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受け入れる奴ら






何人もの人が入れ替わり立ち代りで、土を運んでは捨てに行く作業を繰り返す。


その中で一人監督を務める少年が唯一突っ立っていて、こちらに気づけば端正な顔を歪めた。



「どうされたんですか?またなにかご不満でも?」


「なにさ、自分の国なのに来ちゃダメだっての?」


「いえ、そういうわけじゃ…そちらの二人は?」



連れてきたリオンとヨアンにすぐに気づいたハバクは私との会話はほっぽって直ぐにそちらに向いてしまう。



「そうそう、今日来たのはこの二人のことでさ。ほら、挨拶すれば」


「こ、こんにちは!リオンと申します。こちらは私の弟のヨアンです」


「こんにちは、オレはハバクといいます」



爽やかに微笑んで差し出したハバクの手を、どうしたらいいのかわからないといった表情で見つめてるリオンに握手するようにうながしてやる。



「それでさ、お前らの集落でなんか空いてる家無い?」


「え?あの…やめた方がいいですよ。王宮の方が普通に過ごしやすいでしょうしなにより貴方は集落の奴らには頗る評判が悪…」


「私じゃねーよ!!」



知ってはいるけどいざ他人に言われると腹立たしいことこの上なく、声を荒げて遮った。



「この二人だよ。この二人はドルイドだから前の村でめんどくさいことになっててさ、お前らの集落に住まわせたいんだよね」


「へぇ、そうなん…って、ぇええっ!!?ドルイド!?」



和やかに握手をさっきまでしていた二人であったけど、私の台詞に驚愕面でリオンとヨアンを交互に見やるハバクに蒼白で私に目線で訴えるリオン。



この図が面白いのなんのって


「あ、あの…ハル様、私てっきり言わないものだと」


「んあ?大丈夫だよ、こいつ頭いいから」



ね、とハバクに目線を送ったけどハバクは気づかなかったらしくうんざりした表情で見つめ返されるばかり。



「なんか思ってたのと全然違いますね。俺が聞いていた話だとドルイドってのは体のあちこちからキノコが生えてるって聞いてたんで」


「ぶっは!なにそれ?そんなの何百年も前のドルイドの姿だよ!?」


「いや、そう聞いてたんだからそう思うしかないでしょう。それで、なんで俺たちの所なんですか?」



呆れたように鼻を鳴らす表情はイケメンでも許しがたいから睨みつけるも、悠然とした態度を返される。



「お前らが言ってたんじゃんか!人がいなくて困るって」


「はい!!?そんな理由ですか!くっだらねぇ!まだ子供のヨアン君にもここの仕事させる気ですか!?」



怒涛のような勢いでそんな事を言われるから煩くて耳を塞いだ。



「うるさ!子供だって甘やかすなよ。それにこいつらそんぐらいさせなきゃならんでしょ」


「い、意味が分からん…」


「あの、僕大丈夫です!たくさんはたらきます‼︎だから僕たちをここに置いて下さい!」


「私も!働きます!!」


「あ、いや…そういうことじゃ…」



ヨアンとリオンの勢いに押されるハバクが駄目だと言うとは思ってないし、言うはずがない。


彼は集落の中で集長の息子と言うこともあってかかなり頭はいいし、リオン達がもともといた村の奴らと違って大昔の事で差別をするような矮小な奴でもない。


だから私は敢えて彼の元へ訪れ、彼に頼みこんでわざわざ、ドルイドだと明かしたのだ。



だから断られるはずはない…ない、と思う…


「はぁ、わかりました。俺から親父に話を付けてきます。リオンさんにヨアン君この集落に住むっていうことは楽じゃないけど君たちはいいね?」


「はい!ありがとうございます!」


「ありがとうごじゃいます!」



やっとハバクが納得してくれたから、こちら安心してやっと帰れるってもんだ。



「じゃ、あとはよろしく!」


「え!?このまんまですか!?」


「うん、ハバク頼んだ!」


「この野郎!!」



片手を上げて簡素な挨拶を済ませるも、怒りを露わにしてハバクが追ってくるから慌てて逃げ出す。


広地を抜けた辺りまで全力疾走だったからか、ハバクに追いつかれずにすんだ。


折角時間的にもまだ余裕があったからその足でもう少し遠い村にまで足を運んでみる。



「あー!ハル様だー!!」


「こんにちはー!」


「よ、ちゃんと掃除やってるみたいだな」



近くの村で買い付けた包帯やらを寄ってきたガキ共に持たせ、辺りをぐるりと見渡す。


私が初めて来た3年前に比べれば随分と綺麗になったと思うし、心なしか村の奴らの病状も大分良くなった。



「こんな時間に何しにきたんだよ?飯集りにきたのかよ?」


「アァ?ンだとてめぇ、なんで私がてめぇら庶民にたからにゃならねぇんだよ!?」



どこからともなくやってきたアルジュナの額を小突きながら、言い返した瞬間ひどいお腹の音が響く。



「へぇ〜、口より腹は正直みたいだな」


「このクソガキぃい!!」



手を突き出し掌底を一発顔面にお見舞いしてやろうかと思いきや、下から腕を突き上げられ刹那横から顎に向けて蹴りが飛んでくる。



「…ッつ‼︎」



それを手でなんとか受け止めもう片方の支えにしている足を払えば、バランスを崩して倒れる方向に持ってた足を投げ飛ばす。


しかし後方に体を回転させで地面に倒れる衝撃を免れたアルジュナは、地面に着いた手を支柱にして即座に反撃にかかってきた。



こいつ、本当吸収はやいな。私が教えたのは基本だけなのに…こんにゃろ!私そんなに武術できるわけじゃないんだからな!!


バキッ‼︎


何度目か繰り返した応酬の中で突然乾いた音が鳴り響き、間髪入れず次に襲ってくるのは頬の焼ける様な痛み。



「え…痛」



それはアルジュナの拳がモロに顔面に当たったらしく、受け止めたり避けられたりできなかった事に呆然としてしまう。


自分は武術を極めてる人や国軍の奴らに比べればひよっこ同然なのだけど、まさか自分より3つも年下のしかも自分よりも身長の低いガキに一発くらうとも思っていなかったから思考がついていかない。


鼻から生暖かい液体が伝い、それが鼻血だとわかった途端酷い羞恥が襲って顔面まで赤面してく。



「おい!何手ぇ抜いてんだよ?バカにしてんのか?」


「つつつつ強くなったじゃん!ま、わたわたわた私が手を抜いたからってのはデカイんだろうけどな!」



咄嗟の言い訳も声が震えているから嘘だってバレるんじゃないかヒヤヒヤしたもんだけど、アルジュナはどうやら本当なのだと受け止めたらしく悔しそうに地団駄を踏む。



「もう一回!もう一回だ!!今度は本気でやってこいよ!」


「嫌だわ。腹減ったから飯な!」


「なんだとぉ!?逃げるのかよ!」


「アルジュナー、ハル様ぁー!ご飯できたから早く食べようー!」



アルジュナの陳腐な挑発に乗せられそうになるも、タイミング良く女の子が報せにきてくれたからアルジュナはあっさり無視して呼ばれた方へと向った。



「ハル様!どうしたんです?そのお顔は」


「いや、こんなのなんともないよ。それより悪いね、飯の用意して貰って」


「いえいえ、そんな!アタシ達なんかが作ったものだから心配かと思うけど味は保証しますよ!ほら、アルジュナも手伝っておくれ!」


「心配なことなんてなに一つないよ」



ひとりごちに呟くのを、アルジュナが料理の盛られたお皿を机の上に置きながら凝視してくる。



「…?、なにさ」


「…鼻血拭けば?」


「まだついてた?」



言わんとしていた内容は別なんだろうと察するも、女として鼻血垂らしたままは嫌だったから隣に座る女の子に聞いて鼻の下をゴシゴシ拭いた。



「じゃ、いただきまーす」


「はい、どうぞ」



この国ではそんなに作物が豊富じゃない代わりに、貿易が盛んな為他国の国産物を食すのがルナウ国の食文化である。


だが、こいつらは商店街にまで行く事はできないし行けたとしても周囲には敬遠されてしまうから物を買う事もできず国から配給されるパンと具材の少ないスープが彼ら馴染みの食卓だ。


そんな王宮では食べることがない野菜のスープを啜れば、見た目は質素であるがなかなかどうして野菜の旨味が出たスープは美味しかった。



「これ食べ終わったら勉強会しようか、前回出した宿題で分からなかった問題は無い?」


「無いでーす!!」


「うっそ?凄いじゃん」



美味しいスープに進んでいた食指は驚きで止まってしまう。


前回宿題を出した後ちょっと意地悪しすぎたかな、なんて考えていたものだからこんな返答は予想だにしていなかった。



「あのね!ハル様、アタシや村のみんな分からなかったところあったんだけどね、アルジュナに教えてもらったの!」


「えぇぇえっ!!?嘘だぁ」


「本当だもーん」



ねー、と同意を求めるその子に笑いかけられアルジュナは苦笑を返すとういやりとりを見せられ、それが事実であるのだと思い知らされる。



そっか…やっぱりアルジュナなら…お前ならあの役を任せられるかもしれない…それなら早い方がいい


「何ぼーっとしてんだよ?スープ冷めるぞ?」


「アルジュナ、お前今年で幾つ?」


「なんだよ急に?」


「早く」


「12だけど…知ってんだろ?」


「なら、もう大丈夫か…」


「なんだよ急に?気色わりぃ」



巡る思考は言葉にまで飛び出してしまったらしいけど、以前から考えていた計画を遂に実行できるという高揚感に塗りつぶされアルジュナの憎まれ口も耳に届かない。



「アルジュナはお母さんとかお父さんは?」



その私の問いかけに、さっきまで何処と無く機嫌の良さ気だったアルジュナの顔には影が落ち、おばさんとその娘の少女達は気まづそうに顔を見合わせた。



「死んだ…もういないよ。俺が6才の時にこの奇病に殺られた…」



この思い雰囲気と、アルジュナが何故この家族と夕飯を共にしているかその理由がやっとわかり危うく出そうになったなるほどという言葉をなんとか呑みくだす。



「ならいいや!じゃ、明日は私に付き合え!」


「なんで母さんの話からそこに行くんだよ!それに行くわけないだろ‼︎」


「親がいないなら今のうちにやることやらにゃ損なんだよ!」


「意味がわかんねぇー!!ぜってぇやだ!」


「お前の意見なんか知るかばーか。おばさん、スープお代わりー!」



ギャンギャン喚き散らすアルジュナの叫びなんか暖簾に腕押し状態で、おばさんから受け取ったスープのお代わりを貰って大きいジャガイモを口に含んだ。








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