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一角獣はアセクシュアル  作者: Locoxxxx
8/23

プッシャー

モイラは頼りない足取りで人混みをかき分けて、フロア後方へ移動した。ムネチカもあとを追う。

アルバイトの経験すらないムネチカにとって、ドラッグをさばくことなど、想像もつかない。


二人が壁際で佇んでいると、すぐに女がやってきた。

メッシュのブロンドに、ボディラインがくっきりと映えるキャミソールとパンツを履いている。


「アシッドある?」女が訊いた。


「十ポンド」けだるそうだが、明るい口調でモイラは答えた。


女は札をモイラに手渡し、代わりに切手サイズの小さな紙をうけとると、人混みへと消えていった。

その後も数分おきに、エクスタシーは?ケタミンは?と、さまざまな連中がやって来ては、欲しいブツを得て去っていく。


ムネチカはウェストポーチを。モイラが値段の交渉を担った。

どうやらモイラは相手を見て値段を上げ下げしているようだった。

手慣れている。

モイラから渡された金をウェストポーチに突っ込みながらムネチカは、ふと尋ねてみたくなった。


「これが本業?」


モイラは壁に投影されているVJ映像に見入ったまま黙り込んでいる。まるでこちらの問いなど聞こえていないかのように。

しばらくして、ムネチカのほうへ視線を移すと、しぐさで近くに来てと言った。

ムネチカは聞き逃すまいと、モイラの肩に寄りそった。


「あたしの本業は売り。男娼」


(ダンショウ……)


ムネチカはその言葉を頭の中で繰り返した。

なぜか急にモイラがとても遠くにいるような気がして、たしかめるように横顔を見た。

しかし、先ほどのキスの感触がよみがえり、また視線を逸らした。


二人の間に空白の時間が流れた。


ムネチカは思い切って切り出した。


「身体を売ってまで、お金が必要なの?」言った瞬間、失言だったと後悔した。


「あたしには必要なの」モイラは平然と、フロアで踊る人たちを見ている。


「モイラはさ、男として接してもらいたいの?女として接してもらいたいの?」


 モイラはうんざりしたように首を横にふった。

「その質問、マジで聞き飽きてんの。ていうか、キミ、おとなしそうな顔してけっこうズケズケ訊くんだね」


「ごめん」


モイラは大きく息を吐くと、その場にしゃがみ込んだ。


「あたし、生まれてこのかた、ずっと迷ってるんだ。見た目がこんなだっていうのもあるけど。自分のアタマの中がわからないの。おちんちんもいらないし、おっぱいもいらないの。ほんとうに何にもいらないの。ごめんね、わけわかんないよね」


(それってなんていうんだっけ)


中性?

無性?

恋愛対象は?

質問が次から次へと湧いてきたが、ムネチカは口を閉ざした。


こんなに綺麗なのに。

なんて悩み深い人なのだろう。

ムネチカは、モイラを哀れに思ってしまった。

そして、そんな自分が嫌だった。


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