25.ぶかぶか
ただシルヴィと優希がキャッキャッしてるだけの回
「――緊張したぁ」
案内された客室に二人っきりになった途端、そう言って優希はベッドへとダイブする。
今までの旅路では長い距離を歩いた事のない優希にシルヴィが配慮して細かく休憩を取ってくれたりしていたが、大樹海を突っ切る強行軍では世界最強の男と名乗る青年がそれを許さなかった。
ただでさえ森の行軍、慣れない乗馬、命を狙われて武器を向けられるという、今まで経験した事のなかった事柄で溜まった疲労が肉体的にも精神的にも限界に来ていたのだろう。
エルフ達の國にそびえ立つ世界樹とその若木の様子にも驚き、そして休む暇もなくエルフの族長との会談が行われ、そこでもまた精神的に疲れる話を聞いた。
「……もう、疲れた。このまま眠ってしまいたい」
「汗は拭いた方が良い」
予め用意されていたお湯の張った桶に布を入れて絞りながら、シルヴィは優希へとそう声を掛ける。
一応清めの祈りが無い訳ではないが、こんな小さな事でいちいち神様を頼るのも違うだろうし、何よりもさっぱりした感じが好きなのでシルヴィは差し迫った状況でなければ祝祷術は使わない。
景気よく豪快にスッポンポンになったシルヴィを見て、優希はポツリと漏らす。
「……シルヴィちゃんってさ、綺麗だよね」
「……」
優希は思う。これまで一緒に過ごしてきて、シルヴィが何か特別な手入れをしている様子は見た事がないのに、何故これほどまでに肌が綺麗なのかと。
シミひとつない肌は見ているだけでも触り心地が良いと直感で分かる滑らかで、言動や見た目は幼いが身体つきは細く女性らしい丸みを帯びており、それでいて鍛えられた肉体はきちんと引き締まっている。
成熟途中の少女特有の美しさと艶やかさに加えてモデル以上の体型を維持しているシルヴィは、同性さえも見惚れさせる魅力に満ち溢れていた。
「……ユウキも脱ぐ」
「え? シルヴィちゃんの後でいいよ?」
「いいから脱ぐ」
そんな優希の羨望の眼差しに耐えかねたのか、何となく気恥ずかしくなったのか……自分だけが見られているという状況に不満を持ったシルヴィは素っ裸のまま優希の衣服へと手を伸ばす。
「え? え??」
「拭いてあげる」
「いやいいよ! 自分でするから!」
「観念しよ?」
剣士としても鍛えているシルヴィに筋力で敵う筈もなく、抵抗むなしく優希は下着まで残さず剥ぎ取られ素っ裸になってしまう。
声にならないふにゃふにゃな悲鳴を上げながら蹲る優希をシルヴィは持ち上げて椅子に座らせ、そのままお湯を絞った布で背中を拭き始める。
「お見苦しものを……お見苦しものを……」
「? 見苦しくないよ?」
「でもぉ、シルヴィちゃんと違って綺麗じゃないからぁ……」
「ムチムチ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
シルヴィは優希がなぜ謝罪しているのか全く分からなかった。
彼女の情緒は基本的に幼女であるため同じ年頃の少女の考えを理解する事が難しく、また手入れなどしなくとも困った事がないので美容などについても疎い。
ただ自分と違って肉付きが良くて健康的な身体だなぁ、背も自分より高くて羨ましいなぁとしか思っていないのだ。
その為シルヴィは身体を拭う度に変な声を優希に首を傾げながらも、その手を止める事はしなかった。
「終わったよ」
「……つ、疲れた……」
シルヴィに身体の隅々まで余すところなく弄ばれ、親に擽られて笑い疲れた子どものような表情で呆ける優希。
そんな彼女に対して、シルヴィは用意した二枚目の布を手渡す。
「ん、次はユウキの番」
「え?」
「拭いて」
自分の身体を拭う前に優希の視線に気付いため、シルヴィはまだ身を清めてはいなかった。
そのまま優希に背を向けて座り、彼女が拭いやすい様に自らの黒銀の長髪を纏めて肩へと流す。
無防備に晒されたうなじから背中、お尻への綺麗なラインはそれだけで美術品のような輝きを持っていた。
「仕方ないなぁ」
「ありがと」
まぁ、半ば強引ではあったけど自分も拭いて貰ったしと、優希は小さな子を世話するような気持ちでシルヴィの背中を拭い出す。
そして改めてシルヴィの華奢な身体へと触れて、優希は「こんなに小さな身体の何処からあの怪力が?」と疑問に思わずにはいられなかった。
自分一人くらいなら容易く担いでそのまま全力疾走が出来るし、成人男性の身長とそう変わらない大きさの岩を片手で退かして見せた事もあった。
「うーん、腕もふにふにだ……」
優希は思わず声を漏らしてしまう。肩や脇の下から二の腕へと布を滑らせ、ついでに指先に力を入れて押してみるが、返ってくるのは自分と同じ普通の女の子の腕の感触のみ。
いや、実際には自分の方が少し脂肪が付いてるけど……と、少し傷付きながらも、一度湧いた疑問はなかなか無くならない。
「どうしたの?」
「……いや、シルヴィちゃんって筋肉が無いのに力持ちだなぁって」
見ようによっては自分を信頼して背を向けてくれた子の身体の感触を勝手に楽しんだと捉えられなくもないし、女の子に向かって力持ちというのもどうなんだ、筋肉が無いっていうのもちょっと言い方が……などと考えて少し後ろめたく感じながらも、優希は正直に聞かれた事に答える。
それを受けてシルヴィは「筋肉……」などと呟きながら、自らの二の腕をぷにぷにと摘んでみた。確かに無い。
「あのね、ユウキ」
「うん?」
「こういう、不思議な事はね」
シルヴィは外気に晒された自らの膨らみかけの胸の前で手を組み、まるで祈るような仕草でこの世の真理を説く。
「――だいたい、神の御加護なの」
何を考えているのか分からない無表情で、真面目で真剣な声で単純明快な答えを出すシルヴィ。
「……うん、そっか」
優希はそう肯定する事しか出来なかった。
「さっ、終わったよ」
「ありがと」
「いえいえ」
そんな生産性の欠片もない会話を交えている間にも、優希はシルヴィの身体を拭き終わる。
「早く服を着よう……っていうか、服を着てから拭いても良かったね」
「今さら」
「うっ、そうなんだけど」
優希は別に二人して全裸のまま綺麗にし合わなくても良かったんじゃ、と思ったが、シルヴィの言う通り全てを終わってから言っても今さらな話だった。
「不思議と言えば、ユウキの服も」
「私の服? ……まぁ、確かに異世界の衣服だしね」
優希の着ていた服は高校のブレザーである。旅の途中で立ち寄った村では服屋など存在しなかったし、クラウヘンに着いたら何着か古着を買うつもりだったがそれを忘れていた。
そのため何とかシルヴィの清めの祈りなどで良好な状態を維持しながら着ていたが、確かに改めて見てみればこの世界の衣服とは素材からして大分違う。
「交換してみる?」
「良いの?」
「私もシルヴィちゃんの服に興味あるし」
「わかった」
あまりにも興味津々といった様子でシルヴィが見るものだから、優希は微笑ましく思いながらそう提案した。
しかしその優希の微笑みも、直後に行われたシルヴィの天然な行動に困惑の色へと変わる。
「ぶかぶか」
「……下着は自分のを着けよう?」
「わかった」
ストンと足首までズリ落ちたショーツに、サイズが大きすぎて何も支えらていないブラジャーを肩に掛けて途方に暮れるシルヴィの様子はほんの少し間抜けだった。
「これ、どうやって着るの」
「手伝うよ」
とりあえず下着だけは自分の物を着用する事にして、二人はお互いを手伝いつつ衣装の交換をした。
シルヴィは優希のブレザー制服を、優希はシルヴィの衣服を着ようとして……サイズが小さくて諦める。
「どう? 似合う?」
「凄い似合ってる! 可愛い!」
「少しぶかぶか」
「それは仕方ないよ、私なんて着れなかったし」
袖が余って手は見えず、スカートもウエスト部分を折り畳む事で丈を無理やり合わせてベルトで固定しているが、少し大きめのサイズを購入した新入生として見れば完璧に似合っていた。
それはもう、本当にこんな可愛くて綺麗な子が入学したら学校中が大騒ぎになるんじゃないかというレベルで似合っていると、優希は割と本気で考える。
「じゃあ、返すね」
「シルヴィちゃんは何でも似合いそうだね」
そんな言葉を交わしながら、シルヴィが清めの祈りで新品同様に清潔にした自分の服に二人して袖を通す。
と、そんな時だ。部屋の扉をノックする音が響く。
「――失礼します、沐浴の準備が整いました」
「「……あれ?」」
その言葉にシルヴィと優希は二人揃って首を傾げる。
「あの、このお湯と布は……」
「沐浴前に簡単に身を清める為の物です。ご安心ください」
「あっ、そうなんですね」
何か間違えてしまったのかと、少しビックリしたらしいシルヴィと優希は安堵したように小さく息を吐く。
「着替えもご用意しておりますので、全て終わりましたら食事の場へとご案内します」
そう説明を終えると、エルフの女性は「さぁ、コチラです」とシルヴィと優希を部屋の外へと促し、沐浴場まで案内しだした。
何がとは言いませんが、シルヴィはAで優希はFです……何がとは言いませんがAとFです(大事なことなので)
それとシルヴィと優希は進学して新しく出来た友人みたいな距離感で、今現在お互いに恋愛感情などは全く持っていないので百合ではありません。この程度ではまだ百合とは言えない(有識者)
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