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1.二人が出会った日

初めて投稿します。

6年前に下書きをして、放置されてた作品です。


もし、あなたの身近な人が、あなたの知らない世界での超有名だったら。


このお話は、そんな日常のIFから着想を得て書き始めました。


超初心者のため、最後まで書けるのか自信はありませんが、がんばります。

 ―何十回、いや、何百回。

 いままで、数え切れないほどに、囁いてきた愛の言葉。

 でもそれは、ただ聞いてくれる人の心に、少しでも何かが残れば、と。

 そう、いつも思って口にしてきた。


 それが、なんで。

 一番伝えたいと思う相手には、できないのだろう。

 重ねた言葉の数だけ、それは薄っぺらくなってしまったのか。

 ―不特定多数に向けた言葉の所為で?

 それでも、また何度でも君に伝えるよ。

 世界で一番、伝えたい愛の言葉を君に。


『君に囁く、愛を囁く。ー夢で逢えたら。』


 プロローグ

 ―人生には、『きっかけ』ってモノが存在する。

 カッコつけて言えば、『ターニングポイント』っていうやつだ。


 あの頃、こんな俺にできることなんて、だたのひとつもないと思っていた。

 それでも、あいつのことが好きで、好きで、将来、なんとかあいつだけは護って行けるような―、そんな男になりたいと、子供ながらにそう思っていた。


 そして、今俺は一つだけ、かもしれないけれど、他人に誇れるモノを手に入れた。

 遠い昔、あいつが言った言葉を思い出す。

「由布の声は、いつ聞いても幸せな気分にさせてくれるじゃない。

 ―だから、声を使った仕事をすればいいよ。きっと、上手くいくから」


 俺は、その言葉にすがりついて、ココまで登ってきたんだろう。

 今、隣にあいつはいないけれど―。


 『今年のベスト声優アワード、新人賞の発表です!まずは男性部門、選ばれたのはこの方!―神村由布さん!どうぞ~』


 会場中から響く拍手の中、俺は舞台袖から表舞台へと歩む。

 ―ココまで来た。お前のあの一言のおかげで。


 『受賞おめでとうございます!いまのお気持ちはいかがですか』

「―とてもうれしいです。まだ、この仕事を初めてあまり経っていませんが、たくさん努力してきた甲斐があったなと思っています。そして、いつも支えてくださるファンのみなさん、素敵な作品に自分の声を使ってくださる各作品に携わるすべての方々へ、お礼を申し上げたいと思います」

 それは、心からの言葉だった。俺は、いつもたくさんの人に支えられここまで来たのだから。

 けれど、やはり一番の感謝は、俺をここまで導くきっかけをくれた一人の少女。

 いまではもう、立派なひとりの女性になっているであろう、幼馴染の少女だった。



 *1*

「ねぇ、!絵美香ったら!」

 彼女は、はっと、思わず目を見開いた。

「んもぅ、聞いてた?で、どうすんの」

「どうするも何も…、どうしよう」

 はぁぁ、と彼女の同僚が深々とため息をつく。

 それは青天の霹靂だった。

 いつものように、同僚とランチをしようと席を立った彼女を、部長が呼びとめた。

「君、突然だが専務の御子息と見合いしてもらえないだろうか」と。


 さっきから、自作の色とりどりのお弁当は少しも減っていない。

 宮絵美香、25歳。

 この会社、深山商事株式会社で、今まで5年間事務職をしてきた。

 彼女のモットーは、とにかく目立たないこと。平凡であること。

 超がつくほどに生真面目な性格。

 このような性格からか、恋人の一人すらできたことはなかった。

 彼女も、無理に作りたいと思わなかった。

 だが、今回はそれが裏目に出たようだった。


「交際相手がいるって言えば良かったのに」

「……無理よ。私嘘が下手だし。それに、部長が言ったの。『不躾とは思ったが多少調査をさせてもらった結果、君以外の結婚適齢期の女性社員はほとんどが既婚か交際相手ありだったから、もう君にしか頼めない』とかって」

「なにそれ。セクハラもいいとこね。……でも事実なのよね」

「……うん」

 二人っきりの休憩室で、重たい沈黙が空間を覆った。

「いっそ、開き直って会ってみたら?嫌だったら断ればさ」

「……そんな簡単に断れないよ。それに、会うのも嫌なの!」

「……まぁ、アイツじゃねぇ……」

 深々とため息をつく同僚。

 専務の御子息。それは、この深山商事次期社長を意味する。

 現社長夫妻に子がおらず、社長の弟にあたる専務の息子、つまり社長の甥である人物が、順当にいけば次の社長であると目されているから。

 世の中には、性格が最悪でも仕事ができるという人間が少なからずいる。

 深山佐祐は、そういう人物だった。

 噂によれば、容姿は整っているものの、冷徹で有名な彼は30目前にしても全くと言っていいほど浮いた話がないのだという。ひたすら仕事ばかりしている甥を心配して、社長夫妻がねじ込んだ縁談である。

 すでに大手企業の重鎮にあたる人物の紹介で何人かの女性と見合いをしたものの、物の見事に先方からはクレームの嵐らしい。会った印象はすこぶる良いものの、見合い後に女性側からOKを出しても絶対に断られるというのだ。

 優しい笑顔で騙して、令嬢を誑かして手酷く振るとはー。

 紹介元の重鎮たちも黙ってはいない。彼が選り好みした結果、良き伴侶を得るのなら目を瞑るが、そうでない場合には、ただ令嬢たちをからかっただけということになるので、ただではおかないー。

 そのような申し入れが後を絶たなかった。しかしこう悪評が広まってはそう見合いの相手も見つからず、当の本人は全く意にも介さない。そもそも深山商事を早々に退職し、外資系企業でバリバリ働く彼にとってはすべてが日本の悪しき慣習にしか見えなかったのであろう。

 しかしながら、彼はいずれその外資系企業を辞して深山商事で再び最高責任者として辣腕を振るうはずの人物。このままの状況が許されるはずもなく、社長夫妻は血眼になって見合い相手を探し、ついに断られる可能性が限りなく低い、絵美香に白羽の矢が立ったのだった。


 数週間後。

 日本屈指の高級ホテル内にある料亭。

 絵美香は、牡丹の花をあしらった薄桃色の振袖を纏い、見合い相手が待つ一室へ足を踏み入れようとしていた。

「さぁ、どうぞ」

 仲人である部長の妻がふすまを開けた。

「……失礼、します」

 絵美香は、精一杯緊張を抑えた声で一言言った。


「……はぁ」

 深くお辞儀をし、顔を上げようとした瞬間、深いため息が聞こえた。

 それが、絵美香が聞いた見合い相手の最初の声だった。


 絵美香が顔を上げると、仕立ての良いスーツに身を包んだ若い男が座っていた。

 女性がこうして入場してきたというのに、立とうともしない。


「あ、あの、……宮絵美香です」

 やっとの思いで声を絞り出した。

 怖い人だと、絵美香は直感で悟る。

「え、ええと、こちらは、深山佐祐さん。御存じでしょうけど、以前は絵美香さんと同じ深山商事にお勤めでいらしたのよ」

 取り繕うように、部長の妻が彼を紹介した。

「……いい加減にしてくれ。無理やり見合いなんてさせて、連れてきたのがこんな女とは、笑い話にもならんな」

「さ、佐祐さすけ君!」

 部長が青ざめた顔で名を呼んだ。

「町村さん。あなたの御紹介とのことだから、なんとか都合をつけて出席しましたがね。正直、俺も暇じゃないんです。こんなつまらない女と小一時間話す為に呼ばれたとは、甚だ心外です」

 絵美香は、しばらく彼を見つめていた。彼の言葉の意味を咀嚼するのに、一瞬と呼ばれるような時間では到底足りなかった。

「つまらない、とは?」

 絵美香はやがて静かに問うた。

「……見合い写真を確認しなかった俺にも落ち度があることは認めるが、それにしてもお前みたいな不細工を連れてこられるとは予想外だったよ。それに、この経歴。高校は二流レベル、最終学歴が短大卒。俺も舐められたものだ」

 吐き捨てるように彼は続ける。

「よくもまぁ、こんな悪条件のそろった女を俺の相手にあてがってくれたな。……というか、こんな女を正社員で採用した叔父貴の会社の人事も問題だな」

 絵美香は、じっと彼を見つめ、言った。

「私のことが気に入らないなら、仕方ありません。けれど、会社の方を悪く言うのは、やめていただけませんか」

「生意気な女だな。俺の言うことは絶対だ。少なくとも、お前が深山商事に居る間はな」

「―…!!」

 悔しくて、涙がにじむ。でも、ココでワーワー泣くようなことだけはしたくない。

 絵美香はそう思って、ゆっくりと立ち上がると、その場を飛び出した。

「え、絵美香さん!?」

 仲人たちが追ってくるのを振り払い、着物のすそをつまんで駆け出す。


 ホテルのロビーに近い化粧室に、確か休憩所みたいなのがあったはずだ。

 絵美香はそう思い至り、そこを目指して振袖姿でずんずんと歩みを進めた。

 ―周りの目なんて、気にしている場合じゃない。


「え、あ、あの……」

 気が付いたら、絵美香は見知らぬ男性に腕を掴まれていた。

「ど、どうかしました?こっちは男性用トイレですけど」

「え…、きゃ、きゃあ、御免なさい!!!」

 恥ずかしくて、俯いてしまった彼女に涙のあとを見つけたのか、彼はハンカチを差し出した。

「とりあえず、あちらへどうぞ?」

 彼はあくまでも紳士的に、絵美香を休憩室に誘導した。


 (ちょっと、かっこいい人だな)

 彼の振る舞いも手伝って、絵美香はそんなことを思った。

 少し長めのストレートの髪は、明るい茶髪で、一部が黒髪だった。メッシュという奴だろうか。

 良く見ると、前髪も左右非対称―今はやりのアシメって切り方だろうか。

 とにかくおしゃれな印象だ。音楽関係者とか、美容師だろうか。

「大丈夫ですか?」

 ドクン、と心臓がはねる音を絵美香は感じた。この人は、声がとても印象的だ、と。

 どこかで聞いたことがあるような気もする。―間違いなく気のせいなのだが。

「は、はい、すみません―」

「―あの、何があったか存じませんが。元気出してください。きっと大丈夫ですよ」

 彼に柔らかく微笑まれて、そう言われた。

 ー恥ずかしい。でもなぜか、彼の優しい声音で、彼女の緊張も、怒りも、すべての感情がほぐされたように感じていた。

「それじゃ、僕はこれで」

 私が多少落ち着いたのを確認すると、彼は立ちあがってそう言った。

「あ、ありがとう、ございました……」

「いいえ、このくらい何でも。人生お互い様ですよ」

 透き通るような、とても綺麗な声で言われた。

 一度聞いたら、忘れられなくなるような声。

 そういう声が、存在するんだなと、絵美香はそう思った。


 ―これが二人の出会い。なんの変哲もない、どこにでもいるOLの宮絵美香と、

 アニメ大国・日本でトップクラスの人気を誇る、超人気声優・神村由布の。

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