39.今後の予定
ルゥールーお姉ちゃんが仲間に加わりました。
「改めて! 私がシルヴィちゃんのお姉さんのルゥールーだよ! これからよろしくね!」
エルフ達が大樹海の各地に作ったセーフティハウスの中で、そう名乗りを上げるのは誰が見ても幼いハーフエルフの少女である。
彼女は腰に手を当て、胸をこれでもかと反らしながらドヤ顔で対面に座るシルヴィと優希へと微笑みかけた。
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
それに対してシルヴィはブルーベリージャムを塗ったバゲットを頬張りながら軽く、優希はおずおずといった様子で返事をする。
「うむうむ、じゃあ早速だけど簡単に今後の予定の確認をしようか……シルヴィちゃんも良いよね?」
「……わかった」
「大丈夫です」
優希は静かに感動していた。何故ならあのシルヴィからブルーベリージャムを自然な動作で取り上げ、そのまま話し合いへと参加させたからだ。
これほど頼りになり、話の分かる常識人が加入してくれた事に感謝すらしていた。エルフの國ではブルーベリージャムが出る度に、それを食べ終わるまではどれだけ話し掛けても上の空だったというのに。
曲者揃いらしい、魔王の子達を纏められるお姉ちゃんは伊達ではなかったのだ。
「まずシルヴィちゃん達は私達の兄弟について何処まで知ってる?」
「……手紙に書かれてる事くらい?」
「手紙って、ダイナさんの?」
「そう」
シルヴィ達が会話している間に荷物からダイナの手紙を取り出した優希は、それをそのままルゥールーへと手渡す。
「ふむふむ、なるほど……やっぱりダイナさんも多くを把握している訳じゃないんだね」
「あっ、やっぱり他にも居るんですか?」
優希の疑問はシルヴィも抱いていたのだろう、自分の姉を窺うように見詰める。
「そうだねぇ、私も全員を知ってる訳じゃないけど……少なくともこの手紙に書かれてる子達以外にも何人か居るよ」
「へぇ、どんなの?」
「どんなの、って……」
シルヴィのあけすけな聞き方に苦笑しながらも、ルゥールーは自分が知っている限りの兄弟達について話し始める。
「まずはハルカお兄ちゃんだね、お父さんが向こうの世界で付き合ってた彼女さんとの子どもだよ。ハルカお兄ちゃんが本当の意味で魔王の子の長子になるかな」
「え?」
「ん?」
いきなり投下された爆弾にシルヴィと優希が揃って間抜けな声を出す。
お父さんが向こうの世界で付き合ってた彼女との子どもという事は、それはつまり純粋な日本人であるという事でもあるし、シルヴィの父や優希以外にもこの世界に渡って来た人物が居るという事でもある。
「どういうこと?」
「えっとね、お父さんとは少し遅れてこの世界に来たらしいんだけど、最後までお父さんと再会する事なくお腹に宿していたお兄ちゃんを産んで亡くなっちゃったみたいなんだよね」
「それは……いや、でも、だから世界樹には記録が残ってなかった?」
世界樹の記録を漁った中に優希と魔王以外の日本人の情報は無かったが、件の人物がもう既に亡くなっているのであれば容量が逼迫していた世界樹から抹消されるという事もあるのかも知れない。
必ずしも世界樹には異世界人の情報が保管されている訳ではなく、今現在も存命で繋がりがある人物だけという可能性に優希は思い当たる。
もちろん深層まで探せば残っているのかも知れないが、流石にそこまで手を伸ばす時間も余裕もなかった。
「その人もちぃと能力を?」
「持ってたみたいだね」
シルヴィの疑問に対するルゥールーの返答を聞き、優希はある考えに辿り着く。
「もしかして、お父さんとお母さんの分を引き継ぎながらも自分独自の能力を持っている可能性も?」
血筋的には有り得ない事ではなかった。両親のいずれかがちぃと能力を持っていれば、その一部が子ども達に受け継がれる事は実証済みである。
つまり両親のどちらもが能力者であるならば、他の子ども達と違って受け継げる確率と量は単純に二倍となる計算だ。
そして今のところちぃと能力の始祖とも呼べる人物は異世界からやって来た者しか居らず、異世界人同士で作られた子どもが自らも独自の能力を発現させる可能性だってあるだろう。
「……事実としてハルカお兄ちゃんは複数の能力を持ってるよ、それが何処まで受け継いだ物なのかは分からないけど」
「わお」
「な、なるほど……」
つまり、そのハルカお兄ちゃんというのは数多くのちぃと能力を持っていた魔王の生き写しとも言える存在だということ。
少なくとも複数の能力を持っているという事は、シルヴィやルゥールーを追い詰めた【逆さの悪魔】と似たような事ができるのだろう。
ちぃと能力とは、それ一つだけでも人の手に余る代物ではあるが、それは他の能力と掛け合わせた時にその理不尽さを何倍にも跳ね上げさせる。
「今はどこに?」
「父親違いの妹と一緒に療養中かな?」
「父親違いの妹? 療養中?」
もう二人の頭がこんがらがりそうだったが、聞くところによると、身重のまま当てもなく彷徨う異世界の女性を保護した人物が居たという。
裕福な医者だった彼は女性が産んだ子どもを我が子のように可愛がり、そして渋っていた女性を口説き落として結婚し、その後に娘が産まれた。しかし産後の肥立ちが悪く、娘を産んで直ぐに母親は亡くなったらしい。
そして肝心のハルカという兄だが、生まれつき病弱で父親に医学を教わった妹が付きっきりで看病しているという。
「それ、は……仲間にするのは無理そうですね」
「まぁ、病人だしね。顔を合わせるくらいは良いと思うけど」
と言いつつもルゥールーはシルヴィへと視線を向ける。
首を傾げつつも、その意味を悟ったらしいシルヴィは手のひらをポンと叩いてから頷いた。
「祝祷術で治せないか、試してみる」
「うん、よろしくね。もしも治せたら凄く頼りになると思うから」
とは言いつつも、シルヴィも病に関してはあまり自信が無かった。
簡単な風邪くらいなら幾らでも治せるし、治せずともいくらかの苦痛を和らげる事は出来る。
しかし病というのは【病魔の悪魔】の管轄である。もしも自分の兄を蝕んでいる病が、悪魔の加護を得ていたら祝祷術での治療は難しいだろうと言わざるを得ない。
ただ兄の傍には医者も居るらしいし、自分の祝祷術と合わせれば以前よりはマシにはなるだろうとシルヴィは考えた。
「他には?」
「皇国と仲の悪い帝国の姫に一人、皇国の隣国である王国の侯爵家に一人、流浪の冒険者として活躍してるのが一人、死刑囚に一人、行方不明が数人……ってとこかな」
「なるほど」
「死刑囚って、大丈夫なんですか? 優先した方が……」
ルゥールーも全員を把握している訳ではないと言っていたが、彼女が知っている兄弟達もかなり多そうである。
そんな中でもハルカと同じくらい、現状が気になってしまう者が居た。
「あぁ、死刑判決は出てるけど全然殺せなくて困ってるくらいだから暫くは大丈夫だよ」
「あっ、そうなんですね……」
どんなに手法を凝らした死刑方法でも死なず、何度も試しても殺せないため、今ではその人物の死刑執行は定期的に開催される娯楽の様なものになり、今回こそは死刑執行ができるのかという賭け事まで行われているとルゥールーは語る。
それを聞いて優希は遠い目をし、シルヴィは「私も全力を出せば似たような事が出来るかな」などと呑気な事を考えていた。
「それで? 次は誰を仲間にするの?」
ちなみにルゥールーも把握していない兄弟は居ますが、大半が物語開始時点で既に脱落しています。
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