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乙女ゲームの主人公に転生しましたが壁になりたい件について。  作者: じゅん
ある日目が覚めると乙女ゲームのヒロインになっていた件
11/15

乙女ゲームの王子様

男の出現にマキナはハッ我に返ると「も、申し訳ありませんでした。」と急いで立ち上がり


「この度はお嬢様をお救い頂き誠にありがとうございました。深くお礼申し上げます。」


と深々と頭を垂れた。

私はそんなマキナに続こうとするも、足に力が入らず立ち上がることが出来なかった。


それを見兼ねたのか深緑の髪の青年は「失礼致します。」と短くけれどもハッキリと通る低い声で言ったあと私の脇下と膝下に手を入れ所謂お姫様抱っこで軽々とその体を持ち上げた。


「ひょえ?!いや、あの、少し時間が経てば大丈夫だと思いますし、あの、その、お、下ろしてください!!」


慌てふためく私に青年は見向きもせずそのままスタスタと出口の方へと向かっていった。

未だ落ちきらない夕陽がそれまで暗がりにいた私の目には何とも眩しい。

たまらず目を細めていると青年は一角で足を止め、私を地面へと下ろした。

ゆっくりと顔を上げると目の前に人影があることに気が付く。


目深に被られたフードのせいで顔こそよく見えないものの、男性にしては小柄なものの女性というにはガタイのよすぎるその身体に彼が男であることは容易に判断できた。


ここまでなら誰もが分かることだろう。

しかし私はその身につけている服と腰に刺さった剣を目にすると表情が変わった。


「ナレクカイト・フィル・テイル・カスティージョ」


考えるより先にその名前が出ていた。

商家風の質素な衣服。

紅色の柄の剣は茶色に銀の刺繍が入った鞘に入れられており、それだけではとてもこの名を口にはしないだろう。


しかし、ゲームで何度もそのシーンを通った私は直感的に彼がそうであると確信していた。

だってこれは、彼が街へ降りる時専用のー


「お、お嬢様?!も、申し訳ありません!!

お嬢様は気が動転されており…どうか、どうか見逃してください…!!」


マキナは慌ててその場に土下座をすると額から音が鳴るくらい激しく地面へと頭を垂れた。

その慌てように私は首を傾げる。

何故そこまで慌てるのか…

わからないという顔の私にフードから除く口元が「ハハッ」と愉快そうに笑う。


すると深緑の青年に目を向けると

「よい。」と片手を上げ、立ち上がった。

私より少しだけ背が高い彼に自然と目線も上を向く。


「そなた、正式でない場で王族の名を、しかもフルネームで呼び捨てにする意を知っているか?」


含んだような彼のその言葉に私は疑問を抱きながらも素直に「いいえ」と答えた。

その様子がまたおかしかったのか、彼は堪えるように「クククッ…」と笑うと、豪快に「ハハハハハ!」と笑った後、目深に被ったフードを取った。


男性にしては長めの燃えるような真っ赤な髪が楽しそうにクルクルと揺れる。

髪の色をもう一段濃くしたような紅のツリ目気味の瞳が真っ直ぐに私を見据える。

血色のいい肌は黒過ぎず、しかし白過ぎずちょうどいいバランスで程よく日に焼けていた。

外人はみんな顔が良いのかな。

そう思ってしまうほど酷く整った顔立ちに私はボーッとただ彼を見続けた。

(どうしてこうも乙女ゲームのキャラはみんな顔面偏差値が高いのだろう…1回位ブサイクな王子が出てきてもいいのに…まあメイン攻略にはしないけど…)


そんなことを考えていると不意に視線を感じ、未だ頭を下げるマキナへと視線を向ける。

こちらを向いて何かパクパクと口を動かす彼女に私が「何?」と声をかけるとまたしても目の前の彼がさも愉快そうに「ハハハハハ!」と笑う。


(ナレク様もよく笑うなぁ…本編でもこんなに笑ってたかな…?)


私が記憶を辿るように考え込んでいると笑い疲れたのか王子は私を見据えたまま「ふう。」と一息つくと


「王族の名をフルネームで呼び捨てにできるのは本来戴冠式を務める神官長のみだ。また貴族の顔をその様に見つめるのは求婚やアプローチの意となるため公共の場では辞めた方がいい。」


彼の言葉に私は目を見開くと90度に届くのではないかという勢いで頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!そんな意味があったなんて知らなくて、えーと、…全くそんな気はなくて、ただ美形が目の前にあったから眺めていたというか、ゲームでもナレク様は6番推しだし、そんな心配ないって言うか、ええと」


しどろもどろになりながら説明する私にマキナは再び慌てたように「お、お嬢様!!」と声を荒らげた。


それをナレクは「良い」とにこやかに止めると「ところで」と言葉を続けた。


「ユーフォビア家のご令嬢はこの格好の私をよく分かったものだな。コートで顔も隠していたというのに。」


その言葉に「ああ、それは…」と顔を上げると彼の持っている剣を指さし「その剣です。」とだけ答えた。


「剣?」


不思議そうに問い返す彼に私は「えーっと」と言葉を続けた。


「ナレク様のそれはリイナ工房の特注品ですよね?あそこは気難しい工房で卸数が少ない上、公には広まっていませんが銀の刺繍を入れるのは伯爵家以上のみです。」


ゲームの中であった設定を私は思い出すように告げた。すると彼は驚いたように目を見開き、また楽しそうに笑った。


「貴方は不思議な人だ。

無知なのかと思えばそのような事は知っている。」


ナレクのその言葉は褒めてくれたのかよく分からず私はとりあえず「ありがとうございます?」と疑問形になってしまったが感謝の言葉を口にする。


それがまた彼には面白かったのか、噛み殺すように笑っていると私たちの間にあの深緑の髪の青年が立ちはだかった。


「時期暗くなります。屋敷まではこちらでお送りしますのでお戻りになられた方がよろしいかと。」


私は漸く合点がいった。

彼のことをどこかで見たことがあるとずっと思っていたのだが、ナレクの付き人。

深緑のヴォルフ・スペードその人だ。

確か、風の魔法を得意とする大剣使いで、ナレクルートではその護衛役として城下へ降りる際や建国記念パーティーではずっと傍に仕えていたはず…

何分、推しのルートを進めるのに必死で6番推しのナレクについてはまだノーマルエンドしかクリアしていなかった私の記憶は割と曖昧だった。


(まあ、この作品攻略対象キャラが追加キャラや隠しキャラ含めて50人居るのにエンディングもノーマルエンド、ラブエンド、ダメエンド、隠しエンドと4種類あるのも問題よね…面白いからやっちゃうんだけども…)


そんな思考が巡り、思わず「はぁ」と溜息をつくとそばに居たマキナが心配そうな顔で「お嬢様…」と覗き込んでくる。


「あ、ごめん…少し疲れたみたい。それではヴォルフ様、お言葉に甘えさせていただきます。」


私は小さくマキナに応えるとヴォルフへと向き直りそう頭を下げた。

彼は少しだけ眉をピクリと動かすも「どうぞこちらへ。」と倉庫街から大通りへとエスコートをしてくれた。


後ろからは再びフードを目深に被ったナレクがいつの間に現れたのか同じくフードを目深く被った190cm程ありそうな長身の人物を後ろに控えさせ着いてきていた。


私は(どこから現れたんだろう…)と疑問に感じるも、横を歩くマキナが


『何も言わないでください』


と言っていそうな目でこちらを睨んでくるため、それ以上口を開かないことにした。

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