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嫌われた奴

遠い昔、遠い国の話し


妖精やモンスターがあらわれたあと、人間が現れた。


人間はその種族ごと神の加護を受け、神の意のままに生き、死に、争った。


ラグナロックから続く神々の争いは加護を受けた人間の間で行われるようになり、更に神が気に入った特定の人間に人知を超えた武器を与えた事で争いは苛烈を極めた。


神々が求めたのは英知の源と言われるミーミルの泉に眠るオーディンの眼


この泉の所在を知っているのは、大神オーディンのみ。

そして、そのオーディンの加護を受けたルナウ国のルーンの民のみであった。










人で賑わい華やかな城下町とは一変して、この村はまるで別の国に来たんじゃないかと思うぐらいに汚いし、家屋なんかはボロボロ。


でもこの国ではそれが当たり前みたいになってるから不思議な話し。


だから私が大声言ってやるんだ。



「きったないなぁー!!なんでこの村はいっつも汚ったないのさ?!」


「姫様…」


「ハル様だ…」


「ハル姫様…」



顔や体のあちこちに包帯を巻いた奴らの前でこれでもかってぐらいに顔をしかめて、鼻をつまんで言い放つもこいつらはちっとも怒らない。



「ハル様、このような下賤で醜悪なこの村にきてはなりませぬ。もしもこの奇病が貴方様に感染りでもしたら…!」



青い顔をした老体がフガフガ言うが、嫌味を言って冷やかす私を村から追い出したいのは見え見え意趣返しに鼻を鳴らして嗤ってやる。



「そう怯えるなご老体! 私はお前らみたいな貧弱者と違って、大神オーディンの加護を受けるルーンの民だ。心配するな」


「いえ…そういうことでなく…」


「そんなことより、いつものガキどもを連れて来い!さっさとこの辺の汚れを掃除させろ!」


「は、はい!只今!!」



語気を強めればやっとガキどもをご老体が呼びに行くから、小言を言われずせいせいした。



「さて、やるか」



ざっと周囲を見渡し、包帯をあちこちに巻いたこの村の奴らが何人か私を遠巻きに見ているのを見つけてはそいつらを片っ端から捕まえ本日も始まるお説教兼嫌味タイム。



「お前ら私昨日も言ったよな!?毎日服洗えって!!」


「村が貧しいものですから…洗った後の着替えがなくて」


「そんなの順番に洗えばいいだろ」


「あー!布団の洗濯してないだろー!?あと掃除!!汚ったないぞ!」


「みな病気で手足を痛めてまして…」


「ガキはまだそこまで病状の進行は無いだろう?ガキどもにやらせろ」


「それになんだこれは!?こんな腐ったのまた食べる気だったのか!?」


「子供に与えられる量を多くしようとした親心でして…」


「何が親心だ!なら私に言え!!なんでそういう脳みそがないだよ!!これだから人間ってのは嫌なんだ!!」



いつもこいつらはこう言えばああ言うで言い訳ばかりだ。


30年前にこの国ルナウ国で流行った奇病によって犯された人々は、周囲から酷い扱いを受け挙句この村に収容された。


そこからかこいつらは、自分たちは奇病をもつからどんな仕打ちを受けてもしょうがないと思い込むバカばっかりで、こちらがうんざりしてしまう。


だから私の持てる知識でこいつらを治さなくちゃいけない。


この村に来てすることと言えば衛生面での向上を向けて定期的にガキどもに掃除をさせて、洗濯、汲み取りを行う。


そしてそれらが終われば



「よし!包帯巻き直すぞー!!」



その掛け声で蜘蛛の子を散らすように、村人が逃げていく。


そりゃそうだ。あんな爛れた皮膚じゃ包帯剥がす時痛いんだろうな…



「って言ってやるわけないだろ!!おとなしく包帯取り替えさせろ!!」



などというやり取りを何十回か繰り返した所で、やっと村人の包帯を全て巻き直すのが終わり一息つく。



「あとでこの包帯を洗っておけよ。汚ったない…」


「村の悪口言うなよ!!」



威勢よく食ってかかってくるのは、包帯を目元から首に掛けて巻いてる私よりも3つ年下のクソガキ。



「よう、アルジュナ!お前の包帯取り替えた覚えないんだけど、やってやるからこっちこい」


「嫌だ!俺と勝負しろ!!」



相変わらずの血気盛んで結構なことだが、こんなガキ相手に本気になるわけがない。



「よーし!かかってこい!!」


「うりゃー!!」



蹴りや突きが飛び出してくるけどそれを難なく受けとめ、間髪入れずデコピンを食らわす。



「あのね、基本がなってないの!私が今迄教えた通りにやってみろっての」


「こんにゃろー!ぶさいくー!!」



こいつは毎度懲りずに私に立ち向かってくるから、ついでに私の持てる知識の内の一つである体術を教えてやっている。


容量がいいらしいアルジュナは言われればすぐに今迄教えた体術を繰り出し、私に反撃を与える暇を作らせず押されてしまう。



「ブスっていうなクソガキ!!」


「んがっ!!?」



バチーンという小気味いい音がアルジュナの頬をぶっ叩いたことで響いき、今回の喧嘩はこれで終了。


叩かれた頬が痛いのか、大人しくなったのをいい事にアルジュナの包帯をテキパキ変えてゆく。


彼の奇病の進行具合は他の子供よりも酷く顔の半分が犯されていて、そこからか首、そして肩口に掛けての範囲にまで及んでおり包帯を取り替える量は必然的に多くなる。


それでもアルジュナは他の子供なんかよりも活発で王族の私に対しても不遜な態度を取るぐらいの元気の良さがあるから、彼にはどうしても期待してしまいこういう風に体術を教えたりとなにかと目を掛けてしまう。



「なぁ…次なにすんだ?」


「え?もうお腹空いたの?」


「違うって!もっと体術教えて欲しいんだ」



ぶっきらぼうに言い放つ彼の眼には、この村の奴らにはない光がそこに宿っていて私を貫く。



「教えて下さいだろ、このやろー!!」


「わー!やめろ〜!!」


「アルばっかりズルい!今度は文字教えてくれる約束だよ!」



頭を押さえつけて髪の毛をグシャグシャに乱してやっていれば、会話を聞いていた他の子供達が紙とペンを持って集まっては不平を鳴らす。



「そーいうこと!アルジュナも勉強一緒にしような!」


「やだよ!俺体術やりたい!!」


「そんな事言ってると脳筋バカって呼ぶぞ〜?男ってのは文武両道がモテる秘訣だ!覚えておけよ」



ふて腐れるアルジュナを他所に、早速文字やら計算を子供達に教え始める。


この国は勿論他の国でも満足な教養を子供達につけてやれる場所など無く、文字を扱えるのは王族や貴族ばかり。


だから敢えてこいつらに文字を教え、計算を教えてやる。


アルジュナのような眼を持つようになることを祈って



「凄いね〜!ハル様って本当に物知りなんですね」


「そーでしょーとも!なんたってルーンの民だからね」


「ルーンの民?」


「あれ?…私前説明しなかったっけ…?」



こぞって左右に首を振って否定されてしまうから、自分の記憶力の無さに落胆してしまう。



「ルーンっていうのはねさっきも言ったけど、大神オーディンの加護を受ける民であるだけじゃなくて、特殊な能力がある」


「あたし知ってる!ハル様のおじいちゃんの記憶がハル様の頭の中にあるんでしょ!」


「そー!知ってんじゃん。おじいちゃんもそのまたおじいちゃんの記憶も何年、何百年、何千年、何億というずっと昔からのルーンの民の記憶を引き継いでるんだ」



自信ありげに興奮気味に手を挙げた少女の頭をなでつけながら補足する。



「その長い間生きていたルーン民の数だけ、私の頭の中にまるで自分が体験したように受け継がれるの」


「じゃぁ、お医者さんの記憶があったからハル様はアタシ達の病気のお薬も作れたの?」


「うん、そんな感じ。みんなのは少し新しい病気だから少し治療には手間取っちゃったけどね」



苦笑して言い訳じみた事を口にしたが、そこは特に彼女達の関心は向かなかったらしく代わりに医者の記憶を持っている事に感嘆の声があがる。



「なら、俺に教える体術のも?」


「そー!!体術なんてのは動きと型さえ知ってりゃぁ様になんのよ」


「ハル様ってすごーい!」


「ハル様の王様もそーなの?」


「そうそう、父上もそうだよ。あと叔父上もそう」


「王様も持ってる記憶とジーヴ様とハル様が持ってる記憶って同じなのぉ?」



小首を傾げながら尋ねてくる少年の愛嬌に、笑みを零しながらその子の緩んだ包帯を巻き直す。



「そーじゃないんだ。私が産まれる前に死んだルーンの記憶を受け継ぐし、そのルーンは更にその前の。だから父上や叔父上は私とはまた違うルーンの記憶を受け継いでるから正確には同じじゃなかったりする」


「わかった!それだとハル様の方が王様やジーヴ様よりもいっぱい新しい記憶があるんだ!!」


「お!よく気づいた偉いね」



巻き直した包帯が乱れる勢いでその子の頭を撫でつけ、精一杯褒めてやると子供特有の奇声を小さく発するから彼が嬉しがってるのがよくわかる。



「だけどね、家族は別なんだ。私は父上の子供だから父上の持ってる記憶も実は受け継ぐ事ができるんだ!」


「じゃ!一番物知りってこと!?」


「そーいうこと!!」



胸を張って高らかに笑う私に彼女達の羨望の眼差しがひしひしと伝わって、気分がいいのなんのって。



「おい、そんな自慢話しもういいからさっさと次のこと教えろよ」


「アルジュナ、お前には礼儀ってもんを教えてやるよ!」



横槍を刺されていい気がしないのは当然で、腹立った分だけアルジュナの両頬を摘んで左右に引っ張る。



「やめろこのガサツおんなー!!」



そうすればアルジュナも負けじと私の頬や髪の毛なんかまで引っ張り始めるから、集取がつかなくなりお互いにもんどりうって床に転げながら殴ったり蹴ったりしあう。



「ちょ、脛蹴んなってバカ!」


「バカって言う方がバカなんだよバーカ!!」


「はい、今バカってアルジュナ言いました〜!」


「また始まっちゃった〜」



3つ下の子に本気になって取っ組み合いを繰り広げる私と食ってかかるアルジュナのやり取りを聞きつけ、他の民家に居た村人達も部屋を覗いて他の子供達と一緒に呆れた風に笑われるけどこっちはそれどころじゃなかった。



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