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七月の友子

 最近のカホリはとても機嫌が良い。友亮との交際が順調で、日曜日は欠かさずデートをしていると言っていた。といっても、田舎町なのでデートコースは限られている。


 場所を特定されるので詳しくは書かないけど、駅近の遊戯施設と、展望台と、私の家の近くにあるショッピングモールを回ったら、定番のデートコースを制覇したことになる。


 中旬になって、二人から一緒にデートに行こうと誘われた。Wデートならば断わったけど、私たち三人の他に誰も来ないということで了承した。といっても、渋々だ。


 カホリがピクニックに行きたいと言い出し、友亮が面倒くさがって、だったら私と二人で行くと言って、心配だから一緒に行くことにしたらしい。その間、私への意思確認は一切行われなかった。


「懐かしいね」

 カホリが思い出しているのは小学生の時の遠足だ。森のトンネルのようなハイキング・コースがあって、何度も歩かされた思い出がある。中学生の時のマラソン・コースでもあるので、私には嫌なイメージしかない。


 それでも、立ち並ぶ白樺の木にはうっとりさせられた。白く真っ直ぐ伸びた出で立ちは、まるでモデルさんみたいで、表面もスベスベしており、ただただ美しいと思った。


「まだ、しゃっこいね」

 小川の水は透明で、上から覗き込むと、空気との境目は感じられなくなる。人間の体は六割から七割は水でできてるけど、水がこれだけ透明なら、人間の身体も少しくらいは透けてもいいんじゃないかと思った。


 芝生の上にシートを敷くと、バッタが突撃してくる季節なので、小川のほとりでお弁当を食べることにした。各自で用意する約束だったので、日曜日なのに早起きして用意してきた。


「いただきます」

 カホリは寝坊したとかで持参しておらず、私と友亮のお弁当を盗み食いし始めた。学校のお昼も大抵は売店で済ませているので、やっぱり多めに持ってきて正解だった。


 友亮も自分で作ったらしい。いつもはお母さんに作ってもらってるけど、休みの日はゆっくりさせたいらしく、起こさないように頑張ったみたいだ。気を遣える男の子は、とことん気を遣うものだ。


「友亮って、友だちいる?」

 三人固まって、日陰でまったり寛いでいる時、カホリが尋ねた。

「え?」

「あんまり友だちの話しないよね」

「そうだっけ?」

「たまに部活の人の話をするくらい」

「ああ、うん」

「それも学校以外じゃ会わないもんね?」

「学校以外というか、体育館でしか会わない」

「クラスに友だちいる?」

「友だちか……」

「仲良い人とかいないの?」

「みんな仲良いから」

「そういうんじゃなくて」

「友だちはいないかな」


 その答えに、カホリの表情が曇る。


「それって、わたしのせいじゃない?」

「なんで?」

「だって、友だちと遊べないでしょう?」

「別に遊びたいなんて思ってないから」

「思ってるよ」

「いや、本人が『思ってない』って言ってるのに」

「でも、わたしと付き合ってるから、周りの人も友亮のことを誘いづらいのかなって」

「そういう気遣いができる奴なら、むしろ有り難いけど」

「友亮は優しいからなぁ」


 優しいにも色んな意味がある。


「いや、俺だって行きたい誘いには乗るから」

 友亮は言葉の意味がちゃんと伝わるから会話にストレスを感じない。


「だったらいいけど」

 カホリが安心した。


「でも、こういう話って、カホリの方に願望があったりするんじゃないのか?」

 ただし、鋭すぎるのが難点だ。


「願望って?」

「だからカホリの方が友だちと遊びたいって思ってるんだよ」


 そこでカホリが沈黙した。


 それを見て、友亮が優しく声を掛ける。

「好きにしていいからな――」


 カホリが友亮の目を見る。


「俺は友だちと遊ぶカホリも好きだし、独りでいるカホリも好きだし、家族といるカホリも好きで、とにかく全部のカホリが好きだから、友だちと遊びに行きたいなら、気兼ねなく行ってきな、な」


 カホリはアクティブな人なので、その言葉が嬉しそうだ。

「ありがとう」


「ただし、遠出するなら、お土産は絶対な」

 ただ自由にさせるのではなく、気持ちを預けるから、愛がある。

 しかも、冗談めかして言ってくれるから、カホリも気持ちが楽そう。


「というかさ、カホリって、友子以外に友だちいる?」

「え?」

「昔から、顔は広いんだけど、言うほど友だちは多くないっていうか」

 やっぱりバレていたようだ。

「昔は部活で忙しかったから」

 小学生の頃は私にべったり。

「今は?」

「学業優先」

 月・金・土の週三で進学塾に通っていると聞いている。

「遊びに誘われたりとかする?」

「まだないけど、わたしも今はリサーチ中だから」

「なにそれ?」

「誘いを受けてもいい子か吟味してるの」

 怖がりなカホリらしい。

「じゃあ俺って、実はかなり難易度の高い試験に合格したんだな」

「そうだよ、すごいことだからね」


「ちょっと待って――」

 そこで友亮が私のことを見る。

「友子って、カホリ以外に友だちいる?」

「いない」

「答えるの早すぎだろ」

「だって、いないもん」

「分かった」

 と言って、友亮が何度も頷く。


 カホリが急かす。

「なにが分かったの?」

「カホリは、俺や友子のように友だちが少ない人と付き合いたがるんだ」

 確かに。

「そうなのかな?」

 本人としては自覚しづらい部分なのかもしれない。

「一回、そのことを認めて考えてみな」


 友亮が自己分析を促した。

 そこでカホリが考える。

 長い間。

 それを友亮は気にしないのだった。

 急かしたりもしない。


「ああ、確かに考えてみると、わたしは『友だちの友だち』の存在が引っ掛かるのかもしれない。A子ちゃんとは気が合うし、大好きなのに、その友だちのB子ちゃんと波長が合わないと、A子ちゃんとも付き合うのを止めちゃうんだよね――」


 分かる。


「で、A子ちゃんも、わたしじゃなくて、B子ちゃんと一緒にいたがるから、それで自然と話をしなくなるの。それで苦手な子たち同士で固まるようになるから、『ああ、あそこで付き合いを止めて良かった』って思うんだ――」


 私にも経験がある。


「でもね、それでも時々、A子ちゃんのことは今でも考えてしまう。本当にB子ちゃんと一緒にいたい子だったのか、それとも断りきれずに、嫌々ながらも付き合っていたのか、分からないからね――」


 そこに気が回るのが、私と彼女の違いだ。


「いじめられてるならホームルームを開くんだけど、そういう感じでもないから、本当に難しい。B子ちゃんだって、苦手っていうだけで、悪い子だとは思ってないから」


 小学生の頃から、彼女はそういう人。

 怖がりなのに、無神経に思えるほどの勇気を出す時がある。

 私は彼女に救われた一人だ。


「なるほどな――」

 友亮が得心する。


「じゃあ、カホリと付き合い続けるには、友だち選びが大事ってわけだ」

「そこまで自分本位じゃないから」


「いや、俺はカホリの気持ち次第でいいよ――」

 それをサラッと言う。


「束縛したかったら束縛してもいいし、冷たくしたかったら冷たくしてもいい。文句を言いたくなる時だってあるだろうし、そういう時は我慢しないで、ぶちまけてほしいんだ。口にしたらダメになるかもって、考えなくていい。俺はカホリに何をされても、好きだから――」


 いい人すぎて、潰れてしまわないか心配になる。


「ただし、暴力は止めよう。さすがに、そこまでMじゃないから」

 それは、自分も暴力は奮わないという誓いだ。


「『そこまで』って、それは認めてるようなものだけどね」

 そこで二人は、はにかんだように笑い合うのだった。



 それからトイレに行きたくなると困るから、催す前に引き返すことにした。それでも、まだ時間があるということで、展望台のある丘へ行った。そこへ行けば、私の生まれ故郷が全部見渡せる。


 正式名は伏せるとして、代わりに名付けるとしたら、『夜景がショボい丘公園』というネーミングが思い浮かんでしまう。ネオン・ライトが少ないから、寂しくて、切なくて、意味もなく悲しくなる。


 展望台は、意外と人が多いので、場所を移して、丘の中腹から街の全景を眺めることにした。ここも小学生の時に遠足で訪れた場所なので、思い出巡りをしている感じだ。


 おそらくだけど、カホリは自分が見てきた景色を友亮にも見せているのだろう。自分のことを知ってもらいたくて仕方ないんだと思う。それが彼女にとっての愛情表現というわけだ。


「二人とも、手だして――」


 並びはいつもの通り、カホリが真ん中。

 手を差し出すと、握られた。


「三人の中で、わたしが一番幸せだと思う。名前に『友』が入った二人に挟まれてるからね。わたしのような人は、日本中を探してもいないと思う。出会えただけで奇跡だよ」


 友亮がハッとする。


「そうじゃなくて、ひょっとしたら、友子と友だちだったカホリが、俺の名前に『友』が入っているから興味を持ったんじゃないか? だとしたら、俺とカホリを結び付けてくれたのは友子なんだよ」


 カホリが頷く。

「そうかもしれない」


 二人にとってはロマンティックな話でも、私にとっては関係のない話だ。


 そこで友亮が思い出す。

「そういえば、ずっと疑問だったんだけど、カホリと友子は友だちで、俺とカホリは恋人同士だけど、じゃあ、友子と俺はどういう関係なんだろう?」


 カホリが即答する。

「友だちでいいんじゃないの?」


「違う――」

 そこは、きっちりしておきたい。

「私にとっては『トモダチのカレ』だから、それ以上でも、それ以下でもない」


 私の言葉に、またしても二人は笑い続けるのだった。


 それが高校一年生の七月の出来事です。来月は夏祭りがあって、三人で行く約束をしているので、そのことについて書くことができたらいいなって思っています。


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