ヒーローは遅れた頃にやってくる?①
目が覚めると私は立った状態のままロープで柱に体をぐるぐる巻きに固定されていた。
腕に力を込めてみるも何重にも巻かれたそれはピクリとも動かず、力を込めた腕が痛むばかりであった。
「俺達も運がいいぜ。こんな楽な仕事で大金が手に入るんだからな。」
先程の男たちの声が聞こえてくる。
見ればすぐ近くで数人の男が酒を片手に飲んだくれていた。
(でも、さっきより数が少ない·····どこかへ行っている·····?これなら衛兵とかを呼べれば·····いや、ここは人通りの少ない路地裏、そう都合よく衛兵が現れるわけもないし·····)
私が思考をめぐらせていると、それに気づいた1人の男性がこちらへやってきた。
「目が覚めましたか。今遣いのものが貴方の屋敷へ伝令に行っているところです。貴方を誘拐したとー·····ね。」
不敵な笑みを浮かべたまま男性は私の顎を掴み無理やり自分の方を向かせた。
私が苦痛に顔を歪めるも男は尚も楽しそうにケラケラと笑った。
「公爵家のご令嬢がお供もつけず考え無しに街へ降りてきたのが運の尽きでしたね。」
男の言葉に「なっ!!」と頭に血が上る。
しかし続けて出された「何か間違ったことを言いましたか?」という言葉に私は自分の考慮の足りなさにつくづく嫌気がさし、男から目をそらす。
大人しくなった私に男は「ふっ」と小さく笑うと
「まあいいでしょう。貴方が原因でどれほどの人間が被害を被るのか、そこで見ているといい。」
嘲笑うように言ったものの、男の横顔はどこか寂しそうにも見えた。
私は何も発さず窓のある方へ目をやると日が暮れ始めたのか外が赤く染まり始めているのが見えた。
(ああ、まさかゲーム開始より前にこんなことになるなんて·····主人公の事件に巻き込まれる能力も体験するとただただ厄介でしかない·····)
私が小さくため息をつくと突然外から「うわっ、」「なんだこいつ!!」と、どこか悲鳴のような声が聞こえてきた。
声のした方に目をやると男も気になったのか、立ち上がりそちらへと向かっていた。
「なんだ、どうした。」
男の言葉に扉の前にいた下っ端達は顔を見合わせ確認するように少しだけ扉を開けた。
すると突然。
僅かに空けられた隙間からにゅっと大きな指が生え、驚きもう一度戸を閉めようとした男たちの奮闘虚しくガラガラガラと大きな音を立て勢いよく扉は開かれた。
深緑のハネた毛が夕陽を浴びてキラキラと輝く。
細長につり上がった青黒い瞳は眼力だけで下っ端の男たちなんて射殺せてしまいそうなほど鋭かった。
その青年の登場で震え上がり身動きが取れなくなる下っ端を余所に、頭と呼ばれた男は私に近づくと、どこから取り出したのか。喉元に綺麗な細工の掘られた珍しい形の短剣を突きつけてきた。
その場の誰もが動きを止める。
しかし私はその行動より違うものに魅せられ、動くことが出来ないでいた。
(ほへ〜·····物語に出てくる王子様みたいな登場·····)
人質の私はきっとなんとも言えない間抜けな顔をしていたのだろう·····