主人公の弟という人
「…誰だ」という父の言葉にその人は「失礼します」とソプラノの声を響かせて部屋に姿を表した。
目の前で主人公と同じホワイトブロンドの髪がサラリと流れる。
男の子にしては長めのおかっぱ頭は主人公と同じ色なものの、ストレートパーマを掛けられたようにサラサラとしていて、太陽光を反射して天使の輪まで作っていた。
(ふわぁ~…綺麗な髪…私も小さい頃おばあちゃんに切られておかっぱだった時期もあるけど…)
バチッと目が合い、宝石のような蒼い瞳が優しく微笑む。
深くにも、ドクンと胸が高鳴るのがわかった。
(同じおかっぱとは思えないほどオシャレで可愛い…うぅ~イケメン…というか、美少年?…はどんな髪型でも様になるんだな…)
私は拳を握り締めたい衝動を必死に抑え、赤くなりそうな顔を必死に振り払った。
(というか、この子って…)
私と同じくらいの身長だろう、華奢で色白な彼は黄色と白を基調としたかぼちゃパンツが特徴的なゴスロリファッションに近い服を身にまとい、首元ではその瞳ほどありそうな大きな翠色の宝石が着いたリボンをきっちりと結んでいた。
中性的な顔と声はゲームの設定を知らなければ絶対女の子と勘違いしてしまうほど美しく、儚いという表現がなんとも似合う本当に天使のような男の子だった。
しかし、私はやはり彼のことを知っていた。
(彼は…)
「どうした、ユーリディス。」
そう、彼はアンジェの弟のユーリディス・イナリス・ユーフォビア。
主人公アンジェにいつも引っ付いて回るようなシスコンで、作中ではその天然っぷりを遺憾無く発揮するせいで主人公の性格とも相まって序盤では他男主人公のイベントを無意識に強制終了させたり、またある時は共通ルートにも関わらずイベントその物をなかったものにしてしまったりもしていた。
姉弟揃ってのイベントクラッシャーであることに物議を醸す者も居たが、その可愛らしさと無意識からの行いという癒しから許容されることの方が多く、寧ろ他キャラを全てクリアした後にのみ解放される追加キャラにも関わらず追加前から多くのファンを獲得するほどだった。
ストーリーが追加される中盤までは。
このゲームでは先でも話したようにゲーム2周目以降に追加される追加キャラや全てのエンディングが終わらないと解放されない隠しキャラが多数存在する。
そんな中、元々の追加予定は無く、隠しキャラでも無かったものの、ファンからの要望が暑く運営側がアップデートの際に幾度か追加されたキャラがいる。それが、彼。
ユーリディス・イナリス・ユーフォビアである。
しかしこのゲームの難点であり長所とも言えるのは、どのキャラにも重い過去や激しすぎる個性、一種の性癖のようなものがあるところ…
それはもちろん彼にもあるわけで、
彼には主人公とは腹違いの弟で母親が早くに亡くなっているため愛情に飢えているという設定が追加前よりあった。
それに加え追加後には、主人公が他の人と話すのも、目を合わすのも嫌がるような独占欲の塊でイベントクラッシャーや度々の妨害行為は天然ではなく故意に行っているものという設定が加えられ、そのラストもラブエンドでは監禁され主人公の心が壊れ、ダメエンドでは全員を殺してしまうという、何ともシリアス好きには嬉しすぎるほどのシリアス展開で幕を閉じるためある層のファンは増やし、またある層のファンからはクレームの嵐だったようだ…。
かく言う私もシリアス好きの1人であり、そんな彼は総勢50人もいるキャラの中でも2番推しとかなり高い位置にいた。
(ユーリちゃんは実物で見るとこんなに可愛いんだ…あのストーリーもすごくすきだったけど…確かに、こんな子が実は裏で黒いこと考えてるなんて、当初のファンからしてみたらクレームも言いたくなるよね…)
私がそんな同情の視線を向けているとは露知らず、目の前の美形2人はそのまま話を続けた。
「お話中申し訳ありません。建立記念のパーティですが、やはりセレスティン皇国の皇子達も参加されるようです。」
ユーリの言葉に男性は顔を顰め今しがた立ち上がったばかりの椅子に座り直すと「やはりか…」と苦々しく呟いた。
“セレスティン皇国の皇子達”という言葉に僅かに反応してしまうが、声を上げたいのをぐっと堪える。
それをしていい空気でないことは私にだって明らかだ。
男性は考え込むように顎に手を当てると1度私たちの方へと向き直り「もう行きなさい。」と私たちに退出を促した。
私はまたお咎めがある前にそそくさと部屋を後にするのだった。