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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
皇国政変編

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42/80

40.急に叫ぶ

急に叫ぶよ〜!


「そうだねぇ……やっぱり場所も近いし、戦力的にもギルちゃんかな」


 あらゆる死刑から逃れる方法を考える事に飽きたシルヴィからの質問に、ほんの少しだけ考え込んでからルゥールーは答えた。


「でも立場があるから、そう簡単にはいかないだろうね」


 だが同時に自分の時と同じく、そう簡単にはいかないだろうと懸念も口にする。


「でもねぇ、やっぱりそろそろ男手は必要だと思うんだよ」


「まぁ、確かに欲しいですね」


「どうして?」


 ルゥールーの呟きに共感する優希とは違って、シルヴィは特に理由が分からず首を傾げる。


「見た目的にね、女子供しか居ないと舐められるし、悪い輩を引き寄せちゃうんだよ」


「そうなの?」


「……確実に面倒事は減ると思うよ、シルヴィちゃん」


 これまでのシルヴィとの二人旅を思い出しながら、優希は死んだ魚の目で答えた。

 一応シルヴィも剣と祝祷術の達人であるし、夜中などは結界を張ってから寝るので大した問題は起きてはいなかった。

 だが夜中に忍び寄り、シルヴィの張った結界に阻まれて悪態を吐く男達が居たのは確かである。さっさと寝てしまうシルヴィは気付かなかったが、シルヴィの隣が安全であると確信が持て、状況に慣れるまで優希はあまり眠れない夜を過ごしていた。

 そんな優希だからこそ、一人でも男性が増える事には賛成だったのだ。


「シルヴィちゃんにとってもお兄ちゃんだし、安心できると……いや、どうだろう?」


 ダイナからのメモ書きに「自分の兄妹だろうと部下や側室にしたがる」という一文があった事を思い出した優希は途中で言い淀む。

 そして大樹海入りする前に出会った、あの金髪の皇子の事も気がかりだった。優希はシルヴィと違って、もうあれが目当ての皇太子本人だとは思ってはいないが、それでも似たような性格なのだろうと。

 大樹海の中まで案内してくれた黒髪の青年――自らを「世界最強の男」と名乗る人物も得体が知れず、コチラが本物のギルベルトという人物だったとしても不安しかない。


「むむむ……」


 そんな優希の悩みが手に取るように分かるのか、ルゥールーは何とも言えない顔で苦笑するしかなかった。

 彼女は自分の弟が問題のある人物だという自覚があったが故に下手な擁護が出来ない


「……優希も、お兄ちゃんが居るの?」


 と、そんな風に悩み出した優希へとシルヴィが問い掛ける。

 それは特に意味がある訳でも、今後に関わる訳でもない質問だった。ただ単に話の流れから何となく気になった事を尋ねただけという程度のものでしかない。


「お兄ちゃん? もちろん居るよ」


「へぇ、どんな人だったの?」


「気になる」


 戦力的にも必要だし、熟慮の末にギルちゃんの仲間入りを反対されても不味いと考えたルゥールーも話に乗っかった事で、優希は自分の兄について思い出しながら語り出す。


「えっと、私なんかよりもずっと優秀な人だったかな」


「ユウキよりも優れた人物が? ……いや、有り得ない」


 シルヴィは優希の事を超人だと思っている。特に頭脳に関しては自分が逆立ちしながら天に登っても勝てないと思っているため、そんな彼女よりも優れた人物が居ると聞いて反射的に「ないな」と頭を振る。


「気持ちは嬉しいけど、私よりも優秀な人なんていっぱい居るよ」


「まさか」


 優希はシルヴィからの信頼が重すぎる事に少し困りながらも、懐かしい家族の思い出を振り返っていく。


「本当だよ。扱いに差を付けられた事はないけど、お父さんもお兄ちゃんの方に期待していたんじゃないかな」


 優希が「お父さんのような弁護士に成りたい」と言った時、彼女の父親はとても喜んでみせた。

 けれど子どもながらに優希は薄々と気付いていたのだ。父親が本当に期待しているのは誰なのかを。


「何処に行っても誰とでも仲良くなれるし、勉強しながら交友関係の維持や趣味にのめり込める要領の良さもあった……お兄ちゃんが東京の大学に進学したのを機に一人暮らしを始めちゃって、それ以来会ってないけど私にとっても自慢の家族だよ」


 瞼の裏にその家族を思い浮かべているのか、郷愁を漂わせながら語り終えた優希にシルヴィは優しく微笑みながら言う。


「早く帰れると良いね」


「シルヴィちゃん……うん、そうだね」


 シルヴィが時折見せる聖女の微笑みに、内心ドギマギしながら優希は笑い返す。


「でもそうなると……やっぱりユウキちゃんにもちぃと能力があるのかな?」


「えっと、どうなんでしょう?」


 と、ルゥールーが新たに齎した疑問にシルヴィと優希は顔を見合わせる。

 ここまでの旅路でそれらしい兆候は何も無かったが、しかし把握している異世界からやって来た人物は今のところ全員がちぃと能力を持っていた。

 恐らく同じ世界からやって来た優希にもあるんじゃないかと期待するのは当然の流れだろう。


「そういうのって、どうやって調べるんですかか?」


「え? うーん……お父さんは空中に向かって何か叫んでたみたいだけど」


「叫ぶの?」


 シルヴィは「え? そんなんで良いの?」と思ったが、ちぃと能力が扱えていないのは自分も同じなので、そういう事ならとお腹に力を込める。


「――ブルーベリージャムッ!!」


「うわっ!?」


「ビックリした!」


 話の最中に突然近くで意味不明な叫びを上げたシルヴィに驚き、優希とルゥールーが揃って飛び上がる。


「急にどうしたの?」


「いきなり叫ばれるとビックリしちゃうよ」


「ごめん」


 ルゥールーに注意され、優希に困った顔をされてはシルヴィも謝るしかない。


「ちぃと能力が発動するか確かめたくて」


「ただ叫ぶだけで良いなら、これまでの人生で何回か発動してると思うよ」


「……」


 真面目な顔をした優希に真正面から正論をぶつけられ、何も言い返せずシルヴィは押し黙る。


「ちなみにシルヴィちゃん達のお父さんは何を叫んでたんですか?」


「えっーと、確かねぇ……めにゅっ! とか、すてぇいてすおーぷん! とか言ってたらしいけど」


「? ……、…………あっ! メニューとステータスオープンとか?」


「多分それだね」


「だとしたら、ちぃと能力はチート能力? でもチートってズルいとか、不正って意味だし違うか……」


 あれやこれや悩む優希の姿を見詰めながら、シルヴィは「さすがユウキだ」としたり顔で頷き、そしてまたもや腹に力を込める。


「――メニューッ!! ステータスオープンッ!!」


「うわっ!?」


「ビックリした!」


 突然近くで大きな声を出され、まさか二度は無いだろうと油断していた優希とルゥールーが揃って飛び上がる。


「シルヴィちゃん……お姉ちゃんは一言欲しかったかな」


「舌の根も乾かぬうちに同じ過ちを繰り返すなら謝罪の意味はないよ」


 優しく諭してくれるルゥールーお姉ちゃんと違って、静かにキレた優希は割とぶっ刺してくる事をシルヴィは知った。

 思わずルゥールーも聞き間違いかと二度見する程であり、その笑っていない目の奥に潜む闇を垣間見たシルヴィが恐怖に手が震え出す。


「ご、ごめんなさい……」


「次から気を付けてね?」


「はい……」


「えっ、あれ、ユウキちゃんって怒らせると怖いんだ……」


 本当に反省しているらしいシルヴィの様子を見て取って、優希は溜め息を吐きつつ「仕方ないなぁ」と眉尻を下げつついつもの調子に戻る。


「とりあえず私も試してみるね――メニュー! ステータスオープン!」


 何となく中空に手をかざしながら叫んでみるが、特に何も起きずにそのまま数秒程が経過する。


「……何も起きないですね」


「まぁ、お父さんと同じ能力を持っているとは限らないから……」


「元気出して」


 もしかしたら自分も戦いに参加できるのでは、足でまといにならずに済むのではないかと淡い期待を抱いていただけに優希は少しばかり落ち込んでいた。

 ルゥールーの言う通り同じ能力を持っているとは限らないのは考えてみれば当たり前の話であったと、そう反省する彼女の背をシルヴィが優しく撫でる。


「まぁ、二人のちぃと能力については追々って事で」


「そうですね」


「わかった」


 何かしらの切っ掛けで目覚める、または自覚するという事もあるだろうと、少なくとも今すぐ覚醒しなければならないという事情もないので二人のちぃと能力については後回しにする事にした。


「シルヴィちゃんとユウキちゃんのお陰で大樹海はほぼ安全になったし、ギルちゃんを拾った後も気にせず旅を続けられるからね。時間は沢山あるよ」


「そうだと良いですけど」


「大丈夫だって。何なら守りが固すぎてもしもの時は人類の最後の砦になり得るよ」


 優希が世界樹の協力を取り付け、シルヴィの結界術とルゥールーの能力によって拡張と強化をなされた森の護りは再度【逆さの悪魔】が襲来してきたとしてもやり過ごす事ができる程になっていた。

 仮に何かしらの異常があればシルヴィとルゥールーが気付ける様になっているし、そこから大樹海まで彼女達が帰還するまで持ち堪えられる程度の予備もある。

 魔王が完全に覚醒し、現在の人類圏が荒廃したとしても生き残りの人類を収容して立て篭る事も出来るだろう。


「だから心配しなくて良いし、焦らなくても良いよ」


 見る者の不安を取り除き、安心させる太陽のような笑みを浮かべながら、ルゥールーはシルヴィと優希の頭を優しく撫でた。

 見た目は幼いながらも、彼女はきちんと自立した大人のお姉さんなのだ。


「は、恥ずかしいですね……」


「遠慮しなくて良いんだよ?」


 久しくされていない子ども扱いに優希が照れている横で、シルヴィは自分の頭から感じる姉の手のひらの温もりに「お、おぉ……」などと感動を滲ませた声を出す。

 その手の感触は記憶のものよりも遥かに小さかったが、それでも確かに幼い頃に経験した母からのそれとよく似ていた。


「も、もういいですから……」


「そう?」


「もっと」


「……じゃあ、シルヴィちゃんをもっと愛でようかな! うりゃりゃりゃりゃ〜!」


「おぉ〜」


 優希が照れて遠慮するのとは反対に、もっと撫でろと頭を突き出すシルヴィに母性が刺激されたのか、ルゥールーは両手を使って彼女を撫でまくる。

 傍から見れば座って寛ぐ少女に対して、背伸びをした幼女がちょっかいを掛けているような構図ではあったが、中身の年齢は逆である。


「まっ、とりあえずはギルちゃんに会ってからだねぇ〜……皇国がどうして大樹海に攻めて来たのか、その詳しい説明も欲しいし」


「確かにそうですね」


 なぜ皇国が急に大樹海へと侵攻し、そして休戦に至ったのか……森の中からではまるで情報が足りずに分からない事だらけだった。


「あと他には……魔王の子ってバレない様に気を付けるくらいかな」


「あまり良くないみたいですからね」


 シルヴィは自分が名乗った時はそれほど変な対応はされなかったと首を傾げるが、それは堂々と自らを「魔王の子である」と名乗る人物など頭のおかしい可哀想な子としか思われなかったからに他ならない。

 それが嘘でも本当でも、一般人にとってはあまり関わり合いになりたくないという点では一緒である。


「明日からは妖精の抜け道を使うけど、それでも移動中に情勢が変わる事も有り得るから警戒しないとね」


 妖精の抜け道とはエルフのみが――正確にはルゥールーが許可した人物のみが利用できる不思議な道であり、通常よりも短い距離と時間で大樹海の中を移動できる。


「さて、じゃあ今日はもうこれくらいにして寝ようか」


「……そうですね、寝ましょうか」


「わかった」


 優希としてはもっと詳細に、先々の事まで話し合いたかったが、どうやら身体自体は幼いというのは本当のようでルゥールーは既に眠たそうだった。

 むしろ早く慣れるように、親睦を深めるために無理して夜更かしをした方なのだろう。シルヴィも優希も何も言わずに横になった。

ブルーベリージャムッ!!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ブルーベリージャムだけじゃ駄目だよ。 召喚!ブルーベリージャム!!
[一言] 優希ちゃんのたまにブッ刺してくるとこすごい好き
[一言] タイトルの急に叫ぶでブルーベリージャムなのは予想出来たけど優希ちゃんにこれまでの人生で何度か叫んだことがあると認識されてるのも、それが事実なのも流石としか(笑)
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