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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
大樹海編

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38/80

37.自分のペース

旅立つ前に色々とね


「ユウキ、どう?」


「あっ、シルヴィちゃん」


 世界樹内部に存在する祭壇の間、そこにあるノートPCの前で眉間に皺を寄せていた優希へとシルヴィは声を掛ける。

 ここ数日の間ずっと、優希は世界樹の調律を族長のガァーラーから頼まれていた。せめて異世界の情報を発信する事だけでも止められないかと。

 結果としてそれは叶わなかった。世界樹と魔王との間には強い繋がりが出来ており、魔王からの情報の流れを断ち切る事は出来ず、かといって世界樹の内部に常に流れ込んで来る情報量を溜め込んでおける程の容量は無かったのだ。

 不要なデータとして削除しようにも、魔王の因子を取り込んだ異世界の情報は消去にも時間が掛かる。


「以前よりはマシにしたけど、解決には程遠いかな」


「そう」


 攻め込んで来た【逆さの悪魔】へと行ったのとは逆……魔王から流れ込んで来る情報量を可能な限り絞り、そして周囲に立ち並ぶ世界樹の若木達を外付けHDとして機能させる事で容量を増やす。

 ここまでしてやっと、世界へと発信される異世界の情報量が半分に減った程度だった。それでもエルフ達からすれば快挙と言える。


「今は何をしてる?」


「エルフの皆にも扱えるように、言語設定を弄れないかなって」


「そんな事が出来るの?」


「ブラウザも開けたし、出来ない事はない程度かな」


 優希は厨二病を拗らせた従姉妹に頼まれて、パソコンでオリジナル言語を入力できる様に設定した経験があった。

 少しばかり手間が掛かり面倒ではあるが、画面に古妖精言語を表示する事が出来る。


「……ただ不可解なのはブラウザが開けて、さらに一部のサイトにも繋がる事かな」


「何処が変なの?」


「うーん、なんて言ったら良いんだろ……リアルタイムで向こうの世界と繋がってないと無理な筈なんだよ」


 ネットなどを知らないシルヴィは何とか四苦八苦しながらもその原理や仕様を伝えようとする優希の努力を無駄にしない為にも、頑張って理解に努める。

 そうしてある程度の認識の共有が出来たところで、シルヴィは驚きつつも何かに気付いたような顔で疑問を口にする。


「じゃあ、ここからユウキは帰れる……?」


 故郷から飛ばされた女の子が家に帰れるかも知れないという喜び、仲良くなった友達がもう会えないくらい遠い場所まで行ってしまうかも知れないという不安、それらが綯い交ぜになった複雑な心境に無自覚なままシルヴィは優希へと問い掛ける。

 その顔はいつも通り何を考えているのか分からない無表情で、シルヴィの心境など読み取れるほど表には出ていなかったが……優希には何となく、シルヴィの雰囲気がいつもと違う事に気付いていた。

 だからだろうか、無意識の内にシルヴィの頭を撫でながら大丈夫だと、とても残念そうで少しばかり嬉しそうな声色で説明する。


「いや、世界樹を経由しても帰れないかな……色々と調べてみたんだけど、これは向こうと繋がってるんじゃなくて、私やシルヴィちゃんのお父さんが持って来た情報をそのまま保存しているだけっぽいんだよね」


「……つまり?」


「私やシルヴィちゃんのお父さんが利用した事のあるサイトくらいしか繋がらなかったし、アプリも落とせる物と落とせない物があったから、私達の記憶を元に再現してるだけで実際には向こうの世界との繋がりは無いみたい」


 優希は自分が利用した事のあるサイトや、利用した事がなくてもシルヴィの父親が利用してそうなサイトしかアクセス出来なかった事や、サイトによっては自分が転移して来た日付けから全然更新されていなかった事を実際に画面を見せながら話していく。

 そして何よりも、その説を裏付ける決定打となったのが二人分のSNSアカウントである。


「これが私のアカウントなんだけど、ログインする事は出来ても呟けないし、検索欄を使っても私が転移して来た日付け以降の呟きが全く出て来ないんだよね」


「……ほう」


 フォロー数とフォロワー数が同じの、身内や友人達としか繋がっていない小さなアカウントではあるが、そこには日常の呟きや写真などが並んでいた。

 シルヴィは写真という、優希の姿が小さくなって精密に描かれた絵が何枚も出て来る事に驚きを隠せなかった。


「そしてこれが多分シルヴィちゃんのお父さんが使ってたアカウントだと思うんだけど、これは私が転移して来た日付けよりも以前から更新が止まってて、検索しても古い呟きしか出て来ない」


 フォロー数よりもフォロワー数が圧倒的に多く、呟いている量も優希よりも遥かに多いそのアカウント。

 個人情報に結び付く物は何も無いが、それでもアカウントの持ち主がアニメやゲーム等が大好きで、そして東大法学部の出身というのだけはかろうじて分かる。


「これが、私の……でも読めない」


「まぁ、日本語だし……」


 とは言いつつも優希はシルヴィちゃんには読めない方が良いのかな、と思っていた。

 調べる関係上仕方がなかったとはいえ、シルヴィのお父さんは仲間内で猥談というか、性癖談義の様なものをよくしていたらしく……もしもシルヴィが日本語を理解して父親のアカウントを覗けばショックを受けてしまう事は容易に想像できる。

 この世界がどの程度性に寛容なのかどうかは知らないが、母親が元聖女で本人も聖職者のような顔を見せる純粋なシルヴィちゃんには見せられないと優希は誤魔化すように話題を元に戻す。


「ま、まぁ、これらはあくまでも憶測でしかないから、どうしてサイトに繋がるかの真相はまだ分からないんだよ! これが本当にシルヴィちゃんのお父さんのアカウントかも分からないし!」


 東大法学部出身のオタクアカウントは優希が転移する2週間前に更新が止まっており、シルヴィの姉であるルゥールーが21歳である事を考えると時間の計算が合わない。


「だから不可解と」


「そう! そういう事!」


 シルヴィが何かを言う前に優希はパパっとSNSの画面を閉じ、改めて古妖精言語の設定に戻る。


「とりあえず後少しで言語設定は終わると思う」


 Aを打てば〇が出るという様に一文字ずつキーボードに関連付け、古妖精言語の文字自体は優希がパソコン上で書いた物をそのまま当て嵌める。

 予め族長のガァーラーから貰った文字の一覧表を元に行っており、優希自身もここ数日で古妖精言語を簡単な会話なら筆談で出来る程度に覚えた。

 ただ予測変換までは出来ないし、文字を打ち込む事が出来るようになってもパソコン側から表示される日本語を全て翻訳できる様になった訳でもない。


「だからまだまだ実用には程遠いんだけどね……」


 優希は調律画面の未だに古妖精言語に訳せない日本語については、単語をそれぞれシルヴィに教えて貰った広域汎用言語に翻訳した小冊子を用意する事で何とかしようと考えていた。

 日本語から広域汎用言語を経由して古妖精言語に直す過程を経るため、エキサイト翻訳のような突飛な翻訳結果にならないかどうかだけが心配だったが、何時までもエルフの國に留まる訳にもいかない。

 その為どうしても必要な時だけ、きちんと広域汎用言語と古妖精言語の両方を扱える人物だけが翻訳をするという条件を設定しようと思っていた。


「うぅ、世界にとってとても大事な事なのに……」


「いや、普通に凄いと思うけど」


 シルヴィは素直に感心していた。優希は完璧を求めている様だが、そもそも彼女が何とかするまでエルフ達は世界樹に全く関われなくなっていたのだから、そこからある程度はエルフ達でも調律できる様に設定しただけでも大したものだと。

 ここまでされて「中途半端だ」などと文句を言うエルフは居ないだろうし、居たらシルヴィが絶対に許さない。


「そういえば、シルヴィちゃんは何か用があって来たんじゃないの?」


 シルヴィが優希の背中を撫でて慰めていると、ふと思い出したかの様にそんな指摘をされてしまう。

 今の今まで忘れていたシルヴィは「そうだった」と軽い調子で重要な情報をポロッと伝える。


「エルフと皇国が停戦した。あとお姉ちゃんと旅に出れるよ」


「――」


 突然そんな事を伝えられた優希は数秒ほど固まり、そして――


「はぁ〜……私もこのくらいのペースで生きた方が良いのかな」


 そんな大事な事をなんで忘れてしまうんだと一気に脱力し、遠い目で黄昏れる。


「? 自分のペースで生きればいい」


「……」


 優希に返事をする気力は最早なかった。

優希さん、いつか倒れそう()


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― 新着の感想 ―
[一言] これだけやって、言語設定の一覧にひっそりとエルフ語が増えてたら笑うね。
[一言] 先生も優希ちゃんみたいにオリ言語パソコンで 作ったことが…?
[良い点] つまりこの先日本に帰った時、数日も経ってないってことですね 逆じゃなくてよかった
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