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十月の友亮

 今月に入って、二か月振りに友子と会ってちゃんと会話することができた。しかし会っただけで、話したのはカホリのことだけだ。そこで今回も書き貯めた短編を投稿したいと思う。タイトルは、


   浮気


 男は焦っていた。それは隠していた浮気がバレたからだ。互いに独身なのだから、法に問われることはないのだが、女のことを愛していたので、説得しにきたわけだ。


「頼む、聞いてくれ」

「聞きたくない」

「そう言わず、俺にもう一度だけチャンスをくれ」

「どうせ、また裏切るんでしょう?」


 そこで男は固いフローリングの上で正座することにした。それからソファに座る女の目を見上げながら説得を続けた。


「君を愛しているんだ」

「そんな人は浮気なんてしない」

「本当にバカだった」

「同情を誘ったってムダだから」


 そう言って、女は心に鍵を掛けたかのように腕を組むのだった。それでも男は諦めなかった。


「俺は本当にバカだった」

「今もバカのままでしょう?」

「違う」

「何が違うっていうの?」

「浮気をして、君がいかに素晴らしい女性であるかを知った」

「そんなこと言われて、私が喜ぶと思う?」


 女の方がすべてにおいて上手だが、やり直したいと願っている男は諦めなかった。


「俺は確かに過ちを犯した。君が望むなら、死ぬまで謝り続けてもいい。君に会えなくなることと比べれば、容易たやすいことだからだ。君が許してくれるまで、何度でも謝ろう」


 女が問い掛ける。


「そこまで思ってくれているというのに、どうして浮気なんてしたの?」

「君に甘えていたんだ」

「答えになってない」

「誘われたことで、いい気になってしまったんだ」

「相手の女が悪いってこと?」

「いや、断れなかった俺が悪い」


 女が溜息をついた。


「その女とは、どうなったの?」

「別れたに決まってるだろう」

「本当に?」


 男が何度も頷く。


「もう、二度と会うものか。これほどまでに、君を苦しめることになるとは思わなかった。本当にバカだったんだ。始めから分かっていたら、浮気なんかするものか。経験しないと分からないなんて、本当に俺はバカだ」


 女が三度みたび問う。


「今度は信じていいの?」


 男が力強く頷く。


「ああ、こんなこと言うと、君は怒るかもしれないけど、浮気をする前の自分より、今の自分の方が、君のことを愛しているって分かったんだ。これからは、君だけを愛するって誓うよ」


 そこで女は組んでいた腕を解いた。


「一度の過ちだし、今回だけは許します」

「本当に?」

「何度も言わせないで」

「愛してるよ」

「私も愛してるから」

「もう、二度と浮気はしないって約束する」

「絶対ね」

「ああ、もう、浮気はコリゴリだ」

「私に隠し事はできないんだから」


 女は知らなかった、彼女の方が男の浮気相手だと。


   終


 投稿後、前作と同じ人から「あなたのお話はオチがひどい」と、またしても丁寧な言葉でお叱りを受けた。自分としては、何とかして話を落とそうとして、強引に捻り出したオチだったので、上手くいかないものだと思った。


 時間を持て余していたので、小説を書く時間がたっぷりあった。没にした作品が何本もあったので、公開できるものは少ないけれど、今月はもう一本だけ上げてみる。タイトルは、


   片思い


 出会った時は、まさか君に恋をするとは思わなかった。その時は他に好きな子がいたからね。それでも、初めて君と目が合った時のことは、今でもはっきりと憶えているんだ。


 あれは、入学したばかりの校舎が、まるで巨大迷路のように感じられた十五の春。怖がりな僕を、新たな冒険へと旅立つ勇者へと変えてくれた。そう、あの時から、君を探す旅が始まったんだ。


 それでも僕には好きな人がいたから、君のことを考えると、罪悪感で胸が痛んだ。狂おしいぐらい好きだったのに、その子がいたから生きていけたのに、それなのに忘れてしまえるのかって。


 好きだった人を忘れて、君のことを好きになる自分が、とても薄情な人間に思えた。そんな酷い自分になるくらいなら、いっそのこと、恋なんてしなくていいとさえ思った。


 でも、無理なんだ。君のことを考えないなんて、もうできない。頭が勝手に君の顔を思い浮かべるんだから、できるはずがないんだ。常に君の残像が目の前にいるんだよ。


 僕がそんな風に考えていることなんて、君はこれっぽっちも気づいていないんだろうな。だって僕は君と会うと、勇者じゃなくて、臆病者になってしまうからね。


 それでも、こうして再会できただけでも奇跡だと思っている。奇跡を起こしたのは、間違いなく君の力だ。そんな力を持っているということは、君は魔法使いなのだろう。


 僕たちには会えない時間があったけど、再会してしまえば、そんなのは僅かな時間だったと思える。それは記憶喪失になったかのような、何もない時間だったから、そう感じられるのかもしれない。


 常に、心の中にいたはずなのに、もう会えないからと、無理やり諦めていた。そうすることで、何もない、空白だらけのカレンダーを破り捨てることができたんだ。


 会いに行こうと思えば、会うことはできたかもしれない。君の家を知っていたから、できたんだ。そうしなかったのは、君の方から、僕を求める気持ちを感じたかったから。


 ほんの少しだけでもいいから、僕のことを思っていてほしかった。それだけで、勇気が持てるんだ。だけど結局、君からの連絡は一度もなかった。一方的な片思いだったわけだね。


 自分からアプローチしなかったのは、君に迷惑が掛かると思って。僕も心のどこかで、片思いだっていうことを気づいていたんだ。だって君は、あまりに素っ気ないから。


 再会を果たしてからもそう。友だちとしか思ってもらえていないって、君がそう感じさせるように接するんだよね。僕の気持ちに気づいていて、それでわざと勘違いさせないようにするんだ。


 あまりの冷たさに、君に腹を立てたことがある。それでも、次の瞬間には、なんてことを考えてしまったんだと、自己嫌悪に陥るんだ。君に感謝こそすれ、恨むことなど一切ないのだから。


 我ながら自分勝手だと思う。勝手に恋をして、素っ気ないからと恨んで、そんな自分じゃダメだと反省する。でも、たぶん、その一人で恋愛をしている感じが、片思いなんだろうな。


 君を思って泣いているのに、君は何も感じてくれない。君を思うことで何も手がつかないのに、君は僕がそんな状態になっていることに少しも気づきやしないんだ。


 片思いをしているとね、ひょっとしたら、女というのは男よりも深く愛せない生き物なんじゃないかって思ってしまうんだ。君は僕ほど人を愛せるのだろうか。


 また、僕の悪い病気が始まった。どうしても自分本位に考えてしまう。君の愛は、僕なんかの愛より、深く、広く、大きいはずなのに、上手くいかないと、どうしても君を悪者にしようとしてしまう。


 そんなんじゃダメだ。君は魔王じゃないもんね。僕に勇気を授けるお姫様だ。戦う相手は、僕の心に巣くう魔物で、誰でもない、自分の力で戦わないといけないんだ。


 一度、勇気を持ちすぎて、君に告白してしまおうと考えたことがある。しかもその内容は、まるで遺書のような感じだ。感謝を告げてから、君に出会えて良かったと言って、永遠の別れを口にするという。


 たまたま会えなくて告白できなかったけど、今は何も告げずに良かったと思っている。さすがに一人で先走りしすぎだし、君だって反応に困っていたはずだからだ。


 こんな風に、勝手に妄想して、相手のリアクションまで想像して、暴走しようとするのが片思いだ。相手のことを思えていないから、独りよがりの恋になってしまうのだろう。


 そこまで考えるに至り、やっとちゃんとした告白をする決心を固めることができた。ストレートに思いを伝えて、相手の気持ちを聞いて、答えを出したいと思う。


「好きです。付き合ってください」

 それが僕の告白だ。


「私もずっと好きでした」

 それが君の答えだった。


 こんなはずじゃなかった。

 どうか、間違いであってくれ。


「両想いってこと?」

「うん」

「だったら、ごめんなさい」

「え?」


 断るしかなかった。

 なぜなら、僕は両想いではなく、片思いをしていたいからだ。


   終


 投稿した翌日、やっぱり同じ人から『オチで台無しです』と、丁寧な言葉でお叱りを受けた。最後の告白がなくても、告白に至るまでの過程を描き切った時点でオチているので『不要』とのことだ。


 過程を描き切ったところでブツ切りに終わる商業作品があるらしく、読んで勉強するようにと何冊もオススメされた。返信していないが、悪い人ではなさそうなので、有り難く参考にさせてもらうことにした。


 プロフから、俺はその人のことを『毒舌マダム』と呼んでいるが、マダムによると、オチの勉強をするには、やはり落語が一番だそうだ。話を書く上で、落語以上に勉強になるものはないと書いていた。


 色んな種類のオチがあるらしく、無理に驚かせなくてもいいそうだ。ニヤッとさせたり、クスッとさせたり、スッとさせたり、唸らせたり、何もなかったりと、奥が深いんだそうだ。


 実際に小説を投稿して初めて分かることがある。その一つが感想欄だ。はっきりいうと、小説を書くことと、感想返しのコメントは、まったくの別物だということだ。


 読者と作者による会話ができるという意味で、ほぼSNSみたいなものだと考えた方がいいと思う。SNS慣れした人や、テンプレ挨拶ができる人しか、使いこなすことは難しいと感じた。


 俺は一つの感想につき、返信を書くのに丸一日潰しそうになったことがあるので、早々に返信しないと見切りをつけることができたが、マメな人や誠実な人は大変だろうなって思う。


 小説は一人で書くことしかできないから孤独だ。俺は友子から励まされたからいいけど、じゃあ、友子はどうなのだろう? 誰が彼女を励ましてあげているのだろうか? 無性に気になってしまった。


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