灰かぶりとクリスマスイブの魔法
短編として書いたものの移植です。
昔々、義理の母や義理の姉2人に灰かぶりと扱われている女の子がいました。
その女の子のお母さんは、女の子が10の時に病気で亡くなってしまったためしばらくは女の子とお父さんと2人で暮らしていました。
2人での暮らしは淋しく悲しみで溢れていました。
そんな、有る日お父さんは今日からこの人が君の新しいお義母さんと新しい家族になるんだよと2人の義理姉を連れて来たことでその生活は女の子にとって更に悲しみで包まれました。
なぜなら、お父さんが連れて来た美しい義理の母も義理の美しい2人の姉もその女の子と仲良くしてくれないどころか、お父さんが見てない所で女の子を灰かぶりといってからかいだしたのです。
「ほら、灰かぶりそこが汚れているわ。早く掃除しなさい」
継母が灰かぶりに命令します。
「ほら、灰かぶり。ドレスを早く選びなさい」
義理の姉が灰かぶりをせかします。
「灰かぶり! ちゃんとご飯くらいつくれないと誰もお嫁にしてくれないわよ」
もう1人の義理の姉も灰かぶりをせかします。
継母や義姉達に命令される度に灰かぶりはいつも心の中で、あんなやつらに絶対に負けない。いつか家から追い出してやると思っていました。
(私のママは世界でたった1人だけなんだから………)
「ママ……。何で私を置いていったの」
灰かぶりは毎晩部屋に戻るとお母さんの写真を握りしめて泣いていました。義理の母達を連れて来たことで、灰かぶりはいつしか父も信用出来なくなり心は硬く閉ざされていたのです。
そんな日々を過ごすうちに、季節は幾度も変わり女の子は美しい少女になり何度目かのクリスマスイブになりました。
灰かぶりは家族で過ごそうとするクリスマスイブが大嫌いで、いつも1人で過ごせるように家から逃げ出していました。
そして、今年は義理母の言いつけで教会へ施しを置きに来ていました。
家にいなくても良いとホッとした灰かぶりは喜んで言いつけを受け入れました。
「ママとクリスマスをもっと一緒に過ごしたかった。ママ……私の家族はママだけだよ。早く私をママの所に連れていって」
教会で神様の前で呟き灰かぶりは家に戻りました。
(せっかくのクリスマスイブなのに私はいつも1人だわ)
思ったより言いつけが早く済んでしまい、しかたなく家に帰ってきてしまった灰かぶりは家の中に入りたくなくて、家の裏で座り込んでしまいました。
いったいどの位そうしていたのでしょうか、体はすっかり冷え切り冷たくて痛々しくなってきたころフッと灰かぶりに1枚のストールが掛けられました。
「おや、お嬢さん。こんな所で何しているの? 今日はクリスマスイブ。奇跡の日よ、早くお家にお入り。家族が心配するわ」
そう言って灰かぶりの前にはフルフェイスマスクをして黒いフードをすっぽりかぶった怪しさ満点の女性が立っていました。
「………。私には家族はいないわ。私のママは死んでしまったもの。私はママが迎えに来てくれるのをこうして待ってるの」
俯いてそう灰かぶりが答えれば、怪しさ満点の女性は驚いた声をだします。
「まぁ! なんて悲しい事を言うのかしら! そんなことは言わないで……。あ、そうだわ! 私が魔法で貴方の気分をあげてあげましょう。貴方に笑顔を!」
「………。要らないわ。魔法なんてないもの」
しぶしぶ灰かぶりは素っ気なくそう答えました。
「あら、有るわよ魔法! だって私は魔法使いだもの!」
怪しい女性は自称魔法使いだそうです。灰かぶりは益々うさんくさく感じました。
「あ、そうだ! 有言実行が1番ね。魔法が有るのを見てご覧なさい」
怪しい女性は無理矢理灰かぶりの手を掴むと家の畑まで連れだしました。
「あら、あのかかしなんて貴女の相談役にピッタリじゃない?」
自称魔法使いの女性はかかしに、相談相手になあれと指を指します。
すると、特別何も光など出ないけれどかかしが動きました。
「灰かぶり、じゃなくてえっと……お嬢さん、私が悩みをききますわ」
なぜか仮面をつけたかかし風の衣装を着た相談役が言います。
「あ、次はあの大型犬を貴女の癒しにしましょう」
自称魔法使いは不自然にそこにいた犬にまた指を指します。
すると犬はすくっと立ち上がり、傍にきます。犬の顔にはやっぱり仮面がつけられていました。
「お嬢さん、いやして差し上げますわ」
犬は可愛らしい手を差し出しました。
「………。あの……」
「あぁ!次はあの樽を……えっと……何かにしましょう」
灰かぶりの言葉を遮り、えいっと樽に指を指せば樽はむくりと動き出して灰かぶりの傍に来ました。
近づいてきた樽役もやっぱり仮面をかぶっていました。
「さぁ、お嬢さん。……何かって何?」
戸惑いながらも樽役が手を差し出して来ました。
「………お義母さんも、義理姉2人も、パパまでいったい何をしてらっしゃるの?」
灰かぶりが淡々と告げれば、自称魔法使いも、かかしも、犬も、樽も慌てふためきます。
「ほら、皆仮面を取って。いったい何がしたかったのよ。私はほっといて欲しいの」
灰かぶりが俯くと、自称魔法使いもとい、継母はそっと灰かぶりに近づき肩に触れました。
「ほっとけないわよ。私達はずっと貴女と家族になりたかったのよ。」
その目には涙がたまっています。
樽も近づいて来て言います。
「お願いだから、君もママの元に行きたいだなんて言わないでくれ。僕は君のママを忘れたわけじゃない。今だって大好きだし僕だって逢いたいよ。けれど、残念ながら僕らは生きてるんだ。生きているうちは楽しく、幸せに精一杯暮らして行かなければ行けないんだよ。それは君のママと約束したんだ。ずっと、ちゃんと前を向いて生きるって。義理のママだって、僕らの気持ちを知っていて僕らの傍にいてくれるんだ。全て受け入れなくいい、だけど、幸せだと思うことをやめないで。前を向いて新しい人生を歩むことを辞めないで。君は生きているんだ」
すると犬と、かかしも近づきます。
「灰かぶりって言っててごめんね。なんて呼べばいいか私達も解らなくて。私達も……家族が変わって、最初は上手く受け入れられなくって。時々意地悪してゴメンね。でも、ずっと仲良くしてみたかったの」
ションボリとする犬とかかしは、仮面をはずします。
かかしのように細い姉、犬のように可愛らしい姉の2人はポロポロと泣いていました。
「違う……皆は悪くない」
灰かぶりは呟きます。
「本当は皆が私を受け入れようとして接して、本当の家族のように怒ったり、扱ったりしてくれるのは知ってたの。でも……私はママが居なくなったことが受け入れられなくて。貴女達を受け入れたら、ママが本当にいなくなっちゃいそうで……」
灰かぶりも、ポロポロと泣き出します。
「大丈夫。僕らのママは心からまでいなくなったりしないよ。僕がしっかりしていなかったから、君を……君達を苦しめてしまったね」
ゴメンとつぶやくと、パパはそっと灰かぶりを抱きしめます。
しばらく、灰かぶりが泣き落ち着くと魔女役だった継母が寒くなってきたから家の中へ入ろうと皆を誘います。
「所で……皆さん、なんであんな事したの?」
灰かぶりが言うと、継母が笑顔で答えます。
「だって、今日はクリスマスイブじゃない。奇跡の魔法でもしかしたら貴女に笑顔と、驚きをプレゼント出来るかもしれないって皆でサプライズを考えたのよ。貴女が教会から帰ってきたらしようって思って待っていたのだけれど……貴女中々帰ってこないから心配したのよ」
「私、かかし役で腕を上げ続けていたから筋肉痛だわ」
上の姉が言います。
「私は犬役だったからずっと星を見てたわ。今日が上手く行くようにずっとお祈りしていたの」
下の姉が言います。
「僕、樽って言われたときショックだった。そんなに太い?痩せようかな?それに、何かって何?扱い雑だよ……」
パパはションボリしています。
「まあまあ、それよりどうだった? 私の魔法、かかった?」
心配そうに再び継母は聞いてきました。
「………、そうですね。今日はクリスマスイブで、奇跡が起こる日ですしね。私は魔法にかかって少しだけ、素直になれそうです。皆、今まで受け入れようとしないでごめんなさい。そして、そんな私に素敵な魔法をかけてくれてありがとう」
灰かぶりの優しい笑顔と言葉は、皆をとても綺麗な笑顔にさせました。
「あなたの言葉が、今日1番の嬉しい魔法の贈り物ね。」
パパも義母も姉達も微笑みます。
今日はクリスマスイブ。
灰かぶりと呼ばれた少女は、もう灰かぶりではなくなりました。
何故なら、少女は誰よりも幸せな魔法にかかったからです。
もちろんその家族も皆、幸せな魔法にかかりずっと幸せに暮らしましたとさ。
お終い。




