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諦めた奴ら








「じゃ、今日渡した分の薬をちゃんと夜、体を洗った後に患部に塗ったくれよ」


「はーい」



いい返事をする子供達の中で一人だけ不機嫌面でそっぽを向いてる奴、アルジュナは先程体術を教えるついでに軽くボコってやったから機嫌が悪くなったらしい。



「おーい、アルジュナまた明日な」


「さっさと行けよ怪力女」



鼻血が出たから鼻栓をしていたためにアルジュナの声は雲がかったちょっと変な声で、その可笑しな声に噴き出してしまいそうになるもなんとか堪えて他の子達にまた明日と告げ村を後にした。



「叔父上!!」



王宮に帰ると正面入り口入ってすぐに目にしたその人の姿に、反射的に呼びかける。



「ハル、もう夕飯の刻を過ぎているのだぞ、何処に行っておったのだ」


「えっと、散歩ですね!」


「はぁー…またアンデッドの村にまで行ってきたのだろう」



無意識にピクリと眉根が跳ね上がり、顔に今の感情がで出ないようになんとか堪える。


アンデッドの村というのはアルジュナ達が住む村の事を示唆しているけれど、それは誰が言い出したか分からない彼らへの蔑称であり私は内心それを快く思っていない。


だから、そんな事いわないでと叔父上に何度言おうかと逡巡したことか。



「そんなことより!」


「そんなことではないだろう…兄王が御心を痛めておられたのだぞ」


「あははは…ごめんなさぁい」


「わかっているならそろそろルーンの役目を果たすことだ」



ルーンの役目。


それは私の上に重力よりも重い重圧で押しつぶそうとのしかかってくるから、何も言葉を返すことができない。


撃沈面の私を見かねた叔父上は1つ大きなため息を零し、それでと先程遮った話しの続きを催促する。


誠実な性格である叔父上であったけれど、こういった風に私が気落ちしているのを気付いて話題を変えてくれるところが私は大好きだ。



「叔父上はこんな時間にどちらに向かわれるのですか?」


「ああ、北の領主の邸宅を訪ねるつもりであった」


「こんな時間にですか?」


「手紙が届いてな」



懐からひらりと一枚の手紙を取り出し私に見せるその表情で、ただのお招きではないらしいことが窺わせられる。



「ドルイドの件だ」


「ドルイドって、国から追いやったはずじゃぁ…」


「ああ、その記憶はあったか。だがドルイドの奴らには後日談があってだな…殆どのドルイドは国から追いやったが力が体が不自由だったりしたドルイドの奴らや国の研究用として北の領地の奥地に十数名ほど居住しておるのだ」



初めて聞いた国の現状に驚くよりも逆に心が躍り、好奇心の光がちらつく瞳で叔父上を見つめてしまう。



「そのドルイドをこれ以上領地で預かりたくないとの事だそうだ」


「そうなんですかー!!」


「なんだその意味ありげな眼差しは…よもやこの件に首を突っ込むつもりではあるまいな!?」



そのまさかだったり。


ドルイドといえばとっても優秀な魔術師だと聞いているから、一度見てみたいと思っていた。


だからてっきりこの国にはドルイドは居ないと思っていたものだから、こんな嬉しい事はない。



「少しだけ!少しだけ気になるだけです!」


「ルーンの記憶にある筈だ。ドルイドは優秀な魔術師であるが優秀なだけに奴らの探究心と知識欲は何よりも恐ろしく、魔術を極める中で人間を生きたまま殺すなどといった狂人どもなのだぞ!?」


「知ってます!!ですがそれは50年以上も前のルーンの記憶です!今現在彼らが同じ生き方をしているようには私は到底思えないのです!」


「たわけ!!」



興奮して捲したてる私に対して突然一喝した叔父上はまた、何かを言おうとしたものの歯嚙みだけに留めて先程とは打って変わってきつい語気のない声で私に繰り返した。


「とにかくこの件には絶対に首を突っ込むな。いいな」



それだけ言って去っていく叔父上は恐らくこんなことで折れる私じゃないのを知っているものの、それでも私の意思を優先してくれたかはたまた呆れられたは分からないけど、言及しないところをみるとどうやら…



「カンッゼンに振りだよね!!」



今度暇な日はないかななんて考えながら夕飯を食べてすぐ、家を飛び出す。


そして着いた所をは城から幾分か離れてはいるものの、城下町の外れにある開けた土地。



「よー!!進展はどーよ!?」


「・・・・」



数十人の男が土を運んで居る手を止めて私を見るが、その眼はどこが曇っていて正気を感じさせず彼らが疲弊しきっているのが分かる。



「ハバク!はいるか!?」


「はいはい、ここに居ますよ」



気怠そうにして現れた彼は、私と歳が同じぐらいの少年で、近辺にある集落の長の息子。


貴族顔負けの均整のとれたその顔立ちに二つの綺麗な青色の眼が嫌悪の色を含んで私に向けられる。



「捗ってる?」


「貴方にはそう見えますか?そんなはずないでしょう…貴方の無茶振りで水路を作ってはいますが、人員不足です。どー考えたってできるわけが無い」



言葉には表さなくても、口調は怒声そのもので彼に怒りをぶつけられているのがわかるけど知るかそんなの。



「そんなのはお前らの都合じゃん、そんなこと言ってる間にお前らの身に降りかかる税金と干ばつは待ってくれないんだよ?」


「そんなのはわかってる!!だけど村の畑もどうにかしなくちゃいけないのに、水路作りに人員を割かれれば満足な収穫はできないだろ!」


「はいでましたー、できない口撃ぃ〜」


「このやろ!!」


「待て…ハバク」



胸ぐらを掴まれ強く握られた拳が顔面寸前までやっていた刹那、男の声がそれを制した。



「姫君、愚息の無礼をどうかお許しください。今日のみならずここ最近は多忙であった為に披露で心身疲弊しておりまともな思考ができぬのです」


「お、親父!!」


「ふん、別に避けられるものをどうして咎めるか。心配するな、今の私は機嫌がいい」


ハバクの父親、つまり長である彼はいつも頬がコケていて不健康そのものだったが、その瞳の持つ眼光は息子と同じで鋭い。


それから逃げるように視線をそらし、胸ぐらを掴むハバクの手を払いのける。



「で、集長殿が直々に出てきたとなったらなんの申し出かな?聞いてはあげるけど?」


「お許しをいただきましたので進言させていただきますが、どうか水路の件をなかった事にしていただきたい。先ほど愚息が申し上げましたように人材不足です。せめて税金の取り立てを待っていただきたい」


「却下」


「この野郎…!」


「聞いてやるとは言ったけど聞き入れてやるとは言ってないでしょ?税金の事は私ではなく陛下のご意向であらせられる。その面についての申し出を私にするのは御門違いだ」


「白々とよくも言えたものだな!」


「ハバク…では、水路の件はいかがでしょう」



今にも殴りかかってきそうなハバクを静かに制した集長殿は、言葉は下手であるものの語気は強い。



「それも却下だ」


「わかりました…」


「そんな事より進行具合を聞きたい、構図を見せて欲しい」



諦めたように吐息を吐き出すのを無視して次の内容に移り、進行具合をききだす。


著しく遅れている場所を聞き出し人材の配置変え、必要な道具の手配準備、土の素材に対しての対策。


それら全てを二人に伝え自分はその工事の遅れている場所へと向かう。



「なんだ、ついてきてたの?」


「貴方一人ですと他の村人に殺されかねないですからね」



ありえそうな後からついてくるハバクのセリフに身震いしながらも、目的の場所に着けば3人ほどの人間がフラフラと動いていた。



「なにこれ、全然進んでないじゃん!これじゃぁ1年経っちゃうよ!?」


「だから言ったでしょう!人員不足なんですって!彼らは三日三晩休まず働いています。その労を労ってやってくだ…」


「三日三晩!?」



ハバクの怒声なんかよりも更に大きい声で彼の言葉を遮ったのは私で、それはおもわず出てしまったもの。



だって、三日三晩って…


「馬鹿なの?!」


「はあ!!?」


「ただでさえ人間の体力と労力には限界があるのにどうして三日三晩休まず働いてんのさ!?そりゃぁ効率も落ちるってもんだわ!!」


「それ以上言うなよ!あいつらに殺されるぞ!!」



咄嗟に口元を覆ってくるけど、時既に遅しってやつで全て言い切った後だったから働いていた男達は自分の運んでいた土や岩などを放り出して私達の所に剣呑な空気で歩み寄ってくる。



「丁度良い機会だから言わせてもらうけど、なんで三日三晩働いてるのさ?そんな非効率なことしないでローテーションで回せばいいでしょ?」


「だーかーらー!!あんたは何度言ったらわかるんだ!人が居ないんだよ!!」


「違う!ここにはなぜ分担制がないの?分担を作れ。土を運ぶ係り、堀を固める係りとかさぁ!」


「それが解決になるかよ!結局分担しても人が居ないんじゃ休めるわけないだろ!」


「分担した係りごとに休みを作る!堀を固める係りが2日間。土を運ぶ係りが間を空けて3間。もちろん休憩時間をつくる」



ドヤ顔をする私に対してなにも言い返す言葉が無いのか、ハバクは喉からヒュッと音だけだして視線を下に向け私から逃げた。


他の男達からは感嘆の声が上がるから、気分は悪くない。



「ちょ、ちょっと待て!畑は、畑はどーなるんだ!?休みの日にやれって言うのか!?」


「そんなわけないでしょーよ!それは効率が悪くなるに決まってらーな。だから畑は一つの村が見るようにする!」


「それじゃぁ人が割かれて効率は下がる一方だぞ!?」


「なに言ってんの!?こんな干ばつがすっごいのに全部の畑に作物ができるわけないじゃん」



それは彼らにとって死刑宣告であるかのように重い言葉だったらしく、真っ青な顔をして力の乏しい声で講義し始める。



「それはつまり、今まで俺たち集落が守ってきた畑を捨てろってことか…」


「そう。お前達の人員不足の理由の一つだ。死んだ作物に手をかけてなんの利益があるのさ?だったら畑を捨てろ!そうして今あるものに心血注いで未来に繋いでいけ!」


「そんなの、そんなの言うは易しだ…そうしたら食いつないで行くのもやっとだ!」


「死んだ畑からはなんか採れてんの?」



その問いに誰一人顔を上げず、視線を私から外して答えようとしないもそれが立派な返答に相当するのを彼らは知らないのだろうか。



「水路を作ろう。今は確かに大変だけど

畑は死んで干ばつは激しいし食べるものなんか無い。そんな中終わったものにばっかり縋ってる暇があるんだったら精一杯生きる為に力使ってみろ!!」



少し興奮気味に語勢を強くした台詞で、彼らの目の色が少しかわった気がしたのは私の思い込みだろうか。


聞く人なんて居ないから勿論そんなことは聞かないけれど、そうであると願って言うだけのことを言わせてもらった私はこの場からそそくさと退散させてもらう。


そして次に訪れたのは水路を作ろうとしている開けた土地から幾分か離れたそこは、彼らが執着する畑で成長途中の草などが一本残らず枯れ果てていた。



「これをなんとかしようったって無理にきまってんじゃん」



近くの村から拝借させてもらった桑を振り上げ、根っこごと枯れ果てた作物を掘り起こしながらぶつくさ呟く私はきっとヤバイ奴なんだろうけど自然と口をついてしまう。


太陽が顔を覗かせた頃にはだいたいの作物を全て掘り起こし終え、一息つくもすぐに次の作業として土の中に木の株を植えていく。



「さぁーて、これからが正念場だ。頑張れよ」



話し掛けながら植えていくのは、彼らの希望だ。








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