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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
皇国政変編

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58.トラブルメーカー

果たして誰の事なのか()


「箝口令は機能しているか?」


「既にかなり広まっているものと思われます」


 部下から返ってきた答えにギルベルトは分かりやすく不機嫌になる。

 数日前に自分の義兄が不意に漏らしてしまったシルヴィの出自――匂わせ程度ではあったが、そこから事実を推測する事は簡単であり、噂や邪推するのが大好きな人間というものは必ず一定数存在するため、既に事実無根のモノまで含めてかなり憶測を呼んでいると思われた。

 皇位を争う第三皇子という立場で齎された意味深な発言に、ただの噂話だと一笑に付して誤魔化す事も出来ないだろう。


「それから――大司教様がシルヴィ様への面会を求めています」


「チッ、動きの早いこったな」


 にしても動きが早すぎるとギルベルトは教会の対応を訝しむ。

 最優の聖女と謳われ、行方不明となったダイナ・ハートを今現在も血眼になって捜索しているとはいえ、こんな不確かな情報をもとに皇太子である自分が庇護する素性不明の少女に大司教という地位の高い聖職者が面会を求めるなど普通ならば有り得ない。

 教会はもっと慎重で、情報網はあっても腰が重い事で有名であること、聖職者は世俗の権力にあまり関わりたがらないこと、将来有望な祝祷術の使い手を引き入れるにしても彼らなりの順序がある筈であることなど、ギルベルトに違和感を抱かせる理由は幾らでもあった。

 ギルベルトは知らない――教会勢力が異端審問官のジンを通して、先代聖女ダイナ・ハートに娘が居る事を既に把握している事など。


「まっ、遅かれ早かれバレる事ではあったがな……バレるタイミングと状況が悪過ぎた」


「そうなのですか?」


「本人に隠すつもりが無いからな」


 シルヴィは常々「自分のきょうだい達を集めて魔王を倒しに行く」と言いながら、ギルベルトやルゥールーという魔王の子の中でも有名な二人を兄や姉と呼んで憚らない。

 皇城の中ではシルヴィもギルベルトが連れて来た新しい魔王の子の一人だろうとは思われていたが、それが先代聖女の娘でもあるとなれば話が変わってくる。

 バレるにしろ、バラすにしろ、本来ならばもっと水面下で根回しがしたかったのがギルベルトの偽らざる本音だった。


「まさか本当に神に誓うとは思わなかったから急いで根回しを始めたんだが……バカ兄貴のせいで全部パァだ」


「……心中お察し致します」


 最低でも病床の父、皇王への説明は必須だし、シルヴィが魔王と聖女の娘だと判明しても動揺が世間に拡がらない様に対策を打ちたかった。

 必ず干渉してくるであろう教会勢力に対しても、魔王をどうにかするまでは手出し無用という交渉をしたかった。

 本来ならばもう少しゆっくりシルヴィの情報を小出しにして相手や周囲の反応を窺いながら、教会勢力や他国などに「魔王の子が魔王を倒すというのであれば、それまでは干渉しない」という言質を取ってから「え? シルヴィも魔王の子なので干渉しませんよね?」と後出しですっとぼけるつもりだったのだ。

 しかし先にシルヴィの正体が知られてしまってはそれも出来ない。ついでに魔王討伐の旅路を邪魔されない様にするつもりだったが、諸勢力から「干渉しない」の言質を取る事が難しくった以上、これから先で赴くであろう他国でも問題が起きるのはほぼ確実である。


「では、シルヴィ様を自由に出歩かせるのはもう止めさせるべきでは? 最早相手派閥の失態を釣り出す餌としては機能しないでしょうし、要らぬ騒動を呼ぶのでは?」


 皇太子執務室に居た別の部下の提案に対して、ギルベルトが答えようとしたその時――執務室の扉が勢いよく開かれる。

 ノックも無しに皇太子執務室に押し入るなど、何処の無礼者だと顔を顰めたギルベルトの視線の先には慌てた様子のルゥールーが居た。


「ギルちゃん大変だよ!」


「確かにエルフの姫君の無作法は大変な問題だな」


 この部屋に押し入ったのが身内で良かったという安堵と、外国の姫君で主人の血の繋がりがある人物である為強くも出れない部下達の微妙な表情を横目にギルベルトは溜め息を吐いた。

 この姉は子ども扱いすると怒るくせに、こうやって慌てると視野が狭くなって子どもっぽい言動になる時があると。


「そうじゃなくて! 出たんだよ!」


「……何がだよ?」


「天使だよ! シルヴィちゃんと接触したの!」


「――マジか」


 一拍遅れて言葉の意味を理解したギルベルトが目を見開いて驚く。


「それで? どうなったんだ?」


 今までコソコソ動き回っていた存在が急に表に出て来たのだから何か意味がある筈だと、そしてあの何を考えているのか分からない妹と接触して普通に終わる訳がないと小さな姉を急かす。


「分かんないけど、なんか凄い多くの人に囲まれて連れて行かれそう!」


「……なんもわかんねぇ!」


「いいから早く早く!」


「だぁもう! お前ら行くぞ!」


「はっ!」


 今更ながらにギルベルトは気付いてしまった――自分の新しい妹がトラブルメーカーである事に。

妹や他のきょうだい達、今後の旅の為に色々と頭を悩ませるギルベルトお兄ちゃんも割と苦労人かも知れない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 色々と面倒な事になりそうだ。 でもシルヴィは飄々としてそうな感じもする。 その分、優希ちんとお兄ちゃんお姉ちゃんの心労が酷い事になってそう。 胃薬は必須だね。
[一言] 聖女の子とかいう一部の人からすると存在そのものがトラブルな訳で 留めておくだけでこれですもんね
[良い点] 今更ながらにギルベルトは気付いてしまった――自分の新しい妹がトラブルメーカーである事に。 ……えっ!?短い間に散々あったここまでのやらかしを知ってるはずなのにようやくトラブル(本人は基本…
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