受け入れられた奴ら
「と、言うわけでこいつらの王都での居住をお赦しください叔父上」
眩暈を起こしたらしい叔父上は青い顔をして、目元を抑えながら足から崩れるようにふらついた。
王都に着いた私達はすぐに王宮に向かい、先に叔父上に話しをつけるつもりで申告すれば、案の定小言の嵐だ。
「ハル…あのだな、ドルイドの居住の保証は北の領地を出ない事が条件なだったのだ。それを破るなど…それに加え王宮にドルイドが居ると民衆又は諸侯に近隣国に知られれでもしたらどんな風評被害を被るか…」
「わかりました!父上に談判してきます!」
「以前言ったばかりなのだぞ!?兄王に迷惑だけかけるなと」
「大丈夫でーす!行こうリオン」
叔父上の長くなりそうな小言から逃げるようにしてリオンの手を掴み走りだせば、リオンはヨアンの手を掴んで一緒に走りだす。
ハバク達の村の税金をもう少し減らし納税の期日を遅らせて欲しいと叔父上に頼み込んだ時もそうだったけど、頑なになる叔父上を説得させるにはやはり先に父上に頼み込んだ方が了承を得やすい。
「父上!ハルです。お願いがあります」
「入りなさい」
王室の扉の向こうから許可を得て、飛びを開けるや否やすぐに父上に申し立てる。
「ドルイドをこの王都に住まわせてください!」
「ほう、ドルイドとな」
「は初めまして!リリリリオンと申します!ここここっちは弟のヨアンです!王様には大変お世話に…」
「勿論王宮に住まわせるとは言いません。王都の近くにある村に住まわせるつもりです」
「ふぅむ、そうだのぉ…リオン、ヨアン。こちらに来なさい」
父上に呼ばれたけれど彼女が控えめな性格な為に、心配そうにこちらを見てくるものだから繋いでいた手を離して背中を押しやった。
押されて父上の前に躍り出るリオンは父上の前に出て緊張した面持ちであり、それと反対に優しく微笑んだ父上は彼女の頭に手を乗せ銀色の髪を撫でつける。
「先代の王がドルイドを追放したとは言え、儂はこの国に居る者は全て儂の家族だと思っておる。家族が王都へやってきてくれたことは嬉しいことこの上ない。好きな所に住みなさい」
優しい声音で話す父上に、感極まったらしいリオンは急に泣き出すからどうしたものかと困惑する私に父上が手招きをした。
「この子達を連れてきた責任はお前にある。それを忘れてはいけないよ?」
「はい、先代のような愚行は致しません」
「うむ、よく言った。リオン、我が娘を頼んだぞ」
「そんな!私なんて!!」
「そうです父上!何故リオンなのですか?!」
「ははは。なんせ初めてのお前の友達だからな」
友達という言葉を知ってるはずだったけど、自分の目の前にそれがあるのを今更気づかされ、表すことのできない感情に何だか胸のあたりが痒くなる。
「友達なんて、めっそうもない!」
「まぁそう言うでない、もう一度言わせてもらうが娘を頼む」
「はい、微力ではありますが」
「だからなんでリオンなんです父上?私リオンに家を教えに行きますね!」
二人で意味ありげに笑いあってる姿にもやもやは大きくなって、逃げるようにリオンの手を引いて王室から飛び出す。
3人で一緒に母屋から少し離れた東の別棟にやってきて、古びた重い扉を押し開け暗い光のささない部屋の中に二人を押しやった。
「住む家を教える前にここを教えたくて!」
「お姉ちゃん、暗いよぉ」
「う、うん…ハル様、ここは一体…」
「ちょっと待ってて、カーテン開けるから」
足下に気をつけながら部屋の隅にある紐を見つけて、下へと引いて行けば外の光が部屋の中に差し込み辺りを照らしだす。
埃がキラキラ輝いて光る部屋の中にあるのは壁一面を埋め尽くす本棚に敷き詰められた本の数々。
そして足下や床には本の山が点在して足場を埋めつくさんとしていた。
「こ、これは?」
「魔術師の魔術書だ」
「な、なんでこんなに…」
「お前、ルーンの民ってのは知ってる?」
「も、勿論です!ハル様や王様のような王族の方々がそうなのですよね?」
「そう!そんでもって、ルーンには特殊な能力がもう一個ある。何か一つのことに秀でた人間が必ずいるんだ」
全部のカーテンを開け終わり、近くにあった本を一冊手に取りリオンの元へとゆっくり足下に気をつけながら戻っていく。
「例えば交易に秀でた者、植物に明るく医学に秀でた者、芸術に秀でた者、剣術に秀でた者、武術に秀でた者、地理に詳しい者、そして魔術師に秀でた魔術師」
手にしていた本を彼女に差し出したそれは、魔術について先代のルーンが書き残した魔術書。
恐る恐る手に魔術書をリオンが手にしたから、私は空いた両手を大きく左右に広げ声を弾ませる。
「ここにあるのは殆ど魔術書だ!歴代のルーンの手記や世界から集められた物もある。ここの物をリオンに貸してやるよ!!」
「え?えぇっ!!?そんな!私なんかごこんな」
「勿論タダなわけないだろー?リオンには私の為に空飛ぶ魔法をできるようになってもらったり、好きな時に火を起こせるようになってもらったり、掃除をしてくれるようになってもらったり〜」
「ちょ、ちょっと待ってください!私、そんなに魔術を勉強するんですか?」
あれもこれもと考えていれば切羽詰まったリオンに思考を中断させられ、こちらは不機嫌極まりない。
「なに、嫌なの?」
「い、嫌じゃありません!!」
私を映す瞳は爛漫に輝き、少々興奮したらしく頬を紅潮させながら言ってくるものだから、想像以上に彼女が気に入ってくれたのがわかる。
「じゃ次にお前らが住む場所に案内してやるから」
「あ、はい!」
早速手渡した本に没頭し始めるリオンに声がけ、二人の新しい家に思い当たる村へと向かった。