 他に守るべき存在が居なければ優希一人に集中できるのも利点と考えた。


「うーん」


「どうしたの?」


「怒られそう」


「……あぁ、結局目立っちゃったもんね」


 なるべく穏当に済ませ、こっそり連絡を取れればそれで良いと考えていたのに気が付けば皇都のそこかしこでのドンパチ騒ぎに、シルヴィは「これ、帰ったらお兄ちゃんに怒られないかな」と少し不安になっていた。


「大丈夫だよ、向こうから死傷者を出したんだから……むしろシルヴィちゃんは留守の間できるだけ住民を守ろうとした事を褒めて貰えるよ」


「そう?」


「そうだよ」


「わかった、ありがとう」


 優希の慰めもあり、憂いを無くしたシルヴィはそれから数日間も掛けて自分達で身を守る事の出来ない者たちを皇都周辺に聳え立つ大樹の根元へと集めた。

 貧民や迷子の子ども達などが多かったが、中にはあまり多くの手勢を連れて来ていなかった地方領主まで、その難民キャンプとでも言うべき場所に避難して来ていた。

 そうして皇都中を走り回った分身がもう自分の助けがないとダメな人間は居ないと、確認が取れた事でシルヴィはようやく【似せて作れ(ファク・シミレ)】を解除した。


【――秩序の円(オルド・キルクルス)


 魂の痛覚という無視できない雑念もなく、シルヴィは守るべき避難民が集まっている一本の大樹をぐるりと囲むように巨大な結界を貼る。

 そして同時に大樹に触れ、大樹を通して皇都中に解放と鎮静化の祈りを拡散させた。

 ルゥールーがこの場に居ないため少し不安は残るが、それでも魔力の影響だけでも薄めようという試み。


「お、おぉ……」


「正しく聖女……」


 それら一連の行動を表情一つ変えず苦もなく行った事で、住民達の間にどよめきが広がる。

 シルヴィに祈りを捧げる者まで現れた事もあり、これまでのやり取りから優希は「もしかしなくてもシルヴィちゃんって、色々と爆弾を抱え込みまくってる?」と遠い目をした。

 これは全て落ち着いたらルゥールーさん達に色々と常識から何からなにまで、全て聞き出して認識を共有しておかなければならないと決意した。


「お姉ちゃん、聞こえる?」


 今は下手に誤魔化してもフォローになりそうにないと、成り行きを見守る事にした優希はシルヴィの声に我に返る。

 そのあまりにも危機感の無さそうな声色から、相手に緊急事態である事が伝わらないのではないかと思ったが――案の定、返ってきた返事も『聞こえるよ〜』という間の抜けた物だった。


「お城が落ちちゃった」


『ごめん、なんて?』


 そりゃそうなるだろうと優希は思った。

 大した用事ではなさそうな声色で、そんな重大な報告をサラッと行う方がどうかしている。


『おいコラ、城が落ちたってのはどういうこった?』


「多分落ちた」


『……ユウキは居るか?』


「……私が説明しますね」


 早々にシルヴィから聞き出す事を諦めたギルベルトに同情しながら、優希はこれまでの経緯を説明していく。

 ギルベルト達が皇都から出立した直後に城内で戦闘が起きて第三皇子と天使が事を起こしたこと、天使の張った結界から出て連絡を取る為に皇都からの脱出を謀ったこと、その後城からシルヴィを求めた騎士達が出て来た事実から城内はもう第三皇子に制圧されたと推測できること、皇都中で暴動が起きてギルベルトの支持者で自分の身を守れない者たちとシルヴィの結界内で籠城していること、それらを簡潔かつ丁寧に伝えた。


『全くもって相手の意図が読めん! 天使は何がしたい? 反魔王派の重鎮を失脚させ、表に引きずり出してからボコるつもりだったが……そうするまでもなく勝手に暴走して自ら表に出て来て、ケルン侯を始めとした味方である筈の大貴族の離反も招いてやがるが』


 その疑問には優希も共感するところだった。

 シルヴィ達が現れるまでは逃げ隠れ、陰からコソコソとギルベルトを陥れる為に暗躍していた相手とは思えない行動力だからだ。

 しかし、それもシルヴィから言わせれば理解出来るらしい。


「堕天して日が浅い存在は聖気と魔力が混在し、使命感と自我の解放の狭間で揺れ動く。聖女を救う使命感と、魔王を許せない私情が同時に膨れ上がっているせい――と思う。聖女云々は想像で、本当はどんな使命を帯びていたのかは聞いてみないと分からない」


『お前、喋れたのか……』


『えっ、今の誰? シルヴィちゃん?』


 非常に珍しく長文で、分かりやすく声を発したシルヴィにギルベルトとルゥールーが本気で驚き、動揺した声を漏らす。

 お兄ちゃんとお姉ちゃんに困惑され、シルヴィは少し傷付いた。


『相手に合理性がないのは分かったが、こういう場合どうすれば良いのかお前の親は何か言ってなかったか?』


「正面から叩き潰す」


『分かりやすくて良いじゃねぇか』


 シルヴィの母親であるダイナ・ハートは常々言っていたのだ――『堕天しちゃうような困ったさんは一回叩いて目を覚まさせてあげましょう。大丈夫です、貴女ならそれが出来ます』と。

 それを伝えられたギルベルトは、今まで散々舐めた真似をしてくれやがった天使を大義名分を得てぶん殴れる事に上機嫌になる。

 本当は天使には敬意を払ってたんだけどなー、堕天してるなら仕方ないわー、かっー、つれーわー、でも堕天してるなら仕方ねぇわー、仕方ないから思いっクソぶん殴ってやると。


『そういえばジェシカはどうした?』


「分からない」


「すいません、まだ合流できていないんです」


『……そうか、どっかに潜伏してる可能性もあるな』


 薄々生存の可能性は低いと察してはいても、それを馬鹿正直に少女達に伝える必要もないだろうとギルベルトは誤魔化した。


『お前達は(オレ)が帰還するまで耐えろ、すぐ戻る』


「分かった」


『あぁそうだ、アルトゥールの奴が分裂してるんだが何か知らないか?』


「多分祝祷術、偽物だから殺しても死なない」


『じゃあ遠慮なくぶっ壊して大丈夫か』


「本体は悶絶する」


『知るか、じゃあな』


『ごめんね、もう少し待っててね』


 どうやら向こうでは既に戦端が開かれているらしく、必要な情報を共有し終わったと見るや否や即座に連絡が絶たれた。


「どのくらいで戻って来るんだろう? 転移とか出来ないのかな?」


「転移?」


「……ううん、何でもない」


 ギルベルトのちぃと能力が『空間をどうにかするもの』というフワッとした理解だったため、何となく瞬間移動とかで戻って来れないかなと思ったが故に漏れた呟き。

 本人がしないのなら出来ないだろうと、優希はシルヴィに大した事じゃないと首を振って伝える。


「それよりも数日間も平野でどうしようね」


「結界ならある」


「シルヴィちゃんの負担が大きいし、食糧だって全員が持って来れた訳じゃないよ」


「……出そうか?」


「流石に数千人分も用意するのは大変じゃないかな……それこそシルヴィちゃんの負担が大き過ぎるよ」


 私も聖餐の祈りが使えたらと、優希は自分の無力さに歯噛みする。


「少し宜しいかな?」


「あ、はい! なんでしょうか?」


 と、そんな二人へと声を掛けて来たのは地方領主を務める初老の貴族男性だった。


「盗み聞きしていた様で申し訳ないのですが、どうやら食糧などの問題に悩まれているご様子」


「……そう、ですね……流石にギルベルトさん――殿下が戻って来るまではもたないんじゃないかと」


「それでしたら私共で何とかしましょう」


 その思いもよらぬ言葉に優希がきょとんと間抜けな顔を晒してしまう。


「ここから南と東にそれぞれ徒歩で一日の距離に私の親戚の領地がありましてな、既に事情を知らせる飛脚を遣わしたので数日の間くらいでしたら幾分かは難民を受け入れてくれるでしょう」


 その提案を聞いて即座に優希は頭の中で計算を開始した。

 食べる口の数そのものを減らすという案はとても効果的に思えたし、長期間に及ばなければ受け入れる相手もそこまで拒否感は示さないかも知れないと。


「……なるほど、それに加えて夜陰に紛れて少人数ずつ、付近の村々へ避難させたり、食糧をコッソリ買い付ける事でも負担を減らす事も出来そうですね。それでも全員の腹を満たす事は叶わないかも知れませんが、ギルベルト殿下がお戻りになる数日くらいならば我慢できなくはない程度に事態が緩和されそうです」


「貧民達はコッソリ帰すのも手ですな」


「騎士達にそこまで重要視されていなければ、顔も覚えられていないからですか?」


「左様。シルヴィ様の居場所はもう既にここであると割れているならば、無関係を装って皇都に戻る事も出来るでしょう」


「流石に多くの人間が戻れば気付かれますし、適当に人質に取られると面倒ですけど一考する価値はありますね」


 どんどん二人で話を進めていく様子を眺め、シルヴィは少し寂しい気持ちで「頭の良い人は凄いな」と考えていた。


「頭の良い人は凄いな」


「う?」


 正に今自分が考えている言葉が横から発せられて、シルヴィは驚き振り替える。


「おっと、すいません。自分はシルヴィ様のお連れの方と話し込んでいるシェイエルン辺境伯の護衛をしておりまして」


「なるほど」


 隣りに立つ彼も頭の良い人の会話に付いて行けなくなった仲間だと気付き、シルヴィはそっと背中をポンと叩いて励ました。


「? あの?」


「凄いよね」


「はぁ、そうですね」


 シルヴィの意図はあまり伝わってはいなかった。

優希ちゃんは頭脳労働でめちゃくちゃ貢献してるから……あと通訳()

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― 新着の感想 ―
シルヴィちゃん、まともに喋れないと思われてたのね……
う~ん、色んなラノベを読んだせいで、素直に信じられなくなった自分がいる。 このおっさんは信じていいのだろうか?
うーん……さも当然のように緊急時の対応をお偉いさんと話し合ってる自称一般人の優希ちゃんェ……。
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