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2 現実世界

この世界なんて、どうでもいいと思っていた。

それに気付いたのは数年前。母親が病に倒れてからだ。

母親が死んで以来、俺はいつもいつも、不遇に見舞われていた。


元から母子家庭だった俺には、確かに沢山の保険金が入ったと思う。

しかし――母親という支えを無くしてからは、何もする気が起きなかった。

そうこうしているうちに引き取られた親戚の家は最悪で、虐待なんかも日常風景で。

学校でも苛められた。


だから、この世界なんてどうでもいいと、思ったのだ。

一人っ子だった俺は、この世界に何の未練もなかった。さっきまでは。


「騒がないでくれる!? うるさいのよ!」


叔母が、そういって俺を突き飛ばす。

特に何もしていなかった。あてがわれた部屋で、いつも通り宿題をやってただけだった。

それなのに叔母が俺を怒った理由はたった一つ。


()()()()()()()


それだけだった。

叔母は癇癪持ちで、時々俺を叱るときはそういう理由をつけて俺を叱っていた。


叔母に後ろに突き飛ばされた俺の体は、棚に激突する。

上から落ちてきた母親と俺の写真の入った写真立てが、床に落ちて割れた。

それに気付いた叔母はまた金切声を上げ、写真立ての中から写真を拾い上げると、びりびりに引きちぎる。


……目の前でばらばらになっていく写真を見て、俺は。

自分の守りたかったものとか、そういうものが、全部なくなっていくのを感じた。

俺は叔母を突き飛ばし――家を出て、屋上に駆け上った。


俺は、死にたかった。

それでも、俺は、死ぬことが出来なかった。

ひとりで死ぬのがただひたすらに怖かったのだ。そんな、臆病者だった。


マンションの屋上でぼんやりと空を見上げていた。

世界はどうにもならないし、俺ごときに何かなるわけでもない。

だからこそ――どうしようもないまま、空を見上げることになるのだ。


「……どうでも、いいな。こんな世界」


そうつぶやいたとき。

俺の目の前で、空気がぶわりと動いた気配がした。


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