転生人生の始まり。
転生初日。
僕は目を覚ました。心地よいベッドの上だった。
少しの間、微睡んでいようと思ったが急速に頭の中がクリアになっていく。
すぐに起きて動けそうだ。いつもなら起きるまでに少し時間がかかるのに。
すると、目覚まし時計が鳴った。止めた。目覚ましが鳴る前に目が覚めるのは僕にしては珍しい。
そして思い出す。
握手会のピンチと夢の中での転生の話。
「まあ、馬鹿な夢を見たもんだ」
苦笑して僕は半身を起こした。
驚いた。
自分の部屋では無かった。だが、僕はこの部屋を知っていた。何年も住んでいる。
記憶が2つある。僕は転生の意味を理解した。以前の僕の記憶と今の僕の記憶が混在しているのだ。どちらの人生も思い出すことが出来る。
とりあえずシャワーを浴びることにした。
パジャマを脱いで全裸でシャワールームへ。
そこで僕は凍り付いた。
鏡に今の僕の姿が映っている。
中年、髪が薄い、腹が出ている…。
僕は死んだ時には30代前半の169cmの59kg、ウエストは73cmだった。
今は身長175cmくらい、中年太り、禿げかけ…。歳は40くらいだろう。
目眩がした。
転生の話が出たときにもっと要望を言えば良かった。
今更後悔しても遅い。僕は深い溜め息をついてシャワールームに入った。
シャワーから出るとスーツに着替えて家を出た。
仕事の内容は頭に入っている。今日の仕事も頭に入っている。
車に乗った。人気でよく見かける乗用車。ボディーガードや探偵は目立たない車がいい。
20分ほど走って、高級マンションの下に停める。
彼女はすぐにやってきた。僕の車に乗り込む。
彼女はレイナ。僕が大好きな超売れっ子アニソンシンガーだ。僕は彼女の大ファンだ。というよりも愛している。
「おはようございます」
「おはようございます」
「まずはTV局ですね」
「はい、お願いします」
仕事モードに入っているから雑談をしたいのに話題が思いつかない。
僕は彼女ともっと親しくなりたい。
「最近、怖いと思うこととか無いですか?」
ようやく話しかけることが出来た。
「ええ、神崎さん達が守ってくれているから安心しています」
「それなら良かったです」
ちなみにレイナは20代前半だ。今の僕は40代。叶わぬ恋だと思い知った。
転生する前に設定について細かく確認しておけば良かった。また腹が立ってきた。
「でも、まだ手紙やメールは沢山届いているんですよね」
「収まりつつありますよ」
彼女を安心させる方向で話した。
「私のSNSへの攻撃は収まっていませんけど」
「もう少しの辛抱でしょう」
「そうですね」
彼女の声はとても小さい。か細くて消え入りそうだ。そこがかわいい。
「それに、いざとなれば私がレイナ様をお守りします。何があっても、命に代えても」
「ありがとうございます」
僕は幸せな気分だった。
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