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自覚する奴ら






王が御崩御なさいました



突き抜けるような青空、このルナウ国特有の温暖な風が草花を優しく薙いで過ぎてゆく景色が嘘みたいだったから、伝令の兵士の言葉も嘘だと思った。



嘘だと思いたかった



放心状態となって返事を返さないのが心配だったのか、小さく名前を呼ばれハッとしてそいつを睨みつける。



「おい、お前…畏れ多くも国王陛下の生死について貴様ごとき人間が冗談にするなど無礼千万であるぞ!!」


「おい、やめろ!」



兵士に牙を剥き掴みかかろうとするも、その場に居合わせたハバクに引き剝がされる。



「放せよ!こいつの五体引き裂いても許さないっ‼︎」


「何言ってんだ、国や国王に忠誠と魂を捧げたエインヘリャルがそんな軽率な事言うわけないだろ!」


「ははは!平民ふぜいが私に不遜な態度とるな‼︎ハバク、おまえも牢屋にぶち込まれたいか!?」


「おい…あんたもなんか言い返せよ。このお姫様は傍若無人にもほどがある」



呆れたようなため息を零した兵士は、私のことをつまらないものを見るかのような視線だけ寄こす。



「兎に角、王弟陛下が至急王宮に戻るようにとのことです。確かにお伝えしました。それでは」


「あ!ちょっ、待て貴様‼︎」



言い終えるや否や、踵を返す兵士を追おうとするがまたハバクに抑えられてしまう。



「おいおい、お姫様には家族の死が信じられないことだと思うだろうが城下じゃ、家族が死ぬのなんてよくあることだぜ?」


「知るか!そんなのお前ら平民の話しだろ、私達は違う!大神オーディンの加護を受けたルーンの民なんだ!そんな、昨日まであんなに…あんなに元気だった父上がありえない!!」


「あーそうそう。昨日まで元気だった奴らが気づいたら死ぬんだよ、パッタリと、な?」


「ハバク!お前、本当に殺すぞ⁉︎」


「はいはい、どうぞご勝手に」



兵士が見えなくなったぐらいになったのを見計らってか、やっと解放したハバクに向かって殴ってやろうかと振りかぶった。


けど、その拳は宙で止まって行き場をなくす。



「な、なんで…お前がそんな顔するのさ?」



淡々と毒づいていたハバクは愁眉した表情で私を見つめていて、こちらが逆にギョッとしてしまう。


伸びて来た2つの腕に気付くのが遅くなって、殴られるんじゃないかって身を縮める。


伸びて来た腕は私の頭や身体を包み込むように絡みつき、気が付けばお互いの距離は全く無くなって、密着して、強く抱き締められた。



「は?…はぁ⁉︎離せこのっ…!」


「辛いよな…家族が死ぬのって、苦しいよな…」


「い、や…だから父上はご健在なんだって…て、離せよ!苦しい」



密着する事で伝わる体温が伝わってくると、胸の中に何かがストンと落ちてきて気がつけば涙がポロポロと溢れていく。



「こんなのいやだ…嫌だ…わたしがみとめたみたいじゃないか…父上は、ちちうえはっ…うわぁああぁあん!!」



赤ん坊みたいに泣きじゃくって、ぎゅっとハバクの服を握り締めれば髪をなでられる。


落ち着いた頃、ハバクの服は私の涙でぐっしょり。



「ほら、落ち着いたならさっさと行って来い。そんで、全部終わったらここに来いよ。慰めてやるよ」


「うるさいばーか!言われなくても行くわ!」


「はいはい」



ハバクの上から目線が腹立ったけど、あいつなりに背中を押してくれたのだと分かるから近くに置いていた馬に乗り王宮に向かって走り出した。







王宮に着き父上の寝所に飛び込めば、数人の兵士と叔父上姿を見つとめる。



「あ、あの…父上は」



蒼い顔をした叔父上が落とした視線の先には、父上がベッドの上で静かに横たわっているのを見てホッと胸を撫で下ろす。



「なんだ…寝てらっしゃるだ…け?」



ぐっすりと眠ってられるように見えるけど、よく見ると胸部の上がり下がりは見られないし寝息も聞こえない。



「兄上は…死んだよ」


「は、はあ⁉︎叔父上までそんな」


「見てみなさい、これを」



かかっていた布団をめくり上げられ、現れた父上の姿に息を止めてしまう。


首から下が、無い


青白い首筋と頭だけとなった父上の姿に脚はもつれ、気がつけばその場にへたり込んでしまっていた。


人間も動物も生物には血が流れている。

だからもし切断されたとなれば、首だけとなった父上からは大量の出血があるはずだけど、ベッドの上には血痕は一切見当たらない。


眩暈で朦朧とする視界で父上の首の断面を見ると、その傷は焼かれたような跡が残っていて高温の剣か刃物で焼き切られた事を物語っていた。



「これが…現実だ」


「な、何かの間違えです!父上は魔術師としてルーンの使命を受けていた方ではありませんか!夜盗なんかに殺される人ではないのを叔父上はご存知でしょう⁉︎」


「そうだ。兄上は夜盗ごときに殺られる人ではない…だが、兄上の命を奪ったのは夜盗などではない」



含んだものいいに苛立ち、言葉を催促しようと口を開きかけた刹那、どこか宙を睨みつけた叔父上にギョッとした。



「神の御業だ」


「え…そんな…」


「ルーンの記憶があるお前なら分かるだろう…この意味が」


わかるけど、わかりたくない…



それは私達ルーンの民にとって、また世界にとっての恐怖の始まりを告げているようなもの。



「ラグナロクが始まる…」







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