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八月十一日

 八月十一日






「ねぇ結婚式はいつにする?」


「うーん、そうだなぁ」


 僕は大学を卒業すると同時に、ついに御木本さんにプロポーズしていた。


 大企業の内定が既に決まっている僕の申し出を彼女は断ることなく「はい、よろこんで」と返事をしてくれた。


「けど、本当に良かったの? こんなに高い婚約指輪……、何か悪くて」


「あぁ、五百万の指輪?(はぁ、と僕は溜め息をついて)それでも夏樹、君の美しさには全然足りてないよ。むしろごめんね、そんな程度のものしか買ってあげられなくて。本当は一億円くらいのを買ってあげたかったんだけど……」


「一億……? そんな高いのなんてもらえないよ!」


「大丈夫大丈夫、僕が色んな企業に引っ張りだこだったの知ってるでしょ? 年収二億の条件で今の会社選んだんだから、一億くらい安い安い」


「じゃなくてー」御木本さんは顔を赤くしてもじもじしている。


「私は和成がいてくれるだけでいいんだから……」


 僕は我慢できなくなって「こいつめ!」と言って御木本さんに抱きついた。


「もうまだ御昼だよー」


「かまうもんかー」


 …………


……たしかに時間はもう午後の二時になってしまっている。二度寝三度寝と繰り返しながら妄想の世界へと旅立っていた僕は、自分で言うのもなんだが、とんでもない無気力な人間だと思う。


妄想と現実の大きなギャップに虚無感を抱いていると、ベッドの脇に置いていた携帯電話がなにやら点滅しているのに気がついた。メールか、電話の着信があった証拠だ(僕は友達が少ないので携帯電話が点滅するのは非常に稀だ)。


誰だろう……御木本さんが誰かに僕のアドレスを聞いてメールでもくれたのかしらんとありもしない幻想を描きながら携帯電話をチェックすると当然御木本さんではなく、同じクラスの村沢純だった。終業式の日にプールのことを探るために話しかけたことは記憶に新しい。




ひさしぶり。今日よかったら一緒に勉強しない?




 前にも言ったが、村沢とは僕自身正直なところそこまで仲が良いわけではない、クラスでもそこまで話しているわけではなく、なんというか村沢という奴はお人好しなやつで色んな人、たとえば僕のようなはみ出しもの(自分で言うのもなんだが)にも分け隔てなく声をかける。そんなんだから僕の唯一話せる相手として僕の中にその名を刻み込まれているのだ。思い出せば村沢と最初に話したのは僕がまだ入学したての一年生の時、「嵐が丘」を教室で読んでいる時だった(新訳がでたので読み返していた)。


「嵐が丘、いいよね」


「お、うん」


「何よりもタイトルがすごく良いよね、嵐が丘、良い響きだ」


「そ、そうだね、意識したことないけど、たしかに良いタイトルだね」


「本とか、結構読むの?」


「う、うん、まぁそれなりにね」


「そっか、僕も実はそれなりに読むんだ」


 あの日、急に声をかけられたのでびっくりしたのを覚えている。なんでも村沢も文学に少し興味があるらしく、なんとまぁそんな感じであれからからたまに話したり、メールをしたりするようになった。一緒に勉強というよりか、おそらく文学についてちょっと話したくなった、といったところで今日僕を誘っているのだろう。


メールが来ているのは午前十時か……、完全にシカトしているような嫌な感じになっているな……。村沢のような普通にイイヤツを無視しているとさすがの僕も心が痛む。僕はこんな風に返信をした。




 返信遅くなってメンゴ。いいよん、どこでやるん?




 意識してフランクに返信してみた(精一杯のフランクさをアピールした)。まぁこのまま家にいても正直だらだらしているだけだと思うし、それであれば村沢と文学談義に花を咲かせるのは悪くない。


しかしながら僕がこのメールを約四時間ほど無視していているのは変わりないので、さすがの村沢も怒ってしまうだろうか……。しかしそれはどうやら僕の杞憂であったようだ。チンチロリンリンと携帯電話の着信が鳴った。




 忙しそうなのに、ごめんね(顔文字)。図書館に今日は一日中いるから、よかったら来て!




 どうやら僕が長く返信をしていなかったので、忙しいと思ったらしい。実際はだらだらしながら妄想をしているだけなんて口が裂けても言う事はできないが、忙しいと思われるということはそれなりに用事があるような人間と見られているということになるので、なんだか嬉しかったりもする(少し考えすぎだろうか)。


とりあえず、忙しさを演出するためにすぐには返信しないで十五分ほど時間を空けてから、わかった今から行く、と返信をした(その十五分間は当然だらだらして過ごした)。そこで初めて昨晩シャワーを浴びずにそのまま不貞寝したことが原因による自分の体臭の臭さに気がつき、急いでシャワーを浴びたがそうこうしているうちに外に出たのは午後三時を少し過ぎたくらいになってしまった。メールの返信をしてから実に一時間近く経ってからの出発となってしまったが、それはそれで忙しいアピールができているのかなーと思うと村沢を待たせている罪悪感よりも、なんとなくの優越感に近いような感覚を楽しむことができた。


 さて、なんだかんだ図書館に着いたのは午後三時半ほど。この時間になると日中よりはいくらか過ごしやすい。ここは公民館と一緒になっている二階建てのそれなりに広い図書館だ。少し老朽化が進んでいたが、少し前に補修工事をしたため、古くからある施設にも関わらず、ある程度の綺麗さを維持していた。


中に入ると何となくだが埃っぽい臭いがなぜかするものの、床などは定期的にワックスがけをされていてやはり綺麗というべき状態になっている。そんなわが町の誇りである図書館の六人がけになっている一つの机に村沢は座っていた。何かを読んでいるようだった。


「遅くなってごめん、村沢君」


 本に集中しているためか僕が近づいても気がつかない村沢の肩をつんつんとつついてそう声をかけると、驚いた様子もなく、ゆっくりと顔をあげ、やぁ、と村沢が手を上げて僕の声に応えた。


「ごめんね、忙しいところ呼び出しちゃって。夏休みはどう?」


 御木本さんのことばっかり考えて妄想に励んでいます、実はもう結婚する予定なんだよね! なんて言えるわけなく、とりあえず、まぁまずまず楽しんでいるよ、と無難な返答をしてお茶を濁すと、村沢の持っている本が気になったので、それ何読んでるの? と聞くと、村沢は、これだよ、と背表紙を見せてきたのはヘルマンヘッセの車輪の下だった。随分学生の読みそうなありふれたものを読んでいるなーと辟易していると、まぁあんまりこれ面白くないね、と村沢は言った。


「ヘルマンヘッセなら、知と愛とか、ガラス玉演戯の方が面白いよ。でもまぁそのへんはページ数も多いから、他の初期のころの小説を読んでみたらどうかな。じんわりくるものがあるよ」


「そうなんだ、さすが高原君だね、詳しい」


「それからシッダールタやデミアン。あとは詩なんかも読みやすいし、いいと思うな」


「デミアンは聞いたことあるな。っていうか、どんどん本の名前がでてきてすごいね」


まぁヘルマンヘッセくらいなら有名だからね、と褒められたことに対しての照れ隠しとしてそう返答すると、僕はそれよりも村沢はどんな風に夏休みを過ごしているんだろうというのが少し気になり、僕が質問されたのと同じように、「それよりもそっちこそ夏休みはどう?」とたずねてみた。


「んー、まぁ友達と遊んだりだね。たまにこうやって図書館に来たりとかはするけど」


「そっか、まぁまぁ楽しそうだね」


 うん、まぁまぁ楽しんでるよと、村沢は言うと、「ごめん、ちょっとトイレ」と言って席を立っていった。一瞬触れてはいけない部分に触れてしまって気を悪くさせてしまったかなと思ったが、そうではなさそうで本当にもじもじしながら歩いていった。


本のインクの匂いがトイレに行きたくなる要因だと昔どこかで聞いたことがある。僕も本屋とかでもじもじしながら立ち読みをしたっけなー、と思っていると携帯電話のバイブレーションが鳴った(図書館に入るときに当然マナーとしてマナーモードにしていた)。やれやれ今日は人気者だな! と携帯電話を見るとバイブレーションしていたのは僕の携帯電話ではなく、机の上に村沢が置きっぱなしにしていた携帯電話が振動しているようだった。真っ白でシンプルな携帯電話だ。


なーんだ、と思っていると村沢がごめんごめん、お待たせーと言いながらトイレから戻ってきた(トイレから近い席を狙ってなのかわからないがそんな場所を陣取っていたためすぐに戻ってきた)。


「なんか携帯電話にメールかなにかきてたよ」


「あ、ほんとだ、誰だろ、あ、健人か」


 健人? 健人ってまさかあの……(さて、ここで忘れている人が多いと思うのでチャールズディケンズばりに親切にもおさらいをしよう、もし健人という名前の人物を誰か覚えている方はここの部分は聞いてもらわなくてもかまわない。健人というのは最初の方で話した進藤健人のことで、とりあえずイケメンでスポーツ万能、学業成績も非常に優秀といった、いけすかないモテボーイのことだ。その進藤健人と御木本さんが仲良さげである光景を見てしまった僕にとっては、もともと抱いていたそのいけすかなさが二倍三倍四倍と膨れ上がって感じており、まぁ早い話が御木本さんと僕の恋路の大きな大きな障害、いわばライバルといった感じなのだ、いや少し違うか)


「高原君、どうしたの?」


「あぁ、いやなんでもないよ、で、健人って、進藤君のこと?」


「ああ、うん、その健人。小さい頃から仲、いいんだよね」


 ほへぇーと思わず溜め息をついてしまった。思いもよらないところで繋がりがあるんだな、と思いながらあらためて村沢の顔をまじまじと見ると進藤健人に比べてどうも冴えない顔をしていて、またもやほへぇーと溜め息をついてしまう、男の友情に容姿の釣り合いがあるとは言わないが、村沢はどちらかというと僕よりの人間であって、進藤健人よりの人間ではない、まぁだからどうしたという話なのだが。


というより進藤健人と村沢が仲が良いくらいはもしかしたらクラスの常識なのだろうか? いや、言うまでもなく常識なのだろう、僕が相当そのあたりの事情に疎く、そしてその疎さはクラスの中でいかに最下級に属しているのかの証明であり、村沢のことを僕よりの人間と言うのは他者から言わせれば非常に自意識過剰な意見なんだろうなと、少し胸が締め付けられる思いをしていると、村沢が「ちょっと、高原君大丈夫?」と声をかけてくれたりなんかする、こんな底辺の僕に対してまったく君は神様のような存在だなぁ!


「ほんとに、大丈夫? なんか顔色悪いよ?」


「いや、大丈夫だよ、村沢君」


胸を押さえてわざとらしく咳き込む謎の病人アピールのようなことをしながら僕は「で、進藤君はなんて送ってきたんだい?」と聞いた。


「これからカラオケでも行かないか? だって」


 カラオケ! はは、笑わせてくれる! 図書館にいるよりも随分と高校生らしい実に素晴らしい遊びであろうかと、やはり村沢は断じて僕よりの人間ではないということに嫌でも自覚される。


本当にまぁこんな僕が御木本さんを好きだなんて、夢見るにもほどがある。僕は自分の中の、おそらく御木本さんにほんの少し優しくされたことでほんわりと暖かい期待を抱いていたであろう自意識にほとほと呆れてしまう。「恋が生まれるにはほんの少しの希望があれば十分です」とはあのスタンダールも良く言ったものだ。僕はこちら側の人間、つまり何も手に入れられない側の人間だというのに! やい! 僕の中の「意識」よ! いい加減にしてくれないか! 君の行動ひとつで高原和成という人間は色々と苦労したりするんだぞ! もう少し責任感を持って行動してくれないか!


「カラオケ、行ってきたら?」


 僕は思いつめるあまり、本当に少し気分が悪くなってきて、咳き込みながら村沢にそう言うと席から立ち上がった。帰ってまた部屋でごろごろしよう。御木本さんのことを想像しながらあんなことやこんなことをして楽しむんだ、そうだ、まだ結婚式の日程を決めていなかったな! 早いところ決めて挙式はハワイだ! 村沢、お前は高校生活をエンジョイしてくれ、あと少しでも僕と近い人間だと思ってしまって悪かったな! ツバを吐きかけてやろうか!


「いや、でも僕から高原君を誘ったのに、これからカラオケなんて行けるわけないよ、健人には断りのメールを打つからさ」


 そう言って村沢はかちかちとメールを打った。どんな文面で送ったのかはわからないが、ぶぶぶぶぶと、すぐに返信が返ってきた。すぐに返信がくるなんて仲良しなんだなと、またしても自分の孤独を感じると、本当に僕ってなんなんだろう、とくだらないマイナス思考が牙をむいて襲いかかって来る。こうなると僕はどんどん落ちていく。


「高原君」


 僕がうつむいて、少し泣きそうになっているのを隠していると、「高原君、高原君」としつこく話しかけてくる。ちょっと黙っててくれ! 柄にもなく大声で叫びそうになったのもつかの間、村沢から思いもよらない言葉がでてきた。


「夏樹もいるみたいなんだけど、高原君の名前出したら、高原君のことも誘ってよ、だって。どうかな?」


 その名前を聞いた瞬間、反射的に体が反応してがばっと自分でもすごい勢いで顔を上げた(なんて言ったって僕と御木本さんは磁石のS極とN極だからだ)。


「夏樹って……?」


「えっと、同じクラスの御木本ってわかるよね、御木本夏樹」


 おいおい、お前は馬鹿か! 知っているに決まってるじゃないか! 僕は何を隠そう何度も何度もその名前をノートに書いたり、僕の妄想の世界では妻になりかけているのだから。


「えっ? どうして御木本さんが?」


「僕と健人と、夏樹は家も近くてね、幼馴染ってやつなんだ。健人も夏樹もすごくいいやつだから良かったら一緒に行こうよ」


 突然のことに驚いていると「ね、行こう」とにこやかに微笑んで村沢が誘ってくる、御木本さんと、進藤という二大巨頭と仲が良いなんて急激にものすごい人物に見えてくる、偉人だ。


というよりも本当に神様である! あの御木本さんと僕をいきなり引き寄せてくれたんだから! 僕はあまりの出来事に漫画みたいにほっぺたをぎゅうっとつねってみると当然痛くてやっぱり夢じゃないんだ、本当にこんなラッキーな棚からぼたもちな出来事が起きるなんて! と、飛び跳ねたくなる気持ちを抑えて、僕はがくがくと上下に首を振り「いく、いく、いくよぉ!」と感動のあまり締まりのなくなった口からよだれを垂らしながら懇願するように返事をするものだから、さすがの神様村沢様も少し、というかかなり引き気味で「うん、わかったからよだれ拭いて、ほら」と僕にハンカチをくれた。


僕はそのハンカチでごしごし口を拭きながら、ふふこれでハンカチを借りるのは人生で二回目だ、そしてその一回目の人にこれから会えるんだ! と、興奮がとまらず、うひゃひゃと変な笑い声がでてしまう。悪の組織のボスがワハハハとわざとらしく笑う気持ちがわかったような気がする。人間、自分の欲望がかなう目の前までくると自然と笑ってしまうのだ。図書館にいる他の人たちからの冷ややかな目線を感じたがそんなのおかまいなしである。


「さぁ、さっそく行こうよ!」


 と、僕が爽やかに言い放つと、誘ったはいいものの何なんだこの人はと言わんばかりの目で「う、うん、行こう」と僕の勢いに圧倒されて、そう村沢は返事をした。


 図書館を出ると、夏の気候を含んだ風が、心地よくて、何とも言えないむずむずとした幸福感をまといながら、はっと気がついた、腋の下が臭いのだ。先ほど興奮しすぎて変な脇汗をたくさんかいてしまったのが原因だろう、こんな匂いのまま御木本さんに会っていいのだろうか!


「はい、これ」


 僕が自分の腋の下に鼻を思い切りつけて嗅いでいる姿に飽きれたのか、それとも単純な好意なのかはわからないが、村沢が制汗スプレーを貸してくれた。


「ありがとう、村沢君」


「夏はやっぱり汗が気になるよね、僕も汗かきなほうだからさ」


「本当にありがとう! さっそく使わせてもらうよ」


 僕はプシューっと霧のように体全身に吹きかけた。これで匂いの方は問題ない。


 それにしても、本当に素晴らしい男だ、村沢は! 僕と御木本さんが再会する最高の舞台を首尾よく整えてくれるなんて。これからお前のことを僕のマネージャーにしてやろう! なんて我ながら偉そうなことを考えながら、御木本さんの待つカラオケ屋に向かって二人で歩いていると、これまた話す話題がない。


考えてみれば村沢とはたしかに話したりする仲ではあるが、あまり長時間一緒に行動したことはない、これは僕のコミュニケーション能力の低さもあいまって当然話す内容が尽きる。村沢は「暑いねー」だとか適当に話はかけてくれているが僕が「うん、そうだね」と言ってそれっきりなのでまったく話が膨らまない。


気まずい沈黙がしばらく続きながらもカラオケ屋に到着した、「からおけ」と書かれている看板こそ日焼けして古ぼけてはいるものの、お店の設備自体は古くない、そのうえ学生に対して良心的な価格で営業しているためなかなか人気のカラオケ店だと聞いたことがある(聞いたことがあるというのは僕はカラオケに行ったことがあまりなく、当然このお店に入るのは初めてだからだ)。日焼けした古ぼけた看板とは正反対の女性がそこには立っていた。


「来た来た、遅いよー」


 御木本さんだ! うわっと思わず下を向いてしまう。可愛いのは重々承知だったつもりだが、こんなに可愛かったっけ……? そうだ私服だからだ、デニムのショートパンツに黒い半袖のTシャツ……活発そうなその服装は御木本さんにすごく似合っているし、なにより制服よりも露出度が高い……今すぐにでも妄想の世界にダイブしたい衝動に駆られてしまう……それに何だかすごく良い匂い……鼻で一呼吸する度に、あっあっと僕が喘ぎ声をあげてしまいそうなくらい官能的だ……なにこれ頭がクラクラする……ずっと嗅いでいたい匂い……香水なのかな……もし香水だったら買って一日中嗅いでいたい……やばい……本当に現実と想像ではぜんぜん違う……いったい僕が頭の中で思い浮かべていた御木本さんはなんだったんだ……すごすぎる……。


 クラクラしながらまた顔を上げて御木本さんの方を見ると、村沢は普通に御木本さんと話している。


「健人は?」


「先入って部屋で待ってるよ」


「夏樹も部屋で待ってればよかったのに」


「だってそれじゃどこの部屋かわかんないでしょ」


「電話なり、メールなりして聞いたよ、お店の人に聞いてもよかったし」


「もうどっちでもいいじゃない、健人が待ってるよ早く行こう」


僕がそんな二人のやり取りを呆然と見ていると、御木本さんが小さく手を上げて「高原君も、ほら。っていうかひさしぶりだね、元気?」


「お、おう」と、無駄にぶっきらぼうな感じで返事をしてしまった僕に対して優しく手を差し伸べてくれる。とんでもなく、動揺している。御木本さんの顔がまともに見れない。そんな自分の情けなさに嫌悪感を抱いた。顔くらいまともに見れないでどうする、写真のように自分の脳裏に御木本さんの姿を焼き付けるんだ。と僕は自分を奮い立たせた。そしてその写実的な光景をもって妄想に励むんだ!


 入店し、御木本さんに連れられて一一〇号室に入ると、そこにはあの進藤健人がいた。オレンジジュースをストローで吸いながらカラオケの選曲の端末をタッチペンでチコチコといじっていた。いかにも待ちくたびれたぞ、といった雰囲気だった。


「おーす、高原。てか早く歌おうぜ」と、村沢や御木本さんとは違う、いわゆる「僕より」ではない挨拶の仕方にいきなりたじろいでしまい、ここでもまた僕は「お、おう」と自分でも動揺しているのがまるわかりの返事しかできなかった、それにしても進藤健人も目の前で見るとやはりオーラがあり、まったく情けない話だが、顔を合わせただけで白旗をあげたくなるような気分になってしまう。


そんなグロッキーな僕に対して「高原はなに歌ったりするんだ? 最初に歌うか? てか普段なに聴いたりしてんの?」などと矢継ぎ早に質問ラッシュを食らわせてきたりするもんだから「あ、あぁ……まぁいろいろ……だよ」などとまたしても醜態を晒すような返答をしてしまう。そんな僕を見て飽きれたのかなんなのかはわからないが「あぁ、そう」と一言だけ言い放ち、また端末をいじりだした。


 部屋はカラオケ店の例に漏れず、あまり広くなくどこか少し煙草臭い。映像を映し出すテレビ画面が部屋の隅にあり、それと対面するようにちょうどアルファベットのL字型になるような席の配置をしている。


そのL字型の一番奥に進藤健人、その次に村沢、そして御木本さん、僕、という順番で座っている、なんと御木本さんの隣だ……ショートパンツから出ている生足がちらちらと目に入り、視線が定まらない。それにTシャツだと学校の制服よりも胸の膨らみが目立ち、そしてお尻も制服のスカートと違ってくっきりと形がわかるため、瞬きすらも惜しいこの状況下でいったいどこを見ればいいのかわからなくなってしまう……そして何よりも隣にいるため先程も感じた「良い香り」がガンガンに匂ってきて、なんとまぁ、僕は四人で来ているカラオケの個室の中で恥ずかしながら下半身が興奮してしまうことを禁じえなかった……。おそらく進藤健人も、村沢も、同じ状況だろう、頭の中ではもはやもうこれは乱交パーティーだ。


 そんなことを思っていると「じゃあ俺が一番に歌う」と言いながら進藤健人が立ち上がってマイクを持ち出した。馬鹿! お前そんな股間の状態で立ち上がるなんて……どうやらそれは杞憂だった、もししていたら立ち上がった瞬間にそれだと確認ができるはずだ! 僕がさして興味もない男の股間について無駄に想像していると、御木本さんが隣から端末を僕に差し出し、進藤健人が歌っているので声が聞こえないと思ってか耳元まで顔を近づけてきて「曲、入れていいよ」と話しかけてきた。


こくりと頷いて端末を触ってみるものの、あまりに顔が近づいて来たため、まだ心臓が大きく鳴っている。五感の内の聴覚、視覚、嗅覚、すべての満足度がメーターを振り切ってしまっている(できれば触覚、味覚のメーターも振り切らせてあげたいところだ!)いつもいつも妄想の世界で戯れていた人が目の前に、しかもこんなに近くにいるなんて、ここまで幸福なことが世の中に果たしてあるのだろうか、そして僕はそんな大好きな人がいる中で歌を歌うという行為が、ひどく恥ずかしくなってきて曲を選べずにいた。


進藤健人はどうして御木本さんの目の前で、たしかに決して下手ではないにせよ、上手いとは言えない歌声を披露することができるんだ! そうこうしている間にいつの間にか村沢も曲を入れていたみたいで、ここでもまた下手ではないが上手くもない歌を披露していた。おいおいお前ら揃いも揃ってどうせお前らも御木本さんに対して異性として興味があるんだろう、絶対にある、こんなに可愛い子をただの友達とは言わせない、狙っているんだ、いや、それとも進藤健人、お前は御木本さんと付き合っているのか? この可愛い子に対して好き勝手できる権利を持っているのか? いったいどうなんだ? 「僕側」の人間をあざ笑って「お前ら」側の人間は手に入れてしまうのか……? まさかお前は触覚も味覚も使って御木本さんを味わっているのか……! そうはさせない! 僕は村沢が歌い終わるのと同時に、


「ねぇ、喉かわいたよね? まずは飲み物頼まない? 御木本さんは何か飲む?」


 と、飲み物のメニューを差し出した。「俺はまだオレンジジュースあるからまだいいわ」と進藤健人がいの一番に言ってきたが誰もお前には聞いていない。


「たしかに外暑かったし、喉渇いたよね、ごめんね気が利かなくて」と御木本さんが申し訳なさそうに僕に言ってくるもんだから、僕はぶんぶんと首を振り「そんなことないよ、そんなことないよ、御木本さんもずっと外で待ってたんだよね? だから御木本さん喉かわいてるかなーって、ちょっと思っただけだから、ほ、ほら外暑いじゃん? だからさ、ぜんぜん、ぜんぜん気にしなくていいんだよ!」と、いきなり偉く饒舌に切り返してしまった。さすがの御木本さんもそんな僕に対して、あはは、と笑うしかなく、村沢も同じようにあはは、と笑い、進藤健人に関しては「お前、どうしたの?」と言ってきたりする。もう僕は顔が真っ赤だった。


「もう、高原君って面白いね。びっくりしちゃったよ」と、明らかに僕に対して気を遣ってくれている御木本さんの優しさが眩しい、本当に見た目もよければ中身も良い、天は二物を与えてしまった人間女性の中の傑作だ。「さーってと次は私が歌うよー」と言いながらマイクを握り、恥ずかしそうに照れ笑いする御木本さんは本当にかわいい。


シャカシャカと御木本さんの選曲した楽曲が流れ出した、これは高校生なら誰でも知っている有名女性歌手のヒットソングだ、女性の片思いの淡い恋心を綴ったややありがちな歌詞ではあるが、現代の若者たちにはそんなありがちイコール感情移入しやすいという点で受けているのだろう。どのような分野でも専門的な小難しい用語を並べたりした一般市民には理解しづらい文章は何の意味も持たない。


さて、そうこうしているうちに御木本さんの第一声が放たれた……その瞬間、たばこ臭いカラオケの一室の景色が、一瞬にしてあたり一面、美しい花畑になるのを感じた。ついでに妖精も見えたような気がした……、うまい! 御木本さんの歌声は非常に美しく人魚のような歌声だ。天は二物どころか、三物、四物と与えてしまったのかもしれない。歌が終わり、僕は思わず拍手をしてしまった。スタンディングオーベーションである。


「あはは、拍手なんて照れるって」と、歌う前よりも照れ笑いを浮かべている御木本さんのかわいさに思わずこちらも照れてしまっていると、村沢が「夏樹は本当に歌がうまいんだよ、前にお祭りのカラオケ大会で歌った時にスカウトにあったくらいだからね」と僕の目の前にマイクを置きながら言った。「次は高原君の番だよ」


「次、僕か……」上手い人の歌ったあとは気が引ける。どうしようなに歌おうと思いながら、先程村沢に褒められてまだ照れている御木本さんのスカウト話が気になり「スカウトうけてどうしたの?」と聞いた。御木本さんが仮に芸能デビューとなったら世の中とんでもないことになるだろう、古今東西様々なアイドルはいるものの僕の知る限りではナンバーワンである。


「断っちゃった、学校もあるし、楽しそうだけどね」


 と御木本さんは笑った。こんなにかわいいのにどうして常人以上に控えめになれるのだろうか?


「どうしてさ、御木本さんなら最高のアイドルになれるよ! こんなにかわいいんだから!」


 僕は自分でもほぼ無意識に、口に出してそんなことを言ってしまった。直球すぎるその発言に、僕は自分で言ったのにもかかわらずドキマギし、御木本さんも笑うしかなく反応に困っている様子。そんな空気の中「いいから早く歌えって、高原ー」と進藤健人があくびをする仕草をしながら言った、今回は進藤健人の生意気な言動もファインプレーと言えた、やはりちょっと空気が微妙な感じになりそうだった、そういう空気も鋭敏に察してがゆえのイケメンなのだろう、やはり進藤健人、こいつはやる男だ。


僕がライバル意識丸出しの視線で進藤健人を見ていると「なんでもいいから入れろってー」とさらに追撃してくるので、うるせーなと思いながらチコチコと端末をいじりだした。しかし、この選曲というのが難しい、なぜならば僕は最初に言ったとおりカラオケにほとんど行ったことがない。当然練習している歌なんてものはないし、そもそも歌いたい曲もない、一体カラオケに何しに来たんだよという状態だが、ここは歌わねばならないだろう。このまま「いやー、曲決まんないから先歌っていいよ」などと言おうものならばおそらく永遠と順番が回ってこない、そしてジュースを吸いながら愛想笑いして時間を過ごすことになってしまうだろう。正直僕はそれでもいいのだが、御木本さんの目の前でその状況になるのはどう考えてもプラスには働かないと思われる、ここは絶対に歌わねば。


「高原君、うまいへたは関係なく、好きな歌を歌えばいいんだよ」


 村沢はそんなアドバイスみたいなものをくれたが、うまいへたは今の僕にとってすごく重要な問題だ……そうだ、うまいへたと言えば練習、あるじゃないか、何度も練習してきた歌が!


「先歌うぞー」と、進藤健人が端末に手を伸ばしてきた、僕はそれをひょいっと避けて、お前に先に歌わせてたまるものかという意気込みで曲を選曲した。僕はこの曲を小学校、中学校と歌い続けてきた、練習なら万全だ。




♪~~モルダウ~~♪




 村沢は僕が歌い終えると拍手をしながら笑いをこらえているようだった。御木本さんも同じような表情をしていた。進藤健人に関しては完全に笑っていた。


「一体なんなんだよその選曲は」と進藤健人はげらげら笑ってくる、なんと失礼なやつだろう。


「でも、なんだかなつかしい気持ちになったよ、合唱コンクールでよく歌ったよね? それにしても高原君ってほんとに面白いよね」そう言って御木本さんがモルダウを僕の真似をして歌いだしている姿は本当にかわいい。熱唱した甲斐があったというものだ。


さてそんなこんなで結局僕はそのモルダウを最後にそれ以降歌う機会はなく、結局順番が回ってこないという想定していた良くないパターンを味わったわけだが、妄想の中でしか会えなかった御木本さんとずっとカラオケを一緒に楽しめたわけで、それは僕にとってとんでもない幸福だった。「目の見える人間は、見えるという幸福を知らずにいる」進藤健人、お前にはこの幸福がわかるまい。


「高原君、連絡先教えてよ」


 帰り支度をしていると、御木本さんが携帯電話を差し出してきた。夢にまで見た連絡先交換だ! 僕があまりに唐突に夢のような出来事が次々と起こるのであわあわしていると、「俺も教えてくれよ、高原とまともに話したの今日初めてだったな、まぁ楽しかったぜ」  


 そう言って進藤健人も携帯電話を差し出してくる。なんだなかなか良い奴じゃないか、進藤健人。と、なんだか騙されそうになったが、こいつは御木本さんをめぐっての恋敵であることは変わらない事実であり、忘れてはならない。村沢は僕が二人と連絡先を交換している姿を見て、にこにこしていた。にこにこするのも無理はない、自分で言うのもなんだが、これは非常に微笑ましい光景だ。


「二人と高原君が仲良くなってくれると、僕もうれしいよ」


「ああ、純はなんか、高原と結構話したことあるんだっけか」


「うん、結構仲良くしてもらってるよ」村沢がそんな風に言ってくれることが素直に嬉しい。そこに御木本さんも入ってきて、


「私も村沢君とちょこちょこ話すよね、席近いし!」と笑顔を振りまいてくれる。


「なんだ? じゃあ俺だけか、高原とあんま話したことないのって」


「やーい、健人の仲間はずれー」と御木本さんが進藤健人のことを茶化すと、「なんだとー」と、進藤健人も笑った。


そんなやり取りの後、僕は二人の連絡先を手に入れ、住んでいる方向が僕だけ違うため、カラオケ屋を出て三人とはすぐ別れた。三人とも南部地区に住んでいるみたいで、きっとお祭りも三人で来ていたのだろう。御木本さんが「バイバイまたね」と言って小さく手を振った姿を目に焼きつけ、それを思い出しながら僕は帰路についた。


なんだか色んなことがいきなり起こりすぎて疲れた、空は日が長いとはいえ、もう少しで日が落ちそうになっており、オレンジ色が視界いっぱいに広がってくる。昼間のような馬鹿みたいな暑さはなく、ちょっとした空気の生暖かさが、ちょうど良くてお風呂に入っているように心地よい。そうだ、今日は久しぶりに浴槽にちゃんと入ろう、ここ最近シャワーで済ましていたもんな。


 僕が家に着くなりいつも以上に爽やかな「ただいまー」を言い放つものだから母親もふんふん私の息子はなにやら今日は良いことがあったのかもしれないな、と言わんばかりに、「おかえりなさい」とこれまたいつも以上の爽やかさで返事をしてくれた。今日という一日をより一層ハッピーにしてくれるやり取りだ。


「今日はなんか良い事あったの?」


「まぁそれなりにね」


「あらま、珍しい」


「べ、別に珍しくなんてないよ」


僕は母さんの作ってくれたおいしい夕食をいただいた後、帰りの最中決意した通り、いつもはシャワーで済ませてしまっているお風呂を今日はちゃんと浴槽に顔までつかってぶくぶくと口であぶくを出しながら、激動の今日一日を思い返していた。うーむ、考えれば考えるほど今日一日の出来事が信じられない、話を整理しよう、今日僕はほんの少し交流のあった村沢に誘われて図書館に行った……、そしたらなんとあの地味な「僕より」の村沢が御木本さんと交流があって、というより幼馴染で仲が良かった……おまけにあの進藤健人も村沢の幼馴染で……まぁとにかくそんな村沢の人脈もあって今日幼馴染三人組プラス僕でカラオケに行けたわけだ……僕はぶくぶくさせながら頭の先までお湯の中に沈んであらためて今日目に焼き付けてきた御木本さんを思い出してみた、やっぱり可愛かった……僕はこの何日間かずっと僕の世界の中の御木本さんと毎日のように顔を合わせ、話をして、笑いあってきた……、しかし、本物の御木本さんは信じられらないくらい妄想のものとは次元が違って、僕の思っているよりもずっとずっと可愛かった……そんな、御木本さんのことを、この僕なんかが、好き……? 一瞬でももしかしたら付き合えるんじゃないのかと僕は思っていた……一体僕は何を考えていたんだ?……会えるかもわからないお祭りにわざわざ行ったり……まるでただのストーカーじゃないか……御木本さんにとって僕なんかはただのその他大勢の男の一人に過ぎないんだ……現実を見ろ! 御木本さんどころか……僕は今まで一度たりとも女の子と付き合ったことなんかないんだぞ……付き合う? それどころか僕は……まともに女性と話したことすらもないじゃないか……現実を見ろ……現実を見ろ……望むな……「僕側」の人間は、自分で手に入るものだけで満足しなくてはいけないんだ……考えるな……そうだ何も変わらないさ……僕は今まで通り、自分という人間をよく自覚し……ただただ何も考えずに生きていけばいいだけの話だ……そうだ……冷静になれ……最初からなにもなかったんだ……好きとか付き合いたいじゃない……クラスにいる可愛い女の子……その子のことを考えてにやにやする……なんだ自然なことじゃないか……それだけだったら僕だけじゃない……おそらくみんながしていることなんじゃないか?……そうだ、僕はその程度でいいんだ……何も考えるな……何も考えるな……。


 息が続かなくなり、僕はまたぶくぶくと泡を出しながらお湯の中から浮上した、のぼせているのか頭がくらくらする。


僕は浴室から出た、体をタオルで拭きながら、ふと鏡に映っている自分自身の顔を見てみる……ぶさいくだな、進藤健人を間近で見たこともあってか自分の醜さがより一層わかった、これじゃあ生まれてこのかたまともに女の子と話していなくても仕方がない、だって女の子が僕となんか話したくないだろう。


最近の中では一番冷静な思考になっている、もともと僕の思考はこんな感じだったのだろうか、いやこんな感じだったのだろう、そうだ僕はこんな感じでいいんだ。のぼせた影響でとても喉が渇いている、寝巻きのスウェットを着てリビングの冷蔵庫に向かった、中には僕が買って着てあるコーラが入っている、僕はそのコーラをぐいっと飲んで、喉の渇きを癒すと、そうだ今日はちょっと勉強をしてみるかと思い立って二階にある自分の部屋に向かった。さてと、と自分の勉強机に腰を下ろすと携帯電話が何やら光っている。メールの受信か電話の着信があった合図である。僕は携帯電話に手を伸ばすと、メールが二件来ていた。村沢と御木本さんだった。


 村沢のメールは今日は楽しかったよありがとう、といった感じの当たり障りのない内容であったので割愛する。それよりも御木本さんのメールだ。




「今日はありがとう(顔文字)初めて遊べて嬉しかったし、楽しかったよ(顔文字)夏休みはまだまだ時間あるからまた遊びたいな(顔文字)またこっちからも連絡するけど、高原君からも連絡ちょうだいね(顔文字)じゃあまたね~」




 読み終わって僕ははぁっと溜め息をついた、何でだろう、さっきもう御木本さんのことを考えないって決めたばかりなのにもう頭の中が御木本さんのことばかりになってしまっている。このメールの文章はどんな文豪の書いた文章よりも僕の気持ちを動かした。我ながら馬鹿である、おめでたい頭だ、こんなメール一通ごときでどうして僕はすぐにさっき捨てたばかりの期待の感覚をゴミ箱から漁り出してまた大事に懐にしまってしまうのだろう、変に冷静になっている自分と、冷静になれない自分がいるのを感じる。


 ふと、今日嗅いだ御木本さんの良い匂いを思い出した。僕はそれを引き金として妄想の世界に駆け込んだ。


「おかえり」


 そう言って出迎えてくれた御木本さん姿は今日実物を見たせいか、いつも以上にリアルで、僕はそんな御木本さんを抱きしめながら眠りに落ちていくのだった。





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