ある日目が覚めると乙女ゲームのヒロインになっていた件②
「アンジェリール・イナリス・ユーフォビア…?」
困惑したような私の表情にメイド服の女性は首を傾げながら少女のホワイトブロンドの髪にクシを入れ始める。
「どうされましか、お嬢様。ご自分のお名前までお忘れですか?」
からかわれたような物言い。
でも私はそんな事より目の前のありえない光景に衝撃を受けていた。
「どうもこうも、だってアンジェは乙ゲーの...」
“アンジェリール・イナリス・ユーフォビア”
それは私が今1番ハマっている乙女ゲーム“セイリオスの王子”に出てくるメインヒロインキャラアンジェそのものだったからだ。
(確かにキャラ絵でも綺麗だったけど、目の前にいるとこんな感じなんだ...すごいな、VRとか4Dなのかな...)
私がそんな風に彼女へ手を伸ばすと同じように少女もこちらへ手を伸ばしてきた。
そしてふと私はあることに気づく。
私が立っているのは鏡付きのドレッサーの前。
そして先程後ろで髪をとかしてくれている女性は私がアンジェの名前を口にした時『ご自分のお名前』と言った。
(どうゆうこと...?)
暫く考えを巡らせているうちに髪を解くのが終わったのか、気づけばメイド服の女性は小さな花や、コスメの準備をし始める。
(すごいな...お嬢様って毎日こうなのかな...)
なんてことを考えながら私はふとある考えにたどり着く。
(私の考えが正しければ、きっとこの辺りに...)
整えられたばかりの頭を撫で回すように私はある物を探す。
...が、私の予想に対してそれは存在せずただ美少女が自分の頭を撫で回すという奇妙な行動を取るだけで終わってしまう。
(おかしい...VRでもないとすると...いよいよ仮想現実の世界が完成したのかな?)
私が1人納得したように「うん、うん。」と頷いているとその行動に驚いたのかメイド服の女性が「まあ!」と声を上げ私の顔を心配そうに覗き込む。
「本当に、どうされたのですか?お嬢様。
お体の具合でもお悪いのですか...?」
そこでまた、私はあることに気づいた。
先程から主人公のお世話をしてくれていた女性ー
彼女は名をペトラと言い、アンジェが小さい頃から常に傍に居た数少ない気の許せる相手の1人という設定だった。
(モブながらも主人公を支える姿が本当にかっこいいんだよねぇ〜。ラストの描き下ろしイラストは泣けたなぁ〜!)
なんて1人思い出に浸っていると彼女は益々表情をひきつらせ後ろに控えていた数人の女性に声をかけていた。
「お嬢様のお加減が優れないようなの!直ぐ主治医を読んできてちょうだい!」
控えていた女性のうち1人がそれを確認すると一礼し部屋を後にしようとしていた。
「え!!!だ、大丈夫です!!少し、考え事をしてただけなんです!!!誤解ですーー!!!」
私はそんな彼女たちを全力で止めるのであった。