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ミズチの遊戯

 流れるプールから顔を出した透き通った大蛇に、なるべく刺激しないように優しく声をかける。ご機嫌取りや小細工は苦手なので、真正面から正々堂々だ。

 アタシにはこの手しか使えないので駄目で元々で、もし無理そうならさっさと引き下がって、別の霊能力者に回そうと楽観的に考える。


「とっ…とにかく話だけでも聞いてくれない?」

「神を相手に無礼な人間じゃのう。…じゃが、お主からはまるで霊気を感じぬな」

「そりゃまあ、アタシは一般人だからね」


 今までGBの仕事をしてわかったが、自分に霊力を操る才能はない。潜在保有量もスズメの涙だ。

 そんなアタシを川の神は、高い位置から興味深そうに見下ろしている。何だか心の奥まで覗き見られているように感じて、どうにも落ち着かない。


「ああ、わかったぞ。守護霊を憑依させておるのじゃな。今どき珍しい人間じゃのう」

「へえー…凄いね。一目見ただけでそこまでわかるなんて、流石は神様だよ」

「我は川の神じゃからな。霊力を感知することぐらい容易いことじゃ」


 今までアタシが普通でないと瞬時に見破ったのは真理子だけだが、彼女も詳しくはわからなかった。

 それを一目見ただけで隠れているエルザまで看破するとは、神の名は伊達ではないということか。

 大蛇の顔色が変わったかはわからないが、舌をチロチロと出して何処となく得意気に見えなくもない。


「じゃあ…」

「それは出来ぬ相談じゃ。我はここから動くつもりはないぞ」


 機嫌の良くなった今なら交渉に乗ってくれるかと思ったが、それは考えが甘かった。川の神は流れるプールが大層気に入ったようだ。

 それとも人間を毛嫌いしているのか、ともかくこちらと交渉するつもりはないらしい。


「そっかー。じゃあ、お神酒はここに置いていくから。アタシたちは帰るね」


 これ以上続けても時間の無駄になりそうなので、早めに切り上げて撤退することに決める。


「ちょっと待て。まだ話は始まったばかりじゃぞ。それにお前は我とは戦わぬのか?」

「いやだって、相手は神様だし戦っても勝てないでしょう。

 それにアタシにこれ以上の交渉なんて無理だよ。今だって緊張で心臓がバクバクいってるんだからね」


 川の神と対峙するのは凄く緊張する。元々知らない人と話すのは得意ではなく、考えながら話すことが出来ずに思ったことがそのまま口に出てしまう。

 こんなアタシに対しての三人の信頼がやたらと重いが、森久保除霊事務所の名目上のトップは自分なのでやるしかない。だが、今回は無理だ。

 よりにもよって大勢の客や取材陣の前で恥を晒した結果になるが、自分の前にも交渉に失敗して関係を悪化させた者は何人も居たので、まあいいかと気楽に受け止める。


「それではお主の依頼が果たせぬが、良いのか?」

「いいよ。交渉はまたすぐに別の人が来るだけだしね。

 それじゃ、アタシはこれで」


 流石に依頼主もこのまま放置は出来ないので、すぐに新しい霊能力者を送り込む。客寄せパンダの役目は果たしたので、交渉失敗でも文句を言われる筋合いはない。

 今はさっさと森久保家に帰って、クーラーをガンガンに効かせた居間でアイスでも食べて一服したい。

 そう考えながらお神酒を適当に置いたまま、川の神に背を向ける。


「…待て」

「にょっ……にょわっ!?」


 半透明の尻尾が突然背後から伸びてきてアタシのお腹にシュルシュルと巻きつき、川の神の顔の前まで強引に引きずり出される。

 冷たい水が弾力を持ったような感触で、締めつけ具合は絶妙で苦しくはない。だがどれだけ力を入れてもびくともせず、脱出は不可能だ。

 それに三階建てのビルぐらい高く持ち上げられ、大蛇の顔と真正面から向き合わされてかなり怖い。


「気が変わった」


 川の神がアタシを前にして一言呟く。別に殺気や害意は感じはしないので、エルザも沈黙を保っている。しかしアタシは今にも漏らしそうなぐらい怖い。

 周りで見ている大勢の見物人もどよめいているのがわかる。


「言っとくけどアタシは美味しくないよ! 体は貧相だからきっと筋張ってて固くて不味いよ!」

「誰が食べるか! はぁ……では、これならどうじゃ?」


 半透明な大蛇がみるみる萎んでいき、一人の美少女に姿を変える。空中に浮かぶ川の神の体で特徴的なのは、深く澄んだ青い瞳と身長以上の美しい青髪だ。

 何よりも今は服も着ていない全裸の状態で、天井の美貌を大衆に惜しげもなく晒している。


 放送コード的に不味いなんてものではない。きっと今頃モザイクや綺麗な風景が流れていることだろう。

 ちなみにアタシには相変わらず水蛇の尻尾が巻きついたままで、宙ぶらりんから全く動いていない。

 このままでは埒が明かないので、男ではなく女だった川の神に質問する。


「ええと…じゃあ、神様の目的は何なの?」

「その前にお前、名は何という」


 アタシの名前と捕らえた目的に関係があるとは思えないが、神様に聞かれたからには答えなくてはいけない。天罰を回避するためだ。


「森久保沙紀…だけど」

「そうか。我はミズチじゃ。少し、沙紀と話をしたくなった」


 交渉に応じる気はないと先ほど言ったばかりなので、ミズチに捕まえられているアタシにとっては、完全に無駄話だ。


「何じゃ、その不満そうな顔は。神に名前を覚えてもらい、直接話せる機会なのじゃぞ」

「いやだって、ミズチは立ち退くつもりはないんでしょう?」

「その件に関してじゃが、沙紀の自宅が引越し先なら移動しても良いぞ」


 彼女は元々住んでいたのはドブ川…ではなく、もっと広く流れの激しい暴れ川だった。それが今は流れるプールになり、次がアタシの家とは予想外だった。

 獲物を見つけた猛禽類のようにニヤリと微笑むミズチに恐怖を感じるが、どうせ逃げられないのならと、緊張を解いていつも通りの答えを返す。


「はっ…ははっ、冗談だよね。本気だとしても、アタシの家は川沿いじゃないから無理だよ」

「周辺に川はないのか?」

「んー…そう言われるとどうなんだろう。ちょっと調べてみるね」


 地図検索をするために携帯電話を取り出そうとして、今のアタシのお腹周りは水蛇の尻尾に巻きつかれており、ベルトに引っかけた携帯のポーチまで手が届かないことに気づく。


「あのさ。携帯電話が取り出せないから、ちょっと拘束緩めてくれない?」

「じゃが締めつけを緩めれば、沙紀は我から逃げ出すじゃろう?」

「そりゃ、…まあね」


 川の神に嘘をつくことなく正直に答える。どうせ嘘を突いてもすぐにバレるので、誤魔化しはしない。

 しかしこれからどうしたものかと考え、ここは真理子かポーラのどちらかに調べてもらおうと思い至る。

 だがアタシは後ろを振り向こうとしたが、ミズチの青く澄んだ瞳がとても綺麗だと思い、彼女以外は視界に入らなかった。


「沙紀は今、神と話しておるのじゃぞ。他の者は不要じゃ。この我だけを見ておれば良い」

「ああうん、……そうだね」

「携帯電話じゃったか? それぐらいなら我が取ってやる。何処じゃ?」

「えっ? あっ…腰のポーチの中に入ってるのがそうだよ。一応防水性だけど、取り扱いには気をつけてね」


 まるで吸い込まれるように彼女だけを見つめて、気づいたらミズチの言う通りにしていた。だが代わりに携帯電話を取ってくれるなら、気にするほどではない。

 川の神は自分の分身である水蛇の尻尾の中に手をポチャリと突っ込んで、そのままアタシの携帯ポーチにそっと触れる。


「これか?」

「そうだよ。ありがとうね。ええと、地図検索は…っと」


 どんな理屈か携帯電話を水に濡らさずに引き抜き、ミズチはそれをアタシに手渡してくれた。

 慣れた手つきでネットに繋いで操作していると、彼女は興味深そうにすぐ後ろに移動して肩に手を置き、目と鼻の先の距離で小さな画面を覗き込んでくる。


「ええと、アタシの今の家は…っと」

「ふむ、沙紀は別の場所に住んでおったのか?」

「そうだよ。元々は田舎にね。んー…っと、ここが前に住んでた住所だよ。

 まあ他の人に差し押さえられたけどね」


 彼女は前の実家について尋ねたので、田舎の地図を先に開いてミズチに教える。質問に答えて続けて現住所を開く。

 すると森久保家から少し離れた場所に、小さな川が流れていることに気づいた。


「沙紀も我と同じで、住処を追われておったのか」

「言われてみればそうだね。まあ今は楽しくやってるから、後悔とかは全くないけど」


 両親が居た頃は共働きで殆ど構ってもらえなかったが、今は三人が居る。一日中常にベッタリなので好意を重く感じることもある。

 だが皆が自分のことを大切に思ってくれている証だと、受け入れるようにしている。


「ふむ、我も沙紀のように、楽しく生きられれば良いのじゃがのう」

「それぐらい出来るんじゃない? 何なら茶飲み話ぐらいなら聞くよ」

「そう…じゃな。我も沙紀の家の近くに場所を変え、新しい時代の流れに身を任せよう」


 何だかわからないが丸く収まりそうだ。川の神だろうと知らない土地に一人だけは不安だろう。なので新しい環境に慣れるまでは愚痴ぐらいなら聞こう。紹介した責任もあるので、それぐらいの面倒は見るつもりだ。

 ともかくこれでようやくミズチの巻きつきが解かれて、アタシは自由になれる。


 まだアタシは拘束されたままだが携帯電話をポーチに戻してもらい、お互いに緊張を解いて和やかな雰囲気に変わる。


「ところで沙紀よ。お主もう少し女性らしい身なりをしたらどうじゃ?

 せっかく可憐な容姿をしておるのに、勿体なく感じるぞ」


 だが目の前のミズチがこちらをじっと見つめて、おもむろに褒めてきた。真面目な顔をしているので冗談ではなく本気だと思うが、とても信じられなかった。


「じょっ冗談! それに、どっ…何処が可憐なの?

 アタシの容姿が平凡だってことは、自分が一番よくわかってるからね」

「確かに仲間の二人は指折りの美人じゃ。そして沙紀はそれに劣る…が、方向性が違うのじゃ。

 先ほども言ったがお主は可憐じゃ。言葉の意味はわかるな?」


 姿形が可愛らしく守ってあげたくなるような愛くるしい存在、それがアタシだと言いたいのだろうか。

 平凡なアタシを小動物のようで可愛らしい…と、たとえお世辞でも口に出して褒めてくれるミズチは、実はいい神様なのかも知れない。アタシはそう思い始めていた。


「そして我は、そんな可憐な存在を愛でるのが、何よりも大好きなのじゃ」

「……にょわっ!?」


 前言撤回、やっぱりミズチは悪い神様だった。いつの間にかお腹だけでなく、上から下まで隙間なく巻きつかれた尻尾の表面が、ヌルヌルの粘液に変化した。

 それが服から染み込んで肌に触れると、痺れるようなくすぐったさを感じさせられる。


「ほほほっ、沙紀は可愛いのう」

「にゃはははっ! くっくすぐっちゃいいい! やめっ…にゃは! やっやめぇ…にゃはははっ! やっ…やめええええぇ!!!」


 次から次へと服の中に侵入してくるヌルヌルは、すぐにアタシの全身へと行き渡ってしまう。

 妖艶に微笑むミズチの粘液に触れている素肌の感覚が、どんどん敏感になってきた。これは絶対に不味いやつだとすぐに理解する。


「その素直な反応が愛おしいぞ。

 安心しろ。この我が沙紀を極楽に導いてやろう」


 今まで捕まって酷い目に遭ったことは何度かあるが、それは限られた者しか知らない。そう口止めしている。

 だが今回はプールに集まっている大勢の見物人、そしてテレビ局にまで見られているのだ。これ以上の醜態を晒せばアタシの社会生命が終了しまう。


(助けて! エルザ!)


 このままでは確実にアタシとミズチの濡れ場が全国放送されることになると確信し、守護霊に心の底から助けを求める。

 こちらの全身を余すことなくヌルヌルして準備が整ったのか、青く長い髪を揺らめかせる全裸の美少女が艶っぽい笑みを浮かべ、チロリと赤い舌を覗かせる。


「それでは沙紀よ。我と一つになろうぞ」


 先ほどから絶え間なく身悶えさせられ、もはや全身に力が入らないフニャフニャの骨抜き状態されて、まともに喋ることも出来ない。

 このままでは頬を朱に染めて歓喜に打ち震える川の神に、供物として美味しく食べられてしまう。


 そしていよいよ行為に移るために、水蛇の拘束を緩めてもう一人が入れる隙間を作る。そこにミズチの裸体を潜り込ませようとした瞬間、エルザの霊気が爆発的に高まり半透明な尻尾と川の神を情け容赦なく吹き飛ばした。

 守護霊はアタシの体を操って空中で華麗に一回転すると、近くのプールサイドに危なげなく着地する。


「危機一髪でしたわね」

(うぅ…ありがとう。エルザ)


 彼女はミズチがもっとも警戒を緩める機会を伺っていた。流石のエルザでも、川の神との力比べは分が悪い。隙を突いて脱出するのが精一杯なのだ。

 アタシも逃げるが勝ちの意見には賛成だ。だがもし失敗すれば今度こそ誰の邪魔も入らない場所に連れ去られ、めくるめく官能の極楽浄土に導かれてしまう。


 そして霊気の暴風を受けて吹き飛ばされたが全く堪えていない青髪の美少女は、少し驚いたような顔をして、空中からこちらを見下ろす。


「愛しい沙紀を傷つけぬよう手加減はしたが、まさか神の力を退けるとはのう」


 プールサイドにはエルザだけでなく、左右にも真理子とポーラが身構えており、少しずつ高度を下げてくるミズチを油断なく見つめている。

 もはやいつ戦いが始まってもおかしくない。


「我の供物として沙紀を差し出せば、先ほどの無礼は許してやろう」

「お断りしますわ。これ以上は沙紀が本気で嫌がりますので」


 流れるプールの水面に音もなく舞い降りたミズチに警戒しながら、エルザがはっきりと断る。ここで彼女の提案を受け入れると、アタシの社会生命は完全に終了する。

 かと言って逃走を図ろうにも、川の神は戦闘態勢すら取っていないのに身にまとう霊圧は半端ではない。

 周囲の一般人にもはっきりと感じ取れるほどで、皆が蛇に睨まれた蛙のように体を強張らせたまま動けなくなっている。


 一歩、また一歩と距離を詰めるミズチも本気ということなのだろう。だがエルザの言う通り、この先のR18展開は勘弁してもらいたい。

 周りに人が居なければニャンニャンしても良いというわけでもないが、とにかく自分には百合の花を咲かせる趣味はないのだ。

 やがて威圧されながらも気丈に振る舞うアタシたちの様子に何かを感じたのか、青髪の美少女は突然歩みを止める。


「…これ以上は? ああいや、口に出さずとも良い」


 ミズチは真っ直ぐにアタシを見つめる。その瞳は霊力を帯びており、まるで魂の奥底まで探られているかのようだ。

 この不思議な感覚は、はっきりとは思い出せないが前にも身近な誰かに、似たような術をかけられたような気がする。


「ふむ、合点がいった。話は変わるが人の世での暮らしも、なかなかに楽しそうじゃな」


 やがて何かに納得したのかすぐに柔和な笑みに変わり、霊圧を綺麗さっぱりに消す。そのまま親しそうに話しかけてくる。


「それに我もやり過ぎた。今回は非を認めて大人しく引き下がろう。

 では沙紀よ。後日改めて謝罪に伺おう」


 川の神の言葉が終わるやいなや、彼女を中心にして突然旋風が吹き荒れる。十秒も経たずに風が止んで静かになったが、先ほどまで確かに目の前に居たミズチの姿は影も形もなくなっていた。

 周囲の霊気を探ってみても反応がなく、流れるプールに戻ったわけでもないようだ。


(引っ越したのかな?)

(ですわね。それも、私たちの家の近くに)

(何にせよ。これで依頼達成だね)


 あれだけアタシを手に入れようと躍起になっていた川の神が、突然態度を変えたのは気になるが、彼女に直接尋ねたところで答えてくれないだろう。

 へそを曲げて天災を起こされては溜まったものではない。触らぬ神に祟りなしだ。…と、こちらが不干渉でいたいと思っていても、ミズチは後日謝罪に行くとはっきりと口に出していた。


(はぁ…疲れた)

(沙紀のことは嫌っていませんし、隣人として上手くお付き合いしてきましょう)

(でも、神様の愛って重いんだよね)


 神が人間のことを気に入るのは珍しくはない。色々と助けてくれることもあるが、加減を知らない愛情に振り回されて、破滅するほうが多いイメージがある。

 なので少し変わった隣人として、適切な距離を保つことに尽力したい。


(とにかく依頼は無事に終わったんだよね)

「ええ、真理子、ポーラ。あとのことはお願いしますわね」


 巫女と魔女に向き直り、一言声をかけてからエルザは真っ直ぐにある場所を目指して早足で歩く。

 可及的速やかに移動しなければならないと察してくれたのか、客や取材陣がすんなり道を開けて、こちらに話しかけて来ないのは幸いだった。

 それとも全身がヌルヌルの粘液まみれなので、近寄り難かったのかも知れない。


 今のアタシはエルザに体に貸しており、精神的にも肉体的にも酷い有様だ。守護霊は感覚の同期や遮断、抑制までもが思いのままだ。

 しかし自分にはそんな便利機能は備わっていないため、現在のアタシの心はフニャフニャに蕩けきっている状態だ。


 なので体が戻っても火照った感覚はそのままで気を抜けばすぐ内股になり、モゾモゾと身動ぎしてしまうのは間違いない。

 ミズチが紳士的に優しく愛でてくれたのは助かったが、たとえ外からのもどかしい刺激だけでも、公衆の面前で乙女の尊厳が崩壊する寸前だった。


(エルザ。はっ…早く)

(わかりましたわ。今すぐお手洗いに…いえ、シャワールームに向かいますわね)


 このヌルヌルを残らず洗い落とさないと、いつまでも体の疼きが消えない。実際に操っている守護霊のエルザには何の支障もなく、アタシも肉体的な継続ダメージで死ぬことはないが、自分の思考はいつまでも気持ちの良い極楽浄土に囚われたままだ。


 あとのことは真理子とポーラに任せて、アタシは可及的速やかに洗い流して発散したら、さっさとお暇させてもらう。

 いくら何でも壮大にやらかした場所に留まるだけの度胸は、持ち合わせていない。




 全てが終わったあと、スッキリとしたエルザは携帯電話で二人に先に帰ると伝言を入れた。だがアタシは知らず知らずのうちに素肌から浸透した神の分泌液のせいで、表面的には洗い落としても骨抜き状態からはまるで抜け出せていなかった。


 結局森久保家に帰宅しても次の日になるまで憑依を維持し、抜けきるまで色々と尽力してもらうはめになった。

 なお、朝日を浴びて目が覚めた翌日、理性が戻ったアタシは前日の恥辱をはっきりと思い出し、ベッドの上で意味不明な甲高い叫び声をあげる。

 そして羞恥心で顔を赤くしたまま、気持ちが落ち着くまで布団の上をひたすら転げ回ったのだった。

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