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十二月の友亮

   告白


 好きな人に告白しようと決めた。

 理由は単純。

 クリスマスを一緒に過ごしたいと思ったからだ。

 あと一緒に初詣にも行ける。

 それとバレンタインデーの前も不安なく過ごせるから。

 だから男はクリスマス前に告白しなければならない。

 ホワイトデーを三か月前にしてもいいくらいだ。

 告白する日を決めてしまえばいい。


 バレンタインデーなんかあるから、夢見るバカな男が増える。

 毎年期待して、毎年ガッカリする。

 ガッカリしたのに、懲りずにまた期待する。

 待ってたらいけない男が、待ち続ける。

 鏡を見ろ!

 財布の中を見ろ!

 過去の自分を見ろ!

 どこに期待できる要素がある?


 だから僕は告白する。

 自意識が高いだけの男になりたくないから。

 好かれるのが当たり前と思う男にはなりたくないから。

 アプローチを待つ情けない男になりたくないから。

 偉いのはいいけど、偉そうな男にはなりたくない。

 モテたいけど、モテると勘違いしている男にはなりたくない。

 求愛するのは、僕の方だ。

 だから告白する。


 でも、いきなり告白したらダメだ。

 会話をしたこともない相手なら、絶対にダメ。

 成功するはずがないからだ。

 そんなメンタルは持ちたくない。

 僕は時間を掛けてきたから大丈夫。

 それとなく好意も伝えてきた。

 いつの日か、告白されることを、感じさせるくらいに。

 それくらいは当然の気遣いだ。


 告白する日は占いで決めた。

 当たるとか、当たらないとかは関係ない。

 こういうのは気持ちの問題だからだ。

 調べまくって、都合が合致するラッキーデーを見つけた。

 それだけで勇気が持てる。

 いや、勇気の足しになる。

 占いの効果は、それくらいで充分だ。

 あとは自力で何とかする。


 問題は告白する場所だ。

 校門の前はダメ。

 相手の迷惑になるからだ。

 僕が周囲の目を気にしているわけじゃない。

 相手が周りから、どのように見られるか?

 それを考えるのが大事。

 相手の立場となって考える。

 そこまで考えるのが、相手を思うということ。


 告白する日がきた。

 場所は市内の科学館。

 彼女の好きな場所で告白することにした。

 成功すれば、一緒に星を観ることができる。

 僕にとっては初めてのプラネタリウム。

 イメージ・トレーニングも完璧だ。

 彼女がどう答えるのか、細部まで想像できている。

 成功をイメージできないようなら、やめた方がいい。


 入館前に、彼女に告白。

 口から心臓を吐き出しそうになる。

 緊張で上手く喋れない。

 自分でも驚くほど、しどろもどろ。

 それでも、頑張って告白する。

 ありったけの勇気を振り絞って。

 結果は「ごめんなさい」

 人生とは、そんなものだ。


   終


 サイトに投稿したけど、反応はなかった。自分でも中途半端というか、振り切れていないというか、昇華しきれていないと思ったので、納得している。次は反応があったものを上げる。タイトルは、


   クリスマス・プレゼント


 恵介けいすけは幼い頃からクリスマスが大好きだった。誕生日の他にもプレゼントをもらえるので、得をした気分になれるからだ。普段は家の手伝いをほとんどしないが、クリスマス・ツリーの飾り付けだけは進んで手伝うほどである。


 小学校に上がってからも、その気持ちは変わらなかった。子どもは決まってサンタクロースが実在するかどうかの話をするが、恵介だけは話に加わろうとしなかった。なぜなら彼にとってはプレゼントをもらえるという実益があれば、それで良かったからだ。


 プレゼントの他にも、クリスマスにはケーキを食べることができて、普段よりも豪華な食事ができるのに、それをわざわざ否定するのはバカだ、と恵介は思っていた。特にクリスマス当日の母親は機嫌が良いので、それが一番うれしいと感じていた。


 かなりマセていたのか、小学校の高学年に上がる頃には、すでに恋人と二人で過ごすクリスマスに憧れを抱いていた。テレビや映画を観て知識を得ていたというのもあるが、好んで恋愛ドラマを視聴する小学生の男子は少ないので、やはり珍しい部類に入るだろう。


 それから恵介はたくさんの女の子に自分から積極的に声を掛けていった。それはたくさんの恋愛をしたいからというわけではなく、理想の恋人を見つけるためだった。彼にとって実益を得ることが最も大事なことなので、話してもいない人を好きになることはないのである。


 恵介が理想の女性を求める上で重要視した条件は、クリスマスの過ごし方だった。それを尋ねただけで、相手の価値観を知ることができたからだ。価値観が違っていても良いと考えるのは他人のことであって、彼はパートナーに同じ価値観を求めたというわけだ。


 ちゃんとしたクリスチャンは除外された。それは恵介自身がちゃんとしたクリスチャンではないからだ。また、宗教上の理由でクリスマスを祝ったことがない人も除外された。彼にとっては宗旨替えさせるのが目的ではなく、あくまで実益を得ることが大事だからだ。


 また、クリスマスに浮かれる人たちを離れたところから蔑む人も除外された。彼は経済効果が質の高いサービスを生むと信じているので、経済活動に積極参加している人たちを揶揄するような人は、利益に反する者として分類するわけである。


 意外なところでは、クリスマスの夜に仕事をしている人も除外された。それは経済効果の恩恵に与る実利主義に合致はしているが、恵介自身の実益、この場合は共有する時間だと彼は考えているが、その利益をもたらす行為ではないので除外されたわけだ。


 恵介は三十歳を目前にして何十人、いや、三桁を超える女性とデートを重ねたが、特定の誰かと長く深い関係を続けることはなかった。また、浮気をすることも、疑われることもなかった。それはきちんと清算することで、トラブルを回避してきたからだ。


 彼が最も恐れたのは、年に一度しかないクリスマスを、恋愛トラブルで台無しにしてしまうことだった。たった一度でも、そんなつまらない思い出を残してしまわないようにと、注意を払って生きてきたわけだ。実際に十代、二十代と、彼は満足いくクリスマスを送ることができた。


 しかし三十歳を前にして、家族と過ごすクリスマスを夢見てから、女性に対する理想の条件を変えなければいけないことに気がついたのだった。もう少し早く気がつくことができれば良かったと思ったが、彼はいつまでも後悔しているだけの男ではなかった。


 恵介はすでに理想の結婚相手と出会っていたからだ。その時は価値観の違いから、デートを重ねることなく、あっさりと別れた上、別れた後も未練はなかったが、ここにきて、彼女こそが理想の相手だと確信に至ったわけだ。彼がそう思ったのも、彼女のクリスマスの過ごし方が理由だ。


 真弓は「クリスマスは家族と過ごしたいから」と言って、恵介の誘いを断ったことがある。その時は恵介も「だったら仕方ない」と言って諦めたが、その答えこそが、心境に変化があった現在の彼にとって、理想の条件にピッタリと当てはまる答えだったわけだ。


 それから恵介は真弓に連絡をして、正式に交際を申し込み、そこから真剣なお付き合いが始まった。彼は大抵のことは許容できたが、クリスマスの過ごし方だけはどうしても譲れない問題だったので、そのことを正直に打ち明けた。他人に話したのは真弓が初めてだった。


 約一年の交際期間を経て、初めて迎える二人だけのクリスマス。場所は港町が一望できるシーサイドホテルの最上階にある展望レストラン。一年前から予約してあった席に無事に座ることができて、恵介は満足だった。また、真弓も同じ気持ちであった。


「渡したい物があるんだ」

 そう言って、恵介はプレゼントを取り出して、テーブルの上に置いた。それを見て、真弓が微笑みながら言う。

「クリスマス・プレゼントって、サンタさんからの贈り物じゃなかったっけ?」


 恵介がプレゼントのケースを開ける。

「僕と結婚してほしい」

 差し出したのは、婚約指輪だった。


 真弓が感想を口にする。

「それをクリスマス・プレゼントにするのはズルい」


 恵介が、しまった、という顔をする。


 そこで、真弓もプレゼントを取り出す。

「私からのプレゼントは、これ」

 差し出したのは婚姻届だった。


 指輪と紙を見比べて、恵介が呟く。

「やっぱり僕たちは似ていたんだね」


   終


 サイトに投稿した翌日、毒舌マダムから「真弓のプレゼントは余計だったのではないか」という、結末をやんわりと否定する感想をいただいた。でも、甘口マダムからは「おもしろい二段落ちだった」との評価を得た。


 他にも初コメント主から「意味が分かりません」との感想をもらった。コメントが増えたのは、星新一をパクっていると、極々一部で話題になってしまったからだ。ショートショートを書く難しさって、実はそこだったりする。


 それはともかくとして、結末の意味は、指輪を用意した男と、婚姻届を取りに行っただけの女では、労力や費用に差はあるけれど、女の行動こそが、己の実益を優先しているということで、まさに男の理想だったというオチだ。


 しかし、それをわざわざ説明するのは野暮で、特に短編やSSでは悪手となるので書かなかった。しかも、それは作者の解釈であって、読者の解釈ではないので、返信で解説もしなかった。


 それとは別に、毒舌マダムの指摘も間違いではなかった。『クリスマス・プレゼント』には複数の結末があって、どれにしようか迷ったという経緯があったからだ。その一つが、男のプロポーズが失敗に終わるパターンだった。


 他にも、男を無邪気キャラ、女を腹黒キャラにして、指輪と紙の価値を等価にしないパターンも考えた。つまり、結末次第で登場人物の性格が変わってしまうということだ。


 本を書くというのは、本当に難しい。今回は男を幸せにしたけれど、不幸にすることもできた。迷った挙句に、指輪と紙の価値を等価にしたのは、俺自身が、そこに譲れない価値観があったからなのかもしれない。


 と書きつつ、おもしろいオチが思いついたら、そのためにキャラを動かしてしまうので、すべては作者の自己投影だと思われても困る。いちいち自己投影させていたら、すぐにネタが尽きるからだ。


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