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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
大樹海編

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39/80

幕間.魔王の涙

大樹海編はここで終わりでござる。


「陛下の容態はどうですか――」


 全ての生命を拒絶する魔王瘴気に満たされた、荘厳でいておどろおどろしい城内の一室に聞く者を不快にさせる声が響き渡る。

 室内に居た者たちの視線を一身に受けた声の主は、そのふざけた道化師の格好のまま真面目くさった表情で大仰な仕草で礼を取る。


【扇動と狡智か、逆さはどうした】


「封印されました」


【なに?】


 事もなげに報告されたその内容に、問いを発した者から疑問と憤りの感情が漏れ出る。

 それは想定していた中で、最も最悪なケースを引いたと聞かされたが故だった。


【奴の権能で封印される事など有り得ない】


【いったい何がどうなった】


 矢継ぎ早に繰り出される質問に道化師の悪魔はやれやれと大袈裟な仕草で肩を竦めて見せ、小馬鹿にするような表情で軽く息を吐き出し周囲の者たちを煽る。

 この場に居る者達にとってはいつもの光景ではあるが、それはそれとして腹立たしい事この上ないのは変わらない。それもまた道化師の権能であるからだ。


「先ずは私の質問に答えて貰いたいんですがねぇ?」


【……陛下はまた引きこもられた】


「あぁ、またですか」


 道化師がチラりと視線を部屋の最奥――自分達よりも数段高い場所に座す黒髪の青年へと向ける。

 一見して頬杖を着き、眼下の配下達を睥睨しているような体勢ではあるが、その目は虚ろで焦点も合っていない。


【それで? 逆さは?】


「逆さは世界樹から陛下の情報を送られフリーズしたところを陛下の子どもに抑え込まれ、聖女の娘に封印されましたよ」


【世界樹、か……コチラの想定とは違い、エルフ達は未だにあれを操れたか】


「さて、それはどうでしょう」


 今まで魔王軍がエルフの國への侵攻に本腰を入れなかったのはルゥールーの能力を警戒してという事もあるが、もしも魔王の情報を保持している世界樹がエルフ達に掌握されていたらという懸念があったからだ。

 世界樹が魔王の情報を処理し切れずその姿を変えてエルフ達の手を離れたという推測が立った事と、陛下による魔血魂の作成がされた事により今回の侵攻に至った。

 それが蓋を開けてみればどうだ、当初の懸念通り……いや、魔血魂を下賜されておきながらの敗北という結果のみが残る事となる。


【お前が助力すれば良かったのではないか?】


「はて、私の仕事は監視のみの筈ですが……」


【戯言を】


「まぁまぁ、代わりと言ってはアレですが手土産を持って来ましたので」


 クスクスと他者を不快にさせる笑みを浮かべながら道化師の悪魔は、それまで自らが背負っていた少女の遺体を中央の台に乗せる。

 見た目はただの村娘でしかなく、容姿も服装も生まれ育った村も全て特に変わった部分はない。

 ただ一つだけ――ちぃと能力と呼ばれる異能を持って生まれた事以外は。


【それは?】


「陛下の落胤ですよ。生まれ育った村では扱いに困っていた様子でしたからねぇ……私が貰い受けると言ったら喜んで協力してくれましたよ」


 道化師の悪魔は自分がわざわざ扇動するまでもなく、村人達は自主的に抵抗する少女の母親を拘束して人質に取り、少女を無力化してくれたと嬉しそうな表情を浮かべて話す。

 村人達に殴られながらも娘に逃げる様に泣き叫ぶ母親と、そんな母親を見捨てられず、かといって悪魔である自分の言いなりにはなるまいと自らの喉を裂いて自害する娘の、その親子愛と必死の抵抗のなんと素晴らしい事かと頬を上気させ、臨場感たっぷりに周囲の者たちへと語って聞かせながら悪魔はくるくると踊り――そしてピタッと動きを止める。


「――まぁ、死体さえあれば良いので自害は意味ないんですけどね」


 自分達で生きたまま娘を確保すると言っておきながら失敗した村人達は、適当に身動きを取れなくして娘を失った母親の前に放置しておきましたと語りつつ道化師の悪魔は少女の遺体へとそっと手を触れる。


「今頃は子を失った母によって肉餅にされてる頃でしょうかねぇ……どう足掻いてもこの遺体は取り戻せませんし」


【コイツの由来など、どうでもいい】


【さっさと陛下に捧げろ】


「まっ! なんて風情の無い方達なんでしょう!」


 ただの遺体一つとってもその背後にある物語を愉しんでこそ心が豊かになると云うのに、などとプリプリ怒ってみせながら、道化師の悪魔は少女の遺体を頭頂部から股に掛けて縦に割り開いていく。

 それは血縁者の魂を捧げる事で魔王となった男の心を殺し、魂を沈め、異能によって抑圧された魔王の血の覚醒を促す儀式。

 遥か昔にも強靭な精神力でもって魔王としての覚醒を少しばかり遅らせた英雄が居た。その英雄の心を殺し、魂を沈め、魔王として完全に覚醒させる為に生み出されたのがこの儀式である。

 今代の魔王は異世界出身であり、本来であれば血縁者などこの世界には一人も存在しない筈だった。けれども魔王となった男はこの世界で沢山の子を作ってしまった。

 必然的に捧げられるのは男の実子ばかりとなる……血が近ければ近い程に儀式の効力が増すため悪魔達にとって特に問題は無かったが、魔王となった男にとってはそうではない。

 手にした異能によって無理やり抑え込んではいるが、魔王の血の破壊衝動は、狂気は男の魂と精神を絶えず蝕み続ける。

 そんな苦行に耐える理由、世界を守る理由、愛する我が子という自らが頑張る理由が目の前でドンドン消費されていく現実。


「英雄色を好むとは言いますが、自らの子の魂が擦り潰されると云うのはどのような気持ちなのでしょう――」


 男がまだこの世界に転移して来たばかりの頃に最初に立ち寄った村で、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたハーフエルフの娘が居た。

 数日の滞在の後に、両親を早くに亡くしたという娘が不憫で、家族が欲しいという願いに応えて最後の晩に一度だけ抱いた。

 その時に娘が孕んだ妖精の混ざり物……男の血を引く少女の魂が屠殺される。


「――ねぇ? 篠田(しのだ)将臣(まさおみ)さん」


 微動だにしない男の頬に、一筋の涙が伝う――

ルゥールーが狙われたのは能力の厄介さもありますが、この儀式に使う為でした。


次回からは『皇国政変編』となりますが、書き溜めを用意するため少しばかり時間を下さい。


ここまで読んで面白いと思って下さったらブックマーク、評価、感想をくれると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] げぇぇぇぇぇぇぇっ!? 篠田~!? まさかの血縁! つーか優希ちん狙われる!!
[良い点] 更新お疲れ様です(๑•ω•๑) [一言] SNS垢で何か察している描写がないのと 東大で家族の事を思い浮かべる描写なかったし わりかし遠めの親戚かな…?
[良い点] 今ままでたけのこ先生らしい描写が薄かったから逆に安心した
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