34.封印
本来なら大樹海編は旅立ち編と合わせて10万文字以内に終わらせるつもりで書いてたんだけど、気が付いたら既にもう10万文字を超えてて歯軋りしてる。
「族長さん、調律の儀式を始める際に最初に言う事ってありますか?」
「む? 最初に言う事?」
ノートPCの電源を入れてから数秒ほど経ってから優希は背後に立つガァーラーへと、そう声を掛ける。
電源が入ったノートPCはログイン画面で止まっており、当然パスワードなど知らない優希は関連がありそうな事から当たってみる事にしたのだ。
ガァーラーから教えて貰った文言を慎重に日本語に訳し、パスワードとして打ってみたところそれが正解で優希はホッと胸を撫で下ろす、
「どうやら上手くいったようだな」
「はい、ですがここからです」
優希が思っていた操作方法ではなかったが、本来の電波塔の操作盤よりもノートPCの方が馴染みがある。
そのため様々なファイルやページを開いては、管理者画面を探す。
「――あった」
「おぉ」
ズラッと数多く並ぶ意味不明な項目と数値の羅列を余すことなく読み進め、それらを全て理解していく。
数値の弄り方などは感覚的に分かる。後はどのくらい弄ればどのくらいの変化が起きるのか、という部分だが……優希はさらに画面をスクロールし、目当てのページがないと見るや一旦一つ前の項目に戻って探し続ける。
そうする事で見付けた【調律履歴】なるものを目当ての物だろうと当たりを付け開く。
「……よし」
世界樹がこの大地に根を下ろしてから、エルフ達が世界樹の世話係として創造された頃からの記録が延々と流れていく。
一回の調律で小数点以下の細かな数値しか変化しなかった時もあれば、数百単位で動いた時もある。
それらの記録を元に「何年の何月何日以降でどんな変化が起きたか」なども同時に確認し、それぞれの数値の変動による影響の度合いを割り出す。
「……」
ある程度の計算が終われば数値の画面に戻り、そこにある全てを躊躇なく弄っていく。
先ずは魔王から流れて来る異世界の情報量を増やし、その吐き出す先を世界から【逆さの悪魔】へと変更――一度失敗したが、出力を上げる事で無理やり行う。
次に無理やりパスを繋げた【逆さの悪魔】からその逆さの権能の情報を吸い上げるべく、設定を書き換えていくが……これはどうやっても出来なかった。
代わりに【逆さの悪魔】から魔力や精神力といった物を吸い上げ、逆に聖法気といった物を送り込む。これは上手くいった。
(やっぱり権能って言うくらいだから難しいんだ)
世界樹と悪魔は元天使という点では同じだが、やはりそれだけに同格相手の権能を奪う事は出来ない様だ。
(けど、おかしい……【逆さの悪魔】の数値が変動している?)
コチラからは弄れないのにも拘わらず、何もしなくとも【逆さの悪魔】に関わる数値が常に変動しているのを見て取って……シルヴィ達との戦闘による影響が反映されているのだろうと考える。
と、そんな事を考えている優希の耳元に聞こえる筈のない声が届く。
『ユウキちゃん居る?! なにかした!?』
「うぇっ!? その声はルゥールーさん!?」
すぐ傍に生やした小さな木の芽から優希の驚いたような声と、続いて何かを慌てて探すような物音が聞こえてルゥールーは自分が説明していなかった事を思い出した。
「あっ、説明するの忘れてたけど私の影響下にある植物がある所なら自由に情報のやり取りが出来るの」
『植物?』
「そう、そんな見た目だけど世界樹も一応植物の内には入るから」
『な、なるほど……』
つまり今話しているゥールーの声は世界樹……ひいては、優希が今居る部屋全体から響いて来ているという事になる。
「それで話を戻すけど、目の前の悪魔が急に苦しみながら変身したんだけど何か分かる!? 世界樹と繋がってるのだけは分かったんだけど!」
ルゥールーが慌てて優希へと連絡したのは正にその言葉の通りであり、突然世界樹の気配が場に満ちたかと思えば悪魔がグズグズに溶けだし、その形を不定の物へと変じたからだ。
『! どんな変化か説明できますか? 魔王から流出していた異世界の情報を世界樹経由で流し込んだんですけど』
「なんで!?」
ルゥールーになんでと聞かれても、優希には世界樹がこの世界へと垂れ流している悪影響を排除すると同時に悪魔へと全く新しい属性を付与し、弱点を増やそうという試みとしか言いようがなかった。
『悪魔を私に理解できる存在にしたくて……』
「ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」
『それ以外にも魔力を奪って聖法気ってやつを流し込んでるから、どんな感じになったのかなって』
「おぉ、それはナイスだよユウキちゃん!」
途端に機嫌が良くなったルゥールーが優希を褒めながら、悪魔が突然目の前で苦しみだし、かと思えばその身体がドンドン見知らぬ何かへと置き変わっていった現状を共有する。
「なんか急にこっちの攻撃が通る様になったと思ったら苦しみ出して、グシャグシャ〜って感じで身体が溶けだしたの!」
恐らく自身の変調に気付き、権能によって変化に抗っているのだろうと優希は自らの予測を伝える。
『やはり権能を何とかしないといけませんね』
「いやいや十分だよ! 私のちぃと能力に対応できなくなったから!」
悪魔の処理能力を超えてしまったのか、【逆さの悪魔】は情報の置き換えによる自らの変容に抗う為に権能をフルに使っており、それによってルゥールーのちぃと能力に対抗するべく発動していた魔血魂を上手く扱えていない。
優希の世界樹操作によって不利だった状況から一変して、今状況は凄まじい勢いで改善に向かっている。
「今めちゃくちゃキレたシルヴィちゃんが悪魔をしこたま殴ってるから!」
『えぇ……』
姉もろとも殺されそうになった怒り、たった一手で詰みかけた自分の不甲斐なさ、自らの信頼に応えてやってくれた優希への感謝など、有り余って持て余す感情のぶつけ先として弱った悪魔はシルヴィにとってちょうど良いサンドバックだった。
自らの変化に対応するので精一杯の状況の中でルゥールーの【絶対生存圏】が万全の状態で発動され、時間が経てば経つ程に弱体化していき、弱体化すればその分世界樹から送られて来る情報量に耐え切れない。
「まさか本当に世界樹を操作するなんて……たった一手で悪魔を詰みにしちゃった」
『世界樹の力を借りなきゃ無理だと思っただけで、本当に上手くいくとは思いませんでしたけどね』
権能と魔血魂によって実質ちぃと能力とやらを二つも所持しているような物だったのだから、コチラも元が悪魔と同格だった世界樹を引っ張り出すしかないと思った末の博打だった。
世界樹が変容したのがシルヴィ達の父親が魔王に成ってからという話だったので、情報元を自分ではなく魔王にした方が良いと思ったがそれが見事にぶっ刺さるとは思いもしなかった。
「あっ、そろそろ封印される」
『……こっちから見れないのが残念ですね』
映像として残せれば今後も色んな参考になったかも知れないのにと、残念そうな優希の声に苦笑するルゥールーの目の前で極光の柱が立つ。
【――旧き友に願い奉る 我は其の代理人にして世界と光に復讐する者】
唄う様に紡がれたシルヴィのその声を聞き、ある者は見惚れ、あるモノは驚愕に目を見開き、またあるモノはスっと目を細めた。
【驚愕、否定、有り得ぬ】
【この世の隅にまで友の秩序を敷く為に 今一度この背に咎を背負う】
天まで届く極光の柱の中で、シルヴィは人間離れした超然とした雰囲気を放つ。
空の向こう側と見紛う黒銀の長髪も、天に昇る日と月を思わせる黄金の瞳も、その全てを見透かす視線と何を考えているのか読めない表情も全て【逆さの悪魔】は見覚えがあった。
【有り得ん、汝、いや貴様は】
【我が目は星々の輝きに眼差し 我が耳は星辰の嘆きを拾う】
立ち上る聖法気の輝きが、光の粒子が束となり頑丈な鎖を形作る。
その鎖に縛れてあらゆる権能と力を封じられ、ズレた位相に隠していた本体を引きずり出されながらも【逆さの悪魔】はシルヴィから目を逸らさなかった。
【まさか、まさか貴様はラ――】
【神罰代行――失楽園】
光の鎖に繋がれたまま四肢を捥がれ、頭部を八つに分割された【逆さの悪魔】はそのまま極光に溶ける様にその姿を消失させていく。
【……恨むなら私を恨め】
最後に彼女は一瞬だけ目を伏せて、普段のシルヴィなら絶対にしない様な表情を浮かべながら消え行く悪魔を見送る――
封印!封印解除!封印!
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