ある日目が覚めると乙女ゲームのヒロインになっていた件
物語や漫画の世界で悪役令嬢やその取り巻きに転生する話をよく目にする。
でも、まさかそれが自分の身に起こるなんてー…
誰が予想できただろうか?
ふわふわする頭を持ち上げ辺りを見回す。
高い天井に私の部屋の4倍はありそうな広い部屋。
見たこともないような大きな宝石が埋め込まれ、金の刺繍が施された赤い両開きの扉。
それに合わせるように部屋中には同じ色調で花刺繍のついた絨毯が敷かれていた。
その窓際、赤いレースの天蓋がついたベッドの上に私は居た。
ふかふかなベッドは1度お母さんが懸賞で当て家族で泊まりに行った高級ホテルのそれより遥かに上に思えた。
よく見るとレースにも所々金色の刺繍が施されておりベッドの縁にまで同じ刺繍が施されていた。
(このベッドだけでいったい、いくらするんだろう…ヨダレとか垂らしてないよね...)
私は思わず自分の顔を撫で回し確認してしまう。
こんないかにも高そうなベッドにヨダレなんて垂らしたら...最悪弁償なんてことになるんじゃ...
そうなったら週2コンビニバイトの高校生には到底払える金額ではないだろう。
そんなことを考えながら自分の顔を触っているとふと、ある事に気がつく。
(あれ、...私の顔ってこんなに小さかったっけ...)
他にも顔の節々に違和感を覚え鏡を探していると部屋の反対側、壁際にこれまた赤と金で装飾された豪華なドレッサーがある事に気がついた。
私がそこまで行こうとベッドから身を乗り出そうとすると
サラリ
と腰までありそうなホワイトブロンドのゆるいカールのかかったふわふわな髪が私の胸元へと流れ落ちる。
その髪は陽の光に照らされキラキラと星のように輝いていた。
(綺麗...)
私がそれに目を奪われていると正面の扉がゆっくりと開かれた。
「お嬢様、おはようございます。」
そんな声を掛けながら数人のメイド服に身を包んだ女性たちが部屋の中へと入ってくる。
(へー...お嬢様かぁ...こんなお家に住んでるんだもん、きっと凄く可愛い子だよね。どこにいるんだろう)
そんな事を考えながらキョロキョロと辺りを見回すもそれらしい人物はどこにも居らずそれどころか私には完全に不釣り合いなこの部屋にどこか見覚えがあるような気がした。
そんな私の様子がおかしかったのか、女性のうちの1人がクスクスと笑った。
「如何なされましたかお嬢様。ご自分のお部屋なのに、まるで初めて見るような顔をされて。」
(ご自分の、部屋?へ?誰の...?)
私はさらに首を傾げるしかない状況に困惑しつつその女性に誘導されるがまま先程のドレッサー前へと連れてこられた。
息が、止まった。
一瞬にして、目を奪われた。
まさにそんな表現が相応しかった。
相対した少女は柔らかそうなホワイトブロンドの髪を揺らし儚げな表情でこちらを見つめていた。
絹のように透き通った白い肌、すらっと通った鼻筋にぷっくりと血色のいい唇。
タレ目気味の不思議な蒼い瞳がこちらを除く。
不思議、と表現してしまうほど、その少女の瞳は特徴的だった。
深い蒼の中に、まるで星屑を散りばめたように
金色の光がキラキラと輝いて見えた。
光の反射や見え方によってなるものでは無いのだろう。
天然でこの宝石のような瞳なのだろうそれは何もかもを吸い込んでしまいそうなほど綺麗だった。
しかし、私はまたもやその少女に対して既視感のようなものを感じてしまう。
(どこかで、…でも、こんなお姫様みたいな子、知り合いには…ん?…お姫様…?あれ…)
「アンジェリール・イナリス・ユーフォビア…?」