53.今日の私が、昨日の私を理解する事は難しい
DQM3の配合が楽し過ぎてまだ初級なのに『けんごうSP』や『攻撃力アップ4』を持ったキラーマジンガとか、『グランドブレスSP』や『闇の爆炎SP』を持った竜王とか作ってた。マジで時間が溶ける。
「誰が喧嘩売って来いって言ったンだァ????」
「あばばばばばばば――」
お兄ちゃんに呼び出された〜、などと呑気に向かった部屋でシルヴィに待ち受けていたのは無慈悲のアイアンクローであった。
荒事に慣れた反社会的な人間であろうと咄嗟に目を逸らすであろう眼光の鋭さでもって、例えチンピラだろうと「うおっ、近っ」と言ってしまうこと請け合いの距離でメンチを切るギルベルトは皇太子の顔をしていないかった。
もちろんシルヴィの想像していた『優しいお兄ちゃん』の顔なんて存在しない。
「お前が喧嘩売った相手はアバルキン宮中伯って言ってなァ? ただ飯喰らいの能無しで、先王の頃に数々の目に余る失態から要職を追放され、反魔王派の中でも使いっ走りや宮中の噂を持ち帰るしか役割を持たない宮中伯とは名ばかりの雑魚なんだよォ……我の言ってる意味が分かるかァ? んん??」
ミシメシと音を立てて頭部に食い込んでいく太い指の圧力に、シルヴィから情けない声が発せられているのもお構いなしにギルベルトは怒りの滲み出る声で問いを発する。
「……も、もっと大物を狙え……?」
自らの問いに答え易いように兄が幾許か力を緩めたのに合わせてシルヴィから弱々しく発せられた回答に、ギルベルトは「分かってるじゃねぇか」と彼女の頭から手を離す。
一緒に呼び出されていた優希は「えっ、そこなの?」と思わず呟いてしまうが、ギルベルトから人も殺せそうな視線を向けられ「ぴゃっ」と音を立てて口を手で塞いだ。
「そうだ、どうせ喧嘩を売るならもっと大物を狙って再起不能にしろやボケカスコラ」
「なんてこと言うのギルちゃん!」
「うるせぇうるせぇ! アバルキン如きにお前の手札を開示させられてどうすんだって話をしてんだよ!」
「それは! ……それ、は……えっと…………シルヴィちゃんが悪いかも」
「お姉ちゃん?」
シルヴィから向けられる「嘘だよね? お姉ちゃんは私の味方だよね?」という懇願混じりの視線から目を逸らし、ルゥールーは一理どころか百理ある弟の正論に敗走し、優希と同じく口を手で塞いで押し黙る。
確かにルゥールーは魔王の子達のお姉ちゃんであり、ある程度は彼らを御する事が出来るが、それは彼女が姉としてきちんと正しい事を言うからだ。
勝手に他人に喧嘩を売った――正しくは勝った? のはシルヴィであるし、自国の安定が掛かっているとなれば多少は口が悪くなっても仕方ないと思えてしまう状況である。
それに今ここで口の悪さを注意しても聞き入れられないだろうし、話の本題からも逸れていくとルゥールーは理解していた。
「てかお前、どんなルールにされようが勝つ自信はあったんだよな? ん?」
そこんところどうなんだと、ちゃんと後先考えてやったんだよな? とギルベルトが詰め寄るもシルヴィから齎された回答は――
「分からない」
「その場の勢いとノリでやった」
「今日の私が、昨日の私を理解する事は難しい」
――というもの(by.優希翻訳)である。
「「……」」
思わずギルベルトとルゥールーが絶句するのも無理はなく、三人の中で一番付き合いが長い筈の優希に至っては「本物のお兄ちゃんに出会えたせいか、ここ最近のシルヴィちゃんはテンションが高いね」と半ば諦め――彼女のありのままの姿を受け入れる体勢に入っていた。
今ここに、もし仮に、ギルベルトやルゥールーの生みの母親が居たならば「あぁ、聖女の娘だ……」と虚無に支配された瞳で呟いていた事だろう。
「……で、なんで喧嘩を売る――買ったんだよ」
もうこいつに何を言っても無駄だと悟ったのか、疲れたように息を吐き出したギルベルトはソファに深く座り込み、事情聴取に徹する事にしたらしい。
そんな彼の質問に対し、シルヴィは今度こそ真面目に本心を答えた。
「……お兄ちゃんを、馬鹿にされて……悔しかったから?」
「……そうかよ」
そんな事を言われてしまえばこれ以上責める事が出来ないと、ギルベルトは分かりやすく顔を顰めて不機嫌そうに口をへの字に曲げる。
そんな彼をルゥールーがニヤニヤとした笑みで見詰め、その広いおでこにデコピンを食らって後ろにひっくり返っていた。
「なら絶対に勝て、何がなんでも勝利しろ。家族の名誉を賭けたのなら敗北は許されん」
「わかった」
短い即答に本当に分かってるのかと胡乱気な目でシルヴィを見詰めるが、彼女の顔は至って真剣で真面目そのものである為ギルベルトは早々に真意を見極めるのを諦めた。
先程それと似たような表情で「今日の私が、昨日の私を理解する事は難しい」などと大真面目に語っていた女である。
まだ付き合いの浅い自分では、この様子のおかしい妹を理解する事など出来ないと開き直ったのだ。
「まぁ、いい……勝つ気があるのならそれで構わん」
投げやり気味にそう言ったギルベルトは続けて、相手が確実に祝祷術の使用を禁じて来るだろう予想を話し、それについてどう対処するつもりなのかと尋ねる。
「いくら反魔王派の中でも木っ端とはいえ、恐らくお前の祝祷術が異常なのはアバルキンも知ってるだろう」
「武器の使用も禁じられる?」
「さぁな……禁じられてもおかしくはないが、ルールとして要求する事を認められているからといって、流石に丸腰の女子供を相手にするのはむしろ不名誉になると相手が考えればその限りじゃねぇ」
「なるほど」
シルヴィは仮に武器も祝祷術も禁止される最悪を想定し、その上で自らの手元に残った手札を再確認する。
「うん、大丈夫」
「……ホントかよ」
「アバルキンが真人間になるだけ」
「待て、何をするつもりだ」
不安が残る妹の様子に、最悪なにかしら裏から手を回すかと考え始めていたギルベルトの思考が、シルヴィが何でも事のように発した言葉に中断される。
「大丈夫、心から反省してくれるはず」
「おい、マジで何をするつもりだ? 言え、言うんだ」
「? だから、真人間する」
「あのね、シルヴィちゃん? それだけだとお姉ちゃん達は分からないかなぁ」
見るに見兼ねたルゥールーが優しい声色で、少しばかり困った表情で助け舟を出すも、むしろシルヴィはさらに困惑を深め、どうすれば良いのか分からないといった顔を作る。
「えっ、と……こう……ドンってして、パァとなる……?」
「……あの、そんなに見られても、こればかりは翻訳できませんよ?」
流石の優希であっても、祝祷術やちぃと能力などの、自分では全てを理解できている訳でもない内容が関わってくる事は翻訳が出来ない。
そのためギルベルトとルゥールーから向けられる視線に耐えかね、彼女は情けなく身を縮こまらせながらボソボソと、しかしハッキリと「無理だ」と主張する。
「……まぁ、アバルキンなら最悪どうなってもいいか」
ギルベルトはここ数日のやり取りで学んだのだ――この様子のおかしい妹と関わる上で肝心なのは諦めの心だと。
「良くないよ!? ちゃんと考えて?! 私達の新しい妹が外道に落ちるか否かの分岐路なんだからね!?」
そんな彼に対してもっと真面目に考えろと、可愛い妹の将来が掛かっているのだから投げやりにならないでと必死に訴えるルゥールーであったが、ギルベルトは胡散臭い満面の笑みでもってこう答える――
「――可愛い妹の言う事を信じようぜ!」
「こんな時だけ都合のいいっ!!」
さらにヒートアップしていくルゥールーのお説教に段々と面倒くさくなったのか、うんざりした表情のギルベルトが解散を命じる事でその場はお開きとなり――結局、最後までシルヴィの言う「真人間になる」がどういう意味を持つのか判明する事はなかった。
まだ付き合いの短い兄から「様子のおかしい妹」という不名誉な評価をされてしまうシルヴィちゃん、主人公だけあって流石の貫禄である()
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