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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
皇国政変編

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43.再会

街を脱出します


「準備はよろしいですか?」


 そう声を掛けるのはシルヴィ達が初めて教会を訪れた際に、あの金髪の皇子――カルステッドと揉めていた修道女である。

 彼女はいつもの修道服ではなく旅装に身を包み、髪も後ろでひとつに纏めていた。身分を示す物は教会に所属する者にだけ与えられる聖印のみ。

 そんな以前会った時とは違う様子の彼女に対し、シルヴィ達は荷馬車の奥に隠れながら軽く頷いた。


「教会に対して強引な手段に出るとは思いませんが、情勢が情勢ですので物音などは極力立てぬ様にお願いいたします」


 その言葉から数分程して、シルヴィ達が乗り込んだ馬車がゆっくりと動き出す。

 息を潜めて黙っているせいなのか、馬車の外の様子が漏れ聞こえてくる。しかしそのどれもが暗い話題ばかりであり、シルヴィと優希の二人が初めて来た時よりも住民の不安は大きそうだった。

 大樹海への侵攻も決して軽いものではなかったが、それでもやはり敵が他国や魔王軍であり、戦場は国外であった時と比べ、同じ国の仲間が敵になるかも知れず、戦場も自分達の家がある場所ともなればやはり話は別なのだろう。

 一体全体この国に何が起きているのか、昨夜ファイス司祭から手渡された手紙には『さっさと合流しろ』という一文と共に、それぞれ日付けの違う夜会の招待状が何枚か入っていたのみである。


『お疲れ様です』


 と、三人で固まって黙っていると馬車が止まり、すぐ近くから修道女と男性の声が聞こえて来た。

 どうやら門兵に呼び止められてしまったらしく、馬車内に緊迫した空気が走る。シルヴィは場の雰囲気に耐え切れず変顔を繰り出した。


「ぶっ……!」


「ちょっ……!」


 不意打ち気味に繰り出された突然の奇行に、優希とルゥールーの二人は思わず吹き出してしまった。何故なら変顔の完成度が異様に高かったからだ。

 きちんと自らの変顔を認識して貰えるように、シルヴィは女性が絶対にやってはいけないクオリティのものをお出しした。

 シルヴィの常人離れした美貌が見るも無惨になるその変顔――コツは眉毛から下のパーツを中心へとギュッと集める事である。

 寄り目になり、突き出した舌先を鼻の頭をに当てつつ、しかし額に皺が浮き出るほど眉毛を持ち上げて目を見開く……アホの猿顔の完成である。


(ばかっ! このおばか!)


(シルヴィちゃんのアホ!)


 緊迫した空気の中このクオリティの変顔が突然視界に現れたのだから、優希とルゥールーの二人が思わず吹き出してしまうのも無理はないというもので、彼女らは必死に笑いを堪えながらシルヴィへと小声で怒りをぶちまける。

 ぺちぺちと自分の肩を叩く姉に、涙目になりながら怒る友人の、その満点とも言える反応にシルヴィは満足気にむふっー! と鼻息を吐き出す。


『おや、何の音ですか?』


『……音ですか? 私には何も聞こえませんでしたが』


「「「!」」」


 と、再び場に走る緊張感――優希とルゥールーの二人は音を立てない様に、急に何をしでかすか分からない少女がまた変顔をしない様に、そっとその顔を両側から挟み込む。

 姉と友人から手のひらで顔を挟み込まれ、思わず「ぷぇっ」という間抜けな音が口から漏れたシルヴィだったが、その程度の妨害で諦める彼女ではなかった。

 刮目せよ、我が必殺の――とシルヴィがテンションを上げている事を察したのか、優希に口を塞がれ、ルゥールーに両目を隠されてしまう。


「「――」」


 視界を塞がれた事で、シルヴィはひしひしと伝わってくる無言の圧力を感じた。

 これ以上、変な事はしないでくれという二人の切実な思いを。

 やれやれ仕方ない、今回はこのくらいで勘弁てやるか――そんな感情を乗せてシルヴィは小さく息を吐く……二人のこめかみに青筋が浮かんだ。


『馬車の荷物を検めても?』


『我々は免除されている筈ですが?』


『このご時世ですから、いつも通りとはいかないでしょう』


 どうやら馬車の様子を怪しんだらしい門兵に押し切られそうになっているらしく、漏れ聞こえてくる修道女の声に焦りが見える。

 そうこうしている内に言い争う声とは反対側から、複数の鎧を着用した者たちの足音が聞こえ始め……どうやら多少強引にでも中を調べようとしていると察した優希とルゥールーの顔が青ざめる。

 そんな二人の様子を見てシルヴィは『仕方ないなぁ』といった顔で結界を張る。


『ん? あれ?』


『どうした?』


『馬車に触れられないんだよ』


 秩序の円(オルド・キルクルス)――至高の結界が弾くのは何も単純な暴力だけではない。

 結界としての単純な防御能力として壁として使えるのはもちろんのこと、術者の敷いた秩序に反する行為全般に対する拒絶である。

 他人の秘密を暴く行為、他人の所有物への不当な介入……門兵達の行動はシルヴィの敷く秩序に抵触し、馬車に触れる事すら叶わない。

 出来る事ならば相手が強行的な手段に出る前に、秩序の円(オルド・キルクルス)の防御が攻撃的になる前に諦めて欲しいところだとシルヴィは考える。

 でなければ、なんの為にこうして騒ぎにならない様にコソコソと街を出ようとしているのか分からなくなるからだ。


『お前たち何をしている?』


『ジェシカ様!?』


『こ、これは……』


 と、そうしてシルヴィが稼いだ数秒によって事態は好転する。

 シルヴィと優希にとって聞き覚えのある女性の声が、二人の面接を行い、一緒に大樹海の深部まで馬で駆けたジェシカの声が聞こえて来た。


『まだこの街に居らしたのですね』


『何か問題でもあるのか?』


『い、いえ! 滅相もありません!』


 薄々分かっていた事だが、どうやらジェシカと名乗る女性騎士は地位が高いらしいとここに来て優希は確信を得る。


『それで? 何をしていた?』


『えっと、怪しい人物が乗り込んでいないか検査をと……』


『それはおかしな話だ。相手は教会勢力であり、そして皇太子殿下も『いつも通り過ごす様に』と命じていた筈だがな』


『し、しかし第三皇子殿下のご命令で……』


『お前は皇太子殿下よりも、第三皇子殿下を優先するのか?』


『い、いえ! いえ! その様な事はございません!』


『では馬車を通せ』


『はっ!』


 話が終わるや否や、複数の足音が慌てたように遠ざかっていくのが分かる。

 どうやら暫定シルヴィのお兄ちゃんはきちんと保険まで用意……いや、待機させてくれていたらしい。


『失礼したな』


『いえ助かりました。……一緒に乗って行かれますか?』


『そうさせて貰おう』


 優希とルゥールーが驚く暇もなく、馬車の帳をバサッと押し退けて一人の女性が乗り込んで来る。


「久しぶり」


「……あぁ、変わりない様で何よりだ」


 以前と同じく、このような緊張する状況でも構わずマイペースな様子のシルヴィから挨拶を受け、ジェシカも何処か苦笑気味に応えた。

 そんなやり取りをしつつシルヴィ達が奥に詰め、空けたスペースにジェシカが座り込んだところで馬車も動き出す。


「大丈夫なの?」


「……何がだ?」


「えっと、このまま一緒に移動しても大丈夫なのかって聞いてるんだと思います……ほら、まだ仕事とか残っていないのかなって」


 シルヴィの言葉足らずの質問を優希が翻訳する事で、やっとジェシカも自分が何を聞かれているのか把握したらしい。


「元々私は皇太子殿下直属の騎士だ。いかに皇族の方と言えども皇太子殿下の許しなく命令する事は出来ない。カルステッド様は私を上手く引き抜けたと勘違いしている様だが、私の所属は変わっていないのでな……つまるところもう用はないのでカルステッド様から受けた仕事を放り出しても問題はない。善意で手伝っていただけだからな」


「なんで?」


「ん?」


「……なんで皇太子殿下の直属なのに、第三皇子を手伝っていたんですか?」


「あぁ、皇太子殿下から遠征に出ている間の見張りを頼まれてな……カルステッド様が私に命令できない様に、私もカルステッド様の行動を縛る事は出来ない。だが上手いように勘違いさせて皇太子殿下が居ない間に何をしていたかの情報を得る事ができる」


「もうやめるの?」


「うん?」


「……勘違いさせたまま、情勢が落ち着くまでスパイをしていた方が良いんじゃないかって聞いています」


「あぁ、単純な事だよ――真の主が戻ったのだから、そちらに馳せ参じるべきだろう?」


 シルヴィの言葉足らずを最大限に補足する優希の背中を、ルゥールーが優しい手つきで撫でていた。


「なるほど」


「皇太子殿下に、ギルベルト様に延長を命じられれば従うが、元々はかの方が遠征から戻るまでの間だけだという内容だったからな……私は早く仕えるべき主の元に戻りたいのだよ」


「その途中で?」


「うん?」


「……その途中で延長ではなく、私達の手助けを命じられたんですか?」


「あぁ、そういう事になる。……君たちの面接をする少し前から色々と動いていたよ」


「なるほど」

ジェシカさん「よし、与えられた役目は終わったな!? ならばこんな所にもう用はない!」


カルステッド「……あれ? ジェシカは?」


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― 新着の感想 ―
[一言] そしてオロオロする第三皇子。
[一言] ジェシカさん、すごくクールに振る舞ってるけどご主人の元に帰りたいワンちゃんみたいだな
[一言] シルヴィちゃん子供か! 優希ちゃん教育頑張って……!
感想一覧
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