人の子は拾っちゃいけません、特に男の子
※微エロに感じるかもです!
要注意!
※悪役令嬢ものではありません
昔、師匠だった魔女が言っていた。
人間の子は拾っちゃいけない。
特に男の子はダメだよ。
いつか食べられてしまうから。
本当に、今、まさに食べられてしまいそうです師匠……。
ツェリーナはギュッと瞼を閉じた。
(師匠……言いつけを破ってごめんなさい。ツェリは今食べられちゃいそうです)
☆☆☆☆☆
今から15年前、東の山奥に住む魔女ツェリーナの家の扉を叩いた双子の兄妹がいた。
兄はヘーゼル、妹はグレンと言っていた。
二人は口減らしのために東の山に捨てられ、そして彷徨いあるくうちに魔女ツェリーナの家にたどり着いたのだった。
「僕たちをここに住まわせてください。何でもします」
そう、ボロ雑巾の様な体の小さな男の子が口を開けば、同じくボロ雑巾の様な小さな女の子がお願いしますと口を開き頭を下げてきた。
それに魔女であり、東の山の一軒家の主人であるツェリーナが同情してしまったのが行けなかったと今なら思う。
しかし、ボロ雑巾のような5歳になったばかりの子供をまた山奥へ追い返すほどツェリーナの心は冷たくはなかった。
「いいよ、それなら小間使いとしてお前らを住まわせてやろう」
そう言ってツェリーナは双子を受け入れた。
本来なら人ならざる魔女は人を飼っては行けなかった。
師匠である先代魔女からは人間は魔女を食べるから気をつけなさいと教えられてきたが、ツェリーナはあの頃の双子にはツェリーナを食べる事が出来ないと高をくくっていたのもある。
それから10年、15才になったグレンはとても美しい女の子になった。
そして、山に迷い込んだ辺境男爵と恋に落ち、ヘーゼルとツェリーナに別れをつげ家を出た。
それに伴いヘーゼルにも家を出て行くことを打診したものの、ヘーゼルはここに残るとツェリーナに言ってきた。
(小間使いがいないと不便か?)
そう思い、ツェリーナはヘーゼルの居残りを許したのだが、それから更に5年立ち。
ツェリーナはヘーゼルに食べられそうになっていた。
今までの恩を忘れ、ヘーゼルは突如ツェリーナに襲いかかってきたのだ。
「ねえ……ツェリ? ツェリ?」
20歳になったヘーゼルは可愛らしい小鳥のようだった声から、何時の間にか低く太くなっている。そんなヘーゼルはツェリーナの耳元でそっと囁く。
(やめて、そんな声で耳元で囁かないで)
ヘーゼルの声はツェリーナを縛り上げる。
(この子は何時の間にか魔法が使えるようになったのかしら?)
ボンヤリとツェリーナは考えようとすると、再びヘーゼルの声で思考を止められる。
「ツェリってば、こっちを見て」
囁きつつ耳朶を甘噛みされればツェリーナは思わず自分の物ではないような声を零してしまう。
「や、やめてヘーゼル。いま、いままで育ててあげたのに……」
若干の涙を帯びたピンクの目で、何時の間にかツェリーナを超して高くなったヘーゼルと向かい合う形で彼を見上げる。
「そうだよ。ツェリ……、ツェリには凄い感謝してるよ?」
甘い甘いチョコレートのような茶色の目がツェリーナを蕩けさせるように見つめてきた。
「っ……だったら……、はな、し、て……」
ツェリーナはヘーゼルの腕の中で抱きかかえられていた。
それが、不覚にも襲われているのに心地よいと感じてしまい眩暈を覚える。
「……ふぅん。ツェリーナ様ははなれたいんだぁ」
チョコレートの瞳はイタズラ気に細められ、何時の間にか太くたくましくなった腕はツェリーナからあっさり離れてしまおうとする。
「!!やっ!」
急に解放されれば、それはそれで
今度はツェリーナの心臓が締め付けられて痛い。
(こんなに心臓が痛くなるなら、まだ腕や声で縛られてた方がいい……)
ツェリーナは解放されてしまった自分の体を、自分で抱きしめて見たけれど心臓は締め付けられたままだ。
「ねぇ、そんな顔して……離れたら嫌なの? ツェリーナ様が、離れて欲しいんだよね?」
心臓を締め付けられて苦しむツェリーナの顔を未だイタズラ気に輝かせてヘーゼルが覗き込んできた。
「……ち、違、う。」
言葉も絶え絶えツェリーナが答えれば、満足げにヘーゼルは微笑む。
「じゃあ、ツェリーナ様はどうして欲しいの? 教えて?」
(なんて意地悪なんだろう。こんな子だったっけ?)
「うー……」
(察してよ……)
チロリとヘーゼルを見れば、ヘーゼルは何食わぬ顔ですでに腕組みをしていた。
「ツェリーナ様?」
(だいたいさっきから呼び方もわざとらしい)
ヘーゼルはグレンが出ていってしばらくしてからツェリーナの許しを得て愛称であるツェリと呼んでいた。
それなのに、今はわざとらしく『様』迄つけてよそよそしい呼び方に戻している。
(何よ……何なのよ。バカ)
いきなり襲ってきたかと思えば、わざとらしく離してきて、とツェリーナは頬を膨らました。
「……もう、知らない。ヘーゼルなんて嫌い」
プイッとそっぽを向けば、ヘーゼルはクスクスと笑い出した。
「……笑わないでよ」
横を向きながらツェリーナが呟けば、ヘーゼルの両手が優しくツェリーナの両頬を掴む。
男らしい大きな手が頬に触れれば、その温もりから安心感と羞恥心がこみ上げる。
「ツェリ……可愛い」
その手は力強くツェリーナをヘーゼルに向き合わせるように導いた。
「可愛いけど、ツェリ……ちゃんと抱きしめてって言って欲しいな? ツェリの口から聞きたい」
甘い甘いチョコレートの瞳がツェリーナを捉えて離さない。
「~~っ! わかったわよ! もう!」
離さないでよバカ
小さな小さな声で俯きながら言えば、やはりクスクスと笑いながらヘーゼルはツェリーナを抱きしめた。
「よく出来ました」
ツェリーナの耳元で再び囁かれ、また耳朶を甘噛みされた。
真っ赤な顔で、そんなこと頼んでないと声にならない声で抗議すれば、仕返しと返ってきた。
「ツェリ、さっきグレンの旦那と笑いながら話してたじゃん。しかも、手まで触ってたし」
しかもそのあと、グレンの子供にまで抱き付かれてたじゃんと今度はヘーゼルが頬を膨らましていた。
「ツェリが他の男と触れあうあれ、結構嫌なんですけど」
腹立ったから、だから仕返しとヘーゼルはツェリーナの首筋に今度は顔を埋めた。
「あ、あれは! グレンの育ての親として挨拶だし、グレンが産んだ男の子だって私の孫みたいなものだし!」
「でも男だし、嫌なの。ツェリには俺がいるでしょ?」
それとこれは違うんでないかい? と抗議の声を上げようとすればそれを許さないようにヘーゼルはツェリーナの口を塞ぎ酸素を奪った。
今日は久しぶりにグレンがツェリーナを旦那と子供を連れて訪ねて来てくれた。
だからツェリーナはそれを迎えただけなのに。
帰り際グレンをよろしくと、グレンの旦那に薬と薬草を渡したときに間違って手が触れてしまったそれだけなのに。
ツェリーナを気に入ったグレンの5歳の子供がツェリーナと遊びたがって抱き付いてきたのを許しただけなのに。
ヘーゼルは気に入らなかったらしい。
「ん……、んん」
角度を変えながらもそれは繰り返され、ツェリーナの頭は段々ボーッとしてきて、手足に力が入らなくなってきた。
「……っ。ツェリ、その顔……俺以外に見せないでね」
やっと唇は解放され、ツェリーナは酸素を吸うことを許される。
でも、力が抜けかかった手足に力を込めるのは難しくヘーゼルに抱き留められている形になってしまっている。
「……ツェリ。ゴメンね」
相変わらずツェリーナがヘーゼルに抱き留められている形のままでいると、ヘーゼルは呟きツェリーナを横抱きにしなおした。
「へ? え? え?」
今何をされているのかわからず、ツェリーナはヘーゼルにされるがまま寝室に運ばれてベッドに下ろされた。
「へ? ヘーゼル?」
え? あ、あの……ここ、私の寝室……。
ツェリーナが訳がわからず狼狽えていると、先程まで甘いチョコレートの瞳だったものがギラつく狼のような瞳に変わっていた。
「ゴメンねツェリ。ツェリが可愛すぎるのが悪いんだよ」
ポスンとヘーゼルにおされ、ツェリーナはベッドに倒されその上にヘーゼルは覆い被さる。
「ヘーゼル?」
不安そうにそっとヘーゼルを見つめれば、ヘーゼルはツェリーナの柔らかいシルバーの髪を一房握りキスをした。
「……ツェリを食べたい。ゴメン、もう我慢できない」
優しく呟くように言ったヘーゼルの言葉は突然組み敷かれ不安なのに、何故かツェリーナの体を疼かせ熱を持たせる。
「ツェリ……ツェリが好きだよ。愛してる。だからどんな男でも他の男にツェリを触らせないで」
ツェリを触れるのは俺だけにして。
そっと首筋に顔を埋めながら囁かれるヘーゼルの言葉がまたツェリーナの心を心地よく縛る。
「ヘーゼル……」
ツェリーナの呟きと共にツェリーナの体に心地良い刺激が染み渡る。
昔、師匠だった魔女が言っていた。
人間の子は拾っちゃいけない。
特に男の子はダメだよ。
いつか食べられてしまうから。
確かに。
人の男は魔女を食べるのかも知れないとツェリーナは思った。
それでも、拾ったのがヘーゼル達で、食べられるのがヘーゼルならそれはそれで良いかも知れないとツェリーナはおもってしまった。