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乙女ゲームの主人公に転生しましたが壁になりたい件について。  作者: じゅん
ある日目が覚めると乙女ゲームのヒロインになっていた件
12/15

乙女ゲームの王子様

帰りの馬車にて


✱✱✱✱✱✱✱✱✱



「お嬢様!!先程のあれはなんですか!!?」


御者台に人がいるためか、控えめではあるがそれでも怒気と困惑を含んだ叫びのような問いが私へと向けられる。


なんの事か分からずただ首を傾げていると、私の目の前に座るマキナは大きなため息を着いた。


「貴族界では相手の許しを得て初めてファーストネームをお呼びすることが許されるのです。お忘れですか?許可もなく…愛称で、しかも王太子殿下の…本来でしたらラストネームを口にすることも恐れ多い事です。不敬罪でその場で打首にされてもおかしくない所だったのですよ…!!」


一息で言い終わると「ぜえ、はあ、」と肩で荒く息をつくマキナに私は「あはは、」と困ったように笑んだ。


「えーっと、…ごめんね、マキナ。あんなことがあったばかりだから気が動転してた。気をつけるね。」


そういう私に彼女は「お嬢様…」と同情とも懇願とも取れる瞳を向けてくる。

次の言葉を口にするまで、は。


「それで、ファーストネームとかラストネームって何?」


「お、お嬢様?!?!?!」


私の言葉にマキナが我を忘れて声を荒らげたのは言うまでもない…




✱✱✱✱✱✱✱✱✱



アンジェ達の馬車を暫く眺めるように見送るとナレクは踵を返し、深緑髪の従者ヴォルフとフードを目深に被った人物を斜め後ろに控えさせながら王城を目指し歩みを進める。


途中、思い出したようにくつくつと低く笑う彼にフードを目深に被った人物は物珍しそうに声をかけてきた。


「ナレクが思い出し笑いをするだなんて珍しいね。先程の彼女。ユーフォビア家のご令嬢が余程気に入ったのかな?」


ハープを奏でるような声とはこの事を言うのだろう。振り返ればフードの隙間から黄と橙の瞳がとろんと蜂蜜を溶かしたように甘くころころと輝いていた。

アンジェが居ればジャニーズ事務所に居そうな顔!と叫びそうな程華があり、外人顔のせいか、醸しでる雰囲気のせいか、実年齢よりかなり年上に見えた。

フードから溢れ出た胸まである橙色の髪は女性でも憧れるほど艶があり街灯の光でもキラキラと反射していた。

そんな彼にナレクは小さく咳払いをすると


「ウィンが口説かなかったのも珍しいな。女と見れば見境がないのかと思っていたが。」


皮肉めいたナレクの言葉にウィンと呼ばれたその男性は「ははは、やだな~」とフードをググッと鼻辺りまで引っ張り下げると


「ヴォルフの目の前でそんなこと出来るわけないじゃないか~」


と冗談めかして言ってみせた。

それには隣を歩くヴォルフも表情を崩さぬまま、眉間に指を当てて考え込んでいるようだった。


「ははは、違いない。時にヴォルフ。あの令嬢はお前の目から見てどうだった?」


突然のナレクの質問も、ヴォルフは予想していた言葉に眉間に当てた指を離し彼との距離を少し詰めると低い声でこう言葉を続けた。


「あの様子からするに誘拐に関しては故意ではないかと。しかし私のファーストネームを知っていたあたり、何者かの後ろ盾があることは間違いないかと。」


「後ろ盾とは具体的にどこだと思う?」


名乗る前から自分の名を知っていたアンジェを思い出しながらヴォルフは渋い顔をした。

少しばかり躊躇ったが直ぐに「隣国の可能性もあるかと」と口にした。

それに対しナレクとウィンは同時に「隣国…」と呟く。その顔は皆一様に暗い。

それもそのはず、この国で唯一の公爵家。

地位も権力もある家柄のご令嬢。

そんな彼女が隣国のスパイである可能性が浮上した今、明るい顔ができるものはいなかった。


「アンジェリール・イナリス・ユーフォビア…少しの間目を光らせているのがいいかもしれん。」


ナレクはそれだけ言うと無言で王城へと向かう足を早めた。

ウィンとヴォルフが最悪の事態を懸念する中、ナレクは今日あったあの公爵令嬢のことを考えていた。


自分とあまり年齢の変わらない少女はこの国では珍しい純粋なホワイトブロンドのゆるいカールのかかった髪をハーフアップにまとめ、淡い空色地に金の刺繍が施されたワンピースを着ていた。

金色の光がキラキラと輝いて見える大きな瞳は向き合っていると呑み込まれてしまいそうなほど深く澄んでいた。

その特徴からすぐに彼女が公爵令嬢であることは分かった。実際、パーティーでも何度か顔合わせをしたこともあり見た目で間違えることは決してなかった。

…しかし、今日の彼女はいつもとどこか違う感覚がした。

城下町に降りてきたせいか、言動の一つ一つが町娘のものに近かった。

その容姿がなければ公爵家の人間だとはとても思えないほどに砕けた印象だった。


ふと自分の名前を呼ぶ彼女を思い出す。

サラリと愛称を口にした彼女にアンジェと一緒にいたメイドはあわあわと鯉のように口を動かし、ヴォルフに至っては腰の剣に手を当て威圧を使っていた。

そんな威圧も、彼女には全く効いていなかったようだが…まったく、大物なのか神経が図太いだけなのか予想がつかない。


普段なら不敬罪で処罰するところだが何せ公爵家の人間だ。今回は見逃してやろう。

…それに…彼女に名を呼ばれ特段悪い気はしなかったからな。


ナレクの頬が僅かに緩んでいることに気づくものはいなかった。

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