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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
皇国政変編

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63.議決

死人が出ますわよ〜


「ギルベルト様は出立なされました」


「城外へ通じる門や通路は全て封鎖しました」


「異変に気付いた貴族や騎士が会議場に集まり始めた様です」


 次々と齎される報告をカルステッドは何処かぼんやりとした面持ちで、静かに聞いていた。

 何故自分は全身鎧に身を包み、本来ならば手に取る資格もない皇王の剣を携えているのか、どうして部下がクーデターの真似事をしているのか、自分とその周囲に何が起きているのか上手く認識が出来なかった。

 ただ一つ分かるのは、頭の中に声が響いてくる事――


【玉座を簒奪しろ――】

【魔王の血を、異界の血を消し去れ――】

【聖女をお救いするのだ――】

【そうすればお前の願いは叶う――】


 この言葉に従わなければならない。この言葉の言う通りに動かなければならないという強迫観念のみが今のカルステッドの行動理由だった。


「堕天使様、準備が整いました」


(自分を堕天使様と呼ぶこの男は誰だったか……確か名前はアルトゥール、だった気がする)


「わかった。行こう」


 自分の意思に反して、カルステッドの口は返事を行い、そして億劫な気持ちとは裏腹に滑らかな動きで立ち上がる。

 いつもの彼とは違い、全然鎧を装備しているというのに軽やかな足取りで城内を歩き、体幹もブレずきちんと周囲へ警戒を怠らない姿にいつもの様子を知る部下達も驚きに目を見張る。

 頼もしい出で立ちで自分達の前を歩く皇子の姿に、いったい何があったのかとお互いに顔を見合わせて困惑しながらも、しかし同時にこれなら魔王の血に支配されかけていた国を取り戻す事が出来るかも知れないと期待と喜びをその顔に滲ませた。


「――揃っているな?」


 御前会議にも使われる、城内で一番広く格式の高い会議場の扉を大きな音を立てて開き、そのまま我が物顔で踏み込んでいく。

 会議場には既に主要な貴族や騎士が揃っており、突然武装した者たちを引き連れて入室して来たカルステッドを驚きの目で迎える。


「カルステッド様!?」


「殿下なにを!?」


 近場に居た無防備な大臣を一人拘束し、護衛を伴っていた他の者たちは数でもって囲んで動きを封じる。

 明らかに敵対的なその行動により、会議場にざわめきが広がっていく。


「カルステッド様! ギルベルト様が不在の状況でいったい何を為されているのです!」


「ジェシカか」


 思えばコイツもよく僕の邪魔をしていたと、冷めた目で一瞥したカルステッドはそのまま彼女の横を通り過ぎ、本来ならば皇王が座るべき椅子へと当然のように腰を下ろした。


「なっ!? そこは――」


「これより私の即位に関して議決を取る――賛成の者は居るか」


「ケルン侯の名代として殿下の即位に賛同致します」


 誰かが上げる抗議の声に被せるように宣言すれば、即座にアルトゥールが賛同の意を示す。


「アルトゥール殿! 皇国の筆頭騎士ともあろう貴方が何を!」


「私も賛同致しますぞ!」


「賛同する」


「カルステッド様以外に皇王は務まらない」


 ジェシカが非難の声を上げるも、それらはカルステッドに付き従って来た貴族や騎士達の賛同の声に押し流される。

 自らを囲む見知った顔ぶれ――元同僚の反逆者達を見渡してジェシカは歯噛みするしかない。

 敬愛する主人に留守を任されておきながら、そう間を置かずにこのような蛮行を許すなど自らの不甲斐なさに自刃したくなると。


「第一、まだ陛下はご健在です! あまりにも度が過ぎている!」


「お祖父様はお隠れになられた」


「なっ!? まさかっ、いったい陛下に何をしたのですかッ!!」


「すぐにでも次の皇王を決め、先王を殺害した魔王の子を国外へと追放し、聖女を救わねばならん……お前はどうなんだ? 私が玉座に就く事に賛同するのか、しないのか」


 そう問われたのは最初に拘束された大臣である。

 彼が何か発言するよりも早く、彼を拘束していた騎士の一人がその首元へと刃を突き付けた。


「……殿下の即位に、賛同致します」


「宜しい。他の者にも尋ねよう」


「こんな事が認められると思いなのですか!」


「アルトゥール、黙らせろ」


「はっ!」


 アルトゥールに斬り掛かられそちらの対応で手一杯になった女から視線を移し、カルステッドは未だ旗色を明らかにしない者たちを睥睨する。

 視界の端でどんどん追い詰められていくジェシカはそう時も置かず討たれるだろう……そこまで考えて、カルステッドの心が軋む音がした。


「や、めっ……、……」


 何かを言いかけては言葉にからない空気が口から漏れていく。逸らした筈の視線が彼女を捉えて離さない。

 防戦一方で既に身体中に生傷を作ったジェシカを、今にも斬り殺されそうな幼い頃から見知った顔の窮地に胸が張り裂けそうな感覚を覚える。


「ぐっ、ぁあ……!!」


 胸を横一文字に切られ大理石の壁を血飛沫が彩り、剣を握る指が何本か床に溢れ落ちた。

 指を何本も失って握りが弱くなった上に血で滑るのか、それとも痛みからか、ジェシカの剣筋が目に見えて衰える。

 頬、二の腕、横腹、太もも、片目、ものの数十秒でもはや斬られていない部分など無いのではないかという惨状となった彼女の姿を見れば、もはや何もせずとも失血で死ぬだろうと簡単に予想がついた。


「ぎる、ベルト様の……居ない城での狼藉ッ!! 断じて許す事はできないッ!!」


 それでも彼女は、ジェシカは戦意を失わない。

 本来ならば文官畑の人間だというのに、皇国最強の騎士を相手に数十秒も持ったのはひとえに彼女の忠誠心と、主の為にと日頃から欠かさず行っている努力の賜物だった。

 しかし世の中には絶対に越えられない壁というのもが存在する。


「うっ――??」


 両手首を斬り飛ばされ、返す刃で喉を裂かれる。

 最期に発した声は、普段の彼女とは似ても似つかない可愛らしい音が反射で漏れたもの。


「……っ、……!!」


 壁に凭れ、手首から先を失った腕で必死に喉を抑えながらそのままズルズルと力が抜けてその場に座り込む。

 死への恐怖、想像を絶する苦痛、最後まで敬愛する主の傍で忠勤に励む事の出来ない悔しさから、普段の彼女なら絶対に見せない涙を流した。


「せめて、苦しみを長引かせないであげる」


 必死に死から逃れようと、大量の血を失って動きの鈍った身体をモゾモゾと動かしていたジェシカの心臓を、アルトゥールの細剣が貫く。


「……、」


 何か言葉を発そうと唇が震え、けれど微かな隙間風しか漏れない。

 自らの胸を貫く聖銀の刃に最後の涙を零し、ジェシカは動きを止めた。


「魔王に与する者は討たれた、心置きなく賛同すると良い」


 そう威圧を込めて言葉を発したカルステッドもまた、知らず知らずのうちに涙を流していた。

抑える手もないのに、何とか喉から吹き出る血を留めようとモゾモゾしちゃうジェシカちゃん好き。可愛い。

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― 新着の感想 ―
もう終わりだよこの国
魔王の血を引く者はシルヴィちゃん含めて沢山いそうなんだが、その辺りは考えられないんだろうなあ。 この洗脳はモブには問答無用で効くとかいう訳ではないをだよね? まさか、時間をかけたら全員が目から羽毛状態…
うーん好き勝手やってるなぁ……そしてお兄ちゃんの逆鱗に触れるどころじゃすまなそうな所業。 そしてお兄ちゃんには、良くも悪くも敵も味方も関係なく好きに動いてやりたい放題しちゃうシルヴィちゃんという妹がい…
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