27.逆さの悪魔
世界最高の美女(予定)とはいったい誰なんだ――!?
「あぁ〜、そっかそっか……シルヴィちゃん達はおばぁ――リィールー様に会いたいんだね」
他の子ども達の相手を優希に押し付けたシルヴィは、そのまま世界最高の美女(予定)に促されるままに自分達の事を話していた。
自分のきょうだい達を集めて魔王討伐をする為の旅に出た事から、その最初の一人であるルゥールーお姉ちゃんを訪ねに来た事まで馬鹿正直に。
優希が二人の会話を聞いていたら、またシルヴィが他人にドン引きされる事を話している事に頭を抱えていただろう……それも実年齢はともかく幼女に、と困惑を深めて。
「ラァーラーさんは案内してくれなかったの?」
「……なんか、嫌われてるっぽい? あと普通に断られた」
認識阻害の境界線から世界樹の下へと案内してくれたエルフの女性の事を思い浮かべながら、シルヴィは少しばかり悲しそうな声を出す。
シルヴィには自分が嫌われる心当たりなど、この國に来る際にエルフの部隊を行動不能にした事くらいしか――あぁ、十分に嫌われる理由あるわとシルヴィは勝手に納得した。
「あぁ〜、まぁ仕方ないかもね……シルヴィちゃんってダイナさんの娘さんなんでしょ?」
「うん」
「昔っていうか、まぁ……ここに居るエルフ達はみんな大なり小なりダイナさんに振り回された経験があるから」
「へぇ」
シルヴィはお母さん何やったんだろうとは思ったが、あの母が急に意味不明な行動をしたり突飛な思い付きで人を振り回すのはいつもの事なので特に気にしなかった。
かくいう自分自身も母親に振り回され、今現在きょうだい達を集めて魔王討伐なんて役目を課せられているのだから。
しかも自らの出自やら旅に出る事やらを告げられたのは何気ない、いつもの朝食の席だったのだから振り回され度合いで言えば自分はかなり上位に来るのではないかとシルヴィは呑気に考える。
そんな事をポロッと目の前の少女に零せば、世界最高の美女(予定)はドン引きした様子で口を開く。
「いや、朝食の席で魔王討伐を言い渡されるとかかなりどころじゃないよ……あと自分の出自の秘密も合わせて、そんな事を言われて特に気にしてないシルヴィちゃんもよく分からないよ……よく承諾したね?」
世界最高の美女(予定)は分かりやすく頭を抱え、誰にも聞こえないほど小さな声で「私はまだまだダイナさんを甘く見ていた……」と呟く。
そんな、何処か困った様子の少女に対してシルヴィは何でもないかの様に軽く――「それで人々が救われるなら」と告げた。
「……本当に、親子だね」
「ん?」
「いや、なんでもないよ。……ただ、聖女の娘だなぁって」
何処か嬉しそうに、それでいて苦笑した様子の少女から告げられたその言葉にシルヴィは以前にも言われたなぁと思い出し、あのお兄ちゃんじゃなかった人は無事にお母さんの所へと行けたのかなぁと思考が逸れる。
「……急に別の事を考えだして何処かを見詰めだすのも似てるね」
「ん?」
「……なんでもないよ」
エルフの少女は呆れたように、それこそ深く重い溜め息を吐き出した。
「まっ、いいや……リィールー様に会える様に、私からもお願いしとくね」
「……できるの?」
「ふっふーん! これでも私はそこそこ偉い娘なのだ!」
「お〜」
腰に手を当てて胸を張ってドヤ顔をする少女を見て、シルヴィは何となく拍手をして称えた。
「まぁ、とりあえずお話くらいは出来るように頑張ってみるね」
「お願い」
「ふふん! お姉ちゃんにまっかせなさい!」
シルヴィの頭に一瞬だけ疑問符が浮かんだが、実際に生きた年数という意味では間違ってないのでいつもの如く特に気にせずスルーした。
「それじゃあ、今日はいっぱい遊ぼー!」
「おー!」
複数の子どもによじ登られ、そろそろ優希が頭からひっくり返りそうだったのでシルヴィと世界最高の美女(予定)はそろそろ助け船を出すことにした――
「――なぜ結界が効かない?!」
シルヴィ達がエルフの子ども達と遊んでいる頃――樹海の中でラァーラーは叫んでいた。シルヴィ達を族長の下まで案内し、本来の業務に戻った彼女は巡回からの救援要請に応えて魔王軍と対峙していた。
人間でいう分家の王族にあたる彼女はエルフの中でも一際強く、そして人望ある将兵である。
部下からの信頼も篤く、それに彼女自身も応えようと自らを厳しく律してきた……そんな彼女が動揺を抑え切れずに意味の無い疑問を叫ぶしかない現状がここにある。
【愚問、失笑、哀れ】
ラァーラーが見上げる先――樹海の木々を枯らしながら、悠然と空中を進んで来るは【逆さの悪魔】である。
黄金に輝く十字架に逆さに磔にされた長髪の男性という見た目をしており、その目と口は縫い付けられ赤い血が地面へと滴っていた。
その状態で何処から声を発しているのか、まるで耳元で囁かれているかのようにその厳かな声がその場に居る全員へと届く。
「『聖樹の守り 獣の足跡 地に満ちて地に朽ちる』」
今一度ラァーラーがエルフの聖句を唱え、ルゥールーから貸与された球根を元に結界を張り直すが――
【――無意味】
地に落ちた球根から凄まじい速さで大木に成長した木々が悪魔へと殺到するが、それすらも一瞬にして朽ちてしまう。
「何故だッ!?」
ルゥールーのちぃと能力が込められ、エルフの一般兵でも扱えるようにされた特別な物だったが、それが全く意味を成していない事にラァーラーは焦る。
【贋作、不出来、敵わぬ、道理】
「意味の分からない事を! 討て!」
ラァーラーの指示により、待機していたエルフ達が一斉に聖句を唱える。
「『聖樹の怒り 獣の断末魔 春嵐を呼ぶ』」
番えた矢に世界樹の――調和の天使の加護が宿り、人とは位相の違う悪魔へと届きうる一撃となる。
それら聖なる矢が一斉に放たれ、【逆さの悪魔】に穴を穿っていく。
【笑止】
しかしそれらの傷もすぐに塞がり、何事も無かったかの様に泰然と構える悪魔の様子にエルフ達から動揺の気配が発せられる。
姫君のちぃと能力が込められた樹海の結界を通り抜け、悪魔にとって弱点であるはずの天使の加護でも痛痒を与えられない。
今まで一度も無かった事態を打開するべく、ラァーラーが思考を張り巡らせていると【逆さの悪魔】がブチブチと音を立てながら縫い付けられた口を開く――そこから突き出された舌に乗っていたのは、血のように紅い宝玉である。
「――〝魔血魂〟かッ!?」
ラァーラーがその存在に気付き、部下達に撤退の指示を出すよりも早く――【逆さの悪魔】はちぃと能力を行使する。
【――死せ、枯れ果て、終えよ】
その言葉が発せられた瞬間――【逆さの悪魔】を中心として、半径数キロの生命が腐り落ちた。
魔血魂については後ほど説明があります。
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