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もしもラプンツェルの魔女が実は男だったなら

 昔むかし有るところに長年不妊で悩んでいた1組の夫婦が居ました。その夫婦は最近やっと念願の子供を授かり喜びに包まれていました。

 そんなある日、お嫁さんはいいました。

「あぁ、芽キャベツがどうしても食べたい」

 しかし、お嫁さんが指す芽キャベツは人々が恐れる魔女の畑にしかありません。

 諦めるよう旦那さんは説得しましたが、お嫁さんは諦めきれずとうとう病気になってしまいました。

 このままでは母子ともに危険な状態です。

 そこで旦那さんは魔女にお願いに行きました。

「どうか貴方様の畑の芽キャベツを恵んでください」

 すると魔女はいいました。

「いいよ。その代わり生まれて来る子が女の子なら貰うよ」

 旦那さんは、お嫁さんに内緒で取引をして芽キャベツを譲り受けました。

 なにも知らないお嫁さんは芽キャベツを食べみるみる元気になり、ほどなくしてかわいらしい女の子を産みました。

 そして、女の子が生まれた日に魔女は女の子を約束通り引き取り棟の上に閉じ込め暮らしました。



 そこまで読み上げ少女はパタンと本を閉じた。

「ん?ツェル?もう読まないの?」

 自身の膝の上に座り、読んでいた本を閉じた少女に優しい瞳で少女よりいくらか年上の青年は話しかけた。

「うん、だってこのお話だと棟に閉じ込められたラプンツェルは赤ちゃんの頃から愛情をもって育ててくれた魔女を捨ててどこかの王子と逃げるじゃない」

「うん、そうだね」

  青年は少女の金色に輝く長い髪を優しく梳かす。

「それって、どうなの?確かに産みの親から引き離すのはいかがなものかとおもうし、棟の上に幽閉とか変態だと思うけど。それでも魔女は赤ちゃんの頃からちゃんと16歳になるまで育ててくれた訳じゃない。それをお礼もなしに悪役にしてにげるとかあり得ない」


 話ながらプリプリと怒り頬を膨らませる少女に青年は笑いを噛み殺す。

「それに、一番納得が行かないのが畑の持ち主やラプンツェルを育てたのが魔女な事よ!」

 少女の言葉に笑いをこらえきれなかった青年がついに吹き出す。

「くっ、あははは!仕方ないよ。僕凄い綺麗だから間違われやすいんだよ」

「もう!フランツったら!笑ってる場合じゃないのよ!こんなにデタラメかかれて怒らないと!」

「いや、だってあんまりにもツェルが可愛いから!」


 フランツと呼ばれた青年は尚も笑い続ける。

 確かにフランツの顔立ちは整っている。一言で言うなれば、美女とも美少女ともとれる容姿だ。

 光輝くつやつやした長い黒髪を肩にのせ、スラリとした手足にやや高い身長。

 長い睫に切れ長の黒曜石を思わせる瞳。

 色白の肌。


 魔法使いはあまり年を取らない。

 そう言われるだけあってフランツの年齢は見た目ではわからない。また、あまりの美しさに一見魔女と言われても納得できるだろう。

 だからだろう。ラプンツェルの誕生について人づてに聞いたであろうこの本の筆者はこんな出鱈目な話を作り上げてしまった。挙句その話は民衆に瞬く間に広がり、こうして話の張本人の目の届くところにまで売られるようになっていた。


「さて、可愛い僕のラプンツェル。髪の毛は整ったよ」

 はいどうぞとフランツは彼の膝の上に座っていたラプンツェルを下ろす。

「ん、ありがとうフランツ」

 お礼を言うとラプンツェルはクルリと回りフランツに可愛い?と首を傾げて問うた。

 その姿を見てフランツは目を細める。




 ―――16年前。

 確かにフランツは1組の気の良い夫婦に懇願され畑の芽キャベツを夫婦に分け与えた。

 ただし、特に条件はつけず。


 しかし、それにとても感謝した夫婦は無事に子供が生まれるとフランツに感謝の念を込めて産まれた女の子に芽キャベツを意味するラプンツェルと名付け会わせに来てくれたのだ。


 その子がまた、目映いばかりに美しくて愛らしくて。

 女の子があまりにも可愛すぎて、フランツはとても嬉しく思い、その夫婦にお祝いと称して芽キャベツ畑のある棟をプレゼントしたのだ。

 すると夫婦はとても感激し、フランツに是非女の子を将来のお嫁さんにとってほしいと懇願し、挙げ句女の子がフランツ以外を好きにならないように棟に閉じ込めてしまったのだ。

 これにはさすがにフランツも責任を感じて、将来ラプンツェルを必ず娶るので棟から出してあげてほしいと逆に懇願する羽目になってしまった。


 そんな右往左往があり、現在フランツとラプンツェルはその夫婦が管理する芽キャベツ畑の中の棟に暮らしていた。



「んー、でもさフランツ。もしもこの本みたいに、よその男が私を好きになってこの棟まで登って私を連れていこうとしたらどうする?」

 ラプンツェルはフランツの唇にその可愛らしく柔らかで滑らかな指を沿わす。

 それはまるでフランツを誘ってるが如く動く。

「そんなの、その男を捻り潰すだけだよ」

 相変わらずの優しい笑みを携えながらフランツはさらりと言ってのける。

「捻り……いや、フランツ」

「んー捻り潰すだけで足りるかな?どうしよう、もっとアレかな。僕のラプンツェルを見たこと自体後悔させないとだよね?」

 両目抉っちゃう?

 あーでもやっぱりもっと……と段々背景が黒くなっていくフランツをあわててラプンツェルが止める。

「ごめん、ごめんなさい。私が怖いこと聞いたのが悪かったです、すいません」


 フランツは腐っても魔法使い。

 ラプンツェルは密かに冷や汗をぬぐう。

 それでも彼はラプンツェルにとって愛すべき人だ。


 それよりもツェル?とフランツはラプンツェルを優しく呼ぶ。

「ツェルもその本の主人公みたいに僕を置いて逃げる?」


 分かってて答えを聞いてくるフランツは意地悪だとラプンツェルは再び頬を膨らませた。

(意地悪は意地悪で仕返しよ)


「そうね、フランツよりも優しくて、フランツよりもイケメンでフランツよりも私を愛してくれるなら逃げちゃうかも」

(さてフランツはどんな反応を返してくるかしら)

 チラリとラプンツェルはフランツを見て、後悔した。


「そう……ツェルは男によっては僕から逃げるんだ……」

 フランツの瞳はゾクリとするほど妖艶に細められ、なのに先ほどまで優しいまなざしをくれていた瞳とは思えないほど見るものを凍てつかせるかのように冷たい。

「え、あ、やっ……その」

「ツェル?僕はこんなにもツェルを愛して大事にしてるし、僕以上にツェルを大切にできる男はいないよ?それなのに僕から君は場合によっては逃げちゃうの?」


 先ほどまでラプンツェルが読んでいた本はフランツによって取り上げられ、一瞬にして灰になる。

「こんな本が君にそんな不埒な考えをもたらすのかな?」

 にっこり笑ったフランツはいそいそとマントを取りにラプンツェルから離れる。

「え?フ、フランツ?」

 どこに行くの?

 不安になったラプンツェルがフランツに声をかけると、フランツは先ほどの表情を顔に張り付けたまま答える。

「ん、ちょっとこの本の原作者と出版社と販売者と販売されている街を消してくるね」

 そうすれば二度とツェルがおかしな事考えなくなるし、万が一にもツェルを探しに来ようとする輩もいなくなるでしょ?

「ああ、そうそう。ツェルのご両親には恩を感じてるけど噂にならないようにちょっと口留めもさせてもらってくるね」


 そう言って魔法を詠唱し始めるフランツをラプンツェルは慌てて血相を変えて止める。

「ちょ、っちょっと待ってえフランツ!」

「ん?止めないでよ僕のラプンツェル。すぐ終わるから」

「いやいやいやいや終わらせないで!終わらせちゃダメ!本当に終わらせないで!」

 なんでもするからあああとラプンツェルはフランツにしがみつけば、フランツは待ってましたとばかりににやりと口角をあげる。

「えー。なんでもしてくれるの?」

「う、うん。なんでもする!なんでもするから」

 だからその不穏な行動をやめてと涙目でラプンツェルは訴える。

「そっか、ツェルがそこまでいってくれるならやめるよ」


 フランツのその言葉を聞き、背後の黒いオーラが消えたのを確認するとラプンツェルはひとまずほっと胸をなでおろす。


「じゃあさっそくだけどラプンツェル」

 先ほどまでの笑顔と打って変わり、本当に楽しそうにフランツはほほえんでいる。しかしそのほほえみはラプンツェルを不安にさせた。

「え、フランツ?」

「大丈夫だよツェル。ただ君が僕以外の男を男として見れなくするだけだから」

 にっこり楽しそうに微笑むフランツに冷や汗が止まらない。

(どうして私はフランツが魔法使いだという事を忘れてしまっていたのかしら)


「おいでツェル」

 そういってフランツはラプンツェルを寝室に連れ込む。


 日はまだ上ったばかり。

 今日は始まったばかりなのにその日そこから二人が出てくることはなく、ラプンツェルが意地悪を起こしてしまった事や、自分の言動を後悔することになっていたのはだれも知らない物語となった。

なんとなく思い付いたので。


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