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一角獣はアセクシュアル  作者: Locoxxxx
7/23

青髪のエイプリル

四肢に不思議な感覚がみなぎっている。周りの空気がトロリと皮膚にまとわりつく。音が光の粒となってキラキラと視界に飛びこんで来る。


冷蔵庫ほどもある巨大なスピーカーの真ん前。腹の底から突き上げるような大音量。ズンズンと全身を震わせるビートに合わせてモイラが踊っていた。


笑顔が汗で光っている。


ムネチカは壁際にもたれたまま、それをボーッと眺めていた。

フラッシュする照明に合わせて、モイラの表情はくるくると変わっていった。

アジア系とウクライナの混血だというモイラは、文字通り性別不明な容姿をしている。

女であり、男でもある。


「変な感じ」と呟いた次の瞬間、スネに激痛が走った。

思わず顔をしかめたムネチカの耳をグイっと捻り上げて、誰かが怒鳴った。


「あんた何者?」


よろめきながら顔を左に向けると、背の高い女がこちらを睨みつけている。


「あんた、あいつとどういう関係?」


「あいつ?」ムネチカは面食らった。


「オカマ野郎よ、オ・カ・マ!」女はモイラを指差していた。


(モイラがオカマ?何いってるんだこの人)


ムネチカの意識は、ドラッグと爆音響くこの空間にすっかり歪められていた。

喚いている女の細い両腕にはタトゥがみえる。背が高く、腕と脚がばかに長い。

髪が青く、まるで異星人か何かを目の前にしたような恐怖すら覚えた。


ムネチカはヨロヨロと立ち上がると、人混みをかき分け、逃げるようにしてモイラの元へ向かった。

一歩踏み出すごとに、さっきまでの明るい気分が失せていく。


「モイラ!ねえ、モイラ!」


反応がない。瞳を半ば閉じたままモイラは踊り続けている。ドラッグのせいだろうか。


「オイコラ、てめー、話はまだ終わってねーんだよ!」


襟ぐりをグイと引っ張られ、ムネチカはうしろへよろめいた。さっきのデカ女がもう追いついてきていた。


「テメえ、殺されたいのかよ!」デカ女が喚いたとき、突然キーモが二人の間に割って入った。


「いい加減にしろ、エイプリル!」


大きな手が二人を引き離す。

キーモは暴れるエイプリルをひょいと担ぎ上げ、さっさとフロアを出て行った。


ムネチカが呆然とつっ立ったっていると、モイラの両腕がシュルシュルと蛇のように首に巻きついてきた。


汗と香水の混じった、青い若葉のような匂い。


うつろな瞳のモイラが、耳元でささやいた。


「ブツさばかなきゃ」


吐息がくすぐったい。


「お手伝いよろしく、学生さん」


そういってムネチカに向きなおると、両手で頬を優しく包み込むようにして、モイラが突然キスをした。

プルンとした、柔らかな感触だった。


ハヤカワムネチカ。


十七歳。


ファーストキスだった。



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