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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黄昏と蒼き月

作者: 剤・悪・寒


馬車の中、剣にある家紋を指で謎りながらその意味を思い出す。荊棘の蔓は人生を表しそれに巻き付かれる鷹は自分を表す。鷹は高貴な生き物と言われているが私は実物を見たことが無い。つまり家紋は人生とても辛いけど気高く生きようぜと言いたいのだ。正直鷹のように気高くは生きていない、この前家族は全て私が殺したからだ。


「鷹よりも卑しい鴉の方が相応しい」


彼らは民を守る騎士の身でありながら税を着服し豪勢な暮らしをしていた。もちろん私は知らなかったがそれで許されるとは思ってない。彼らの罪を雪ぐため彼ら自身の血を使ったのだ。最高だと思わないか?裁判でも同じように証言したら狂ってると言われ傍聴していた民に恐怖の目で私を見つめていた。


「羨望が恐怖へ変わっただけ」


判決は流刑とすぐに決まった。死刑でないのは民の半数が私は騎士であったと言ってくれたからだ。嫌味ではなく甲冑を着たものではなく心が騎士であったと言ってくれたのだ。


「恐怖を私の騎士が倒した」


判決後三日間は牢屋で暮らしたが豪勢な食事に清潔なベットが私を待っていた。驚いたが納得した。これから行く場所にはこれらはないのだから最後の晩餐だろうと。行く場所は言われてないがそこで私は騎士と成れるだろうか。私にとって荊棘は人生など生ぬるいものじゃない。慕ってくれる守るべき民の存在だ。私を守り私を蝕む存在だ。今既にそれは取り除かれ唯の鷹……嫌、鴉となった私は騎士と言えるのだろうか。


馬車はいつの間にか止まっていた。


「到着したぞここからは1人で行ってくれ」


御者に言われた私は外に出る。そこは砂漠だったどこを見ても砂漠。だが先には門がある。白い大理石がアーチ状になり荊棘が巻き付いている。その先には黄昏の陰鬱な雰囲気を纏った陽が見える。周りは真昼だというのに。


「そこがお前の行く場所だ」


「わかった」


ここまで連れて来てもらったお礼に腰にある剣を差し出す。没落した家の家紋が着いているが売れば言い値になる。それにあそこでは騎士になれないだろう。


「いや、それは騎士の命だろ。受け取れない」


乞食のような格好の御者にも要らないと言われるとはな。


「そうか」


手に持つ剣を眺めた。陽の光を浴びた剣はよく光を反射し輝いている。捨てようと地面に突き刺した時。さっきの御者が俺に近づいてきた。


「なあ、あんた騎士なんだろ?お願いと言ったら何だがあそこには俺の妹がいるんだ。もう死んでいるかもしれないが生きているなら守って欲しいんだ。その子は小さくて可愛い子だ今年で10歳に成る。目が紅いから直ぐに分かるはずだ。名前はアルリエル俺の名前を出せば信用してくれるはずだ。ガブリエル、ガブリエルが俺の名前だ。頼むぞ」


そう言うと紙切れを私に押し付け急いで去って行く。なんだ私を騎士として見てくれる人がいるではないか。遠ざかる馬車に私は有らん限り叫ぶ。


「私は騎士でいいのだろうか!」


聞こえるはずもない。地面に刺した剣を手に取り門の中に進んで行く。中に入る瞬間、アンタは騎士だろ!と聞こえた気がした。



門を潜った先は黄昏の陽と蒼き月に照らされた街だった。丘の上には城がありそこから道沿いに下って教会がある。さらに下がっていくと宿や店が並ぶ商店街になっている。俺の今いる場所は丁度街の入口のようだ。街には幾つもの灯りが見えるが外に人の気配はない。何をしようかとりあえず御者に貰った紙切れを見てみる。しわくちゃな紙にしわくちゃな字が書いてある。



『おめでとう!ウィンド君。君はこの街に到着したね。私はこの街の領主アラン・グリゴロース・ルリムル様だ。困惑しているのもよく分かる初めて来た者は皆そうだから。きっとそこから城が見えるだろ?まずはそこに来てくれ。会うのを楽しみにしているよ』



城とは丘の上にあるやつでいいんだよな。


「領主に呼ばれて行くのも騎士の務めだ」


ついでに犬のように媚びを売るのも大事な務めに入る。一歩一歩舗装された道を歩いて行く。途中で小さな子供と修道女にあったが挨拶しても無視をされた。少し気分が沈んだが子供の方は小さく手を振っているのに気づき回復した。城に着くと人が待っていた。タキシードはヨレヨレ禿げた頭に異臭が気になる。こちらに気づくと一礼した。


「お待ちしておりました、ウィンド様。私は案内のジーヌとも申します。主人がお待ちですどうぞコチラへ」


「はい」


話し方が呪詛を唱えるように憎しみに震えている。私は人を見た目で判断しないが。この話し方はヤバい人だ。あんまり関わりたくないので返事も素っ気なく短くする。騎士としてはダメだろうがここで騎士でいるのはあの子の前だけだ。


城は小さく私が住んでいた家より少し大きい。城の中は何人かの使用人やメイドを見かけたが皆が年老いていた。暫くすると食堂の前に着いた。


「中には御主人様がいますので私はこれで」


ジーヌは一礼して廊下の奥に消えて行った。気味の悪い老人だ。


「ウィンドか?中に入って良いぞ」


中では既に食事を初めていたようでクチャクチャと音が聞こえる。


「失礼します」


中に入ると太った男が肉を食べていた。多分子供の足だろうそれも人のだ。カニバリズム噂には聞いた事があるが実際に見ると吐き気を催す。私の視線に気づいたのか太った男多分領主が笑い声をあげた。


「これか!驚いたか!私も初めて食べたのだが美味だぞ。今年で10歳になる若い女子でな、しかもアルビノだ。南の国ではアルビノの者を食べると不死になると言われていて私も食べてみたんだ」


ベラベラ喋るデブ。


「私は遠慮しときます。ところでその子の名前は分かりますか?」


「アルリエルだったかの」


今、私は騎士だ。騎士になったのだ。

















お喋り豚は物言わぬ肉となり。



血が飛び散った食堂で私は食事を始めた。





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