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冬空を飛んで

 ヨーロッパのGB支部に連絡を取ると、周辺諸国の外交官と霊能力者を同行させることを条件に妖精郷に向かう許可を得られた。

 現状の日本は七種族連合の協力を得ているので、霊的防衛力は世界屈指だ。色々な利権が絡み合っているのは間違いないし、他の国々が焦りを感じるのもわかる。


 さらに妖精郷の者たちを刺激しないように、メンバーはカーミラとアタシの二人だけという条件を守るようにと念押しさせられた。

 これにはエルザも抜けているが今度こそ命に変えても守ると真祖が言い切ったので、アタシは信用することにする。

 自分が命の危機に直面した場合は、肌身離さず身につけるように言われた魔道具が作動し、一秒以内に仲魔が駆けつける。




 一通りの書類提出に時間がかかったものの、ようやく許可がおりた。妖精郷に向かう日は冬の一月で寒いため、厚手のコートを羽織っていく。

 吸血鬼の隠れ里を経由することでヨーロッパまであっという間に移動出来るが、今の所はアタシ以外の入場はお断りされている。

 基本的に隠れ里は閉鎖的だが、いつか双方の行き来が盛んになる時代が来るのだろうか。


 人間を憎んでなくてお友達になりたいと考えていても、受け入れる姿勢を見せれば利権目当てで面倒事に巻き込まれるとわかっている。

 まずは信用できる相手から受け入れて、徐々に範囲を広げていくつもりなようで、完全開放するまでは本当にいつになるやらだ。




 そんなことを考えているアタシは、現在カーミラにお姫様抱っこされながら月夜を飛んで妖精郷に向かっている。

 彼女は吸血鬼なので日の光に弱いらしく、短時間の照射でも肌がヒリヒリと痛むので、日中は長袖の衣服とツバの広い帽子を被っている。

 しかし灰になったところで真祖のカーミラはすぐに蘇るが、好き好んでで苦痛を味わう趣味はないと言っていた。


「うぅ…やっぱり今の時期は夜が冷えるね」

「寒いのか? ならばマントで包み込んでやろう」


 彼女と千年前に出会ったときも身に着けていた闇色のマントが独りでに動き、カーミラと一緒にアタシを顔だけ出した状態でスッポリと包み込む。

 霊力が込められているのか風を完全に遮断しており、体感だがかなり暖かい。


「暖かくなったよ。ありがとうね」

「私も暖かいぞ。沙紀の体温を感じる」


 吸血鬼は人間とは別の生物で体温が低い。なのでアタシがくっついているとカーミラにも熱が伝わって、温かくなる。

 しかも真祖は人の温もりに飢えているのかグイグイと体を寄せてくる。空中散歩中の自分に逃げ場はなく、甘んじて受けることになる。


「あっ…あんまりくっつかないでよ。一応お風呂で洗ってるけど臭うかも知れないし」

「大丈夫だ。沙紀の匂いは好きだからな」

「カーミラ! 貴女、そう言うところだよ!」


 この真祖は頻繁にアタシを口説いてくるのだが、同性相手にそんな気はない。しかも最近はカーミラに触発されたのか、皆が猛アタックしてくるようになった。

 おかげで前々から日常的に過激なスキンシップに受けていたので、性に関する防衛戦を本陣近くまで後退させられて危険域に突入していたことに、今さらながら気づいたのだ。


「だが私は沙紀が好きだ。千年待ったので今さら一年、二年は誤差の範囲だ。

 しかしその気になればいつでも手に入るのだと思うと、我慢できなくなりそうだ」


 真紅の瞳が至近距離でカーミラに抱かれているアタシを射抜く。彼女は妖艶な笑みを浮かべており、自分が許可すれば今すぐにでも手を出しそうだ。

 こっちの顔は火照って赤くなるが、逆に背筋はゾクリと震えて寒くなる。


「おっ…おぅ! 急に襲うのだけは止めてよね!」

「つまり沙紀の同意があれば問題ないと?」

「それだと何だかんだで押し切られそうなんだけど!」


 自分は嫌なことは嫌だとはっきり口に出せるが、そうでないもの。アタシに好意を抱いている人からの頼み事や、一方的な褒め殺しにはめっぽう弱い。

 なので森久保除霊事務所のメンバーのスキンシップも、断りきれずに受け入れてしまっている。

 それでも同性とニャンニャンする趣味はないので、最後の一線だけは譲らない。


「ふむ、どうせ沙紀が認めるのも時間の問題だ。今はそれで良しとしよう」

「アタシは絶対に認めないからね!」

「強がっている沙紀も可愛いぞ」


 お互いの距離が近いこともあり、直接好意を伝えられたアタシは胸がざわついて落ち着かずに、顔は茹でダコのように真っ赤なままだ。

 月夜の晩に空中散歩をしながら、始終微笑ましい表情でこちらを見つめてくるカーミラに対して、非生産的な行為は絶対受け入れない! …と、虚勢を張り続けるのだった。




 妖精郷があるとされる森の周囲には、夜間にも関わらず大勢の人たちでごった返していた。

 てっきり極秘任務だと思っていたのだが、テレビカメラやマイクを持った取材陣まで集まっている。何処からか情報が漏れたことを疑うべきだろう。


 大部隊を動かすほど情報が漏洩する可能性が増える。だがそれは別にいいのだ。問題はアタシたちが到着するよりも先に、妖精郷の調査が始まっていることだ。

 確かに各国は仲良しこよしではないが先を争うように隠れ里に突撃するとは、これが競争社会か。

 そしてないとは思うが、自分が踏み込む前に関係が悪化してたらどうしようと、何となく気が重くなる。




 取りあえず何処か人が少ないところを探してもらい、カーミラと二人でゆっくりと着陸する。

 取材陣の立ち入りは森の入口まででそれより奥は禁止されているのか、アタシたちが大勢に囲まれることはない。

 代わりにフラッシュをたかれたりテレビカメラが追尾し、外国の言葉で実況されている。気にはなるが大分慣らされてきたの無視は出来る。真祖にお姫様抱っことマントを解除してもらい、危な気なく地面に降り立つ。


 各国はティターニアと親交を結ぼうと考えているので、日本政府の関係者も当然こちらに来ている。

 ちなみに現在の妖精郷の立場は手付かずの金脈だ。未知の技術と資源、そして人間界ではお目にかかれない高位存在等が目白押しだ。

 次元の裂け目がある国が所有権を主張し続けているが、その意見は無視された。


 カーミラが話すまでは妖精郷の存在は忘れられていて、ティターニアたちはこの世界の住人ではない。人間の国が出来るよりもずっと昔から、異なる世界に住んでいたのだ。ただ入り口の一つがたまたまそこにあっただけだ。

 そして各国との綿密な協議の結果、最終的に何処に所属するかは、妖精郷の代表に委ねられることになったのだった。


「状況はどうなってるの?」

「各国の外交官、親善大使、霊能力者は今朝から森に入っています。ですがまだ、妖精郷は見つかっていないようです」


 何度か森久保家に挨拶に来た日本政府の役人を見つけたので声をかけると、そんな答えが返ってきた。

 ライトを点灯させた乗用車の前で他の役職の人たちと一緒に、アタシたちを待っていたらしい。

 そのままカーミラに詳しい位置情報を尋ねて来たので、真祖は小首を傾げながら使節団に真紅の瞳を向けて口を開く。


「最初に教えた森の中央には行かなかったのか?」

「行きましたが見晴らしの良い広場があった以外は、何も見つかりませんでした。

 霊能力者が調査した結果、妖精の痕跡は見つかったそうですが。…それだけです」


 近くに妖精郷があるのは間違いないが、中には入れなかった。誰も彼もが出入り自由なわけではないらしい。

 もしそうなら妖精郷の存在は忘れ去られることなく、とっくに明るみに出ている。何らかの条件があるのは明白だ。

 歌っている間だけだったり、満月の夜しか開かれないとか、決まった順路を通らないと駄目…等、アタシが初めて通過した隠れ里にはそれぞれ条件があった。


「カーミラ、やっぱり条件は何かあるの?」

「向こうが認めれば出入り自由になるが、初回は必ず条件付きの入場になる。

 特に相手が人間の場合はな」


 カーミラの詳細な情報に聞き耳を立てていた各国の使節団は、バツの悪そうな顔をして視線をそらす。

 人間を無条件に信用して招き入れたら、酷い目に遭うことは学習済みらしい。


「この辺りの妖精の伝承を、一から洗い直してみることだ」


 妖精郷に迷い込んだ人の傾向がわかれば、次元の裂け目を潜れる可能性が出てくる。自分も現場に行くよりも先に、地元の伝承を当たってみるべきだろうか。


「では沙紀、行こうか」

「調べなくてもいいの?」

「この私が居るのだ。妖精郷への入場はフリーパスだ」


 数百年前に訪れた経験があるらしいので、自信満々なカーミラに付いていけば問題ない。アタシはそれもそうかと頷き、大勢の使節団が早朝から踏み固めた森の奥に向かって、ゆっくりと歩き出すのだった。

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