§レムド①
[(私には好きな人が……)]
「わ、私には好きな方がいるの!」
つい勢いでそこにいたレムドに腕を組んでしまう。だってラックはいないからこうなってしまった。
「マジですか?」
――というかレムドと私は数回口を聞いた程度で、たいして親しくない。
年が近い相手、という印象しかないのである。
「ずいぶんとドラマティックな展開になったものだが……」
叔父はなにも言わないが、無言の圧力を感じた。平民のレムドを否定されたということは間接的にラックも許されないからだ。
■■
「……というわけなの、巻き込んでごめんなさい」
私はレムドに、なぜ腕を組んでしまったかと事情を話した。
「少し残念ですが、仕事的には勘違いで助かります」
叔父には彼から弁解すると去った。
「……彼いま、残念って言った?」
社交辞令なのはわかるが、普通は好きでもない女と仲を勘違いされたら嫌じゃないのかしら。
「うーん」
「お嬢さん、何かお悩みですか?」
「誰!?」
背後から声をかけられ、ものすごく驚いた。
「私は道化師のエラーです」
「道化師、なら何か楽しませてくれるの?」
「あいにく今は道具がありませんから、よろしければ何かお話をします」
「じゃあ悩みをきいてくれる?」
「なんなりと」
「あのね……」
私はラックという幼馴染と身分違いでそばにいられないことを話した。
「貴女はその彼と結婚したいんですか?」
「よくわからないわ。私は彼がそばにいるだけでいいのかもしれない」
結婚したらずっと仲のいい幼馴染とそばにいられるだろうとしか思わない。
「貴女がそちらにいく方法もあります」
「私がラックを追って貴族をやめるの?」
物語でよく見る駆け落ち、女ばかりが損をするのよね。
「辛いのなら、私が貴女を連れて逃げましょう」
「逃げるってどこへ?」
「楽園、あるいは現実にある天国のような場所でしょうか」
◆道化師と逃げようかしら?
〔逃げる〕
→〔逃げない〕