二月の友亮
今月に入って一度だけ友子と会うことができたけど、予想していた通り、チョコはもらえなかった。記憶力のいい彼女のことだから、前に俺が「義理チョコはいらない」と言った言葉を憶えていたのだろう。
そんなことを誰も読んでいない日記ブログで愚痴っても仕方がないので、今回も別のサイトに投稿した自作をアップしたいと思う。もうすでに日記ブログの体を成していないけど、それはいいとして、タイトルは、
カノトモ
君は知らないかもしれないけど、紹介されて出会う前から、僕は君のことを知っていたんだ。カノジョがよく話してくれていたからね。小学校のアルバムを見せてもらっていたから顔まで知っていた。
こんなことを言うと怒られるかもしれないけど、高校の入学式が終わった後、初対面の君の顔を見て、笑いそうになってしまったんだ。それは写真と同じ固まったままの表情をしていたから。
なかなか目を合わせてくれず、合わせてもすぐに逸らして、カノジョと三人で一緒に下校していたけど、僕と直接会話しようとはしなかったね。僕も無理には話し掛けようとは思わなかった。
その時はカノジョが楽しそうにしてくれていたら、それで良かったんだ。本当にそれだけ。カノジョのことを好きだったから、友だちとも思わなかった。君の言葉を借りると、カノジョのトモダチ以上でも、以下でもなかった。
五月になって、バレーボール部の三年の先輩から、君のことを「紹介しろ」と命令されたことがあった。普段は愉快な人なんだけど、他人の人間関係を無視するような人だから、僕は今でも嫌いだ。
カノジョや君にそのことを話したのは、僕の知らないところで、僕の知っている人が、君に迷惑を掛けないか心配になったからだ。命令はされたけど、最初から紹介しようなんて思わなかった。
それは君を好きだったからじゃない。カノジョが大切にしている友だちがトラブルに見舞われて、それでカノジョが悲しんだり、傷ついたりする姿を見るのが嫌だったからだ。
六月のことは今も忘れない。いきなり君が「セックスについてどう考えているのか」と尋ねてきたからだ。女の方が精神的な発達は早いっていうけど、本当にそう思った。
面食らったけど、尋ねてくれて良かったと思っている。そのおかげで、カノジョと話し合って、納得する形で結ばれることができたからだ。カノジョに君のような友だちがいて本当に良かった。
振り返ると、それが、君のことをちゃんとした友だちだと認識した瞬間だったのかもしれない。「男女の友情は成立するのか」という命題は置いておいて、少なくとも僕は君のことを友だちだと思ったんだ。
七月に一緒に展望台に行った時のことを、君は憶えているだろうか? 君は僕のことを「トモカレ」だと言った。いくら僕が友だちだと思っていても、君が友だちだと思ってくれなければ、それは友だちではない。
そこで僕も考えて、あまり君に踏み込まないようにした。君がそういう距離感を望んでいるのなら、そうした方がいいと思ったからだ。あくまで君は僕のカノジョの友だち。
といっても、それはこうして振り返ることで整理できただけであって、当時はそこまで深く考えていなかったように思う。その時の僕はカノジョに夢中だったから。
八月は夏休みということもあり、ちゃんと会って話をすることはなかった。三人で一緒に夏祭りに行く約束をしていたけど、それも叶わず終い。君のことを考えることもなかった。
九月も会話をした記憶がない。いや、記憶違いだとしたら申し訳ない。それでもカノジョとの会話の中ではよく話題にしていた。それはカノジョと関係を持って、そのことを君に話したと言っていたからだ。
僕はカノジョとの関係を詳しく話すつもりはないし、これからも口にすることはない。だからといって、カノジョが君に話したことを責めるつもりはないんだ。
むしろ話を聞いてくれる友だちが側にいてくれて良かったと今でも思っている。僕が話さないことで、カノジョまで一人で悩みを抱えることになってしまったら、そちらの方が心苦しく感じるだろうから。
十月はカノジョとの関係が少しだけギクシャクし始めて、そのことについては僕に責任があるし、だから説明しても言い訳になるだけだから言わないけど、カノジョの側に君がいてくれて良かったと思った。
君が間に立つことで、僕たちは冷静に話し合うことができたし、何よりもカノジョの支えのような存在になっていたと思うから。ただ、僕はどうしてもカッコつけるクセを直すことができなかったけど。
でも、それは君の前だからカッコいいことを言ったわけではないんだ。あの時の僕はカノジョだけを見ていた。それを証人として、君に聞いてもらいたかったというのはあるけどね。
十一月は三人で一緒に映画を観たことを憶えている。でも正直、この頃の僕はカノジョとの関係が上手くいっていなくて、一緒にいても楽しめていなかった。
カノジョを見ていても、僕と一緒にいる時よりも、君と一緒にいる時の方が楽しそうで、別れた方が幸せなんじゃないかって考えていたのが、ちょうどその頃だったんだ。
だけど、それは君の責任ではないよ。君にまで嫉妬した僕がいけないんだからね。口ばっかりで、心が狭い、僕が悪いんだ。カノジョが自分以外の人と笑っているだけで腹が立っていた。
十二月には、もうカノジョと別れていた。君が相談に乗ってあげていたというのは、後から知った。それを聞いて僕がどれだけ救われたか、きっと君には分からないだろう。
あの頃の気持ちを思い出すと、今でも心が苦しくなる。カノジョを傷つけたこと、悲しませてしまったこと、冷たくしてしまったこと、自分ほどひどい人間はいないと思った。
特に僕はずっとカッコいいことばかり言ってきたから、そのどれもが嘘になったことで、自分を許せなかったから。そんな、傷つけてしまったカノジョの側にいてくれたのが君なんだ。
一月にカノジョとヨリを戻したけど、「別れた原因が自分にあるんじゃないか」って君は思っていたと、それも後から聞いた。そんなことを考えさせてしまって、本当に申し訳なく思った。
別れた原因は僕にあったからだ。「別れよう」と言ったカノジョに、意地を張ったというか、いや、意地悪な気持ちがあったと思う。別れたいなら好きにしろって、投げやりな気持ちを抱いてしまったんだ。
別れようと言わせたのは僕で、そこまでカノジョを追い込むことで、僕は責任から逃げたんだ。だから君は関係ない。何も悪くなかった。むしろ僕たちを救ってくれたんだ。
二月は楽しかった記憶しかない。生まれて初めて手作りチョコを食べさせてもらって、正直に言うと、売ってるチョコの方が美味しかったけど、褒めないと二度と作ってもらえないので、それも含めて、いい思い出だ。
僕たちの思い出の中に、君もいてくれたことを、心から感謝している。ヨリを戻した時も君はいて、僕はいつものようにカッコつけたけど、立ち会ってもらえて良かった。
それもすべてはカノジョのためだ。君の前で誓うことで、カノジョを安心させることができたと思っているからだ。この時も相変わらず、君にとってはトモカレで、僕にとってはカノトモだったけど。
三月十一日、彼女は亡くなった。母方の祖父の葬儀に列席するために東北へ渡ったところ被災した。
続
今月はそこまでしか書くことができなかった。




