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5.魔王の娘

うおおおおぉ!!!!早速レビューを頂きました!!

レシア様ありがとうございますッ!!


前回のあらすじ

シルヴィ「お兄ちゃんを出せ」


【――光を(ルーメン)


 牢屋を出たシルヴィが唱えたその呪文により、辺り一面が真昼の様に明るくなる。

 篝火以外には月と星々しか光源の無かった村に突如として現れた強烈な光に元村人達は驚き、眩しさに目を抑えながら悲鳴を上げる。

 そんな彼らの驚愕を無視して、シルヴィは着けられた首輪や手枷を外しながら態と目立つ様に光源をさらに作っていく。

 周囲では多くの人間が騒いでいるが、そんな事はシルヴィにとって興味の外だった。暫定お兄ちゃんを呼びに行ったらしい人を広場で待つのみである。


「何をしているッ!!」


 そうして村の中空に五つほどの光球を浮かべた頃――明らかに鍛え上げられた肉体に、良質な装備に身を包んだ男が現れた。


「ゲルレイズのお頭!」


 村人達のその呼び掛けで、シルヴィは彼こそが魔王の子を名乗り、この村をたった一人で占拠しては領軍すら追い返した男だと気付く。

 シルヴィが意識を向け、流し目の様に視線を向けた事で相手もコチラを認識したらしい。


「……ほう、これはこれは……都でも見掛けた事のないレベルだ」


 男はシルヴィを一目見て、その際立った容姿に思わず感嘆の吐息を漏らす。

 夜風に晒されて靡く黒銀の長髪に、自らの奥底を覗き見られているかの様な切れ長の黄金に彩られた瞳の力強さ。

 日焼けもしておらず、シミ一つない白い柔肌は遠目から見ても滑らかで、淡いピンクに色付く頬と小さな唇が彼女が生きた人間だという事を知らせる。

 まだ成人もしていないのだろう……幼さを残す発展途上の肉体は、だからこそ不安定なバランスで艶やかさを放っていた。


「お前、いったい何処の――」


「お兄ちゃんこんばんは」


「……あ?」


 万人を魅了する、魅了し過ぎるシルヴィの容姿に呑まれない様にと強気に言葉を発しようしたゲルレイズへとシルヴィは空気を読まず声を掛ける。

 まさか未成年の少女が自分に物怖じせずに話し掛けて来るとは思わなかった事と、急にお兄ちゃん呼ばわりされてしまった事でゲルレイズの思考が一瞬フリーズする。


「頭、妹とか居たんすか?」


「馬鹿お前、頭は魔王の子だぞ? 魔王って言えや好色で子沢山って話で有名だ」


「ははぁ、なるほどなぁ……」


 そんな、場違いとも言えるシルヴィの気の抜けた挨拶のせいか村人達も呑気な会話を交わしてしまう。

 それを見て魔王の子を名乗る盗賊の頭であるゲルレイズは思う――これはよくない、と。

 たった一言、それだけで場の空気を変えてしまったシルヴィに男の警戒心は否が応でも高まっていく。


「おめェ何者だ? 何がしたい?」


 警戒された様にそんな事を問われてしまい、シルヴィは思わず首を傾げてしまう。


「……みんなを集めて、魔王討伐?」


「……わかった、お前頭がおかしいんだな」


「……違うけど」


 暫定お兄ちゃんに頭がおかしいとか言われてシルヴィはちょっと傷付いた。


「まぁ、いい……舐めた言動をした報いは受けさせてやる」


 こんな夜中に周囲を眩しくして騒ぎを起こしたこと、意味が分からない事を言って場を混乱させて来た事……それら全てが許し難い暴挙だと言うかの様にゲルレイズは腰の剣を引き抜いた。

 どのみち夜空を照らすこの派手な明るさのせいで魔王軍もこの村の存在に気付いている公算が高く、多少目立ってでも即座に目の前の少女を制圧して逃げる必要があるからだ。


「……怒ってる?」


「うるせぇ!! ぶち犯してから売り捌いてやるッ!!」


 ズンッ、と腹の底に響く様な重低音と威圧感を溢れさせ、踏み込みの一足で地面を放射状に砕きながらゲルレイズは砲弾の如く飛び出した。

 全身に淡い桃色のオーラを纏った彼の剣撃がこれまで幾度となく領兵を斬り捨ててきた事を知っている村人達は、哀れな少女の辿る運命を思い目を瞑る。


【――秩序の円(オルド・キルクルス)


「――ッ?!」


 数瞬後には少女がバラバラになっているか、ゲルレイズが手加減をするつもりでも手足の一、二本は切り飛ばされているだろう……そんな村人達の予想に反し、吹き飛ばされたのは攻撃した側だった。

 まるで城壁に剣を打ち付けたかの様な感触に驚きの声を上げる暇もなく、ゲルレイズは自らが飛び出した時以上の速度で反対側の家屋へと突き飛ばされる。

 急な展開に呆然とする村人は、一拍遅れて頬を撫でる風にハッとして辺りに舞う砂塵の向こう側を凝視した。


「……くそっ……お前、それ結界術か」


「……」


 頭から血を流しながらも、まるで何事も無かったかの様に瓦礫を押し退けて起き上がったゲルレイズは嫌に落ち着いた口調でシルヴィへと問い掛ける。


 ――秩序の円(オルド・キルクルス)


 それは結界術に於いて最上級に位置する超高難度の御業だった。

 術者を中心として正円の境界を敷き、その内側へのありとあらゆる暴力を拒絶する至上の守護結界。

 この結界が示す秩序に害を為さんとする者は先ほどのゲルレイズの様に拒絶され、為さんとした暴力が自らへと返っていく。


「……へっ、昔だったか、新兵の頃に行方不明の聖女が使っていたのを見た事があるぜ」


 そう言ってゲルレイズはボロボロになった服と鎧を無造作に脱ぎ捨て、刃の砕けた剣柄を放り投げる。

 左胸に焼き付けられた逃亡兵の烙印を晒しながら、背中に背負っていたもう一本の――シルヴィが思わず顔を顰める程の禍々しい気配を放つ長剣を引き抜きながら彼女へと視線を這わせる。


「よく見りゃそっくりだ」


 一人で勝手に納得したらしいゲルレイズは怒り心頭に発するとでもいった様子で、絞り出す様にシルヴィへと怨嗟の言葉を投げ掛ける。


「――お前、アイツらの娘か」

魔王の子で聖女の娘です


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― 新着の感想 ―
[気になる点] アイツの、じゃなくアイツら、なの? この文脈で魔王を含める意味は無いよなあ?
[良い点] テンポよく読めて、とても読みやすく面白いです [一言] 早く続きが読みたいです。 いつも、応援してます。 頑張って下さい。
[一言] 戦闘方面は聖堂剣術がメインなのかと思ってたらカウンターな結界があるとはなあ それはそうと桃色なオーラをまとう暫定お兄ちゃんちょっとかわいい
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